夢であえたらしたいこと第一位 セッ――
――ビビアン様から、城に宿泊しているという謎の夫婦を監視するようにという命を頂戴した。
傍から見ればただの熱愛夫婦なのだが、どうにも怪しいとのことで、この二人の愛が本物であるかを確かめよ――と。
ビビアン様が言うには、酒場では親子の振りをし、こちらにきたら夫婦であると主張しているらしい。
親子も夫婦も、どちらも偽りである可能性があり。我らが魔族を庇護してくださる伯爵様に害をなす存在ならば、夜のうちに殺しておかなければならない。
一方で男は殺してはならないが、女の方の生死は問わないとも言われている。
淫魔の僕にかかれば人の女など容易く篭絡できる。できないのは同じ種の淫魔族であるところのサキュバスぐらいなもの。
ビビアン様の話しによると、妻は見目麗しいだけの、美しさと若さしか取り柄のない幼稚なエルフらしい。
自分の容姿に自信のある女など、淫魔一との呼び声も高い僕のイチモツを見せつければいちころである。催眠と催淫は加速し数秒後には股を開き、涎を垂らして招き入れることだろう。
夢の中での僕ら淫魔は無敵だ。 夢の中ならば何でもできる。何をしても構わない。
犯したとしても最悪は心が壊れるぐらいで現実にはなんの証拠も残らない。イキ狂う、口と股の緩くなった女から情報を引き出すなど、これほど簡単な仕事もない。
もし本当に夫婦だったならば悪いが、確認のために寝取らせてもらおう。
エルフは見た目が美しいのでこんな役得は滅多に回ってこない。
最近は三回続けて老婆の夢をかなえるために相手をさせられたり。性犯罪をおかした男どもの相手を連戦でさせられたりと散々だった。
老婆は若い頃の姿に変えてしまうので構わないが、男は姿を変えても心は男のままなので、こっちが変な趣味に目覚めそうになる。
しかし今宵のターゲットは極上の若い女エルフ。いつも以上に張り切って職務を全うするとしようじゃないか――そう思っていた。
☆
「――なにこの貧相で役に立たなそうな棒切れ」
きき間違いだろうか。僕の規格外な巨大イチモツを見て、驚きと混乱のあまりそんな反応をしてしまったのか?
エルフの女は、我が心を切り裂くような鋭利な視線で俺のイチモツを見ている。
それは心底に軽蔑しきった、蔑みと憐みが混在した目だ。
このイチモツを見せられて魅せられたら、催淫など発動せずとも女は目を回して股を濡らす。しかしどういうわけかエルフは、濡れるどころか嫌悪していた。
はじめはこれでもかとさせていた発情の臭いも一切しなくなっている。
これはどういうことか。
照れている……というわけでもない。ため息をついて退屈そうにしている。
その態度から、二人は性交体験がないのではないかと推察した。
エルフは男のイチモツを見たことがなく。もっと巨大なものだと思い込んでいるのだ。
つまりエルフと男は肉体関係にない。エルフは生娘でイチモツの相場を知らないがゆえにこのような薄い反応をしてしまうのだ。
「――本物の男を見たことがないようですねリリ。よく御覧なさい。これが男の本物のイチモツなのですよ」
肉体関係がないのであれば夫婦が偽装である可能性が高まる。
この場で犯し殺すかはまだ判断できないが、伯爵様に害をなすならば迷いはない。
散々犯し抜いた後に精力を吸いつくしてやる。お互い良い思いができるのだからあと腐れのない最後だろう。
しかしこれだけの美貌となると、一度だけで終わらせるのはもったいない。時間の感覚を狂わせて三日三晩犯し抜いてやる。いいや、もっと時の感覚を狂わせて何度も出産させてやるのもいいか。
僕のイチモツなしでは生きられないほどに依存させてやる。
「おい、その姿を偽って私の名を二度と呼ぶな雑魚チンポ。お前ちょっと殺すからじっとしていろ」
脅しではなく殺すと断言された。怖い。
殺すにちょっともなにもないだろ。おそろしい女だ。
僕の作り上げた夢の世界では魔法が使えないとわかっていても怖い。
「ざ、雑魚チンポとは私の対義語なのですが――」
「うるさいなぁ。動くなって言ってるんだから口も心臓も動かすなよ。それとダーリンの口真似もやめろ。まじで殺し尽くすからな。三日三晩殺し抜いてやる」
どういうわけか僕の完璧な偽装を見抜いて、夫ではないと見抜いているらしい。
夢の世界では正常な意識を保つのは困難を極めるものだ。どうやって見抜けたのかわからない。
本当に愛し合っている夫婦なのか?
