30話 絶対に孕んでやるという強い意思をたぎらせるエロフ
前回のあらすじ:私服買った。着る機会はあまりなさそう。
謎の熟女との約束の日――。
いつものようにいつもの時間に起床すると、寝ぼけてポヤポヤとした、どこか赤らんでみえる表情をしているリリが扉をあけて立っていた。
「キャアッ!」
死ぬほど驚いて軽く宙に浮いてしまった。
全裸なのでシーツをつかって体を隠すが、咄嗟に出た悲鳴と、胸まで隠してしまった自分が乙女っぽくて気持ち悪く自己嫌悪する。
「ま、待ちなさいリリ! いまはいけませんよ!」
リリはそんな俺の奇行も、制止の言葉も気にせず、滑り込むようにベッドの中へともぐりこんでしまう。
あと少し早かったらリリは俺の朝立ちの餌食になっていただろうと思うと肝が冷えすぎて凍りそうだ。
潜り込んできたリリと入れ替わるようにベッドから抜け出し。聖棒を見られないよう気を付けながら急いで下着を履く。
焦っているせいで後ろ前が逆になってしまった。リリはシーツから頭だけ出してこちらの様子を観察しているので、今日のところはこのままで過ごすことになりそうだ。
しかし扉の鍵はしめたはずなのにどうやって入ったのだろう。
古い建物だったので鍵をつけられる場所はすべて新調したはずだ。
まあ考えても仕方がない。昨日も酒場でマスターと遅くまで酒を酌み交わしていたので、酔っぱらって鍵を閉め忘れていたのだろう。
「私だからいいものの……男性の部屋にそんな薄着で女性が入ってくるなんて本来あってはならない破廉恥な行為なんですよ」
「だって怖い夢を見たんだもん……(ダーリンが百人になって、どのダーリンと結婚するかを選べと詰問してくる恐ろしい夢。一人なんて選べないから私も百人になったね)」
「そ、それは……仕方ありませんね。どんな夢か思い出すのもいやでしょうから、この話はやめにしましょう。今日の朝は何が食べたいですか?」
「うーん……お肉(ダーリンの肉棒)」
「朝から重たくないですか?」
「圧し掛かるぐらい重たいほうが好き」
胃に圧し掛かるほど重い肉などすぐには用意できないので、残念ながらさっぱりとした生ハムで我慢してもらおう。
「リリが食べたいと言うなら用意するとしましょう。念のためルカにも聞いておかないといけませんが」
ベッドの端に座って、亀のように丸まり亀のように頭だけ出しているリリの横に座る。薄いシーツがリリの突き出された尻の形をくっきりと浮かび上がらせているので、けっして視線を移さないよう背中を向けるための判断である。
頭を撫でてやるとくすぐったそうに笑うリリ。どこをどう見ても可愛い娘である。
「今日に限らず、怖い夢を見てひとりじゃ眠れない夜もあるでしょう。これからは鍵をあけといてあげるので、ノックを四回してからなら入ってきてもいいですよ」
そして俺は今後うつ伏せで寝よう。それなら俺が勃起力によって浮き上がるだけで済むから。
古来より、早起きは三発分お得という諺もあるし、できるだけ早起きすることを心がけとしよう。
「いいの? やった(はい公式朝チュンの権利習得しました。これからは早起きしよう――とか考えてそうな顔をしてるから、こっちはもっと早起きして夜這いしよう)」
☆
「やっぱり全裸の方がいいんじゃない? 服重いでしょ?」
「軽いですよ。リリは感覚が戻って日も浅いのでそうおもうのでしょうが、私にとって服など重さを感じるものではありません」
もう昼も過ぎて出発の時間だと言うのに、朝から全裸をおしてくるリリ。
いいわけがないので正装である神父の格好にしておいたが、それが大変不服なようだ。
「ルカ、いい子にしているのですよ。何かあっても自分の力だけでどうにかしようなどとはせず。精霊を頼り、ファミリアの方々にも力をかしてもらいなさい。遠慮はいりません。人は支え合って生きる、群意識の強い生き物なのですから。その分、自分も頼られたときには力をかしてお上げなさい」
「はい! おおせのままに!」
そんなかしこまって受け取らなくてもいいよ。
「気を付けてねルカ。そいつには特に気を付けるんだよ。一応猫の人たちには夜一緒に寝てもらえるよう頼んでおいたから。十人ぐらいで警護してくれるって」
闇の精霊は「そんなの聞いてないんですけど!?」という顔で驚いている。
こいつ何か企んでやがったな。それを見抜いて先手を打っていたリリも、さすがの危機察知能力である。
「ロイズレッド様も、お姉様も、大変な心配性でいらっしゃる。僕のことなら大丈夫ですよ。それよりもお二人の無事を祈っております。行ってらっしゃいませ。土産話を期待しておりますね」
