それは変質した妖精のおしっこのような
「――失礼、母親などと……どうやら見間違いだったようだ」
それはそうだろ。俺みたいな面の母親がいてたまるか。
いやしかし、ミニスカートのリリに対してママ味をたぎらせていたせいでそう見えてしまったのかもしれない。だとしたら彼の見間違いもそう強くは責められまい。
子供の頃、司教を誤ってお母さんと呼んでしまったことがある。ついに俺もその域まで来たということか。
あまり嬉しくはないな。
「珍しく客人が招かれているとは聞いていたが。どういう風の吹き回しかと思っていたら……なるほどな」
なにがなるほどなのだろう。
伯爵もなるほどってなかったので、同じ血筋なら同じような勘違いをしていそうだな。
「ロイズレッドと申します。マフィーダの教会でシクリッド教団の神父をやらせてもらっております。……ほら、リリも挨拶なさい」
「エル」
名前は明かさないつもりなのはいい。でもせめて挨拶はしなさい。お尻ぺんぺんしますよ。
「坊ちゃん!? なぜそんなところで倒れて……まさか――!」
鬼気迫る声が聞こえて振り返ると、例の熟女が血相を変えて走ってきている。
坊ちゃんということは、尻餅をついている貴公子は直系のご子息様で確定したな。これは死んだかもしれない。
「あなたたち坊ちゃんに何をしているのですか!」
「申し訳ありません、私の不注意によりぶつかり、倒してしまいまして」
「はぁっ!? 押し倒して何をしようというのですか!? 坊ちゃんにあんな太いものが入るわけがありませんでしょう!」
まあ言いたいことはわかった。誤解はいつものことである。
「ちがうよビビアン、彼には俺からぶつかったんだ」
「坊ちゃん自らお誘いに!?」
まずスケベしようって方向から離れてみてはどうだろう。
「ビビアン聞いてくれ。俺は妖精をみたんだ。それを追いかけているうちに彼にぶつかって倒れてしまったんだよ。わかるだろ」
そう何人も妖精が現れるはずもないので、妖精とはオーレリアのことだろう。
ではオーレリアは屋敷の中にいるのだな。
「よ、妖精? 頭を強く打たれているのですね……おいたわしや」
キッと俺を睨む熟女。リリがすごい形相で睨み返している。やめなさい。
坊ちゃんの話であっても、まともに取り合うつもりはないようだ。
でも俺を母親だと思い込んでいたほどだから、ご子息様は頭を打っているというのはそうかもしれない。
「そうじゃないビビアン。もういい加減にしてくれ。だから僕は……じゃなくて俺はこの城を出たいと言っているのに……」
喋り方に妙な違和感というか、たどたどしさを覚えていたが、無理して矯正しているところだったらしい。
俺と同じぐらいの年齢にも見えるので、遅れてきた思春期かな。
「そんな……なりませんよ。あなた様はクロロック家唯一の跡取り。もう外に出る必要などございません」
「このまま城の中で朽ちろとでも言うのかい」
「朽ちろだなんて、そうではありません! もうお辛い思いをさせたくないのです!」
「っ…………」
反抗期とは違うが難しいお年頃なのだろう。
リリの親として、熟女の気苦労を想像して共感してしまう。
「さきほどから何をいやらしい目で私をじろじろと……。まさか妻帯者でありながら別の果実をつまもうと?」
「いえ、そんなつもりはありませんよ」
俺の果実をつまんでくれると言うのならば抵抗はしないが。
「ではやはり坊ちゃんを!」
リリが俺の後ろへ回りこむと、おんぶの要領で抱き着いて俺の目を両手で覆ってしまう。暗くて何も見えないよ。
五感のどれかが封じられると残った感性が研ぎ澄まされる。いまは触感が感度をあげているため、背中のおっぱいがはっきりと感じられる。
「誤解です。そのような目で見ることは誓ってありません」
「どんな目で見ているかはこの際いいとして。不快なので見るだけで孕みそうな視線をこちらに向けないでくださるかしら」
俺はメデューサの亜種なのかな?
