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幸せな時間は期間限定

「坊(ボン)、計画の準備はおおかた整いましたぜ」


 黒い服を身にまとったファミリアの面々が円卓を囲む。


「決行日時などは計画書にある通りです。目を通したら全て燃やしますので、あとで回収させていただきやす。失敗をすれば子供の命が失われるかもしれねぇ。絶対に外部には漏らさねぇように」


 違法奴隷売買所の襲撃計画は想像よりもはやくまとめられた。

 それだけファミリア全体が義憤に駆られているということなら頼もしい限りだ。


 表向きは奴隷売買禁止国なため、大っぴらに奴隷を売り買いする者はいない。奴隷商から子供たちを買い付けに来るのも奴隷容認国のひとが多いそうだ。

 でもこの国のずるいところは、売買は禁止でも奴隷自体は禁止されていないこと。それに加えて、この国の法では奴隷の売買は禁じられているにも関わらず、一部の上位権力層の間では黙認されている。実際ボクも、この国の貴族に奴隷として飼われていて、飽きて捨てられたわけだし。これではほとんど法が機能していないに等しい。


 言語も違う国に売り飛ばされた子供たちの未来はけっして明るいものではない。

 同じ言語であってもボクのような扱いを受けるのだから、それが言葉も通じない相手に買われたとなれば想像を絶するような苦痛と苦難に見舞われることだろう。


 奴隷売買所でも碌な扱いを受けていないのは明らかだった。

 川辺に流れついた、人為的な傷のついた子供の死体を見たのも一度や二度ではない。そのたびに心の中の闇が大きく膨れるのを感じる。


 ネロさんが心の闇を吸ってくれていなければ今頃どうなっていたのだろう。ロイズレッド様に出会っていなければ将来どんな大人になっていたか。

 目が見えるようになって。真の幸福を知って。ボクは狭量な人間になってしまったようだ。


 だって、この世に蔓延る悪が許せず。見るに堪えない醜悪さから目を背けられず。鼻を刺すような悪の臭いに耐えられなくなっているから。


「オレたちみたいな元々はチンピラの日陰者に善行をつめなんて言い出したときには何が何やらわからなかったが。こうして活動していると旦那の意図がうっすらと見えてきやすね」

「善いことをすると気分がいいもんな」

「馬鹿、旦那の思惑はそんな単純な話じゃねぇよ」


 猫の獣人さんたちを見ているととても癒される。


「ロイズレッド様は人を善と悪の二元論で単純化しようとはしないからね。善人が悪いことをすることもあれば、悪人がいいことをする場合だってある」

「貧民街育ちのオレたちに偏見を持たずによくしてくれるのも、そういうわけなんでしょうね」

「そもそも善と悪なんて環境によって変わってしまう曖昧なものなんだって。だから個人に善悪のレッテルをはりつけて、どちらがどちらだと決めつけることはしない。罪を憎んで人を憎まずと言っていてね、その過程と結果に善悪はあっても人にはないんだ」