まさかイチモツを見て夢の世界だと見破ったなどということはあるまい。
だとしたら常にイチモツのことを考えていないと難しい。
いや、いまさら理由など気にする必要はないか。見破られたとして抵抗できるはずもない。
「なんて口の悪い女だ。だがそんな虚勢を張っていられるのもいまのうちさ。この夢の世界では抵抗すら許されない。あなたの嫌悪するこのクソ雑魚チンポとやらで朝まで何度も昇ることになるだろうね」
「そのみすぼらしくて腐りきった小魚みたないな雑魚針を私のダーリン専用穴に……?」
美しい顔が瞬間的に歪み。歯根が鳴るほど、奥歯を嚙み潰さんばかりに食いしばっている。
「想像して感じてしまいましたか」
「調子に乗るな。ダーリンなら顔を想像するだけで脳イキするけど、お前の場合は想像することすら脳が拒んでる」
「口だけは達者なようですね」
「ダーリンの口は達者なんてレベルじゃないよ。言葉とキスだけで百回以上は昇らされているからね」
いや男の話しなんてしていないんだけど。
どうやらあの男は会話が成り立たないほど、この女の頭の中を占有しているらしい。
「キスだけで数百回? アハハ、そんなテクニシャンがいてたまりますか。淫魔の能力をフルに使ってもそこまでの境地には至れやしない。非現実的すぎる。物語の読みすぎですよ。現実を知らないお嬢さん」
「あぁ……お前が噂の淫魔ってやつか。ホントにいるんだ。でもあれだね、ウンディーネの言ったとおり――」
エルフがいびつな笑みを浮かべる。
見る者によっては興奮の種となるような妖艶な笑みなのかもしれないが、僕には怖気を感じるものだった。
「――しょうもない種族だ」
「……ぼ、僕らのなにがしょうもないのでしょう。参考までにお聞かせ願いたいところですね」
「催淫だの催眠だの、取るに足らないくだらなぬ能力を使わないと、まともに女の一人も落とせない。生物史上最弱種のオスが淫魔族の男だって言ってたよ私の師は言っていたよ。そしてその通りだったと見て思った」
「ぐっ……!」
一部事実なだけに反論ができない。
たしかに淫魔は戦闘には不向きである。腕力による優劣をつける場合は他種族の子供にだって負ける。しかし女一人も落とせないというのは聞き捨てがならない。
女の分際で、わが夢の世界に在りながらよくもそんな口をきけたものだ。
「なにか勘違いをされているようですが、本当の僕の容姿はこんなものではありませんから。もっと美しい――」
「黙れ。過去現在未来を通してダーリンより美しい造形がこの世にあるわけない。次点でここの伯爵の奥さんだね」
伯爵様の奥様を美しいと評するエルフ。
どうやらそれなりの審美眼は持っているらしい。
これはビビアン様にも報告しておこう。
だがそれは芸術的な分野における審美。生きる男女の容姿を評価するための基準とは別だ。
「いまダーリンより自分の方が美しいみたいな言い回しをしたよね。調子に乗りすぎたぞ、お前。いま千回以上は殺すことが確定したからな」
怖い。口が悪い。こんな女みたことがない。
「千回ですか。それは恐ろしい。ならばこちらは一晩に数十回は絶頂させてさしあげますよ。それを数百日と続けますが、あなたは耐えられるでしょうかね」
「す、数十回?」
「フフ、さすがに恐ろしくなりましたか。それとも期待してしまいましたか? ようやく自分のおかれている立場が――」
「能力を使って一晩でたったの数十回って……。その程度しかできないならやっぱり雑魚チンポじゃないか。ダーリンは御道具なしで数十万回イかせてたよ。私は数百で気を失ってしまうけど……」
嘘をつけ。そんなバケモノがいてたまるか。イク側もイク側で同等のバケモノだ。普通はそんな快感に耐えられるはずもない。
