禊ぎ給え祓い給え
とはいえ、ここで怖気づいたところで何かが変わるわけでもなく。まあいきなり襲われる事はない場所だろうから、注目を集めるくらい別にいいか。
「琥二郎サン!」
「――うん?おっ、トミナ少年、そこにいたのか!」
自身の居場所を示すように手をあげて琥二郎に声をかけると、琥二郎含めた周囲のプレイヤーが一斉にこちらを向いた。
うおっ、流石にこの大勢から視線を向けられると圧倒されるな。ジロジロと見定めるような、値踏みするような視線も感じる。
「なんだ?どんなやつかと思ったら【無銘】に初期衣装の初心者じゃん」
「琥二郎さんが探してるってんだからどんなプレイヤーかと思ったら、あんまパッとしねぇのな」
「デフォルト顔だしそこはしゃーないだろ」
四方八方からひそひそと声が響く中、人垣の中央に立つクラカゲがこちらをジッと見つめているのに気づいた。な、なんだ?
「……貴方の声、もしかして」
クラカゲが何故かこちらに向かって歩き出そうとした、その直後の事だった。
「――――神聖なる敷地内に塵を捨てたのは誰だァッ!!」
突然地面から般若の面が出現して耳をつんざくような勢いで叫んだ。その声量に耐えきれず俺含めた周囲のプレイヤーは一斉に耳を覆い隠す。
面はそのまま尋常ならざる勢いで天まで昇り、広範囲に閃光を放った。数秒のホワイトアウトが収まると、そこには般若面を被って紺の作務衣を身に纏い、箒を握り締めた筋骨隆々な白髪の男が宙に浮かんでいた。
「ヌッ!?」
「……、」
「えぇ?」
「な、なんだぁ!?」
「み、みみ御祓様だ!やべぇ!!巻き添えくらうぞ!?」
空に浮かぶ般若面を見た1人のプレイヤーが叫ぶと同時にあちこちで悲鳴が上がり、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うプレイヤー達。上位ランカー達はというと、慌てる事なく冷静に上空を見上げていた。
「あーらら、厄介なのが出てきたねぇ。罰当たりな行動しなきゃ出てこないのに、誰がそ……ん?」
上を見ていた琥二郎が不意に視線を下に向ける。そういえばさっき、琥二郎がクラカゲに団子を渡そうとしている間に、剛兎が串を粉砕してばら撒いていたが、なにか関係あるのか?
「……剛兎君、さっきオジサンが渡したみたらし団子の食べ終わった串、捨てたのかい?」
「捨てたがそれがどうした!?」
「……うん、なるほどねぇ。剛兎君、念の為確認なんだけど神社内の掟、知ってるかい?」
「知らん!!」
堂々とした受け答えに琥二郎は額に手をあてて天を仰いだ。どうやらそれが原因らしい。
「……うーん、だろうねぇ。うん、なんでランカーなのに知らないのはこの際置いておくけど、いいかい?ここでは不殺と不可侵をプレイヤーは守る必要があってだね。ざっくり言うと戦闘禁止とゴミ捨て禁止なんだけど、それを破ると御祓っていうおっかないNPCが出てきてだね」
「お前は一体何を言っているんだ?」
「あーうんごめんねオジサンが悪かった。とりあえず今はもうアレと逃げるか戦うかなんだけど、まあ剛兎君は逃げるわけないよね?」
「そうだな、オレの辞書に逃げの文字はない!とにかく、あれを倒せば解決する話ということだろう?」
「まあ最終的にはそうなんだけど」
「ならば倒す!手は出すなよ琥二郎!!そして逃げるなよ蔵景!あれを倒したら次はお前だ!!」
腰に差した刀を抜いた剛兎は、地面を思い切り蹴り上げると般若面に向かって突き進んでいく。
「あ、うん。それは勿論――って、もう聞こえちゃいないか」
「……、勝手に私の予定に割り込まないでほしい」
「やれやれ、まぁあれは剛兎君に責任持って対応してもらうとして、おーいトミナ少年!とりあえずこっちに来なさい!」
琥二郎に手招きされたので、二人の元へと近づいていく。
「とりあえず団子屋に避難しようか。アーチェちゃんと入れ違いになってるかもしれないし」
「了解っス」
「団子屋なら、私も用があるわ。私も同行する」
「うん?そうかい?なら一緒に行こうか」
それから俺達3人は上空で派手な衝突と剣戟を繰り返す音を浴びながら、団子屋へと向かった。




