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33話 林の中ならどれだけ声を出してもいい

前回のあらすじ:ミニスカートで来たのはこの時のため

 夜、目が覚めると体が重かった。


 すわダーリンが圧し掛かって種をつけてくれている最中か――と、一瞬で覚醒した。

 だがダーリンは膝の上に私の頭をのせて寝かせているだけで、べつに種などつけていないし裸でもなかった。


 あまりの寝心地の良さに二度寝しそうだった。

 でもすぐ横に聖域があると思うとやはり眠れはしない。眠っている場合ではない。


「目が覚めましたか」


 いつものダーリンに戻っている。

 こっちも最高に好き。とても落ち着く。実家のような安心感という言葉の意味が理解できる。

 私の実家はダーリンだ。ただいまーって入りたい。おかえりーって入れてほしい。

 あれ、逆かな? じゃあ私がダーリンの実家になればいいのか。ただいまーって入ってきてほしい。


「深い傷でしたが治しておきましたので」

「そんなっ――! あっ、あぁ……そんな……」


 気を失っている間に幸福な時間が過ぎ去っていたことがショックで言葉が続かない。


 今回の敗因は、ダーリンに眠れと命じられたせいで迷わず気を失ってしまったこと。

 なんでダーリンの言葉には従順に従ってしまうのだろう。この前も危うく下着を買ってしまうところだったし。


「やはりそうでしたか……。リリ、あなたはまた死のうとしていましたね。それも私を守ろうとして」

「え? ううん、死のうとはしてないよ?」


 ダーリンは勘違い屋さんだ。ダーリンのなかにあるお店には所狭しと勘違いが置かれている。全部買い占めたい。


 でも正直に話したらもっと怒られそうなので、ちょっと濁したままにしておこう。

 怒られるのもきっと気持ちいいと思うけど、それを楽しむのはまだ早い。怒らせすぎて嫌われたら元も子もないし、子も産めない。その危険な果実を味わうのは、既成事実を作ったあと。結婚して妻になってからだ。


「勇敢なのはいい。ですが自分の身を挺してまで私を守らなくていいのですッ」


 ああ、声と怒りが体の芯にビリビリと入ってきて処女膜が震えるようだ。


「よかったなどと言って微笑み……己の命を投げうつなんて……。称えられる行為ではありますが、褒められる行いではありません」


 ダーリンは確実に勘違いをしているという確証がもてた。


 私はただ傷ついてイチャイチャしたかっただけなのに、死のうとしたと思い込んでいるらしい。

 これは都合がいいのでのってしまおう。私は悪い女だ。ダーリンとイチャつくためなら手段など択ばない。


「ごめんね?」

「謝って許される問題ではありません!」


 すっごい怒ってる。なのに髪を撫でてくれている。安心と恐怖の反復横跳びで頭がおかしくなりそう。もうおかしくなってもいいや。


「怒ってる? どうしたら許してくれるの?」

「怒ってなど……いや怒っています。これには怒り心頭です。だから二度とこんな真似はしないと誓ってください」


 それは難しい相談だね。ダーリンにはすべてを捧げるつもりだけど、それだけは約束できない。妊婦にしてくれたら自分の体も、お腹の子も大切にするけどね。


「……」

「どうして誓ってくれないのですか……」

「お腹に赤ちゃんがいれば大切にするかも」

「私は冗談を言っているのではありませんよ」


 私だって本気だよ。私からすればこの旅は懐妊旅行だから。

 闇の精霊にも妊娠しやすい体位などを事前に教えてもらってきたんだ。


「でも私はダー……君が傷つくのは見たくないよ。君が怪我をするぐらいなら私が代わりに傷つきたいんだ」


 なんか頭がおかしくなって本音が漏れ続けている。

 髪の撫で方が優しすぎるのがいけない。このままだと髪でイク。


 でもダーリンが傷つく姿など見たくないのは偽らざる本心である。

 それにダーリンの代わりに怪我をすれば、いっぱい可愛がってもらえる。

 今も怒ってるはずなのに、泣きそうな顔をしてめちゃくちゃ頭を撫でて優しくしてくれてるし。


 精霊じゃないけど、おほって声が出そう。くしゃみみたいに連発しそう。そそろ髪が妊娠する。


「そういうことでしたか……。あなたのその優しは美徳です。それは間違いありません。ですがリリは行き過ぎなのです」

「全然まだイってないよ?」


 気を失う前は軽いのも入れて十回ぐらい?