しかし、眠る前に濃厚すぎて本番の性行為かと見紛うキスと。目隠し前戯をしていたのは確認済みだ。たしかに手の本数が増えたかのように見えて。体が残像して何人もいるようにもみえた。
エルフの言葉を鵜呑みにするわけではないが、それなりのテクニックは有しているのは確かだろう。だが淫魔である僕以上の絶技や、性魔法を行使できるはずもない。
「お前のは薄いし細いし短いし不格好だし。見るだけで吐き気がする。ダーリンのお大事様に比べたら、蚊の足よりも惨めで頼りなくて何の魅力もないね。だってそれで人を浮かすことができるの? ダーリンのはホントにすっごいんだから……。もうめちゃくちゃカッコいい形してるの。特にダーリン視点から見るのがオススメで――」
「ぐっ……ぎっ……!」
連れの男への愛情が本物であるのは疑いようがない。
話している間にも催眠と催淫を何度かけているが強い精神抵抗を受けてしまってまるで効いた様子がない。
それも魔力や魔法をつかったレジストなどではない。男への想いが常識を破るほどに強いからだ。純粋な精神力のみで僕の能力に抗っている。
「こんな屈辱を味わうのは初めてですよ。屈辱童貞を奪われてしまいましたね」
「いらないよお前の初めてなんて。折角だけど、どぶ川にでも捨ておくね。違和感ないでしょ」
「……」
本当に口が悪いな。精神攻撃が上手すぎるだろ。
夢の世界での肉体は十割が精神体。言葉による精神的な作用は現実よりも顕著に出る。それゆえ現実世界ならば耐えられるような言葉も、そのまま精神を傷つけて、僕のプライドをいやというほど傷めつけていた。
「さて、無駄話にも飽きたし消すか。やっぱり見た目だけ同じでもダメだね。ダーリンはダーリンじゃないとダーリンじゃないや」
どんなに仲の良い恋人同士であっても、僕の使う愛のプレッシャーをもってすればその日に破局させられる。
だがここまで深い愛情を抱いているとなれば、夫婦を偽装している線は薄いのかもしれない。少なくともエルフのほうは男を病的なほどに愛している。
情報は取れたので、すぐにでも立ち去ってビビアン様に報告するべきかもしれない。この二人は夫婦の可能性が高いと伝達しに向かうべきだ。
だが任務とは別に、僕のプライドを傷つけた恨みはその身体で払わせてやりたい。
調査は手段はえらばなくてもよいとのお達しである。このエルフには僕を雑魚チンポ扱いした償いをさせてやらねば、淫魔としてのプライドが傷つけられたままだ。
傷つけられたプライドは傷つけた者のみでしか修復できない。
穴という穴に淫魔の性水を注ぎ込んで洗脳し。僕から与えられる快楽なしでは生きられないようにし、現実でも犯し尽くして子を孕ませてやろう――。
「いつまでもいい気になっているな。寝転がって股をひらけこの売女!」
催眠と催淫を最大出力で行う。
精神が壊れてしまうので普段は半分の力も使わないが、生意気なエルフには壊れてしまうぐらいで丁度いいだろう。
「誰の女に命令してんだよッ!! 消し飛ばすぞッ!」
「ひぃっ――!」
めちゃくちゃ怒鳴り返された。
だからどうして僕の能力が通じないんだ。ここは僕の世界だぞ。
「おい今のは、私がダーリンの超級愛妻兼、専属専門特別指定性奴隷であるというのが政府公認の事実であるのをしっての狼藉か?」
政府公認の愛妻だと? それはただの夫婦と何が違うんだ。
いや普通の妻は自分を性奴隷とか言わない。やっぱりこのエルフはどこかおかしいぞ。
「ダーリンの女である私に性的な命令をした罪には相応の罰が必要だね。そのお粗末な蚊の足を引っこ抜いてオノドリムの背中に細切れにして釘で打ち込んでやる」
催眠による命令は当たり前のように無効化され、むしろこちらが凄まじい殺気で気圧されている。
