36話 城門突破ァ!
「私の妻で間違いありませんが。娘のように可愛がっているという意味ですよ」
「そうだよ」
「なるほど。奥方は確かに甘えたがりだからな。世界樹様も甘やかしているときは幸せそうだったので、お似合いではないか」
「そうだよ!」
リリが「そうだよ」だけで会話を繋ごうとしている。
思い付きでチャレンジしているのだろうが、こういうところも子供っぽくて可愛い。
俺も子供の頃、片目だけ閉じて一日を過ごすとか。後ろ歩きだけでどこまで行けるとか挑戦したなぁ。
後ろ歩きの挑戦中に、司教が仕掛けた毒蜂の巣を踏み抜いてえらい目にあったものだ。あれ以来、後ろ歩きだけは絶対にしないと誓った。
俺が司教だったら「そうだよ」しか言わないリリのチャレンジを利用して、「リリは私の陰茎が大好物なんですよ」とかいう悪戯を仕掛けただろうな。
――やめよう。照れながら「そうだよ」と言うリリを想像したせいで、ウツボが巣穴を求め始める気配を感じる。
「であるならば、奥方が余に指南をしてくれぬか。同じメス同士のほうが都合がよいのだろう?」
リリをメス枠に入れるな。超清純な女の子だ。
「たしかにそれなら問題はないように思えますね」
「そうだよ……」
すっごい嫌そう。
リリは人見知りだから二人っきりになるのがつらいのかもしれない。
「できないこともないけど、妖精に泳ぎを教えるのは初めてだから上手くできる保証はないよ」
「構わぬさ。大型の人系族に泳ぎを教わる妖精などこの世で余が初だろうからな。無理な頼みをしているのも重々承知している」
案外大人な対応をするオーレリア。
リリが膨れて俺を困らせていると察して助け船を出してくれたのだろう。
「それでは話がまとまったところで、私は上流の方へ行ってきます。念のため互いがすぐに見えて、状況が確認できる程度の距離にはいるつもりです」
「ふーん」
オーレリアのフォローもあって多少機嫌を直したようだが、まだちょっとふくれている。
リリは内面が幼い部分もあるので、父である俺と一緒に水遊びがしたかったのだ。
まったくわかりやすい子である。そしてそれ以上に聖棒はわかりやすい素直な子なので、二人を出会わせてはいけない。意気投合して即結合し、イキ尻合まで及んでしまう。
無邪気で知的好奇心旺盛なリリと、邪悪な痴的行為心で性欲旺盛な聖棒。
リリが何をするかは想像もできないが、聖棒が何をするかは未来視や千里眼を持たぬ俺でもわかってしまう。
間違って触られでもしたらあの雲をこえて天を貫くだろう。
「何かあれば次元をこえてでも世界樹様の元へ駆けつけよう」
「それはさすがに大げさではないでしょうか」
「世界樹様の生命の水を浴びてから羽の調子がすこぶるよくてな。魔力も安定していて、別世界を飛行できるのだ」
もうどこまでが本気で言っている話しなのかもわからないな。
☆
上流からリリのシルエットが見える程度の距離まで移動する。
御者も誘ったが、泳ぎは苦手だとのこと。
馬に地面を蹴らせて風に向かって走るほうが性に合っていると断られてしまった。
彼は騎乗位派のようだ。それもいいだろう。一つを極めるのも、また道の一つだ。
遠目からでもリリが全裸になっているのはわかる。脱がないと言ったのに結局脱いだらしい。
幸いにして細部までは見えない距離である。細部まで見ようと目を凝らすと聖棒が唸り声をあげて竿立ってしまうのですぐに視線を移した。
「釣りをしに来たのではないのだから絶対に竿スタイルにはなるなよ」
いいか聖棒。これは釣りのときならば竿立ってもいいという意味でもないからな。