「わたくしの土産は懐妊報告でいいですよ~」
「(任せて。絶対に仕込ませて見せるから)」
自分の置かれている状況を理解していないルカと、リリを薄目でみつめて笑う不穏な闇の精霊。
リリが念押ししていたので多分大丈夫だろう。
しかし神父の解任報告を土産にしろとはどういう冗談なのだ。精霊ジョークは笑えないな。
☆
四角い旅行バッグには替えの服が入っており。あとは治癒ポーションと周辺の地図にその他雑品。地図は大雑把なもので正確性には欠けるが、それでも高価なものでないよりはましである。
移動につかわれる馬車はてっきり幌馬車がくるのかと思っていたのだが、教会に到着したのは貴族様御用達の箱馬車。衝撃吸収装置を搭載した揺れない馬車であった。
「うわ、すっごい豪華。これならゆっくりできそうだね(性行為が)」
「そ、そうですね。ですが土足で入るのも申し訳なくなります」
「気にしないで、ずかずか入っていいよ(私に)」
まるで自分の所有物かのように語るリリがおかしくて緊張はすぐに解ける。
馬車の内装は高級感というか金の臭いがそこかしこにする。
まず馬車をひく馬は六本足のスレイプニルの亜種。
本来将軍クラスの軍馬として使われるような高級馬を馬車に使うというのは、金と権威をチラつかされている気がしてならない。
窓は左右に三つずつと御者台とのしきりの合わせて七つ。それぞれに黒いカーテンもついていて日差しも避けれる、お洒落と実用性を兼ねた素敵内装。
箱馬車は本来、幌馬車よりも小さく設計される。使うのはほとんどが貴族様などの富豪であり。大量搬送を目的としない個室タイプに寄るからである。
だがこの箱馬車は一般のものとは異なっていた。俺ほどの巨体が横に寝そべってもまだ余る広さがあり。リリと俺だけで使うにはいささか持て余しそうである。
「これだけ広いと何ができるか色々考えちゃうね(性行為とか、セックスとか、まぐわいとか、性交とか、なんでもできそう)」
リリの言う通りここでなら聖行為すらできてしまえそうなほど広い。無論そんな下ネタは清純極まるリリの前では言わないが。
旅の間に尻を預ける椅子も、ただの板張りではなく教会の広間で使われているソファーよりも数段高価で、やわらかな魔物素材を使用されており。そこへさらにいくつかのクッションが置かれていて、尻の安全は完璧に確保されている。
これならば馬車移動にはつきものである痔にもなるまい。アナルに優しい親切設計な馬車である。
念のためもしリリが痔になってしまい。舐めて治してほしいと頼まれたらどうするべきかシミュレートする。
――うっし、緊急スクワット開始。
「ホントどこでも鍛錬するんだね。マーキングみたいなものなの? (腕立て伏せの下に潜り込んで中までマーキングされたい)」
「いやぁ……まぁ何といいますか、今回はどれだけひろいかの確認ですかね」
「ふーん(私も確認して)」
☆
馬車が走り出したころには筋トレの効果も発揮されて聖棒も落ち着きを取り戻す。
リリは座らず俺の前に立って背を向けて、外の景色を眺めている。
外套から尻が浮き上がっているので早く座ってほしい。リリは背が高いのでちょうどの位置に尻がくるのだ。
「こんな豪華な馬車に乗るの初めてだ。これならずっと座っててもお尻が痛くならなそうだね」
痛くなってもいいよ。治してあげるから。
「おわっ……! ととっ」
馬車が大きめの石でも踏んだのか車体が揺れて、立っていたリリがバランスを崩してしまう。だがさすがの体幹である。すぐに体勢を立て直した――ようにみえたが、かくんと膝の力が抜けたかと思えば、先立って座っていた俺の上に尻から着地する。
「ほら、立っていると危ないですよ。お尻は痛くなかったですか?」
聖棒が立っていたら危なかったよ。リリのお尻を痛めつけてしまうところだった。
「うん全然痛くなかったよ。それにしてもいい馬車だね。このままずっと座っていたくなる」
「ふふ、リリが座っているのは私の膝の上で馬車ではありませんよ」
自分が転んだ先が馬車のクッションだと勘違いしているらしい。まったく可愛い娘である。こんな純粋な子に欲情するなどあってはならないな。
「あれホントだ。じゃあ筋肉ッションだったんだね」
「私の膝ではクッションと言えるほど座り心地の良いものではないでしょうに。例えるなら――なんにも浮かびませんでした」
「うひひ、なにそれ」