だがここまでは想定の内だ。
レジストできるほどの精神力を持っているとわかれば別の手がある。
「強気なのはいいですが、ここは私のつくりだした夢の世界であるのを忘れていませんか? そんな口をきいて、この後どんな目にあうかとは想像もできないんですかねぇ」
「誰の夢とか関係ない。ダーリンをその程度のショボい蚊の足だと侮辱したことをまず膝をついて謝れ。謝ったら千回殺してやる。今ならまだなぶり殺しで許してやるから早く謝れ」
怖すぎだろこのエルフ。なにがなんでも殺そうとするじゃん。
「豪気な女性は嫌いじゃないですよ。むしろ好ましい。そういう気の強い女の尻穴を無理やりに――」
「ダーリンの許可なく私に好くな雑魚虫。ダーリン以外が私に向ける好意は虫唾が走るんだ。本当にどこまでも虫みたいなやつだな」
「は、ハハ、また虫扱いですか」
そろそろ我慢の限界だ。
異性には紳士たれという淫魔の標語を忘れて暴力に訴えてしまいそうだ。
「その余裕いつまで続くかな。さあごらんなさい、これが僕の本当の姿だ!」
「…………」
「申し訳ありませんが、この肉体には女を惑わす魔性のパッシブ効果ありましてね。見ているだけで身体が肉棒を求めて疼いてしまうかもしれませんが――卑怯とは思わないでくださいね」
「これが魔性の効果……?」
「フフ、さすがに浸透率が違いましたか? 自発的にかける呪いとは違い、この魔性は生まれ持った得能。不可避の自動発動――」
「その程度で魔性を謳うなんて、片腹が痛すぎて吹き飛んだかと思ったよ。ホントの魔性を知らないんだろなー。かわいそ」
魔性のパッシブすらまるで効いていない。なんなのこのエルフ。
「なぜです! 普通なら催淫と合わさり快楽を受け入れる準備を瞬時に終わらせてしまうはずなのに!」
「お前ホントに快楽ってしってるの? 快楽とか快感というのはね、ダーリンはね、精霊との契約すらも貫いて、心と子宮の奥にまで届いて種もなしに孕ませようとしてくるんだよ」
「ば、馬鹿な話を……精霊との契約を破るほどの快感なんて、それでは理に反している」
精霊との契約を無視するなど世界の理と秩序を揺るがす災害規模の話しではないか。
それこそ伝説上の存在。魔王クラスの呪いだ。そんな快感を浴びせられて正気でいられる女はいないし、放てる生物も存在しない。
「それはもはや呪いだ。そこまで強い呪いを有しているならば真っ当な生物は近寄れず、まともな生活すらままならないはず。そ、そんな話が本当にあったとして、人の身で受け続けられるわけがありませんから!」
「語るに落ちたね。それはお前がホントの愛をしらないからだね。経験がないから、しらないからそう決めつけるんだよ」
殺すを連呼している人がホントの愛とか言い出した。
自分の発言の矛盾とか気にしないタイプなのだろうか。
「ダーリンの顔なんてね、ちょっと想像するだけで……ッくぅ。ハァハァ……危ない。三回も脳で達するところだった」
この短時間で少なくとも二回は達したのか。
すごい蕩け顔になっているのも演技には見えない。
ではなぜ僕の催淫が効かない。
もしかしてこのエルフ。催淫がきかないのではなく、既に催淫しきっているのではないか? 僕以上の力で催淫されていてから上書きできないのだ。
「は、は、ハハッ。いいでしょう。あなたのあの男への愛は認めましょう。あの男をあなたが愛しているのは十分に伝わりましたから。ですが僕の快楽フルコースを味わっても、その強がりとへらず口が続けられるかな」
もしも僕以上の力で催淫を受けていると言うのであれば、それは許されることではない。淫魔としてのプライドをかけて意地でも僕のモノにしてやる。