川の上流は意外と深く、流れもはやかった。
足の届かない場所で攣りでもしたら大事になる。溺れて気絶したままリリたちのところへ流れ着いてみろ。大変な騒ぎになるぞ。
それにうっかり放精などしても、下流にいるリリを孕ませてしまうかもしれない。
一瞬たりとも油断せずに、気と精管を引き締めよう。
「しかし川で泳げるのは久しぶりだな。筋肉たちが泳ぐ前から悦んでいる。ハハッ、はしゃぐなはしゃぐな大胸筋」
運動が待ちきれないとばかりに弾む筋肉たち。
まずは念入りな柔軟体操をして筋肉をほぐし。胸に水をかけて心臓を水温にならして入水する。
平泳ぎで深いところまで泳いでいくと、思った以上に流れがはやい。
「おぉ、これはいいぞっ!」
水泳は全身に程よい負荷を与えてくれる万能なトレーニング法である。
普段は鍛えづらい部位の筋肉たちが、早く俺を動かしてくれとせっついてくる。
特に関節を支える小さな筋群や、体幹のインナーマッスルは大喜びだ。
「待て待てそう焦るな。まずは平泳ぎで流すからな」
湖などの流れのない環境とは違い、平衡感覚をわずかに狂わせる強い水の流れ。
抵抗も強く筋肉たちの歓喜の声が聞こえてくるようだった。
続けて腹ばいになって、交互に前へ腕を伸ばすクロールへと移行。
この泳ぎは推進力が強く、ぐんぐんと前に進んでしまうので一旦背泳ぎに変更する。
位置を調整しながら思い付きで両足を同時に振って水を蹴る。するとクロールよりもさらに大きな推進力を得た俺は、水面から浮上してわずかに空を浮く感覚を覚えた。
「ぬおおっ!? こいつはたまらんな!」
面白い。この感覚超楽しいぞ。
リリを子供扱いしていたが、まだまだ俺も少年の心を失ってはいないようだ。
先方を待たせているから遊べないなどと、どの口が言っていたのか。遊び心がくすぐられすぎて今にも失禁してしまいそうだ。
無論、そんなことをすればリリの口に入ってしまうかもしれないのでしないのだが。
☆
体の使い方を研究し、両手も使うことで完全に水面から体全体を飛び出させることに成功する。
海にすむ巨大生物のように空高く飛び上がり、体を捻って背中から水面を叩く感覚がたまらない。
程よい痛みは生のエッセンシャルオイルだ。リリではないが、痛みは生を実感させてくれる。
無我夢中で楽しみすぎたせいで川を上りすぎており、気づけば巨大な滝を前にしていた。
「ほほう……これは見事な滝じゃないか。滝登りのし甲斐がある」
滝の恐ろしいところは水流が渦巻く滝つぼにある。
あそこに飲み込まれたら最後、人に脱出する術はない。
それはリリも同じだ。肉壺に飲み込まれたら最後、聖棒が脱出する術はないだろう。
滝つぼには何度も司教に放り入れられているので経験済みである。その恐怖は身に染みて知っている。
だがあの滝を昇って上まで行けたらさぞ筋肉は悦ぶだろう。
ハイになっていた俺を止める者はなく。筋肉たちに押されるように体は自然と滝へと向かってしまう。
――この時、自制心がまともに機能していれば、あんなことにはならずに済んだのだろう。
二度とは取り戻せない、永遠の喪失。
天然のトレーニング器具、滝になど心奪われず、すぐに戻るべきだったのだ。
だが、未来視も持たぬ俺にはその結末を知る由もなかった。
☆
滝を前にして昂る気持ちを抑えられなかった俺は、絶え間なく降り注ぐ激流に自ら挑んでいった。
最初は腕を延ばすことも難しかった。
何度も滝つぼに戻されては水の気持ちを考えた。幸い滝壺から抜ける方法は筋肉に刻まれた記憶があるので難なく抜けられた。
