31話 北風と太陽はいかにしてスカートをめくるかという童話
前回のあらすじ:馬車のなかでの行為が行われた場合はカーセックスに含まれるのか。騎乗位と呼ばれのか。
「挟み撃ちから逃れるすべのない現状。前後衛も何もないから互いが背を任せる作戦で行くよ。馬車を守り切れなければしばらく立往生しちゃうけど、命には代えられない。いざという時は盾として使おう。背中は君に任せるからね」
リリの指示は、的確でてきぱきとしていて実に気持ちがよく。自信にあふれた迷いのない指示は、受けた側を無条件で従わせる力があった。
女王様の資質とでも言うべきか。リリの声には人を操る魔力でも込められているかのように抗い難いものがある。
同じ要領で足を舐めろと指示されていたら、何も疑わずふやけるまで舐めていただろう。喜んで舐め豚になっていた。
「はい、そのように。私もリリの背中は必ずや守ってみせます。いえ、背中だけではなくすべて守りましょう」
「……っ。パーティーでの戦闘は久しぶりなんだ。まかせっきりにするつもりもないけど、でも他の人よりもずっと頼りにしてるよ。だって君には、私の唇を許しているぐらいには信頼しているから(言っちゃった。言っちゃった。言っちゃった)」
爽やかにさらっと言ってのけるリリ。
キスをする度に罪悪感を覚えている俺としては、心臓を鷲掴みにされたように緊張してしまう。責めるような声音でなかったのがせめてもの救いか。
「じゃあ始めるよ」
戦いの前にグータッチを求めてきたので、こちらも拳を差し出すとリリは手のひらを開いて俺の拳を掴む。小さくはないが、リリの片手では聖棒を掴み切れないかもしれないな。
「なんですかこれは」
「じゃんけん。私の勝ちだね。勝者の権利として、君にどちら側を担当するか譲ってあげるよ」
「勝者が譲るのは珍しいですね」
「私は故郷でも変わり者扱いだったからね」
俺がかたくなっているのを見抜いたらしく、悪戯をして緊張をほぐそうとしてくれているのだ。
同じことを硬くなった聖棒をほぐすためにやられたらと思うと――片足でスクワットしておこう。
そんな俺を見てキャッキャと喜んで俺の父性を刺激してくる。
本当になんでも笑う子だな。ああ愛しい。
「ではレッドキャップがいるほうは私に任せてください」
「わかった。君に限って心配はいらないと思うけど、油断だけはしないようにね」
「無論ですよ。戦うときは魚一匹にだって油断はしないと決めていますから」
リリは何としてもパパが守るからね。
☆
「私が先手を打つよ。多分上手くいくから君はそっちに集中してていいからね」
「よろしくお願いします。先生」
「なにそれ」
リリが少し笑ってから振り向いて腕を横薙ぎに払う。するとダンジョンで見たダイヤモンドダストが晴れた空の下、草原の上に現れた。
陽をあびたダイヤモンドダストは光を乱反射しダンジョンで見たときよりも一層幻想的に見える。
見惚れている場合ではない。彼女の背は俺が守らなければならないのだ。
首筋の温もりや残り香を意識するな。間違っても理性を手放してオーク化などするなよ。
そのとき、一際は強い風が吹き抜けていることに俺は気づかなかった。
風は草をなびかせながらこちらへ向かってきて、それと気づいたときにはリリの外套を下からめくりあげていた。
ついでとばかりに、外套に秘されていた短いスカートも盛大にめくっていく悪戯な風。
筋肉質な精霊が横目に映る。俺に向かって親指を立てて、笑みを浮かべて歯を見せる。そのまま役目は果たしたとばかりに、風のように去っていってしまった。
「満……月が……二つ?」
視線を動かす間もなくスカートのなかに隠された大ぶりな球体が俺の目に焼き付いた。
これまでにも、何度も水浴びに付き合わっされているので、爆乳が生で見えそうになったことなら幾度もある。
だがそれらを見ないよう強い意思と理性でもって視線を操り本能に抗ってきた。
見えそうになる瞬間というのは事前に予測できるものだ。ただでもリリは性に無頓着なので、わざとやっているのかというぐらい見えそうなタイミングが多い。
あらゆる最悪な事態を想定して生きるのは臆病者の性か。身に染みついた癖みたいなものだった。そのため見えると予想し、予め視線を外して理性を守ってこれたのだ。