「僕の精液には女体を狂わせる効能があるんです。臭いを嗅ぎ、肌に触れただけでも飛んでしまうような極上の代物です。こいつを子宮に浴びても、まだあの男を愛し続けられるでしょうか。これは実に見ものですね!」
指を弾いてバインド魔法を放ち、エルフの腕に絡ませベッドに繋ぐ。
次いで毛布で隠れている足にもバインドは装着し、四隅から引っ張られるような体勢でエルフの身動きを封じてやった。
「はぁ……。ダーリンだったら魔法なんて使わなくても動けなくできるのに……ホントしょぼいなお前。男として底なしにしょぼいよ」
「こ、こういう乱暴なのは趣味じゃないのですがね! 強情なあなたが悪いのですよ。感じたこともない快楽の海に溺れさせてあげましょう!」
「五……四……三」
数字を数え始めるエルフ。
脅しのつもりだろうが、夢の世界で身動きも取れず魔法も使えない女など恐れるはずもない。
「二――」
「いったいなんのカウントダウンですか。これから自分が快感に狂うのを数えているんですかねぇ。よくみてみればいい身体をしている。ですが口はうるさいので、分身を生み出して塞いでおきましょう。ついでに尻穴にも入れるため二体目の分身も――」
「一……」
ゼロ――とエルフが言った瞬間、手足を拘束していたバインドが弾けて解かれる。
それはエルフが力まかせに引きちぎったのではない。ベッドの四隅に突如として降ってきた、四人の巨漢の手によるものだった。
それは、さきほどまで僕が変身していた巨躯の男。エルフの偏愛する大男であった。
何故か股間にブーツを装着している。変態だ。
「な、なにを!? なんだこの凶悪な変態たちは!」
即座に生み出したばかりの二体の分身をけしかけたが、巨躯の男たちによって首を刎ね飛ばされて消えてしまう。
「よし、やっと掴めた。この感覚だ。お前の魔法は明晰夢を楽しむときと同じ感覚で扱えば返せるんだな。ちょっと時間はかかったけど、ウンディーネに対処法を習っといてよかったよ」
「馬鹿な! 僕の夢の世界が――この魔法は対策できるはずがないんだぞ!」
「いまやったでしょ。見たものも信じられないならお前は何を信じて生きてるんだよ」
時間はかかったと言っていたが。もしや長話をしていたのも魔法の解析のためだったとでも言いたいのか。狂った女を演じて僕の興味をひいていたとでも。
「だとしてもおかしいっ!」
「あぁもう、うるさいなぁ」
景色がぼやけていき、今までいた部屋が薄らいでゆく。
床が消失し前後の左右の感覚も消える。やがて新たな景色が生まれ。場面は美しい、青い湖ののぞく湖畔へと移り変わっていった。
「心象風景の現像!? こ、これは僕のじゃない。あなたの仕業ですか!? ひとのつかった魔法の中だぞ、非常識がすぎる!」
「明晰夢と扱いが変わらないなら、いつもやってるのと同じことをすればいいだけだよ。毎日隙あらばやってるから、そこそこ練度は高いんだよね」
「そこそこって……これがそこそこの練度――いや、そういう問題じゃない! ここは僕しか魔法が使えない空間なんだぞ!?」
「さあダーリン、いつもみたいに私を甘やかすために降臨して」
エルフが天に手をのばすと、空から伯爵様の城よりも大きく、崖よりも高い巨躯の男が翼を羽ばたかせながら降ってきて湖に着水する。
続いて何人もの男が落下してきて、その多くがエルフの前で膝をついた。
「さあ、いつものように――あっ、あ、足、足を、お、お舐めなさぁい?」
なぜか照れながら命令するエルフ。自分が令嬢にでもなったかのように振舞っている。
まるで慣れていない棒読みの演技。こんなにひどい演技を見たのは初めてだ。