しかし俺を拒むように流れ落ちてくる滝はそうもいかない。
滝は俺を完全に拒絶していたのだ。
どうにかして水の心を開こうと果敢に挑戦する。
最初からあきらめていては、端から無理だと決めつけていては何事もなすことはできないのだ。
とはいえ頭を使わずに攻略できる相手でもない。無理に距離を詰めても滝は頑なになるだけである。一旦距離を置いて滝の気持ちを考えた。
「そうか……俺は彼女の容姿しか見ていなかったがそれではいけなかったんだ。滝と言うのは状態の一つにすぎない。側面や一面であって全ではない。その本質は、水そのものじゃないか!」
その時、滝が微笑んだように見えた。僅かな切れ目をつくり、口に見立てて確かに笑っていた。
「ハハ、最初から俺を受け入れる準備はできていたと言うわけか。申し訳ない。随分と待たせてしまったね」
俺は悠然と流れくる彼女を滝として見ていたが、そうではないのだと気づいた。
爆乳の女性をおっぱいが本体であるかのように、容姿だけを見て、その心や内面を蔑ろにしているようなものだったのだ。
それはリリの容姿を性的な目でしか見てこなかった、顔を焼くまで追い詰めた世の男どもと同じであった。
リリはこの透き通る川の水のように、澄んだ心を持った純粋な幼女。その本質を見抜いてやらねければ今のような信頼関係は築けなかっただろう。
「どうやら俺は酷い思い違いをしていたようだな。そりゃあ拒まれて当然だよ」
だが頭で理解したからと言って簡単に登れるほど滝は甘くない。リリだって最初の頃は緊張している様子だったし。今ほど甘えん坊ではなかった。だから焦ってはいけない。
水と意思疎通し。筋肉で水と対話するうち。筋肉のどこをどう動かせば水は喜び、味方につけられるかという感覚を徐々に掴んでいく。
そしてそれが水とのセックスであると理解した瞬間、俺は水と一体化していた。
俺が水で、水が俺。水と息を合わせて滝をのぼる技術。これを水の呼吸と名付けることにしよう。
コツを掴んでしまえばなんてことはない。
嫌がる素振りを見せる滝。だがそれも嫌がるふりだというのはもうわかっている。イヤよイヤよも好きのうち、水を無理やり押し広げるように両足を蹴り。激しく腰を振って水を悦ばせる。
水は完全に堕ちていた。もはや滝に流されることなどない。流すことなどできなくなっている。
水に逆らわず、水に逆らう術を体得した俺は、流れ落ちる滝の中ほどまでのぼっていき、あえて頂点まではいかずにその場で停滞した。
焦らさないでもっと奥まで来てよと涙目ながらに訴える水が可愛い。
「いいや、これぐらいでちょうどいいのさ」
反転して滝から顔を出す。
一段も二段も高いところから見下ろす川の全体像は実に雄大だった。
自然と一体となった精神的快感により、聖棒がわずかに上向きになる。だが、あえて俺は聖棒を放っておくことにした。
「こらこら、リリたちにはいくら見えないからといって……まあたまにはこういうのもいいか。お前にはいつも我慢させてばかりだったからな。ただし全力は出すなよ。息抜きはしてもヌキはなしだ……なんてな」
もしも二人に見られていたら滝から顔と聖棒を出す新種の魔物か何かに見えてしまうだろう。
まあ、万が一にも見えることはない距離にいるのだが。
「絶景だな、聖棒――」
☆
オーレリアが溺れて流されないように、石や岩で囲いを作って大き目な水たまりをつくってあげて。二人で水浴びを楽しみ、泳ぎを教えてあげた。
「それにしても世界樹様の帰りが遅いな。何事もなければいいのだが」
「水浴びにしては少し長いかもしれないね。でもダー……彼はいつも長めに水浴びするから」