変わった言葉を作るリリに対抗して自分も同じように造語で返そうと思ったのだが。筋肉ンニとか筋肉リトリスとか、状況にそくさない最低な言葉しか作れなかったので何も言わないことに決めた。
「座り心地はかえって悪くはなりませんか。ゴツゴツしていて座りにくいでしょう」
「うーん、位置を調整すればクッションよりもずっといいと思う。こうやって奥のほうに腰を調整すれば……ほら、すっぽりおさまる感じ。ぴったりだよ?」
こらこら、そんなジャストの位置に調整したらずっぽり聖棒がおさまっても知りませんよ。尻間栓よ。
「ほら、ベルトもあって安全対策はばっちりだ。ね?」
リリは俺の腕を掴んで腹に回させる。
膝の上に座ったまま振り向くので、リリの顔がまつ毛を数えられそうな距離にある。このおそろしいまでの美貌を誇るリリに、治療とは言えキスをしたのかと思うと恐れ多くて動悸が起きている。
「なんか険しい顔してるね。もしかして私のお尻痛い? 重い?」
「全然痛くありませんよ。リリは軽すぎるのでもっと体重を増やしてもらいたいぐらいです」
探索者なだけあって尻も鍛えられているので弾力が半端じゃない。
勃起をして跳ね飛ばしたら馬車の天井を突き破らせてしまうのでそろそろ降りてほしいところだ。
「じゃあ私可愛い?」
なにがじゃあなのかさっぱりだが、これは最近のリリのマイブーム。自己肯定感を上げるための儀式みたいなものだ。
生きたいと言わせるよりもこちらの方が気軽でいいと思い、いつものってやっている。
考えてもみれば毎回生きたい生きたいと言わせるのは重いのでこれぐらいが丁度いいのかもしれない。
リリは容姿に限って言えば可愛いと言うよりは美人なのだが、それはあえて言うまい。女として意識されていると思われたら、不快にさせてしまうだろう。
「はい、リリはとっても可愛いですよ。世界一可愛いです」
「ふーん(世界一好き。ダーリンのほうが世界一可愛い)」
言わせておいて興味なさそうな返事をするが、今はそれでいいのだ。
マイナスな言葉を投げかけられるよりましで。少しは気持ちも軽くなるだろう。
こんなもので満足してくれるならいくらでも付き合おうじゃないか。一晩中言い続けたっていい。
なんなら「おはようございます」などの日常的に使う挨拶を「可愛いよリリ」にしたって俺はまったく苦ではない。
いや、うっかりマスターと街ででくわしたときなどに、癖で「可愛いですね」などと言えば大変な誤解を生むか。
やはり挨拶にするのはいきすぎだったな。提案しなくてよかった。
せっかくの小旅行なのだから、旅の間は少しでも暗い顔をさせないように心がけたい。いまのところリリは体を揺らしてご機嫌である。この機嫌を帰るまで維持するのを今回の旅の目標としようじゃないか。
「ねぇ見て見て」
「何をですか……ああ、その可愛らしい髪をですね。いつ話題にしようかと悩んでいたんですよ。とっても似合っていますよ」
「むふふーん!」
出発前に闇の精霊に髪を編んでもらったらしく、一本に束ねられた三つ編みが揺れる体にあわせて動いている。
あまり激しく動かれると聖棒に刺激が伝達されるので正直言うとやめてほしい。
今日に限ってミニスカートなのも解せぬのだ。虫にさされたらどうするつもりなのか。俺の様な凶悪な針を持った悪い虫が、すぐ下にもいるというのに。
いざというときのために動きやすさを重視したのだろうが、せめてホットパンツにするとか他の選択肢もあっただろう。なぜよりにもよってノーパンであると告白したうえでミニスカをチョイスするのか。
幸いにも長い外套を纏ってくれているお陰で、生尻を拝む機会などはおとずれないだろう。もしも生尻などを見てしまった日には、理性が飛びかねないのでリリには気を付けてもらいたい。
☆
マフィーダの町からどれくらい離れただろう。
ひざ丈ほどの草が連なり。風が吹いて波のように揺れる草原を通っている。
窓に映る長閑な風景に心が洗われるようだ。ようやく降りてくれたリリの尻の感触を忘れられない俺の汚れた心を一刻でも早く洗い流してほしい。
「わぁー! ……いや、風つっよ」
リリは窓を開けて馬車から身を乗り出し感嘆の声をあげる。思った以上に風が強かったらしいが、どこか楽しげである。
「涼しくていいですねー」
「うん、強力な風の精霊が近くにいるかも。魔力の流れも整っていて、とても澄んでるよ」
「馬車の中にも風が入ってきてくれるので、しばらくは開けっ放しにしたいですね」
「そうだね(ダーリンも私の中にも入っていいよ)」