「――恐れ多くも姫様の雪を欺くが如き白玉のようなおみ足に、穢れ極めた私が触れるなど到底かなえられる夢ではありませぬ。そのようなことをなせば、私は悦びに打ち震えて露となって消え去ってしまうでしょう。ですのでどうかお許しください。目覚めれば消えてしまう夢幻の泡沫世界であったとしても、このまなこに、姫様の美の女神もかくやと思わせるお姿を今しばらく……一秒でも多く映していたいのです」
「フヒっ! うひひぃー! ふひゃあ!」
「傾国の美女も傾かせる姫様にこれ以上近づけば、我らなどは――」
なにが起きているのか理解が追い付かない。
屈強な変質者が数百――数千と並んでエルフを姫と崇め、次々に、思い思いに誉めそやしている。そしてみんな揃って革製のブーツを股間に装着しているのはなんなんだ。新手の包茎なのか。
「いったいになにが――なぁっ……! なんだあの大きさは!?」
なかには数人ほどブーツを装着していない者もおり、それは僕の自信を打ち砕くには十分な大きさをしていた。
「あ、あんなものをぶら下げて日常生活が十全におくれるものなのか……? まるで人智を超えた荒ぶる神の器。ただそこにあるだけで、周囲の空気を威圧するほどの存在感を放っている……!」
あんなものを日常的に女の穴に叩き込まれていたのなら、僕のモノを短小だと言い切るのも頷けてしまう。世界中の男が束になっても敵う相手ではない。
しかもそれは大きさだけではなく、男の僕から見ても憧れを覚えてしまうほどの見事なフォルムをしていた。
美の黄金比にぴたりとハマる形は、ひとたび見てしまえば目が離せぬほどに逞しく。自分が男として生まれたことを遺憾であると感じ、もし自分が女であったならと思わずにはいられない。
「……いいなぁ――ハッ!? 馬鹿な、この僕が性において敗北を認めるだなんて。淫魔の誇りを思い出せ。気を強く持つんだ!」
エルフは全裸の男を十人ほど集め、風をあおぐために「ダー棒を回して風を起こしなさい」などと頭のおかしいイカれた指示出している。
そしてまた姫を誉めそやす言葉を放たれては、両手で顔を隠してしゃがんでしまった。
僕ほどの淫魔でも分身を十人をうみだすのがやっとで。後半になればなるほど姿を維持できない。だというのにエルフの召喚した男たちは全てが精巧で精緻に反映されている。
どれほどの鍛錬を積み。どれだけの想像力があればこの数をこれほどの再現度で維持できるというのだろう。
「姫様、我ら熱愛の空間に居座り続けるあの異物は何者でしょうか。もし姫様の想い人であるというならば妬心の炎に身を焼かれる思いです」
「混入異物! 姫様に仇なす輩であるならば容赦はせんぞ!」
「貴様、イチモツの名を名乗れ!」
「決闘を申し込む! その貧相なイチモツを立たせよ!」
「我が一刀でメスにしてくれよう!」
「やめて! 私を求めて争わないで!」
もうわけがわからない。
争いを主導しているのは絶対にあのエルフの意思なのに、なぜ泣きそうな顔で被害者面をしているのか。とんでもない大根役者だ。
男たちの恐ろしすぎる顔面と、凶器とも言えるイチモツを向けられながら詰め寄られ。さらにはイチモツを立たせろなどと要求されて恐怖で足腰が震える。
エルフは、こんなバケモノに常日頃から囲まれているというのか。
「ふぁあ……ダーリンがいっぱいかまってくれるの最高が過ぎるよ。愛が重すぎて私の膝では支えきれない。このまま押し倒されたい……。重いの最高。もっと心配されたい。もっと心配させたい」
エルフ以外の皆がこちらを睨んでいる。それは正面だけではない。四方から睨まれている。
大きさはまちまちで、湖の水面から顔とイチモツの半分をだしている者。木の影から顔だけを出して監視している者。木の枝や地中から覗く者もちらほらいて本当に気持ちが悪いし怖すぎる。
こんな相手に勝てるわけがない――。
そう判断するがはやい。エルフから踵を返して逃げ出していた。