リリ、俺の首はそれ以上回らないよ。それ以上捻ったら死ぬし、見られたらリリが孕むらしいぞ。どうしても孕みたいならちゃんとした手順を踏ませてほしい。
まずはデートをして。手を繋いで。夜の海をみながらキスをして。そういうのを何度か繰り返して結婚。そして幸せな日常の中、ふとした瞬間にそういう雰囲気になり。合意の上で合体。
一夜で孕ませられるからそこは安心してほしい。一ターンに十二回攻撃を繰り出す荒ぶる聖棒の猛攻の猛交をリリは果たして耐えられるかな。
「彼らは客人だぞ。それ以上の無礼は働かないでくれビビアン。本当に悪いのは俺だったんだ。彼らは何も悪くない」
熟女の態度から察するに、客とは言え俺の身分は熟女よりも下なのだろう。
貴族の屋敷で働く女性というのは大抵がそれなりの身分のある者だと聞く。恐らくは貴族の出だ。優雅な立ち居振る舞いからもそれとわかる。
「頼むビビアン」
「……かしこまりました。失礼しましたロイズベッド様」
肉布団になっちゃったね。
謝罪には全然誠意がこもっていないし、名前を間違えたのもわざとだろうな。
べつにいいよ俺は。美熟女になじられるのご褒美だもの。
ついでにリリが臆せず俺の顔に触れてくれているのが嬉しいから、何を言われても帳消し以上にできる。
「彼をベッドにしていいのは私だけだよ。どさくさに紛れて仕掛けてくるなんて油断も隙も無い熟女だ」
どうやらリリは執着心と嫉妬心の強い妻――という設定でいくようだ。
そういうのもいいね。でも無礼を働きすぎると俺の首が飛ぶかもしれないからほどほどにしよっか。
「だ、だれがこのような男と同衾などしますか! 一晩で何人孕まされてしまうかわかったものではありません!」
射精回数で孕む人数が決まるなら二十以上は軽くいくだろうな。
「ビビアンいい加減にしてくれと何度も頼んでいるだろ。俺のことはもういいから、やるべき仕事に戻るんだ」
「坊ちゃんを守る以上の仕事など私にはございません!」
これでは堂々巡りだな。
「リリもよしなさい。さっきのは言葉が過ぎますよ」
「ふーん……あっちの肩を持つんだ。私より熟女が好きなんだね(死のっかな……)」
演技が上手いなぁ。まるで本音にしか聞こえない。
「そんことはありません。私が愛しているのはリリだけですよ」
「……じゃあ可愛いって言って」
「リリは世界一可愛いですよ。これ以上ない私の宝です」
「ん……(生きよう!)」
リリはまだ不服そうだが、この場は素直に従ってくれるようだ。
「な、仲がいいんだな。人前で堂々と愛の告白なんて……」
「愛し合ってるんだから当然でしょ」
「坊ちゃんの前ではしたない真似をしないでいただきたいものですね」
睨み合う熟女とリリ。
だがリリは言い返さずに何故か俺の尻を撫でている。自分を落ち着かせるおまじないだろうか。声がでそうだからやめてほしい。
今にして思えばリリは酒場の時点で、ある程度熟女の正体を見抜いていたのかもしれない。それでわざと喧嘩を吹っかけていたのだ。
しかし演技にしては些かやりすぎな気もする。それだけ俺の秘密の重大性を理解し、守ろうとしてくれているのだろうが。
あと、おっぱいを押し付けながら尻を撫でるのをやめてほしい。いま勃起したら倒れてイイ感じの位置にいるご子息様が聖棒に打たれて吹っ飛ぶぞ。
「どうかこちらの非礼を詫びさせてほしい。ビビアンは仕事熱心なのはいいのだが少々周りが見えなくなるたちでな」
「おやめください。私がご子息様を倒してしまったのは事実ですので、謝っていただく必要などございません」
「そう言ってくれるか。ロイズベッドは身体の通り大きく寛容な男なのだな」
「発音はロイズレッドにございます。それに見た目に見合わぬ小心者でございますので、中身に過度な期待はなさらぬようお願い申し上げます」
「あそこもおっきいよ」
リリ、余計な情報をまぜないでおくれ。会話のノイズになるでしょ。
「だからお前のお母さんじゃない。彼は私の夫。あげないからね」
夫と書いてママと読むんだろうな。
ご子息様は俺を見て苦笑いを浮かべている。寛容な方なようで良かった。
