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その刀、熊野から春の山々を分けて出たり

「……トミナ君、いい感じの流れぜーんぶ台無しなんだけど、どうしたのそれ?」



やれやれといった具合で大きな溜息をこぼしながら、カルムは問いかける。なんかその、……スンマセン。



「あー、その『団子屋』に着く前に琥二郎サンと戦った際に折られたのすっかり忘れてまして」


「ふんふん、なるほど。琥二郎さんと…………ん?琥二郎さん?……、もしかしなくても上位ランカーの?」


「そうらしいっスね」


「なんで!?」


「なんで……と言われても、アーチェってプレイヤーに初心者狩りされそうになったんで、反撃したら成り行きでこうなったというか」


「あー、アーチェちゃんに手を出しちゃったかぁ!……あれでも刀折れてるって事は琥二郎さんの攻撃反応出来たの!?すごいね!?」


「結果だけ見ればそうっスね。まあ琥二郎サン、本気出してる感じは全然なかったっスけど」



琥二郎はスキルの類いを一切使ってなかったし、手心が加わった攻撃だったのは明らかだ。本気を出していないとされる一撃でさえ視界に捉えるのが困難だったのに、あれよりも上があるというのだから末恐ろしい。


そしてそんな琥二郎が次元が違うと評価する最上位ランカー達。彼らもこのあとのレイド戦で姿を見せるのだろうか。



「琥二郎さんとは何度か戦ったけれど、師範代だった木市(きいち)先生と同程度か上の実力だった。手心を加えられたのとブランク明けなのを加味しても、反応出来たのなら十分だと思う」


「木市先生と同程度?マジか」


「ただ勝つとなれば、木市先生から一度も1本を取れた事のないトミナ君には厳しい相手かもしれない。ちなみに私は中3の時に1本取っている」


「……木市先生から1本取った?嘘だろ?」


「なら嘘かどうか、確かめさせてあげる。とりあえずその刀じゃ話にならないから、これを使って」



蔵景は左手でメニュー画面を開くと虚空から別の刀を1本取り出して左手で掴み、俺に向かって差し出した。



「これは?」


「【薄緑(うすみどり)】私が今使っている【同田貫正国】の前に使っていた刀だけど、今は使っていないからトミナ君にあげる」



蔵景が差し出した刀はその名の通り、薄い緑色の鞘に収められた1本の刀だった。細やかな金の装飾と艶と光沢のある鞘で、腰に差している刀より質の優れた武器であるというのが一目で確認出来た。


とりあえず言われるがまま、差し出された刀を手に取ると半透明のウインドウが眼前に出現する。



『【薄緑】を入手しました。スキル『韋駄天』が解放されました。【薄緑】を装備時のみ、スキルスロットを2個使用して『韋駄天』の使用が可能になります』



「おっと、蔵景ちゃんそれ結構いい武器じゃないの?たしかスキル付きだよねそれ?」


「構わない。スキルスロットの関係で【同田貫正国】と【薄緑】は併用が出来ないから」


「????」



事前情報をよく調べずに始めさせられた弊害が出てきたぞ。一体何の話をしているんだ?



「あれ知らない?チュートリアルで説明なかった?」


「解放されたのは知ってるんスけど、使い方とかまでは全然。なんか戦闘で使えるって事くらいしか」


「あれー?おかしいなぁ。私が始めた時はちゃんと説明あったんだけどなぁ」



なんか変な挙動をみせたオクマだったりチュートリアルをパスした2人のプレイヤーがいた影響なのか、どうも本来あるべき説明がなかったらしい。好感度パラメータとかあったりするのか?低すぎて仕事サボられたか?そういや俺の顔そっくりの推しが出てきて仕事押し付けられてたな?



「うーん、まあいいか。簡単に説明すると、プレイヤーは3つのスキルスロットに特殊な技を出せる『スキル』を最大3個までセット出来るの。ひとまずどっちの手でもいいから、手の指先をすぼめて開くみたいな動作をするとメニュー画面が表示されるから試してみて」



言われた動作を実際に試すと、開いた指先にウインドウが表示された。上から順に『ステータス』『スキル』『装備』『アイテム』『ログアウト』と表示されている。


ただ『ログアウト』の文字は暗くなっており、反応しなさそうだった。ログアウト可能な場所に制限があるのだろうか。



「そしたらまず『装備』からさっき受け取った【薄緑】を装備してみて。『装備』を開いて【薄緑】をタップして『武器を入れ替える』って押すと切り替わるから」



促されるまま指示に従うと、握っていた【薄緑】が一瞬で腰に移動し、握っていた折れた刀は忽然と姿を消した。


「初期装備は別の装備に切り替えると自動で消えるの。ただ完全に消えたってわけじゃなくて、戦闘不能になって参集殿に戻ったらまた初期装備に戻る仕組みなの」


「なるほど」


「ちなみに装備していた武器やアイテムはやられるとその場に全部ロストするから、必要以上は持ち歩かないで街中にいくつかある『倉庫』に預けておいた方がいいよ。ただ預け過ぎてても、()()される場合があるから注意が必要なんだけどね」


「回収?」


「説明したいところだけど、それはおいおい自分で調べてみて。次は『スキル』ね」

【ゲームシステム解説】


『倉庫』


プレイヤーの所有する武器やアイテムを一定期間預けておくことが出来る場所。市内に複数個所存在している。


武器やアイテムを預けていられる期間は預けた月から翌月末までの制限があり、それを超過した場合預けていた諸々は翌月頭に開催される『定期市』に出品される。


出品される武器やアイテムは原則早い者勝ちであり、中には引退したプレイヤーが保有していたレア武器やランカー武器が出品されるので白熱する事もあるが、『見廻組』が監視しているのでその場では刃傷沙汰にはならない。


『定期市』での買い物や武器やアイテムを購入するのに必要なゲーム内通貨は一定日数のログイン時や、一定スコア獲得後に自動付与される。ゲーム内通貨は戦闘不能になってもロストしない別枠扱い。

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