 ボクが異臭を漂わせて人にぶつかりながら歩いていたのは悪ではないのかと尋ねたとき、ロイズレッド様はそう答えてくれた。だからボクは悪人ではないのだと。


 多角的に見ればロイズレッド様自身も悪になりうるのだと言っていたが、それはあり得ないと思った。

 師はこの世における唯一無二で絶対の善。善人など飛び越えて善神と言えるような、立派なお人柄なのだ。


 善である師が悪だと言えば、それこそが悪で。これに異を唱えるような者は――みんな死ねばいいと思っている。


「闇が深すぎて病みすぎていますわ。それとも病みすぎて闇が深まっているのかしら。あまり根を詰めてはなりませんよ。私が興奮してしまいます」

「うん、ごめんなさい。もう二日もロイズレッド様に会えていないから、情緒のバランスが崩れている自覚はあるんです。お姉様にもはやく会いたいし……」


 いままでは一人で生きてきたのに、二人がいなくなるだけで寂しくてたまらない。


「あの淫乱マゾエルフの恋愛脳などより、寂しいときはいつでもわたくしに甘えてくださっていいのですからね。おっぱい吸います?」

「プフッ! もう、ボクは赤ちゃんじゃないですよ」

「いいえぇ、大人の方がいっぱい吸うんですよぉ? ねぇ皆様がた?」


 本当かなぁ。

 ネロさんは冗談ばかり言うからね。

 今度ロイズレッド様かお姉様に聞いてみよう。


「あっ……うん。オレたちにふられても……。なぁ?」

「お前もこっちにふんなよ。まぁでも、どうなんだろうな……?」

「この手の話はボンにはまだはやいんじゃねぇかい?」

「俺は一度も吸ったことがねぇからわからニャイ」

「都合のいいときだけ若猫のふりすんなよガルシア」

「待て、ガルシアは本当に童の者なんだ。許してやってくれねぇか」

「わかんニャイ……」

「す、すまねぇ。見た目が厳ついから、ついヨ……」


 ネロさんはいつもこうやってふざけてはボクを笑わせたり。直接闇を吸って抑えてくれる。ついでとばかりに場の空気も和ませてくれるから素敵な人だと思う。

 いつまでも甘えてばかりではいけないので、自分の感情の起伏ぐらいは自分で制御できるように頑張ろう。


「話を戻しますね。奴隷も社会の一部となっているんだから根底をひっくり返せば色々な不都合が生じて、余計な混乱を招いちゃうと思う。もし完全に廃止するならば、それは国の仕事ですよね」

「そうだな」


 さっきまでしょぼくれていた虎顔の獣人、ガルシアさんがキリっとした顔で大仰に頷く。


「だからボクたちは自分たちの手の届く範囲の人を救えばいい。今はまだそれだけでいいんです。助けられる範囲を徐々に拡大していき、いずれは国を獲るんだ。そのはじめの一歩が今回の計画です」


 国が動かないならば国を動かせる力を得るしかない。

 力を得ると言ってもボクが王様になるとかそういう夢みたいな話ではなく。ボクたちが動かせる駒を王位につけてしまえばいいのだ。

 自分が王様になれば自由に動けなくなって、助けられる命も助けられなくなるかもしれないから。

 王様の首を挿げ替える。国を乗っ取って傀儡を置く。至極単純な話だ。


「それじゃあ今日はこれで解散ということで。ロイズレッドの名のもとに」

「「ロイズレッドの名のもとに!」」


☆


 長いようで短い旅もようやく終わりを迎えてマフィーダへと到着する。


 出発前真から薄々そうなるんじゃないかと思っていたが、ロニと熟女は教会に住み込むそう。迷惑極まりない話だ。

 リリの負担も考えてやんわりお断りしたのだが、リリがロニ側についたため、やむなく教会の一室を二人に貸し出すこととなった。


 リリがどうしてそこまでロニの肩を持つのかわからなかったが、色男をよく思わない女などいないと気づく。

 もしかしたらロニに特別な感情。好意を抱き始めているのかもしれないと思い至ったのだ。


 浜辺では吐瀉物を啜るゴブリンでも見るかのような目で見ていたが、どんなに気持ち悪い性趣味をもっていても愛が勝れば長所に見えてしまうもの。痘痕も笑窪というやつである。


 馬車の中でもローレンツをずっと見つめていたのはそういうことなのだろう。


 それが恋かはわからないが、新しい道を見つけつつあるリリに夫婦のふりをさせ続けるのは酷というもの。

 秘密を守らせるために縛りつけて、自分の都合のために利用するなど父親(ママ)失格だ。


 器用なリリならば夫婦の演技などせずとも、俺の秘密を上手く隠してくれるという確信もあった。

 馬車から降りて教会へ着く前に、ロニと熟女には、俺たちが偽装夫婦であることを明かそう。理由は道中ずっと考えていたので問題ない。


☆


「申し訳ありません。突然なお話で困惑させてしまうであろうことを先にお詫び申し上げます。お二人には真実を話さなければならないので、教会へ着く前に話しを聞いていただいてもよろしいでしょうか」


 必要最低限の荷物を持ったロニと熟女。


 あとの荷物は荷馬車が到着次第、屋敷から連れてこられたメイドたちが運びこむ予定となっている。

 他人事とは言え、細腕のメイドたちに力仕事を任せるのは申し訳ない気がして手伝いを申し出たが、「忠義者の淫魔すらも篭絡するような男の手など借りられません。うちの子たちには金輪際近寄らないでください。孕んでしまいます」と、ビビアンに強めに断られてしまった。