☆
「さきほどは失礼した」
「いえいえ、そう何度も謝っていただくようなことでもありません」
オーレリアを探したいのに、流れでご子息様の部屋に招かれてしまった。
平民の俺が断れるはずもないので素直についてきた次第である。
お茶を出してくれたメイドのビビアンは部屋からでようとはせずに俺を睨んで監視している。ときおり腹の方に視線が行くのは、坊ちゃんを犯されないかと心配しているからだろうか。
それを目ざとく気づいたリリが色情魔だのなんだのと言って喧嘩を売るものだからちょいちょい言い争いになってしまう。演技だとわかっていてもハラハラする。
とはいっても、殴り合いや刃傷沙汰には発展しないギリギリのラインを見極めるのが上手いらしく。リリも暴力などに訴えようとすることは一度もない。まあ演技なのだから当たり前だが。
次に同じような機会があれば、リリには普段のイメージ通りの、清楚で清純な奥様として振舞ってもらえるよう交渉してみよう。
追加で夜は乱れまくるとか、ベッドの上では女性優位だとかの設定も盛り込みたいが、さすがに引かれるから言わない。
「――ローレンツ様のように高貴な血の流れる方ならばなおのことです。平民などに簡単に謝ってしまっては格というものを損ないますよ」
「その通りです!」
「小言を言うしか能のない熟女メイド」
「私は熟女ではないと何度も言っているでしょ!」
「じゃあ老婆?」
「ぎぎっ……こんの小娘ぇ……。言っておきますが大人の男というのは、あなたのように見た目と若さしかない女ではなく、最終的に私のような経験豊富な女にこそ惹かれるのですからね」
「そうなの!?」
「ふふん。見た目と若さなど所詮は第一印象でアドバンテージを取る以外の効果はありません。それに人はいずれ老いていきます」
リリが怯え切った顔で俺を見ている。
大丈夫、あなたはエルフ。ずっと若いままでしょ。
熟女になったリリも想像してみるが……やっばい色気だな。見ただけで射精しかねないぞ。
「男というのは心と体の相性こそを重視するようになるのですよ。相性は歳を重ねるほど熟成していきますが、若さに頼って甘えてばかりでいるようでは、いずれ愛想をつかれてしまうかもしれませんね」
老いるのは置いて行かれた感性ぐらいなものだ。
司教もたまに何を言っているかわからない、昔のはやり言葉とか使う。手でハートを作って言う、「チョベリグ水産おいちょ丸」の意味が分からないままだ。
「い、一理ある……師匠って呼んでいい?」
「誰が師匠ですか。あなたのような小生意気な弟子はとりません」
「じゃあいい子にする。ごめんなさい」
「ぐっ、なんで急に素直に……。いいでしょう。であるならば少しは考えてあげてもいいですよ」
「私もあなたみたい熟女を目指す!」
「熟女じゃありません!」
本当は仲がいいのかと言うほどテンポよく口喧嘩をしている。
喧嘩をしているはずなのに、リリはちゃんと素直に話を聞くタイミングがあって面白い。
ご子息様のローレンツも苦笑いの連発である。連発しながら俺を見ている。
妙だな。なぜリリほどの美女を前にして俺を見るのだ。いや考えるのはやめよう。答えを出せば、きっと不快な気持ちになる。
「ハハ、それにしても俺が高貴か……。君には俺がそう見えるんだな」
「はい。それ以外には見えないほど高貴でいらっしゃいますが。なにかおかしなことを言ってしまいましたでしょうか」
「いいや、お父様から譲られた血は確かに高貴には違いないさ」
反応からして複雑な事情がありそうだ。
見事に踏み込んではいけない深い領域に踏み込んだ感じがする。二度と高貴だなんだの話はすまい。
それよりも何よりも気になるのは、部屋にでかでかと飾られた肖像画だ。
その肖像画は恐らく女性のものなのだろう。古いタイプの片眼鏡をつけ。肩を丸々露出した華やかなドレスを着ている。
「…………」
気になるのはその女性の容姿が、俺に瓜二つであるという点だ。
鏡かと思うほど似ている。リリもはじめて見たときはビクっと跳ねていて、ミニスカートがアウトのラインぎりぎりまで上がっていた。
何度見ても俺が女装した気色の悪い絵にしか見えない肖像画。
顔のつくりから首の太さ。肩幅と腕の太さや血管まで酷似している。
リリもさっきからそればかり見ている。ビビアンと口げんかしている最中も目線は肖像画に向かっていた。
「あの絵いいね。お土産に持って帰りたい」
「い、いやぁ、あれは流石に譲れないかな」
絶対にいらないかな。
譲られても処分に困るから余計なことを言わないでくれ。
「あれはもう死んでしまっているお母様の絵でな。まだ俺が生まれる前に描かれた最後の肖像画なんだ」
「…………」
これ以上に返しづらい話題もそうないな。
そりゃあ俺を見て母親と間違えるわけだ。爆乳美女など一瞥もせず、俺から視線を外さないわけ。
「綺麗な人だったんだね。儚くて……眩しい人だ。会ってみたかったよ」
リリ、そのお世辞は流石に無理があると思うよ。
世辞もいき過ぎれば嘘や侮辱と変わらないからね。
「そう言ってもらえるのは素直に嬉しい。俺が生まれてすぐに亡くなってしまったから、聞いた話でしか知らないけれど。とても優しい人だったそうだ」
「わかる。優しさがにじみ出てるもん」
そうか?
にじみ出てるのは筋肉と汗だけだろ。
見てみろよあのぶっとい首。大樹の切り株かと思ったぜ。腕は色も相まって白樺みたいだ。このひと樹だったんじゃないの。
「しかしロイズレッドと母が出会っていたらきっと驚いたろうな」
まあ俺は死ぬほど驚いたろうな。目の前に俺がいるんだから。
死んで霊体になってしまったかと思ったかもしれない。
「だからお父様もロイズレッドを気に入ったんだと思う。あの人がひとを城に招き入れるなんてめったにないからな」
妻に似ているからという理由で男に気に入られるのはけっこうきついぞ。
頼むから誤った噂に騙され、呼び出してみたらたまたま似ていたという方向であってくれ。
「…………」
「…………」
沈黙が気まずい。俺を寂しげに見つめるローレンツが、いつ「ママー!」とか言って抱き着いてくるかもわからないので気が抜けない。一度でもされたら二度とできないようなトラウマを植えつけてやる。
「ところでそちらにはポーションなどの薬品類が置かれているようですが。あれはローレンツ様が何かを作られていたのでしょうか」
部屋の中央にならぶ不穏な薬品の数々。
司教との毒にまみれた日々を思い出して、こちらも気になって落ち着かなかった。
「錬金術の真似事さ。今のところ実用的なものは少なく、趣味の域を出ていない」
「ポーションをおつくりになられるというのは、趣味にしても高尚な行いだと存じますが」
「たはは、やめてくれ。流通しているポーションと肩を並べられるほどの品ではないんだ」
「見た目からの判断になりますが、市販のものと遜色ないよう見えますが」
「そうか? そうか」
「は、はい……」
「……」
会話とめるの上手いなこの人。
俺も俺で、普段から延々と喋り続けるリリとの会話に慣れてしまっているせいか、相手の話しを引き出す術を忘れてしまっている。
「…………」
「…………」
ああダメだ。この人、こっちから質問しないと会話が続かないタイプだ。でも会話自体は好きだから、こっちが話を振るのを期待している面倒なやつ。
「おつくりになられたポーションを拝見させていただいてもよろしいでしょうか」
一ミリも興味はないが仕方ない。話だけでは間が持たないので動きを作ろう。
「もちろん構わない。だが周りにあるキノコや植物には危ないから触らない方がいいぞ」
存じておりますとも。
ここにあるキノコや毒草類は、子供の頃に全て摂取したことがありますゆえコンプリート済みよ。
立ち上がって薬品のおかれたテーブルへ向かうと、リリも立ち上がって絵画から視線を外さずについてくる。器用な歩行だね。
「緑色のポーションということは、魔力を回復させるもの。こっちの紫色のは……病の治癒用につかう遅効性のものか。これらをすべてご自分で?」
「見ただけでわかるとは、もしやロイズレッドはポーションにも明るいのか? 君の言う通り、紫のは治癒が遅そい代わりに効果を増幅させたポーションだ。主に緊急性のない病気などに使うものだな。そっちの緑はまだまだ研究中なんだが、さっきとは逆に市販のものよりも効果の即効性をあげたものでね。俺のオリジナルだ。理屈としては体内への浸透力を上げるために――」
自分の得意なことや趣味の話になると多弁になるタイプだこれ。
こちらが興味のない質問をしないといけない一番面倒なやつ。
「ほほう。では、こちらの青いポーションはなんでしょう。ここまで綺麗な発色をした青のポーションなど寡聞にして存じません。いや、発色と言うよりは、これはもはや発光しているかのようだ」
――昔、こういう色に光るイカを食べたことがある。
光るイカを焼いて食べたところ、司教は「それ、お腹が光って爆発するよ」と、口に入れた直後に言いだした。
焦って吐き出したところで全て嘘だったとネタばらし。
吐き出されたイカを指して「命を無駄にしてはいけませんよ」と、もう一度食わされた。
それから、「イカ臭いナマモノはね、基本的に一度口に入れたら全てごっくんするのが作法なの。そして飲み込んだ後に、両手を顎の下で開いて口の中を見せるのよ」とかなんとか言っていた。
今ならばその意味も理解できる。少年になんてことを教えているのかと呆れる反面。リリにも同じことを教えなければという使命感が湧いてくる。
「青? いや、そこには青いポーションなんて……え!? 本当に青いじゃないか!」
ソファーから立ち上がってテーブルに向かってくるローレンツ。
俺のすぐ横に来ると、その隙をつくようにリリが絵画の前に走っていった。
間違えても盗むなんて考えないでくれよ。ビビアンさんがポーションよりも目を光らせて睨んでいるからな。
「どうして青のポーションなんかが――ハッ!?」
眉間に指を置いて何かに気づきましたとでも言いたそうな顔で俺を見るローレンツ。
ママー! とか言って抱き着いてくるなよ。この胸筋で抱きしめて、死ぬほど後悔するまでおっぱいを吸わせるぞ。
「妖精だ……妖精のお陰だ!」
「妖精がいかがなさいましたか?」
「ダンジョンで拾えるアイテムが何故か階層によって違い、深ければ深いほど価値を高めていくかは博識なロイズレッドなら知っているだろ?」
俺の何を見て博識であると誤解したのだろう。
しかしこの興奮ぶりから察するに長い話になりそうだな。
「存じております」
「ああ、その身体なら知らないはずがないよな!」
体を見て誤解したらしい。本当に俺の身体ばかり見ていたもんな。
しかし筋肉と博識は結びつかないだろ。母親が頭のよい方だったのだろうか。
「あれはご存じの通り妖精が関与しているからだと言われている。妖精や精霊のなかにはアイテムを変質させる能力をもった種がいてな。大きく成長したダンジョンは、次元を超えて別世界に繋がることがあって、そこで妖精や精霊の好む魔力を放って誘い込むんだ。ダンジョンに入ってしまった妖精たちは、理屈はわからないのだが、ダンジョンに置かれていた探索者が遺したアイテムなどを変質させて――」
趣味の話だと本当に活き活きと喋る。
俺がリリに筋トレの話しを嬉々としてしているときもこんな感じなのだろうか。
リリに倣っていかにも興味がありますという体で、ふむふむと頷きながら適当に相槌を打って話を聞くとしよう。
リリの場合は、話しているうちに体がくっつくほどの距離にきて筋肉を触ってくるが。そこまで真似したらビビアンさんにまた何か言われそうだな。
「――つまりこれは妖精の力で変質したポーションということでしょうか?」
「その通りだロイズレッド! さっき妖精を見たのは見間違いじゃなかったんだ! 妖精がこの城の中に来てくれたのだ!」
まあ十中八九オーレリアの仕業だろうな。
見ないと思ったら余計なことをしてくれていたもんだ。
仲間だと知れたら色々と面倒になりそうじゃないか。
「それでこのポーションにはどのような効果が?」
「それを今から確かめたいんだ。こっちだ、ついてきてくれ!」
おい、まさか実験台になれとか言うなよ。