けっこう丁寧に体を洗うのを知っている。
室内でお湯を使うときなんかは、足の指の間まで念入りに綺麗にしていたし。ダー棒も磨かれた宝石のように輝いていた。私はそれを毎回窓の外から観察している。
「でもやっぱり心配だね」
不安になった私は、ゴブリンの索敵にも使った遠見の魔法を自分に付与して、いつものようにダーリンを観察することにした。
最初にいたはずの場所にはいないので慌てて周囲を見渡す。
まさか溺れてしまったのだろうか。もしそうなら人口呼吸をしなくちゃ。上の口と下の口の両方にしなくちゃ――そう思った直後、まさかの場所にダーリンはいた。
滝の中から顔をだし、ダー棒を露出したダーリン。
見つけられて緊張が解けると、何をしているのかという笑いが急速にこみあげてきた。
「クク……フハッ! ニョハハハハハッ!!」
「ど、どうした奥方。何をわらっているのだ。まさか気でも狂うたか!?」
慌てるオーレリアにも指先で遠見の魔法をかけてやり、どこにいるかを指さしてやる。
「アハッアハッ、あぁ……あぁあアヒャッ! ナハハハッハ、ナハハハッハッ――ヒフフゥッ! く、苦しっ、苦ひい! なんで真顔なのおお、横隔膜が攣るぅ! 処女膜破れるっ……!」
「一体何を見てそんな……ブフッ! な、なんだあれは! 世界樹様は何故、どうやって滝の中に――ニァハハハハハッ! 枝まで出してなにをしているのだぁッヒャハハハァ!」
ダメだ、面白すぎて呼吸困難になる。
流れてきた枝がダー棒に引っかかってるのも芸術点高い。
ダーリン何が目的でそんなことしてるの。やろうと思っても魔法も使えないんだから普通できないでしょ。人間業じゃないんだけど。鮭なの。鯉なの。人魚なの。
「――ふ、ふぅ落ち着いてきた。落ち着いてきたぞ……。余韻はあるが直視しなければ大丈夫だ。余は世界樹の守り人、いかなるときも冷静さを欠くなよオーレリア」
「ヒヒッ、見てあれ産卵のために遡上しようとしてるみたいじゃない?」
「ガフゥッ! そ、それ以上はいけない奥方、せっかく落ち着いてきたと言うのに余は――またぶり……ぶり返してぇニハハハハッ! 笑ってしまハハハハハッ!」
「ツボに入って……! 無理ぃっウヒィ――!」
ダーリンて本当に最高。
毎日最低でも十回は私を笑わせてくれるんだもん。
☆
いつまでも見ていたくなる、人の手の入らぬ自然の風景。
ここからの絶景を見れる者はそういまい。俺か翼をもつ者ぐらいしか味わえぬ景勝地である。
遠くにはリリが浅瀬で四つん這いになっているようにみえるが見なかったことにする。
あまり見ていると先端がやけに膨らんだ魚に変身して、リリの後ろから飛び込みたくなってしまうから。
うっかり全勃起た聖棒が上を向いた拍子に、滝が尿道に流れ込んだりしたら洒落にならない。自分の不幸体質を侮るな。
「十分に楽しんだな。そろそろ戻るとしよう」
川に尻を向ける形で反転し、流されぬよう徐々に降下する。
もう少しで水面に近づこうというところで身を捻って勢いよく川へ飛びこむ――直後だった。それはどこに潜んでいたのだろう。突如として俺の聖棒に噛みついてきた生物がいた。
「魔物か!?」
と、焦ったが聖棒に大した痛みはない。
俺の鍛え抜かれた強靭な聖棒に痛みを覚えさせるものがいるなら褒めてやりたいところだが、今は褒めている場合でも貶している場合でもない。
痛かろうが痛くなかろうが聖棒に攻撃を加える野生生物に襲われればパニックにもなる。
指先から華麗に川へと飛び込むつもりだったが。パニックに陥り空中で犬かきのように藻掻いて、手足をバラバラに動かしながら腹からの着水となってしまった。