しかし、眼前に映る満月は不可避の光景。不測の巨尻だった。
でかいでかいとは思っていたが、まさかこれほどまでに大きく魅力的で、俺の理想に合致する完璧かつ究極的な形状の尻であるとは予想できなかった。
気づいたときには視界におさめていて。一度釘付けになれば理性で目をそらすなど、極度の童貞症を患っている俺には土台無理な話であった。
この尻から視線を外すのは、神殿を支える巨大な柱を一本だけ抜くよりも遥かに困難を極める難事だったろう。もしもこの美巨尻から目を離せる者がいるならば、俺はそいつを魔王と断定して教会に通報してやる。「リリの尻を見てもなにも感じない変態がいます。多分あれは魔王です!」とな。
哺乳類霊長目ヒト科に分類される全生物に種の繁栄を促し。本能に隠れる、生命の根源的な願いを爆発的に膨張させる性の象徴と言えるほどリリの巨尻は美しかった。言葉を尽くしても尽くしきれぬほどの、繁殖に対する絶大な誘因性があった。
そうして心の準備が何一つできていない状況における意識外からの攻撃は、俺の強固な理性をも容易く刈り取ってしまう。
「おぉ……オっ――」
狼人間は満月の夜に獣人化するという。
であるならば、俺もリリの双子の満月の光を浴びて獣化した、豚人間なのだろう。
「オォオオオオオオオッ!」
心の奥底に封じ込めていたオークは、僅かな隙間から入り込んだ月の光を浴び。己を閉じ込めていた理性という名の檻をぶち破り目覚めの咆哮をあげた。
オークは、俺が理性を保っていた最後の瞬間に強く念じていた内容や、意思を引き継いで行動する。
そしてこのとき俺が考えていたのは、勃起だけはするなという強い念。愛しいリリを守るのだとういう、無意識な庇護的感情だけが際立っていた。
そうして強力な性的衝動と、旺盛な性欲を無理やりに、完璧に封じこめられ。浮き彫りになる剥き出しの愛情だけがオーク化していく俺の行動原理として残った。
極めて強大な性欲を奪われたオスが愛情と庇護欲のみを残し。冷静かつ客観的な精神状態に陥る状況の指すところは。
それすなわち、賢者タイムである――。
☆
馬車内には闇の精霊みたいな邪魔者も。ニャーニャーあざとくダーリンに甘える小生意気な猫獣人も。ライバルになりうる出産適齢期の女どももいない。妊活をするには絶好の環境が整っている。
一日以上かかる旅だと言うので、心にも余裕があった。
ルカの目を気にする必要もなく、威厳と情操と風紀を気にせずダーリンに甘え放題で人生の絶頂期を存分に楽しめる。
夜には本格的に仕掛けるつもりだったが、気分が昂りすぎてしまい。もういっそ昼間から繁殖行為に及んでしまおうと機をうかがっていた。
だというのに空気の読めない雑魚どもが現れて、絶頂の時も中断を余儀なくされてしまう。
「空気の読めない雑魚どもが……。私の絶頂を返せよ。おまえら二度と空気も吸えないように消し去ってやるからな……」
ダーリンと話している間はフワっとした幸せに包まれていたけれど、やつらを見ていると怒りがぶり返してくる。
涼やかで強い風が吹き抜けても、私の怒りを冷ますことはない。
ただちょっとお股がスースーしただけだ。
肩車とかいう最高のさらに一つ上の最高の合体体験ができる機会を与えてくれたことには心からの感謝を申し上げよう。
あのままでいたらダーリンの首を愛で汚して嫌われたかもしれないから、ちょうどのタイミングで見つかってくれたのもありがたいと言えばありがたい。
でもお前らが現れなければ、馬車の中でもっとすごいことがいっぱいできていたんだ。
もう一度転んだふりをしてダーリンの聖域に手をついちゃったり。
寒いふりしてダーリンの服を脱を借りて最終的に全裸にまで誘導したり。
水筒と間違えてダーリンのダー棒を吸うとか。食べ物と間違えてダーリンのダー棒を噛むとか。窓から上半身を出して風を浴びながら、ダーリンのダーメンを子袋に浴びるとか、そういう素敵な未来もあったはずなんだよ。色々あったんだよ。
基本的にダーリンは眠くて寝ぼけたふりをしておけばどうにかなる。あれやこれやの夢が転がる平野が、視界一面を埋め尽くしている状況だった。もうどれから叶えるか悩んでしまうほどに無限の夢が散乱していて産卵しそうだったんだ。