 精霊は十万回超えたって言ってたし、まだまだこれからが本番だよ。


「くっ……今まででも十分優しい方でしたが、リリの優しさにはまだこの上があるというのですか」


 何か勘違いしていると思う。可愛い。


「わかりました。リリの考えを頭ごなしに否定してはいけませんね……。人を変える権利など私にはありませんから。私にできるのはせいぜい補助ぐらいなものです。ですので私が考えを改めましょう。これからはもっとリリから目を離さない事にします」


 最高の提案が出たんだけど。

 人生最高。生きててよかった。

 ではさっそく足を見てもらって……いやそれは恥ずかしいからいいや。


「そう? じゃあずっと見ててね。絶対に私から目を離さないでね。約束して?」


 ほかの女を見たらやだよ。

 本当は話してるのもイヤ。見てるのもイヤ。楽しそうなのもイヤ。同じ空気を吸ってるのもイヤ。女なんてみんな消したい。


「約束しましょう。約束などなくとも、そうしますとも。ですが自分でも監視を求めるというのは、癖とも言える自己犠牲をなおそうとしてくれているんですね。その自己犠牲と優しさは体に染みついてしまっているものなのでしょう。理屈ではなく体が反応してしまうような――まったくあなたはどこまで……」


 ごめんね、優しさじゃなくてやらしさなんだ。破廉恥なんだ私は。


 でも言質はとったよ。

 次からは目隠しはなしで水浴びを手伝ってもらえるね。

 浴槽や湯浴み用の大きな桶を買ってきて一緒に入るという手もある。


 ヤバい。考えたら緊張してきた。

 帰ったらまたあのアホに相談しよう。一緒に入浴するときの作法や、男を落とすためのテクニックを。


「なんかね、体が重いかも」

「なぁっ!?」


 とても驚いてて可愛い。

 ダーリンの反応だけで子供三人は孕めそう。


「もしやあの手斧に毒が!? それとも斧が錆びていたから……? そうか、だからか。どうりで目覚めるのも遅い……。なんてことだ、生物由来の毒でないなら治療の難度は上がるぞ……」


 なんか焦ってて可愛い。

 追加で孕みそう。


「クソ、先ほどの治療だけでは治しきれていなかったなんて。毒の残留はしつこいと学んでいたはずじゃないか。これで二度目だと言うのにどうして私は……聖棒よ、日二度も耐えられるか……?」