滝つぼを抜けても頑として食いついて離れぬそれを水中で視認する。
それが巨大なナマズであると判明した瞬間、俺の頭のなかで戦闘開始の合図――戦いのドラムが鳴り響いた。
「貴様ッ! 俺は、俺はこの時を待っていたぞ!」
聖棒VSナマズ――性器の対決は衆人ゼロの無観客試合は、急遽開幕することとなる。
「あの日の苦い記憶を忘れもしない……! 忘れられた日などあるものかっ!」
子供の頃にも同じようなことがあった。
湖でめちゃくちゃ可愛い子と、めちゃくちゃ遊んでいるいるときに、リトル聖棒を魚かなにかに見間違えたナマズに食いつかれたのだ。
あのときは水の精霊に助けてもらいなんとか難を逃れたが。実質あれは俺の完全敗北だった。
初めて味わう敗北の苦味。美少女に指をさされて笑われるのは少し気持ちよかったが。まだ肉体的にも精神的にも幼稚だった俺には、快感よりも羞恥の方が勝ってしまい、純粋にその状況を楽しめはしなかった。
美少女に恥ずかしい姿をさらしてしまったという恥辱。魔物でもないただの魚に敗北したという屈辱。そうした諸々の想いが、魚に対する強烈なトラウマとなって俺の深層心理に植えつけられる結果となってしまったのだ。
「フフ、血沸き肉躍るとはこのことか――」
現状、一見すればトラウマを呼び起こす危機的状態なのかもしれない。
普通の、一般的な、どこにでもいる、陰茎で木の板も割ったことのない貧弱極まる男どもならば、パニックに陥り恐怖に囚われ竦んでいただろう。
だが俺は、この邂逅を僥倖であると信じて疑わない。
なぜならば、これは神の与えてくださったトラウマを克服する試練。
これを己が成長できる絶好の機会と捉えずしてなにが男か。この程度の難事を危機と感じるような男は男などではない。イチモツも小さい、もやしの生えたかかしだ。
この出会いは迷える俺を憐れんだ、神の導きによるもの。リベンジマッチの機会を与えて下さった神には感謝申し上げたい。
「久しいなナマズ! 俺はこの日を何度夢見て待ち望んでいたことか……いや、お前に言ってもわかるまい」
過去を思い出せば、正直に言って恐ろしくないわけがない。だがトラウマだからといって逃げ出してもよいという道理などないのだ。トラウマだからこそ乗り越えなければならないことも、男にはときとしてある。
以前襲われたナマズよりも数倍も大きく。それは川の主と呼ぶに相応しく、俺の成長した聖棒に食いつくに値する巨大魚であった。
「だがそれでいい。それがいい。それでこそ血がたぎるというものだッ! 相手にとって不足なしとはこのことよ!」
前の相手よりも小さく弱い相手に勝ったところで、心的外傷を癒すことは叶わなかったはずだ。
そこらにいるような雑魚を相手にして勝ったところで、勝利に飢えていた心は満されず。肩透かしを食らった闘争心は行き場を失い。眠るリリに夜の決闘を挑んでしまっていたかもしれない。
「感謝するぞ川の主よ。そして先に謝っておこう。お前に俺が抱えていた以上のトラウマを植えつけてしまうことをな。お前個人には恨みはないが、勝手な話だと恨んでくれるなよ。喧嘩を吹っかけてきたのはお前なのだからな!」
ナマズに食いつかれたまま決戦の舞台に相応しいバトルフィールドへ向かって背泳ぎで高速移動する。
当然水面から顔を出した程度では、川の主は口を離そうとはしなかった。
「いいぞ、そうでなくては困ってしまう」
これまでにナマズを撃退するイメージトレーニングは億万と積んできている。そのうちの一つを完璧に遂行すれば負ける余地などない。
全力で放尿して破裂させる。勃起をして顎を外す。聖液を放出してぬめりを利用して引き抜く。様々な戦法を考案してきた。だがそのどれもが勝ちとは程遠いもののように思っていた。
だから俺はこう考えた。
相手が魚ならば、俺も魚となって相対しよう――と。
俺は人間だ。人間が本気を出せば魚に負けるはずがない。
だが人間として勝ったところで、それは真の勝利と言えるのだろうか――いいや言えない。それは勝利などではない。ただの漁。釣果である。
「貴様らにはわかるまい……。人でありながら魚に負けたという屈辱と。司教に小馬鹿にされ続けた悔しさ。めっちゃくちゃ可愛い子に大笑いされる悲しみが……」
俺が味わった苦しみを塗りつぶし、上書きできる勝利方法はただ一つ。魚対魚として勝利を得ることだけだ。
「――ではいくぞ! とうっ!」
そうしてフライング気味に暴れていたナマズとの決戦の火蓋が切られる――。
「俺は魚だ。巨大な魚だ……。水面に揺れる月をも丸のみにする伝説の怪魚だッ!」
まずは己に暗示をかけることから始め。両腕を頭の後ろに回し、手という人間としての有利を捨てた。
次に足のつかぬ深い場所へ移動することによって対等となり、腰を猛然と左右に振った。
一般的な魚は、泳ぐときに尾びれを左右に振って推進力を得る。だから俺は自身の尻を尾びれに見立てて左右に振ることによって、ナマズとの遊泳力勝負に真っ向から立ち向かっていた。これも極めて対等な勝負を仕掛けためのものである。
「そらそらそらそらそらぁッ!」
魚ができる戦闘における選択肢はそう多くはない。
大別すれば、泳ぐ、そして口撃――この二つのみである。
だが侮ってはいない。魚の中には莫大な推進力でもって獲物に体当たりを仕掛けてくる種もいると聞く。さらに口撃では固い貝の殻をも割る種もいるのだ。無論、そのようなやわな攻撃では、俺の聖棒に薄皮一枚として傷つけることは叶わないのだが。
経験はないが、女の人に歯を立てられても痛みなど感じないだろう。
次にナマズの口撃に対する対処だが、これはあえて防戦することとした。
もしもナマズの口撃が俺よりも強力だと言うならば、俺の腰振りにたえられるだろうし、もぎ取ってしまうかもしれない。
だがもしも俺が勝っているならば、ナマズは口を離して逃げ出すはずである。つまりこの勝負の決着は、ナマズが口を離すか、俺が泣いて陸に上がるかで決まるのだ。
「ぬぉおおおおおおおッ!! そぉれい、そぉれいッ!」
激しい水飛沫をあげる高速の腰振り。
水中に沈まぬためのバタ足も同時に行い。やがて俺を中心として渦が発生し、水のくぼみができあがる。
それでもナマズは、渦と外気の波状攻撃を受けているにも関わらずその口を離そうとはしなかった。
好敵手――そう言うに相応しい相手であると思った。
その時、ナマズとの間に確かな友情。戦友のような絆が生まれるのを感じていた。
もうナマズなどと他人行儀に呼ぶのはやめだ。友には名前が必要である。
旧世界の神話で世界樹を齧ったとされる伝説のドラゴン。その名こそお前には相応しい。
「そう、だから、お前の名はニーズヘッグだ! まだまだ行くぞニーズヘッグ!」
☆
その激闘はどれぐらい続いたのかわからない。
完全にトランス状態となっていた俺は精神世界でニーズヘッグと会話し、戦いを心から楽しんでいた。
やがてニーズヘッグは顎の力を弱め、ついには口を離して水面を跳ねるように滑っていく。
そのとき口をパクパクさせていたニーズヘッグから確かに声が聞こえた。