けれど走れど走れど足は進まず、まるで夢の中にいるように体が自由に動かなかった。
「夢の世界では上手く動けないものだよ」
エルフがつかつかと歩いてくる。
いつの間にか着換えていたエルフ。着ているのはドレス――あれは人間が使うウェディングドレスだ。
「い、いかれている! どうしてこんなことができるんだ、頭おかしいのか!?」
「彼を愛することがおかしいというのなら、私は頭がおかしくていい。気が狂ったと言われてもいい」
唐突にあたりが暗くなり、エルフにだけ眩い光が差している。
「馬鹿にされようとも蔑まれようとも石を投げつけらようとも。木で殴られ骨が肌を突き破って――――親に捨てられたってなんとも思わない」
そして二人の男に光が当てられる。
バケモノみたいなイチモツの大男と、その男に似た全裸の少年だ。
「彼を想えるのなら、私は他の誰に何と言われようとも気にはしない。私は私だ。どんなレッテルを貼られてもかまわない。この愛に嘘をつくぐらいなら死んだほうがましだよ」
そこまでは言っていないのに勝手に盛りあがっている。
そしてエルフの後ろには、求婚のための指輪を持った全裸の男たちが膝をついて列をなし構えている。
僕は何をみせられているんだ。
「ほ、本当に狂ってる……こんなの正気じゃない」
「愛に狂うのがこんなにも心地いいとも知らずに……憐れなゴミムシだね」
「僕はゴミムシなんかじゃ――ぐぎゃ!」
踏みつけられるように木に頭を押し付けられる。
痛い。僕の夢なのに痛い。現実の数百倍も痛い。これはただの蹴りをくらっただけの痛みではない。剥き出しの神経を爪でひっかかれているような痛み。頭を蹴られたはずなのに全身が激しく痛む。
「いだ、いだいぃい! やめて、やめてくだひゃいぃ!」
「やめないよ。千回殺すって言ったでしょ? 夢の中なら何回も死ねるし丁度良かったね」
「ひぃいっ!」
普通ではありえないことが起きているのは、このエルフの想像力が凄まじいからだ。僕の想像を絶する想像力と創造力を持っている。
「その蚊の足を引っこ抜いて釘で打ちつけると約束したよね」
「し、してません! 約束はしてませんんんッ!! 一方的に仰っていただけです!」
「そうだね。確かにダーリンの御道具様以外を触れちゃダメだよね。浮気とは違うけど、他の男のモヤシを触ったと知ったら、ダーリンはきっと悲しむもんね。もしも立場が逆なら、相手の女を殺して、私も舌噛んで死ぬもん。うん、そうだよ。だから……それ、自分で引っこ抜きな」
「ダメだ話が通じないッ!」
会話が成立していない。なにを一人で盛り上がっているのだ。
「だれか、だれか助けて!! 殺されるぅう!」
「ううん、楽には殺さないよ? ダーリンの姿を偽った罪と、私の名を呼んだ罪は、ただ殺すだけでは償いきれないでしょ? このまま百年かけて殺し続けるからね。夢の世界では、時間はたっぷりあるんだから」
名を呼んだだけで殺されてたまるか。王侯貴族だってそんな無茶は言わない。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! こんな真似、もう二度としません。お願いですから見逃してください!!」
「謝って済まそうとしている時点で罪の重さを理解していない証拠だよね。反省しているならさ、死ぬ気で償おうとするものでしょ? 愛しているなら死ぬほど愛するのと一緒だよ」
怒りと惚気を織り交ぜる狂気。なぜこのエルフの心には愛と憤怒が同居できるのか。
手を出してはいけない相手だった。正体を見破られた時点で逃げるべきだったのだ。