「だというのにこいつらはッ……」
夢の平野に無断で侵入してきたゴミムシ以下の薄汚い不法侵入者どもめ。
やっぱり情けなどかける必要はないね。ゴブリンは皆殺しで確定だ。
報酬なんていらない。元の形もわからないような、ひき肉にしてやる。
まだ身を隠して前進するのんびり屋なゴブリンたち。この期に及んで慎重に動くのは、いままでろくに狩りをしてこなかった経験の浅い群の特徴だ。
慣れている群ならば武器を持たずに戦闘態勢をとる人間は魔法使いであると判断し、すぐにでも集中して波状攻撃をしかけてくる。
「私の夢の時間を邪魔したんだ。死んだ程度で償えるほど軽い罪だと思う――なぁんッ!」
「――ォオオオオオオオッ!」
ダーリンの勇ましい咆哮を合図に戦闘を開始する。
開始早々に鼓膜で絶頂しかけて膝が震えたが、下唇を噛んでなんとか堪えた。
普段の私ならば膝をついて漏らしていただろう――いや絶対にアヘっていた。
それほどまでにダーリンの咆哮は野性的で荒々しく。性行為を想起させる聴くセックスだったのだ。
しかしこの瞬間は未来視で視ていたので、デジャブのように寸前で来るとわかって身構えていた。
「間一髪、反応が間に合ってよかった……」
姦一発しなきゃおさまらないほど発情するところだったね。
空中に散布しておいた、魔力を帯びた氷の粒がニョキニョキと膨れて形をなしていく。朝方眠っているときのダーリンの朝ダー棒みたいで、なんか興奮してきて下腹が熱い。
朝ダー棒はニョキニョキしたかと思えばいきなりドンっとそそり立つのが雄々しくてかっこいいのだ。そのあとに萎んでいくのも起承転結があって楽しい。
ニョキニョキ中に上にのっておくと毛布と一緒に高く飛び上がれてとても面白い。これは一日一回だけできる、私だけが知っている秘密の遊びだ。
ニョキニョキしきった氷は、私の記憶と想いが結びついてしまったのか、ちょっぴりダー棒に似てしまっていた。
見られたら闇の精霊と同列の変態だと誤解されて嫌われてしまいそうなので、ダー氷をランダムで、高速に、一斉に射出した。
一つ一つがダー棒だと思うと壮観だった。
空から突如として襲ってきたダー棒による攻撃に、ゴブリンたちは慌てる間もなく。なすすべなく蹂躙され倒れていく。
降り注ぐ氷の雨は、実際には降ると言うような速度ではない。
ゴブリンたちの肉をえぐり。骨を砕き。体を貫き。あたり一面には、どす黒い血をひろげていく。
次々と地面に突き刺さるダー棒にそっくりな氷を見ていると、自分も地面になりたいなどと思ってしまう。
それは恋する乙女として当然の思考だ。好きなんだからぶち込まれたいに決まっている。どんなに太くとも受け入れたくなって当たり前だ。
自分が地面になったつもりで興奮し。氷雨をいつも以上に、念入りにふらせて行為に没頭してしまう。
ゴブリンなどもうどうでもよくて、とにかく地面に見立てた私に氷を撃ち込んでいく。
そんな中、一匹だけ口のなかにダー棒を突き刺したまま、絶命を逃れているゴブリンがいた。
その姿を見て、頭が一瞬で沸騰するかのように熱くなり。何かがねじ切れる音がした。
「お前さぁ……誰の許可を得て、私のダー様の御大事棒を咥えているんだよ……。それは私のモノなのに……勝手に使っちゃ駄目でしょ……?」
激情に駆られ魔力の調整がきかず。乗ってきた馬車と同程度の氷塊を三つも作り出してしまう。
恐慌状態に陥って逃げ出そうとしているゴブリン。
放っておいても長くは生きられないだろうが、逃がすつもりなど毛頭ない。
「見たくもないから視界から消えろ」
逃げようと背を向けていたゴブリンへ、氷塊を三方向から叩きこみ。地中深くまで押し込んで二度と私の視界に入らないようにした。
「ハァハァハァ……ふぅ」
ペースを乱され一時的にごっそりと魔力を持っていかれてしまったが、この程度ならばすぐに回復する。ダーリンの唾液が貰えれば結構な速さで回復するのだが――。
「そうだ……! 魔力切れを起こしたふりをすれば怪我をしなくても一杯キスしてもらえるんじゃ……? えっ、天才?」