魔力の流れなど感じれない俺にはわからない感覚だ。しかし近くに強力な変態が潜んでいるというのは理解できた。遭遇しないように祈ろう。
風を操る変態などに遭遇したら、十中八九でリリのスカートが捲られる。そうなれば肉棒を理性で操れない変態が誕生してしまう。
「いいね。緑が踊ってるみたいに生き生きとしている。私もあんな風にイキたいな」
意味ありげに振り向くリリ。
緑のように生きたいとは森を好むエルフらしい涼やかな感性じゃないか。
なにより「生きたい」と俺に向かって言ってくれたのが嬉しくて涙が出そうだ。
「リリは十分に生き生きしていますよ。これからもそうあってください」
「……うん(これ多分勘違いしてるけど脳内変換で余裕でイケる)」
リリは影が差すとも曇ったとも違う変わった表情を見せている。
緑の波が揺れる景色を見て、故郷を思い出し望郷の念にでも駆られているのかもしれない。
以前、故郷にはあまりいい思い出がないと言っていたが、こうして緑を見て喜ぶ姿を見るに。緑を愛する心はエルフの遺伝子に刻まれたものなのだろう。
そんな感傷的になっているリリに間違っても俺の遺伝子も刻みたいなどと考えてはいけない。
「あまり身を乗り出しては危ないですよ」
「危なくないよ。今日は大丈夫な日(絶対孕む日)」
「そんな日はありません」
窓から落ちないよう念のため体を支えるべく腕を動かすが、成人女性の体はどこならば触れても許されるのだろうかと悩む。
後ろにまわって腰を掴むのは後背位みたいになってしまう。
お腹と背中を挟むように掴むのは子宮を外圧で責めているようになってしまう。
肩を掴めばリリは動きづらく。胸なんてもってのほか。
腋の間に腕を差し込めばそれこそ性行為だ。羽交い絞めの立ちバックでガン突きである。
悩んだ末にいつでも掴めるようにと、腹の前に腕を通して保険として置いておくことにした。
「馬車で迎えに来ると言うことはそれほど険しい道を進むわけではなさそうですね。このまま街道を利用していける場所には危険そうな地域もありませんし」
「もし危ない目に遭っても、私が君を守ってあげるよ」
カッコいいセリフだが、風が強くて顔に三つ編みがかかってしまい表情がうかがえないのが残念だ。
と、馬のペースが落ちてリリの顔を三つ編みが隠さなくなる。
「馬車が止まりそうだよ。なにかあったのかな」
「だとしたら危ないのでリリもこちらへ」
リリはいそいそと窓を閉めて何故か俺の上にちょこんと座った。
どうやら俺の言ったこちらへというのを取り違えているらしい。なんという娘力の高い子なのだろう。
「よくあるのはタイヤの故障だけど。こんな上等な馬車がそう簡単に壊れるとも思えないね」
「お客さん、魔物です! 身を隠してください!」
御者台から降りてきた男が客用のスペースに転がり込んでくる。
「あいつらの狙いは人間です。ですがスレイプニルを恐れて近寄っては来ないはずですから、やつらが諦めるまでしばらく待ちましょう」
御者はちょび髭の小男。
見ただけでは気の小さそうな男だが、これでも豪華な馬車を任されるぐらいなのでこの手のトラブルシューティングには慣れているのだろう。非常に手際がいい。
リリの行動も早く。気づけば最後のカーテンを閉じるところであった。
「なんの魔物だろう」
小声で尋ねるが御者には聞こえていない。というよりも俺にだけきこえるように言ったようだ。人見知りなのは相変わらずである。
「どういった魔物が現れたのですか?」
「わかりません。もしかしたら盗賊の類かもしれないですが、草原の中で動いていたので、ろくなものじゃないのは確かです。まっとうな人間なら街道から外れようとはしませんから」
詳しく確かめもせずに隠れる――これでいいのだ。
何かあってからでは遅いのだから、何かが起こる前に対処する。
予防に勝る防犯はない。避妊薬に勝る避妊具もない。
人の命を預かっているのだから臆病なぐらいで丁度いいのだ。
彼とは気が合いそうじゃないか。
「門外漢が馬鹿を言っていると笑われそうですが、魔物相手ならスレイプニルの足で駆け抜けられそうなものですが難しいのですか?」
「そうだよ。盗賊だって振り切れるはずだ。じっとしていても奴らはしつこいから中々諦めないと思うよ。矢を持ってる場合だってある」
「いえ、この辺にいる盗賊の場合はここであえて見逃し、先にいる仲間と挟み撃ちを仕掛けてくることがあります」
「ふーん。それは小賢しいね」
あれ、それじゃあ盗賊だった場合ここで止まっていてもどちらにせよ挟み撃ちにされてしまうのでは?