 聖棒てなんだろう。


 文脈からして心の中にあるダーリンの芯の話しかな。

 私が苦しんでいる姿を見るのは、ダーリンは耐え難いんだね。好き。


「熱はありますか」

「わからない。どれが熱の感覚かまだよくわからない。だから測って?」


 お尻に指を入れると正確な体温が測れるって闇の精霊が言ってた。

 ダーリンの体温を測るため眠っている間に指を入れようとしたけど、お尻の筋肉がカチカチで突き指したんだよね。さすがに治してって言えなかった。


「測ると言われても元の体温を知らないので比べようがありませんよ。それに配慮が足らなくて申し訳ありません。リリも契約のせいで元の体温などわからないんでしたね」


 じゃあ治ったら平熱を測ってもらおう。お尻に指を入れてもらって……いや、ダーリンの指だと太すぎるかも。さすがにこの太さはそれなりの覚悟が必要だ。

 人が尻穴に異物を挿入されたらどんな反応をするのか、闇の精霊で確認と予習をしておこう。


「ううん。でもなんか体が気怠くて手足を動かすのも億劫かも。でもあの時ほどじゃないよ」


 これは本当。

 あの手斧には毒が塗られていたか、単純に汚くて不潔だったんだと思う。

 軽い怪我からの破傷風は、ゴブリンの投石に並んで冒険者の死亡理由でも上位に位置してるからね。


「は、吐き気などはありませんか!?」

「それはない……ある」


 あるって言っておいた方が絶対にいい気がした。濃厚な治療が期待できる。


 ああ、私はなんて卑しい女なのだろう。

 彼の気をひいて可愛がってもらうためなら躊躇わずになんでもしてしまう。


 でもこの想いを成就させるためなのだから仕方ない。

 だって恋はスタートライン。愛し合うためのはじめの一歩。私はまだそのスタートから動けてすらいないのだから。


「ちょっと無理をしたから魔力切れもあるかも。魔力切れは君の唾液でも回復するんだけどなー?」


 もし二人が結ばれるときがきたら、そのときはこれまでついた全ての嘘を告白しよう。ダーリンに振り向いてほしくて、可愛がってほしくて嘘をつくこともあったと。


 それで嫌われたらイヤだから、そのときは縛り付けて跨っているときにしようね。

 嫌われても縋りついて離さないよ。また好きになってもらえるまで逃がさないんだから。好きになってくれても逃がさないけど。


「わかりました。急を要するので少し乱暴になってしまうかもしれませんが、どうかお許しください」


 勝手に怪我をした私が悪いのに、気をつかって謝るダーリンにとてつもない愛しさをおぼえる。愛おしさがスカートにしみてないといいけど。


「治してくれるのに、君が謝ることなんてないよ」

「……リリ。あなたはまるで聖母ですね」

「性母かぁ。それも悪くないかな」


 罪悪感はどうしたってある。


 だからできる限りダーリンのためになるよう尽くしたい。これからは、いままでよりももっと尽くそう。

 料理は苦手だけど勉強しよう。ダーリンが好きものを好きになろう。

 ニワトリは怖いけど……うん、頑張って世話を手伝おう。ルカは親鳥のように慕われているのに、ダーリン親の仇のように嫌われているから。私がかわりにやってあげなくちゃだ。


 そういえば、抱きしめたくて近寄ってるのに威嚇されてつつかれているダーリンは最高に可愛かったなぁ。

 四つん這いになっているところを後ろに回られて、お尻をつつかれてそのままの体勢で空中に浮くダーリン。あれだけで一生分笑った気がする。


 とにかく、悪いことをしているんだから少しでも役に立ってあげなければ。

 それで帳消しになるとは思わないけれど、そうせずにはいられない。


 もしかしたらこの執着もエルフの血のせいなのかもしれない。


 自分にあいつらの血が流れているのは、あんなにもイヤだったのに。こうしてダーリンに執着して。燃えるような恋をしながら生きていられるのが、この血のお陰であるというのならば。私はこの卑しい血も好きになれそうな気がする。


「では治療をするので外へ出ましょう」

「うん!」

「あれ、意外と元気ですか?」

「ううん……? ああ、気怠いなぁ? 魔力空っぽだなぁ?」


☆


 外で焚火を作っていた御者に挨拶をし、林のなかへと連れて行ってもらう。

 ダーリンからしたらただの治療だとわかってはいるけれど、このシチュエーションにドキドキしないでいられる乙女などいない。


 林のなかで何をされてしまうのかと妄想が膨らむ。

 運ばれている間に10通りのパターンで抱かれてみて。100通りのパターンで抱いてみた。


 妄想で頭が破裂しそうだ。顔が熱いのがわかる。それをダーリンが熱だと勘違いしているのが可愛いったらない。


 こういうとき「やめて、お願いします。私初めてなんです――」と拒絶する振りをすると激熱だって闇の精霊は言っていた。

 オノドリムも似たようなことを言っていて、「私には愛する夫と子供がいるのよ……! あっ、そんな――あぐぅ! お、夫のよりも……大きいっ――!」とか言ってくぐもった声を出せると満点だって熱弁していた。

 ウンディーネは「あたいは男との一対一じゃ負けたことがないんだ。せいぜい楽しませておくれよ――」と啖呵をきっておいて即負けするといいとかなんとか。


「この辺りでいいでしょう。魔物の接近には私が注意を払いますので、リリは治療をうけることだけに集中してください。病は気からともいいますので。治りたいと願えば治癒も早まるかもしれません」


 なら治らないでって願うしかないね。


 ダーリンのふとい腕から降ろされて木に背中を預ける。

 その段になって存外自分の容態が良くないことに気づく。


「うあ? あれれ……?」


 自分が弱っていると自覚すると途端に不安になってきた。


 感覚があるだけで、人はこんなにも気を弱くしてしまうものなのだろうか。

 頼れるダーリンの胸に飛び込みたくて仕方なくなっている。

 今回の件を未来に活かし。もしもダーリンが風邪などをひいたら付きっきりで抱きしめてあげよう。今の私はそうしてほしいから。


 あと熱もたくさん測ろう。


「では失礼します」


 ダーリンが外套の首元のボタンを外してくれている。


 一瞬で不安が吹っ飛んだ。

 なにこれ、尋常じゃないぐらい興奮するんだけど。服を脱がされるってこんなにたまらないものだったなんて。これなら下着の購入も検討するべきだ。


 外套を木の枝にぶら下げ。次はどこから脱がされるのかと期待に満ちた目でダーリンの指を追う。だが当然これ以上は脱がす必要はないので、脱がせてはもらえなかった。これでは生殺しである。


 だが生足は見えている。

 今日はいつもよりも短いブーツなので露出している肌面積も広い。

 足を見られるのは恥ずかしいけれど、勇気を振り絞って片足を前に出してみる。でもやっぱりダーリンは一瞥もしてくれなかった。


 ここまでくると私を女として見ていないのではなくて、ダーリンは男が好きなのではないかという疑いもほんのり浮かんでしまう。

 そういうことにしないと、自分が見てもらえない悲しさで心が押し潰されてしまいそうだ。


 でも実際酒場のマスターとは仲がいいよね。猫人も猫獣人も男ばかりが集まってきてはスリスリされている。


 あれ……まさか?


「それでは毒を抜くための治療をはじめます。イヤでしょうが我慢して飲んでください。これもリリのためなので」


 イヤじゃないし我慢していたのは飲めなかった日々だよ。


「……聖液じゃなくていいの?」


 つい口走ってしまった。

 熱のせいで頭が朦朧としている。でも朦朧としているのは毒などのせいではない。これは恋の病だ。


「なっ、なにを言っているのですか。そういうのは人に聞かれたら大変だとお話ししたでしょうに」

「そっか。そうだったね」


 怒られてしまった。

 段々怒られるのも癖になってきている。

 これけっこうクるんだよね。胸の先っぽがゾクゾクってするんだ。

 

「私たちだけの特別な秘密だもんね」

「そうですよ。そうでなくとも滅多なことは言ってはいけません。それにあれは治療で使うことはありませんから」


 なんで治療では使わないのだろう。

 効果が強いなら使ってくれたらいいのに。そこからなんとしてでも既成事実に持っていきたい。


 一応、他の女がこういうことをされないように十分注意したい。

 ダーリンの前で怪我をしそうな女がいたら意地でも助けよう。また怒られるけど代わりに怪我をしてでも助けるんだ。


「……では始めますよ。生きたいと願いながら治療を受けてくださいね」

「うん……!」


 きたきたきたきたッ――などと喜んでいたのも束の間。

 これまで焦らしに焦らされた分もあって、久しぶりのキスと彼の舌は私のあらゆる脳神経を愛の炎で焼き払い、自分の体を自分で制御できなくさせてしまう。


 腕に力は入るのに足には入らない。唇は動くのに目が動かない。

 ちぐはぐな反応を見せて大いに混乱する私の体は、ある瞬間に至って一斉に力が抜ける。


 そして私は盛大にお漏らしをしてしまった。


 ミニスカートでホントに良かった。


☆


 昨夜のリリの反応には前向きな手ごたえを感じた。

 彼女は「生きたい」という言葉を自発的に連呼して何度も治療をせがんできてくれたのだ。


 最近は明るくなったので、もしかしたらとおもっていたのだ。今回の治療でようやく確信が持てた。

 リリは死にたくないという気持ちを芽生えさせてくれている。少なくともダンジョンで出会ったときのような澱んだ眼はしなくなったし。自分の意志で生を求めてくれている。


 今回のように死を恐れずに行動してしまうこともあるかもしれない。リリは俺が怪我をしないと確信した瞬間に安堵の笑みを浮かべていたと記憶している。どれほどの正義感と献身性を持っていれば、死を前にして人のために笑えるのだろうか。尊敬の一言に尽きる。


 もう一人で死を選ぼうとすることはないだろう。とは言っても、彼女の自己犠牲の精神と強すぎる正義感から、意図せずにスイッチが入ってしまうことはあるようなので、監視の目は強めていかねばなるまい。