最後の一匹まで殺し尽くしたことを確認し。難敵のレッドキャップと戦っているであろうダーリンのいる方へすぐに振り返った。
一緒に戦いながら大袈裟な魔法をこれ見よがしに連発すれば、補給してもらうための根拠を示せて口づけの理由付けになる。
急いで共闘しないと。
ダーリンの強さはいまさら疑う余地もないが。将来の夫が戦っている姿を見て、心配もせず動じないでいられる女などいない。魔力の消費はあくまでも副次的なものだ。
「あれ? ダーリンは?」
いると思っていた場所にダーリンはおらず。いつの間にか草原の奥で戦っていた。
「私の背を守るために注意をひいて遠くへ行ってくれたんだね……。あっ、ヤバいかも。好きが体から噴き出しそう。好き吹きしそう」
下心も込めてすぐに援護に入ろうとしたが、その必要はまったくもってなかった。
ダーリンとゴブリンの圧倒的な力差を見ればすぐにそうとわかる。自分が参戦などすれば、足を引っ張ってしまうだけだと。
「はぁ……つよつよだ」
武器を振り上げながら襲い掛かるゴブリンの腕を掴んでは二度三度と叩きつけ。その隙を突こうと襲い掛かるゴブリンの首を掴んで返り討ち。
背後からとびかかってくれば振り向きもせずに掴んで投げ殺す。
そうやって一匹ずつ確実にカウンターで処していく。
後衛のゴブリンから放たれ続けている投石すら意に介していないのもかっこいい。
投石は一撃でも貰えば致命傷をうけてしまう。原始的だが効果的で、十分な脅威となる攻撃手段だ。新米冒険者の死因の上位は、ゴブリンによる投石だと言われているほどである。
だが私の愛しいダーリンはどうだろう。いつもの背筋を伸ばした綺麗な姿勢を崩さないまま。戦いながら最小限の動きで投石を躱し。ついでとばかりに前衛を叩き伏せていく。
ダーリンぐらいの猛者になると、戦闘態勢と日常の姿勢に大きな変化はないらしい。ゴブリン如きでは脅威とはならず、戦闘態勢をとるまでもないのだ。
それはそうだ。ゴブリンなんてダーリンを前にしたときの私ぐらいザコいね。
ダンジョンで助けられたときのことを思い出さずにはいられない。
スライムを素手で無力化し。トロールを打撃武器のみの単騎で、あと一歩のところまで追い詰め。姿の見えない新種の魔物に防具もなしに臆せず立ち向かい。即座に正体を看破。攻略方法を見つけて最終的には無傷で倒してしまった。
ティアスは報酬を受け取る際の報告書にはさぞ苦労していたことだろう。なにせ新種の魔物がどんな攻撃手段を用いてくるのかも知らないのだから、報告のしようがない。
でも私は知っている。後日、ダーリンが探索者組合にいくついでに、魔物の攻略法を記した書簡をティアス宛てで預けてあげていたのを私だけは知っている。だってコソコソ書いてるところずっと見てたもん。
目が合っても合わなくても敵意を向けてくるから、ティアスは苦手だとぼやいていたが。そんな相手にも慈悲と情けを忘れない。そういう気遣いや気配りを息をするようにしてしまう。そんなダーリンの息を吸いたい。ダー棒も吸いたい。
そんなことを考えているうち、守るだなんて傲慢な物言いをしてしまった愚かな自分を恥じてきた。
耳まで熱くなるほど恥ずかしくなり、赤面しているのが実感としてある。いや、耳まで熱いのも赤面していたのは、羞恥ではなく興奮で。ダーリンと一緒にいる間はずっとそうなんだけど。
しかし思い上がっていたのは認めなければならない。人は誤りと過ちを認めることで成長できる生き物だ。
守るべきは魔物などからではないと改めて肝に銘じておこう。
真の敵は、ダーリンを誘惑しようとする私以外のすべてのメスだ。聖域たる性域を守護し、私だけが精イキさせてもらわなければならない。
蚊の一匹だってダーリンには寄せ付けてなるものか。
とくにこの旅のきっかけになった、あの熟女は警戒しなければならない危険なメスだ。あいつは明らかにダーリンに色目を使っていたし。メスの臭いをプンプンさせていた。
「あっ! あぶなっ……くないんだよね」
ダーリンは背中にも目があるのだろうか。背後から襲うゴブリンがあっても、スライムのときのように体を捻った裏拳を叩きこみ危なげなく黙らせてしまった。
中央にいた一回り大きめのゴブリンは、この部隊を率いるリーダーだろう。