「お前の勝ちだ……。負けたぜ、ニンゲンの勇者よ。この川は……お前のものだ」
俺は無意識のうちに拳を突きあげ、己の弱き心に巣食っていたトラウマを天へと放つようなポーズをとっていた。
「グゥッッ――! 俺の……俺の勝ちだぁッ!」
戦いが終わると、弱り切って戦える体力などないはずのニーズヘッグが水面のギリギリをよたよたと泳ぎながら再びこちらに向かってくる。
すわ再戦の希望かと、その不屈の闘志に感動を覚えた。
再びはじまる戦いに備えて聖棒と尻に力を込めたところで、ニーズヘッグは奇妙な行動をとる。俺はそれを見て思わず笑ってしまった。
それはまるで敗者が勝者を称えるように、俺の周りを泳いでいたのである。
「フッ、へへっ。泣かせるなっつーの……」
こうして俺のトラウマの一つは天へと昇っていた。
残すトラウマはまだまだ多いが。今は純粋にこの勝利という名の美酒をあじわっておくこととしよう。
そしてニーズヘッグという無二の友の健闘を労いたい。
「なっ!?」
だが次の瞬間、ニーズヘッグが何者かの攻撃を受ける――。
「ニーズヘッグ!? おいっ、やめろ! なんだお前は!」
ニーズヘッグを襲っているのは小型の魚であった。
だが小魚と言うにはあまりにも禍々しい容姿をしていた。
目は退化してうっすらと見える黒い点。体表は豪雨で濁った川のような茶褐色。
それは時に、人や水牛すらも殺してしまうと言われる、小型魚モンスター。カンディルであった。
「ばかな、こんな場所に生息しているはずがないッ――に、逃げろニーズヘッグ!」
リリは確かに魔物は出ないと言っていたはずだ。
熟練の冒険者であるリリの言葉に間違いがあるはずはない。ではなぜこんなところにいるのか。
「いや違うぞ。リリは大型の水棲魔物はでないとは言ったが、一言も魔物はでないなどとは言っていなかった……!」
エラから体内へ侵入しようとするカンディル。暴れて抗うニーズヘッグ。だがカンディルは魔物だ。いくら川の主とは言え、弱った状態のニーズヘッグが敵う相手ではなかった。
エラから侵入し鋭利な棘で身体を固定したカンディルは、その幾重にも並ぶ鋭い牙でニーズヘッグを喰らおうとしている。
川にはニーズヘッグから溢れた大量の血が流れていき。そしてその血の臭いにつられて、次々と集まってくるカンディルたち。
「ニーズヘッグゥゥゥッ!」
群がる様にニーズヘッグを襲うカンディル。
もう助からないとわかっていても俺は手を伸ばしてしまう。
だがすぐに冷静になった。
「俺も襲われる前に水からあがろう」
こんなの相手にしてたら新たなトラウマが生まれるわ。
リリたちにもすぐに川から出るように言わなければ。
元来臆病な魔物なので人間ほど大きければ滅多に襲うことはないだろう。だが、人体の穴という穴に入り込んで内部から食い殺されたという悲惨な事例は何件も報告されている。
リリがそんな目に合えば大変なことになる。
最悪、俺がいるのだから死ぬことはないだろう。だが万が一、マンが位置、下の穴に侵入されでもしたら……。
そんなことになれば治療しながら聖棒が大変なことになってしまい。ウツボッキがリリの心に、回復不能な大怪我を負わせてしまう。
まさかリリに限って魔物におくれをとるはずもないが。水浴びに興じて気が緩んでいる今ならば、お股も緩んでそのまさかが起こらないとは言い切れない。
「急がなければ。急いでリリたちを――ンアアッッッッッッン!!」
そしてそのまさかは俺に降りかかる。
何が起きたかなど、尻の痛みだけで目による確認をせずともわかった。
カンディルが俺の尻に強姦ディルを敢行したのだ。