魔物ならば離れるまで待てばいいが、盗賊への対処はどうするつもりでいるのだろう。
「では盗賊だと確定した場合はどのように対処しましょう」
「わ、わかりません。私は雇われの身なので馬の扱い以外の知識なんてありませんから」
もしかしてこの男、臆病なだけで考えなしにこちらのスペースに移動してきたのか?
「なんだ、なら戦うしかないね。それに魔物が退いてくれるって言うのも希望的観測にすぎない。相手の数が多ければスレイプニルだって獲物に勘定されてしまうはずだよ」
「ひぃーっ、そんなー!」
戦うと聞いただけで頭を抱えて震えてしまう御者。
なんて頼りにならないのだろう。俺の見る目のなさもあまりにも頼りない。
「そうであるならば、じっとしているだけでは不利に働きますね。御者さんはここで隠れていてください。私が様子を確認してきます」
「はいぃ……お願いします」
うずくまって小さくなっている御者をおいて慎重にドアを開け。御者台に乗って立ち上がり高さを確保して周囲を見渡した。
魔物や人の気配はなく、聳え立つ山を背景にただ風に揺れる草原が続いている。
「見間違いという線はないのでしょうか」
いつのまにか横に立っていたリリに話しかける。風に髪がゆられてとても凛々しい。
「どうだろうね。臆病な人だったからそれもあり得るとは思う。でもこれだけ同じ景色が続いていたら異変には気づきやすいんじゃないかな」
風でたなびくリリの外套。
変態精霊の悪戯としか思えないピンポイントな強風が何度も下半身目掛けて吹きつけられ、前側からミニスカートと生足がこんちはと挨拶をしてくる。可愛いよ――と返事をしそうだ。
間違って言わないように「こんにちは」を心の中で連呼しておこう。
「こんにちは」
「こんにちは? なにが?」
意識しすぎるあまり一発目から口に出してしまった。
「風に挨拶をしただけです。お気になさらず」
「あぁ、精霊信仰の一種だっけ? シクリッド教団は信仰の幅が広いんだね」
「これは個人的な主義ですよ。精霊とは何かと縁があるもので」
「そういえばダンジョンでは精霊語も話してたもんね」
「そういうことです」
危ないところだったがなんとか誤魔化せた。
自分の生足と喋っている変態だとバレたら二度と父親面できなくなるところだった。
長年冒険者をやっていただけあってリリの足は逞しい。とくに大腿筋は目を見張るものがあり、目で見張りたくなる。性行為の権威などに、これは生殖器だと言われたら納得してしまいそうな艶めかしさだ。
世の父親が娘の露出を嫌う意味が少し理解できた。
こんな素晴らしいおみ足を飢えた男どもが見たら種を植えたくなるに決まっている。帰ったらもう一度街で買い物をして露出の少ない服を買い与えよう。俺がリリの下半身を耕してしまう前に。
「やっぱり何も見つけられないね。もう少し高さをとろうか」
「これ以上の高さと言いますと?」
「馬車の上に乗るんだよ」
きびきびとした動きで馬車の上に飛び乗ってしまうリリ。
念のためスカートのなかを見ないように下を向いておく紳士な俺。風の精霊の仕業か、ここぞとばかりに下から上に向かって強風が吹いている。
絶対に見ないからな。
「君もおいでよ。こっちのほうが見やすいから」
「見えやすいとまずいんですよ」
「なんで? 見えないとどこに何が潜んでいるのかわからないよ?」
下にいたほうが色々見えやすいのだが余計なことは言わない。
「……そうでしたね。すぐに行きます」
「(すぐにイキそうなダーリンも可愛いだろうなