ちくわ大明神
そう言い残した琥二郎は、手をひらひらと振りかざして団子屋の店内へと立ち去っていった。
さて、それじゃあ俺も平泉先輩を探さないと。集合時間の18時にはまだ早いが、待たせるよりはいいだろう。
プレイヤーネームは『カルム』との事だが、アバターの容姿に関して聞いてない。平泉先輩、なんかちょくちょく言葉足らずなところあるんだよな……。
とりあえず外にいるプレイヤーから見ていくかと長椅子へと近づき、プレイヤーの頭上を確認する。いま気づいたが立っている状態だとプレイヤーネーム表示されないんだなこのゲーム。まあ戦闘中、頭上にプレイヤーネーム出てたら邪魔だもんな。
遠目からだと流石に文字の識別が出来ない為、出来る限り近づいていく。そしてあまりジロジロ見ても余計な因縁を招きかねないので、通り過ぎるのを装いつつ流し目で見る。
『伯方ノシオ』――違う。
『加賀美望』――違う。
『ちくわ大明神』――違う。
『ギャルゲスキー3世』――違う。
割とネタに振り切ったネームのプレイヤーもいるんだなと、最奥の長椅子に座る落ち着いた赤色の髪を右サイドで纏めた女のプレイヤーの頭上を確認すると『カルム』――いた。
加えて隣には先程のクラカゲ――いや、『蔵景』………………あっ?
「……景?」
その見慣れた文字の並びに思わず声が溢れた。
クラカゲ。蔵、景。『カルム』と表示されたプレイヤーと一緒にいるって事は平泉先輩との知り合いということで。
つまりなんだ、この隣にいるのは景のアバターということになるのか。久々の再会で心の準備どころか準備前に既に顔を合わせてたとかもうどんな顔すればいいのかわかないんだが。
「こらこら、ダメでしょリアルネーム呼びしちゃ!マナー違反だぞ!」
混乱している脳味噌へ追い打ちをかけるように長椅子に座っていたカルムが立ち上がり、人差し指を立てて指摘する。
「……あっ、うっス。すいません」
「謝るのは私じゃなくてこっちに!色々とね?」
カルムは隣に座っていた蔵景の両肩を掴んで、俺の前にぐいっと押し出した。蔵景はというと、無表情というか無機質な人形のような淡々とした顔持ちのまま、翡翠の両目でこちらを見上げている。
「…………、あー、その、なんか心配かけてたみたいで色々悪かった。ごめん」
とりあえず謝らなければと深々と蔵景へ頭を下げた直後、眼前に迫る握り拳が俺の顎を的確に撃ち抜いた。
「――ごはッ!?」
衝撃で揺れる視界、定まらない焦点、急速に減少していくHP。デスペナルティも相まって、さきほど琥二郎から喰らった蹴りよりも軽いはずなのに、HPは残り3割を切る。
「うわぁ!?ちょっちょっちょっ、蔵景ちゃん!?何してんの!?何してんの!?」
俺より慌てふためくカルムだが、当の殴りつけた本人はまるで何事もなかったかのような澄まし顔で俺を見ていた。喜怒哀楽、そのいずれにも該当しない無表情で、見定めるような目で俺を見る。
周囲の長椅子に座っていたプレイヤー達は、なんだなんだと警戒色を強めながらこちらの動向を遠巻きに見ている。
「ごめんなさい、つい」
「ついでもダメだって!?殴りたくなる気持ちはわかるけどさ!?」
「なら湊本君も私を殴っていい。これで手打ち」
「だから名前っ!!……あーもうわかった!私の見通しが甘かったゴメンね!!ちょっと二人ともこっち来て!!」
「おわっ!?」
カルムは俺と蔵景の手を掴むと団子屋から離れて建物の間にある路地裏まで引っ張っていく。
「……さっきのって上位ランカーの蔵景ちゃんだよな?見間違いじゃなきゃさっき殴ったよな?」
「見た目新人なのに上位ランカーから殴られるって何やったんだあのデフォルト顔」
あらぬ噂話が流れていきそうな気配を感じつつ、カルムに連れられた俺達は人気のない路地裏に入る。
「よーし!とりあえず二人はそこに正座!」
カルムは地面を指差して声を荒げる。大人しく従う俺達。
「わっ、二人ともめちゃくちゃ姿勢綺麗……じゃなくて!んんっ」
わざとらしく咳払いをすると、カルムは俺達と同じ様に地面へ正座して、視線を突き合わせる。地面に正座しているからか、頭上にプレイヤーネームが表示されて座談会が始まった。
「……まあその、私も気兼ねなく話せるかなぁとは思ってこうして二人を引き合わせたわけだけどさ?肉体言語はダメだよ蔵景ちゃん!」
「ごめんなさい。湊本君ならいいかと思って」
「……ん、んんー?……ちょっと待って?み――トミナ君、蔵景ちゃんって昔からこんな感じなの?」
「はぁ、えっと、まあそッスね。昔はもっと活発というか、やんちゃだったというか。同世代の女子相手は負け知らずで、男勝りな面もあって、なんというか……ガキ大将?」
「酷い湊本君。私、そこまでいわれるような振る舞いをした覚えはない」
「いやしてたって。小学生の夏合宿の時にもらったスイカ、一切れ余ったのをお前除いてジャンケンしてる間にお前が勝手に食っちまったじゃん」
「記憶にない。湊本君はここ最近の暑さで記憶が混濁してるのかも」
「……はいはいはい、うん、わかった。とりあえず蔵景ちゃんはリアルネーム呼び改めよっか?まず話はそれからかな」
【ゲームシステム解説】
『プレイヤーネーム表示に関して』
戦闘中や直立状態では表示されず、『団子屋』や戦闘用アイテムや武器を扱う『質屋』などに設置されている椅子に座っている状態や、地面に座り込んでの非戦闘状態でのみプレイヤーネームが表示される。
プレイヤーネームが表示されてる状態のプレイヤーを攻撃した場合、内部的に設定されているカルマ値が増加する。一定値溜まると該当プレイヤーは【辻斬り犯】と呼ばれる特殊状態となり、他のプレイヤーからボーナス状態となって狙われやすくなる。また【辻斬り犯】状態だと連続撃破で得られる経験値が通常より高くなり、獲得スコアにもボーナスが入る。
一方でペナルティが重く、撃破されるとデスペナルティによる全ステータス8割減少が月末まで永続する。月が変わる事で永続デスペナルティは解除される。
裏を返せば月末にあえて【辻斬り犯】状態になり、倒されなければノーリスクでスコアの荒稼ぎが出来るようになるので、この背水の陣で二ヶ月に1回上位ランカーを目指すプレイヤーも存在する。
【辻斬り犯】状態は常に頭上でプレイヤーネームが赤文字で表示される為、判別が容易となっている。
【辻斬り犯】を一定数倒した場合、『見廻組』から特別な装備を獲得出来る。
【辻斬り犯】状態を一定期間維持した場合、特殊なイベントが発生すると運営から仄めかされている。