 なんのことやら。


「なんだ友よ。かしこまって。お前の話しならばいくらでも耳をかすぞ。また牢獄の十日間のような面白い話を聞かせてくれるのか?」

「(まさか次は私が妊婦という設定になるとか? それなら急いで子作りに励まなきゃいけないね)」

「実を言いますと、私とリリは夫婦などではないのです」

「…………(…………)」


 ローレンツは大袈裟に驚いて大口を開け、頭の後ろで手を組んでいる。その大きくあけた口に虫でも入ってしまえばいいのに。


 だが大げさなやつだと笑えない。それほどまでにリリの演技は上手かったのだからしかたがない。

 一方熟女のビビアンは特段表情を変えなかった。


 そしてリリの表情は熟女よりも更に上をいく無表情。今にも消えていなくなりそうなほどの完全な無だった。

 それはそうだろう。自尊心を捨て、誇りを削ってまで俺に付き合ってくれていたのだ。これまでの苦労と名演技を茶番扱いされてしまったら誰でも頭が真っ白になる。


 これから徐々に怒りも湧きはじめるはずだ。

 許されるとは思っていないが、少しでもリリの気持ちを軽くするためにも誠心誠意謝らせてもらおう。


「いや、夫婦としか見えなかったが……本当に嘘だったのか? では恋人か」

「いえ、恋人でもありません」

「恋人でもないのにあんなに仲睦まじいというのはどうにも解せんな。いったいどういう関係なんだ」


 恋人以上の関係に見えたのは、リリの名演技と自己犠牲の精神ゆえのものだ。

 普通なら俺みたいな醜い男と夫婦のふりなどしたいはずもない。


「唐突に白状したということは、どうしてそのような嘘をついていたのかも、ちゃんとご説明いただけますわよね。答えによっては坊ちゃんを連れて帰らせていただきますから」


 ビビアンがただでもきつい目を更に鋭くして詰問してくる。

 大人の魅力にあてられた聖棒がちょっと反応した。「私、あの人に触られたことがあるんですよ」と誇らしげである。


「彼女を教会に残しておけなくて、私が無理に連れ出すことにしたのです。お会いするのが高貴な方かもしれないということで、お目通りを願える立場を用意しようと、愚かにもこのような真似をしてしまいました」

「なるほど、妻という立場をとらせれば伯爵様に会うための口実ができると考えたのですね。浅はかですが、合点はいきました。あれほど熱烈な夫婦愛を見せておきながら夜は前戯にとどめていたのはそういう事でしたか」


 やはり監視していたんだな。


「なぜそうまでしなければいけなかったのかなどはお話しいただけますか」

「できれば話さないで済むのなら、そうさせていただきたい。彼女の個人的な過去の話なども説明しなければならないので」

「かまいません。まだ不可解な点がそちらの小娘にはありますが、こちらが得ている情報と照らし合わせても一応筋は通っているようですし」


 どのような情報を仕入れているのかを尋ねたいが、嘘に嘘を重ねてはぼろが出てしまうのでやめておこう。

 情報の中には街の噂も混じっているのだろうし。よりややこしい話になっても面倒だ。


 問題はリリである。


「子供が一人……子供が二人……」


 無から亡霊みたいになってしまい、地を歩くアリを数えてぶつぶつ言い始めてしまっている。とてつもなく危険な状態だ。


「リリにも詫びなければいけませんね。無理な話に付き合わせてしまって申し訳ありませんでした」

「ぃ……ぃいよ。楽しかったぁからぁ。ホントに、楽しかったなぁ……」


 余程ショックだったのか声がカスカスになっていて目も虚ろだ。

 それでも気丈に振舞って楽しかったなどと言ってくれるリリの優しさには涙を禁じ得ない。


 なぜもっといい方法を思いつけなかったのか。

 ゴブリンに襲われたときに、リリが怪我をしないように馬車の中に押しとどめればよかった。海水浴などに興じなければクラゲにも襲われなかった。

 そうするだけでも即興の夫婦など演じさせずに済んだというのに。


「彼女、放心していますわね。尋常な状態とは思えませんけど。他にも何か隠しているのではないのですか」


 鋭いな熟女。

 亀の甲より年の功だな。亀甲縛りで尻を平手打ちをされながら尋問されたい。


「彼女には色々と無理を強いてしまいましたからね。本人は嫌々ながらも私に合わせるため、あれやこれやとよくしてくれました。それらの努力をふいにされたせいで落ち込んでいるのでしょう」

「確かにあの淫棒は演技のためとはいえ、女淫の穴に導き咥えこむのは相当の覚悟がいるでしょうね……」

「いえ、その点は誤解なきよう願います。誓って一線はこえていませんので」

「あら、では本当に仲睦まじいふりをしていただけですのね? 林の中では激しくまぐわっていたと聞いておりましたが。それもこちらを欺くための演出だったと言うのなら、中々に侮れない方ですこと」


 ここはハッキリとしておかなければ、ロニとリリの恋愛が成り立たなくなってしまう。少なくともリリには不利に働く。


 聖棒でぶち抜かれていたと知れば、処女性を重んじる貴族は必ず忌避するだろう。

 特に友人間での壮絶な寝取られ劇を経験していて、今でも引きずっている様子のロニには耐え難い屈辱となるはずだ。

 仮に二人が結ばれても、ロニは俺の姿が脳裏にチラついてしまうだろう。俺なら絶対にそうなる。だから結婚するなら処女がいい。


「だけ――とは仰いますが、歳若い乙女にそのような振る舞いを強いるのはあまりにも残酷でした」

「あら歳若くない乙女でもそれは残酷ですよ」


 ビビアンに年齢の話は禁句だなこれ。殺気を込めてねめあげられているもの。


 しかし歳若くない乙女とはなんだろう。

 四十歳の少女とか、十七歳と三千日目とか、処女の経産婦みたいな響きが不思議とドキドキさせる。


 さしずめ俺は童貞のヤリチンと言ったところか。

 さきほど耳にした最新の噂によると、妻を男女合わせて十人娶り、娼婦と男娼を百人囲っているらしいからな。


「乙女に年齢は関係ありませんね。女性は皆、いつまでも少女のようなあどけない夢を抱き、清らかな心を持って生きているものですから」

「物分かりがよろしいいようで助かります。女の味は三十を過ぎてからが本番であるというのもお忘れなきようお願いいたしますね」


 経験豊富な年増は好きだが、数百歳はいっているのに今さら二桁を気にするのか。

 乙女道、奥深し。俺もいつか乙女の奥の深い穴道を手探りで探索してみたいものだ。


「では、誤解と嘘を解いたところで教会へ案内させていただきます」

「これ以上の嘘偽りはありませんね?」

「はい。育ての親である司教に誓ってありません」


 まだ隠していることもあるので神には誓えないが、司教ならいいだろ。


「リリ。重ね重ねにはなりますが本当に申し訳ありませんでした」

「む、娘ぇ!」


 突然叫ぶリリ。ちょっとびっくりしてしまった。

 ロニなど屈んで顔を隠してしゃがんでしまっている。どんだけ大人の女が苦手なのだ。


「私は彼の娘だから。時と場合によっては妹でも性奴隷でも可。状況に応じてまた妻る」


 妻るって。


「次はそういう体でいくのですね。承知しました。世間体もあるでしょうし、一人身の女を意味もなく教会に住まわせておくのは色々都合が悪いですものね。さすがに性奴隷というのは問題がややこしくなりそうなので、あなたは娘という設定で合わせてさしあげましょう」


 熟女の察しがよくて助かる。

 他方ロニときたら、鞄で顔を隠しながら小さい子供や猫獣人を目で追っている。ブレない男だな。


 はぁ――しかし、リリに想い人か。


 なんだか胸が痛いな。


☆


 先にローレンツの住む部屋へ案内すべきなのだろうが、まずは本棟である教会の扉を開く。一にも二にも待たせてしまったルカに会いたいからだ。ロリコンの世話焼きなどの二の次である。


「ロロ、ロイ、ロィズレッレ―――うわぁー!!」


 ルカは俺の名前を噛みすぎて最後は諦めたのか、勢いよく駆けては飛び込んできた。

 可愛いルカを抱き上げて回転してやる。


「流石に回転がはやすぎやしないかロイズ。そんなに回したら性別が分離してしまうぞ!」


 なにをわけのわからないことを。


「ルカはあれぐらいはやく回らないとダメ。動体視力と平衡感覚が優れすぎていて退屈に感じちゃう」

「そうなのか。それは将来有望だな。それにまだ小さくて可愛いじゃないか」

「お前はルカに接近するの禁止ね」

「なぜだ!? 俺に死ねと言うのか!?」

「そうだよ」

「くっ、これだから大人は……。倫理や常識などという下らないものに囚われ、人の新たな可能性の種を潰そうとしてくる……」

「聞き取りづらいからぶつぶつ喋るな。文句があるなら目を見て話せ」

「……っす」


 ロニから不穏な気配を感じたが回転しているせいで声を上手く拾えなかった。それよりも今はルカだ。


「いい子にしていましたかルカ」

「はい! いいえ!」


 どっちだよ。可愛いなもう。


「悪い子だったのですか? それなら今日のプリンは半分にしないといけませんね」

「そ、そんな! あの、ロイズレッド様の教えの通り善行をつんでいましたが、それらすべてが上手くいったとも言い切れなくて……」

「そうですか。なら今日はプリンをー……」

「っ……」


 ごくりと唾をのんで判定の結果を待つ可愛らしいルカ。

 そんな可愛いルカよりも大きな生唾を飲む者が二人いた。

 闇の精霊とロニだ。あいつらはルカの可愛さに対して唾をのんだな。


「……三倍あげましょう!」

「やたー!! え!? なんでですか!?」

「お留守番をしてくれたから一個。正直に申し出たから二個。善行が上手くいかないのは悪いことではない。行おうとしたことが既に褒められるべきなので三個。善行というのは積もうとしただけでも十分なのです」


 さすがに一日に三個のプリンは与えすぎな気もする。

 なにも一日にすべてあたえなくてもいい。俺なら一日に百個はいけるがルカはまだ子供だ。


「俺はローレンツだ。よろしく頼もうかルカきゅん」


 きゅんとか言うな気色悪い。


「はい、ローレンツ様ですね! 初めましてルカと申します。ロイズレッド様の小姓の真似事をさせて――」

「あー話は聞いている。ロイズは君をとても優秀な子だと自慢していたよ。話の通り利発そうな子じゃないか。それにほっぺが美味しそうだ」


 ロニがルカに擦り寄るとすぐに闇の精霊が動き出す。

 俺からルカをとりあげて、長乳を頭に乗せるようにルカを収納してしまった。羨ましい。


「わたくしはネロシェイドですわ」

「あ、あ、お、俺はローレンツ……だ、です」


 大人の女の前になると露骨にトーンダウンするのが笑っちゃいけないのに笑える。


「ルカ様の契約精霊兼、子守り兼、教育係兼、肉便器兼、守護精霊兼、育児担当兼、お嫁さん筆頭のネロシェイド。全て覚えておいてくださいまし」

「……っす」


 いま聞き捨てならないものをいくつか兼任していたな。

 それに名前あったのかこいつ。俺は名乗られていないぞ。


「ふーん。名前つけたんだね」

「はい、契約主様がお困りになっていらしたので」


 名前は元々なかったらしい。切ないね。


「そう、よかったね」

「それで、あの大男のマゾ奴隷にはなれたのですか? 一回ぐらいは種を吸い出せたのでしょう。出発前は私の胎は精液ダムになるって。帰ってくる前に産婆の勉強をしておけと意気込んでましたし」

「……残念だけど何もなかったよ。むしろ元に戻った。一歩進んで百歩戻ったような喪失感だね」


 なにやらヒソヒソ話をする二人。

 女子トークに混ぜられたルカは退屈らしく、精霊から離れて俺の元にきたそうにしている。だがネロシェイドに掴まって身動きが取れていない。羨まかわいそう。


「おいたわしや。環境は整っておりますので、まだまだ焦る時期ではないでしょう。でもあれだけ大見得を切っておいて……プククッ」

「おい、今笑ったな?」

「はてなんのことでしょう」

「私はいま機嫌がよくない。再契約と強制契約の魔法を私が知っているのを忘れたの。私の師はオノドリムとウンディーネだからな。次は私のうけた快楽を百倍にして注ぎ込む契約を結ぶぞ」

「……申し訳ありませんでした元契約主様。どうかそれだけはお許しくださいませ」


 ルカを手放して平伏すネロシェイド。しゃがんでネロシェイドの顎を掴んで睨むリリ。


 大変仲がよろしい。

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