石斧を振り上げて突進するリーダーだったが、突如として消えたダーリンを探して左右をきょろきょろと見渡している。
ややあってリーダー格のゴブリンの顔に影が差す。頭上には膝をあげて高々と跳躍しているダーリン。
そうと気づいたときにはもう遅い。両足を伸ばして頭を踏みつけられ、首から背骨までを一挙にへし折られ。折りたたむように潰されてしまっている。
繰り返し投石をしていた三匹の後衛にも焦りが見えた。
歩きながら近寄っていくダーリンに、狙いを定めず破れかぶれと言った様子で半狂乱になって投石し続けている。
体の軸は一切ぶれず。背筋をピンとのばしたまま片手の甲で石を弾いてずんずんと向かっていくダーリン。
「私もピンと伸びたダー棒でズンズンされたい」
ダーリンがおへそらへんに構えたもう片方の手には、弾かれた石が溜められていた。弾くだけでもすごいのに、自分の掌を狙って落としているのは最早人間業ではない。
「人間離れしたダーリンも好き。灯台になっても結婚したい。そしたらダーリンのなかで暮らすんだ」
ゴブリンの投石の手が止まる。腰に巻いた袋に入れていた石が尽きてしまったのだ。
一方ダーリンは、お返しします――とばかりに、大きな片手に集めていた石を振りかぶって投げつける。
散弾となって発射された石つぶては、一匹を貫通して奥にいたもう一匹も仕留めてしまう。
剣技であっても魔物を二匹同時に貫くのには、それなりの力と技量。そして熟練の戦闘勘とセンスが最低限必要だ。
さらには敵を一か所にまとめる立ち回りと、予測不可能な魔物の心理を読む、高い戦闘知能指数が求められ。当然貫くためには武器の質も選ばなければならない。
そんな離れ業を実戦で狙ってできた剣士など、これまで一度も見たことがない。
恐らく剣技に定評のあるティアスにも難しいはずだ。
だがダーリンはただの石ころでそれをやってのけてしまった。
「私もダー棒で曲芸みたいな体位で貫かれたい」
残った一匹は私の目でも追えないほどの速さの蹴り――。多分それは蹴りだったのだと思う。
彼が片足をあげた姿勢で止まっていると気づいたときには、ゴブリンの首は体から離れて宙を舞っていたのだ。
これだけ強ければゴブリンからすれば災害にでも見舞われたようなものだろう。
でも自分たちから災害の中に飛び込んできたのだし、私とダーリンのイチャラブ妊活タイムを邪魔したのだから同情の余地などない。
「むぉうダメ……好きっ!」
気づけば体は倒れるように前かがみになり、両足は地面から射出された氷を踏んで勝手に飛び出していた。
ダーリンに抱き着いてとにかく甘えたい気分。飛びながら服を脱いでしまうか悩むほどとにかくダーリンの肌が恋しい。強い男などいくらでも見てきたが、ダーリンのように全身を熱くさせる男は皆無だった。
「いけません――ッ!」
ダーリンが振り向いて何かを言っている。イケと言われたように聞こえたので、とりあえず命令通り脳でイっておく。
「くぅっ!」
私はアホか。体の力が抜けて氷による飛行が難しくなってしまったじゃないか。これでは到着までにコンマ数秒のロスが生じてしまう。目先の欲にとらわれて、その先にある大きな快楽を見失ってどうする。
ダーリンが何か慌てている。その身振り手振りから察して、もう一匹魔物が残っているのだと遅れて気づいた。
でもその艶めかしい唇を舐めたいとしか思えなかったので、最短距離で進む体を止めることは叶わない。
ダーリンであっても、聞ける命令と聞けない命令がある。そしてこれは後者なのだ。
ちらりと視界の隅に魔物が映る。横目に確認したのはレッドキャップだった。
レッドキャップは斧を両手で振りかぶってダーリンを狙っている。
その無礼な振る舞いに殺意が湧く。レッドキャップが、殺気を込めて睨んでいた私の方へ振り向いたのは、野性の本能というやつなのかもしれない。
レッドキャップは私と目が合うと、狙いを変えてこちらへ体を向ける。
飛んでくるであろう手斧を氷の壁で防ごうと魔力の準備した刹那、天啓と言わざるを得ない閃きが降りてきた。
「(これ当たって怪我したら治療してもらえる!)」
――と。
「――リリィィイー!」
胸だ! 胸か下半身を狙ってこい!!
☆
とある馬屋の手記――。
ありゃあバケモノだ。
男も女もどっちもバケモノだった。
強いなんてもんじゃない。バケモノのなかのバケモノだったね。
女は見たこともない大規模な魔法でゴブリンの半分を一瞬にして一掃。
男はゴブリン相手に素手で肉弾戦をしかけて無傷の生還。
冒険者だとは聞いてはいたが、あれほど強いならもう同じ人間のステージにいない。ありゃ俺とは別の生き物だ。
特に神父のほうはすさまじかったね。
あれにかなう者がいるなら、同じバケモノだって噂の領主様ぐらいなものだろう。
それに男の方は戦闘力だけが凄いんじゃない。何が凄いって、チンコがデカいんだ。
一人で用を足しているところをこっそり盗み見したが、ありゃあなんなんだ。股から腕でも生えているのかと思ったぞ。
俺が勃起したって通常時のあの男には敵わないデカさだった。蜂に刺されたときだってあそこまでは太く腫れないぜ。
女の胸でしごきながら口に咥えさせるには、それなりの長さが必要だって話だが。ありゃあ余裕で口まで届くだろうな。羨ましい。
それに英雄色を好むってのは本当なんだな。
戦いが終わって女を横抱きにしながら馬車に駆け込んできたと思ったら、すぐにイチャコラしはじめやがった。そらもう熱烈なもんで、俺の目なんか気にせずおっぱじめた。
男はチンコがデカいだけじゃなくてテクも半端じゃないらしく。男が首に吸い付いたかと思えば、女はケダモノみたいな声を出して痙攣していた。
首だけでだぜ。首をちょっと吸っただけで、女は誰が見てもわかるぐらいハッキリと昇ってやがった。
女の首が人一倍弱かったのかもしれないが、俺は本番の行為中にだってあんなに乱れている女を拝んだことがねぇ。男の俺でもあの人になら吸われてみてぇと思っちまったぜ……。
そんで夜になると野暮用だとか抜かして林の中へ二人で入っていって、本格的にファイト開始よ。
これまでも馬車の中でやっちまうやつらは何人もいた。だが、あの二人は街道の外でするってんだから驚いた。
あれだけ強いと夜行性の魔物なんて少しも怖くないんだな。
むしろ魔物なんてスリルをあじわうための味付け程度にしかかんがえてないに違いない。
結構遠くにまで行っていたように思えたが、突然、林の木々でもかき消せない、女の絶叫が馬車にまで届いたんだ。
眠っていただろう動物たちが慌て。魔物たちも俺らを無視して走って逃げていっちまう。
あのスレイプニルまで完全に怯えちまって、ぶるぶる震えていたぐらいの声量と、事件性のある悲鳴だったね。
まあお陰でスレイプニルも俺に懐いてくれたからよかったけどよ。二人で抱き合うように、女の絶叫がおさまるのを待ったよ。
それが落ち着いたと思ったら、イキたいだのイキますだのイキ続けるだのと懇願するような声が聞こえた。どっちの立場が上で、どっちが下かをはっきりわからせてくれて、見えなくても妄想が捗ったぜ。
お陰で俺は後日、めっちゃ濃いのが出せたね。
ロイズレッド:賢者
リリ:重傷