 これからはより一層、俺が上手くフォローしてやらなければ。

 フォローと言えば、リリは治療の最中に粗相をしてしまっていた。

 娘が生きるためにデトックスを行っているのに、父である俺が汚いなどと思うはずもなかった。

 顔を両手で隠して恥ずかしがっているリリに、生きることを遠慮をさせぬよう「いいのですよ。どんどん出しなさい」と笑顔で応援してやった。


 かなり際どいセリフだったが、誤解の心配はない。今のリリならば正しく理解してくれていることだろう。


 そのあとは、鍛えられて弛みないのない足を清潔な布で拭いてやり。残りのデリケートな部分は俺が後ろを向いている間に自分でやってもらった。

 正直に言うと、足を拭いている間に勃起しそうになった。

 風など吹いてスカートがめくれていたらまたオーク化していただろう。


 好意におよんだのが林のなかで良かった。俺の体重を支えられる、手ごろな太い枝がごろごろ生えている。お陰で懸垂に腹筋。雲梯運動。負荷の強いトレーニングがいくらでもできた。


☆


 相当疲れたらしい、足腰が立たなくなっていたリリをお姫様抱っこで馬車まで運んでやった。

 とろんとした表情で俺を見つめるリリが可愛くて、父性よりも義父性が活性化し思わず額にキスをしそうになった。

 治療にかこつけて己の欲を満たすなど言語道断。自分を信頼して治療を受けてくれるリリに、そのような悪辣非道を働けるはずもない。

 

「お盛んで羨ましい。神父さんもやることやってるんですねぇ」

「はい……? ああ、そういう意味でしたか」


 御者が意味ありげな、含みのある笑みと言葉を投げつけてくる。


 俺の誤解されやすい体質も後押ししているのだろうが、男と女がいればすぐにそういう風にとらえるのはよくない風潮である。


 だがここで治療したことがバレてしまうのは困る。

 リリには申し訳ないが、今はそういう事にしておいた方がいいだろう。


「ええ、私たちは夫婦ですので」

「ッ!?」


 ぐったりとしていたリリが体を強張らせて硬直する。

 しかしすぐに軟体動物のように力が抜けていった。

 きっと寝ぼけているのだろう。俺も机で居眠りをするとよくこうなる。

 

「へぇ、神父さんてのはもっとお堅い仕事だと思ってましたよ。夫婦とはいえ外でもしちまうんですね」

「どこまで行っても人は人ですからね。誰だって愛する人とは肉体的にも精神的にも結ばれたいと思うものです。大昔の聖女様もそのように仰っております」

「そりゃあそうですね」


 リリがビクビク跳ねている。本当に大丈夫か?


「あなたも迷いがあるならいつでも教会にいらしてくださいね」

「へへへ、それはいいですね。神父さんならどんな悩みも一発で解消してくれそうだ」

「(ダーリンが男を誘った? え? 一発で解消って? え? 私は一発もしてもらってないのに?)」

「それでは、なかで休ませてもらいます。彼女が落ち着いたら見張りは交代をしますので」

「その様子じゃあ奥さんが落ち着くのには朝までかかりそうですけどね。これも仕事なので任せてください。俺は馬を走らせながらも眠れます。それにあんな大立ち回りを見せられたら休んでもらわないとね」


 よく喋る御者の男。

 窮地をともに乗り越えたことで心の距離が近づいたのだろう。 


「それはすごい能力をお持ちですね。馬の上で眠れるなんて」

「馬屋で生まれて馬の上で育ちましたからね」


 御者との雑談を終えて馬車の中でリリを寝かせる。

 眠るまで傍にいてやり、寝息を立てたところで外に出た。


「用を足してきます。遠くには行かないので心配はいりません」

「はい、どうぞごゆっくり」 


 よし立ちションにいくぞ。

 既に膀胱は破裂寸前なのだ。リリの放尿に感化されて同時に放尿しそうになったほどに。


 聖液ほどの効果はないとはいえ、少しでも環境に影響を与えないよう放水場所は慎重に選ぼう。


 ついでと言っては何だが、次にリリが同じようなことをしたときに備えて心に響く言葉でも放尿中に考えておくとしようか。

御者:結局スレイプニルが一番抜ける

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