「バッ――お前ッ! それはしゃれにならんぞ!」
鍛え上げた肉厚な大殿筋のお陰で、辛うじて穴への侵入こそ免れていた。
だが鋭利なひれを使って尻の谷間にカンディルが固定されてしまっている。
運よく城門にまでは届いていないが、水の中で下手に動けば弱点が丸見えになってしまいカンディルは猛然とつきこんでくるだろう。それこそリリを襲うウツボッキのように。
血の臭いに反応した他のカンディルたちが俺の周りに集まってくる。
聖水として効果のある俺の血を受けて、泳ぎが活発化してしまっているのでたちが悪い。
「なんてことだ、こんなところで処女を失いたくない」
どこでも失いたくないが。
せめて尿道には入らせまいと、背泳ぎで聖棒を水面よりも上でささえて尻を開かぬよう浅瀬へと逃げる。
腰よりも下に水面がきたところで立ち上がると、追いかけてきていたカンディルたちは諦めて去っていった。
だが尻の間に挟まっている一匹はまだ暴れて離れない。俺の聖水を直接浴びているせいで元気いっぱいに尻穴を目指して尾びれを振っている。
魚で言う尾びれが人間の尻にあたるなら、こいつは俺に対して腰を振っている状態ということになるのか……。
「なんて不愉快極まりなく、気色の悪い魔物なんだ……」
「世界樹様ッ! あられもない声が聞こえたが何事であるか!」
「お、オーレリア!?」
突然目の前に現れるオーレリア。瞬間移動してきたかのような登場である。
まさか次元を移動するとか言ってたのは本当だったのだろうか。どういう仕組みだよ。
「ご無事か!? ブフッ――し、失礼!」
なぜ俺の顔を見た途端に目をそらして噴き出したのだろう。
妖精から見ても、俺の顔は笑えるほど醜いとでもいうのか。
「申し訳ありません、情けないことに臀部に魔物が食いついてしまいまして」
「魔物だと!? どこだ! 世界樹様に仇名す者は余が全て討ち滅ぼしてくれる!」
なんとも勇ましいことである。
そういうことならば恥ずかしがらずに取ってもらおうと、オーレリアに尻を向けてやや腰を突き出す。
「なっ……これは!!」
なんだろう。お尻汚かったかな。
尻毛とかは生えないタイプなんだけど。清潔さは人一倍気にしてはいるが、鏡で見たわけじゃないので綺麗なのかはわからない。
「あの、オーレリア?」
「ふふっ、これではまるで運命のようではないか。我が城を襲った憎らしい魔物と、このような場で相まみえるとはな!」
似ているのだろうがそれは誤解だ。
カンディルは水棲で、あなたの城を襲った魔物とは生態がまるで違う。
「そこは余の第二の城ぞ。貴様のような下郎に侵入の許可をした覚えなどないッ!!」
それだと俺の肛門にすんでいるみたいになるぞ。オーレリアにも侵入の許可を許した覚えはない。
「我が渾身の一撃、その身に受けるがいい!」
オーレリアは木の枝を加工してつくったらしい、鋭い穂先の槍を構えてカンディル目掛けて突進する。
「ハァアアーッ!! ダァッ!」
「ん――? ダァッ!?」
空中を錐揉みながら回転エネルギーをたくわえた勢いのいい突進は、俺の尻にぶつかって止まる。
見事カンディルを突き刺す槍。そしてその豪槍はカンディルを貫き。勢い衰えることなく俺の城門をも――。
「ンアアッッッッッッッッン!!」
「あっ……ごめんなさい……」
☆
・状況まとめ
ロイズレッド城:開門 壊門
リリ:ナマズとの決闘がとどめとなり、腹筋崩壊し身動き取れずに痙攣中
オーレリア:全裸土下座
御者:スレイプニルとイチャコラ
ルカ:奴隷商襲撃を計画中
ティアス:マフィーダでロイズレッドを探す