「ダーリンなんかね、私はべつになんにも不快な想いなんてしてないのに、ちょっとふくれたふりをするだけですぐに頭を撫でて謝りながら構ってくれて、たくさん甘やかしてくれるんだから……。可愛い可愛いっていっぱい言ってくれるの……。寝ぼけてるときに怒ったふりをすると、勢いでおでこにキスなんかしてくれちゃってさ。それをやりすぎだと思って慌てて謝ったりしちゃって……。あぁもう好き……全部好き」
「で、では僕も、あ、頭を撫でます! いえ撫でさせてください! あなた様の事を好きになりますから! キスもします!」
「じゃあまずは指から飛ばそっか。ダーリンのものたる私にダーリン以外が触れようなんて、ダーリンを侮辱しているもんね」
「待ってください! 嘘です! 撫でません!」
「そっか。じゃあ嘘つきに口なんていらないよね。だって人の口は愛を伝えためにあるんだよ? 嘘なんて言っちゃダメなんだからね」
「自分だってさっきから愛以外の怖いことしか伝えてこないのにぃ……」
こてんと首をかしげて「なぁに? なにか言った?」とほほ笑む。
もはやその笑顔に美しさも可憐さも感じない。あるのはただただ恐怖のみ。
「私の口はダーリンのダー棒を咥えるためにあるから…………いや、罰として咥えろと無理やり突っ込まれるのもありでは……? そういうのありじゃない? うん、ありだよ」
ついには一人で話し始めた。
何を言っても話が通じない。同じ言語を話す人類とはまるで思えない。これはバケモノだ。絶対に触れちゃいけない禁域の存在だ。
涙で視界はぐちゃぐちゃになり。下半身は異様に温かくなって濡れている。
逃げたくとも痛覚だけが鋭敏になっていて、体は口以外、指一本動かない。
「あっ……」
気づくと笑顔のエルフが、僕の指を切り離すために用意されたであろう、バカみたいに大きな剣を構えていた。
だがそこで動きが止まる。
「――夢の外でダーリンが動いてる気配がする」
何故夢の世界から外の状況がわかるのかなどもう考えない。
理屈はこのエルフには通用しないし常識も適用されない。余計な思考をしている暇があるなら、この機を逃さずに全力で逃げるべきだ。
「もうすぐ朝になるかと思います! 旦那様も起床して顔でも洗いに部屋を出ようとしているのではないかと愚考します!」
「うるさい。黙れ」
「はいっ!」
どういうことだ。従うことに迷いがなくなっている。
死へと直結する痛みからくる恐怖。その恐怖から逃れるために仕方なく従っているはずなのにどうしてこんなにも胸が高鳴るのだ。
なんなんだこの気持ちは。乾ききった喉に渇望していた清水が流れ込むような。求めているときに求めているものが即座に届くような感覚。死にたくないという気持ちと、生きたいという感情のはざまに新たな何かが生まれつつある。
死にたくない。生きたい。死にたくない。生きたい。死にたくない。姫様に従いたい。生きたい。死にたくない。生きたい。死にたくない。生きたい。死にたくない。姫様に従いたい。生きたい。
姫様に従いたい。姫様に命令されたい。姫様に尽くしたい。
「この感覚はダーリンの……! あうぅんっ!? 眠っている私の頭を撫でてくれてるッ……!? すぐに起きなきゃだ!」
「お、お待ちください姫様!」
「うるさい殺すぞ、お前は姫って呼ぶな。次会ったらおぼえておけ」
「……お、覚えておきますぅ!」
「それと、もしも今日のことをダーリンにチクったり、ダーリンが知るようなことがあったら、死を願うほどの恐怖を味わうことになるからな。夢ではなく、現実でだ」
「はいぃい! けっして口外しないと誓います! すべては姫様のために!」
「……気持ち悪い」
甘味を口で楽しむ子供のような笑顔から一転、僕に見せるのは鬼の形相。
ゾクゾクと背筋を走る謎の快感。その快感が何なのかはわかっている。
その日、僕は滅法濃いのが出た。




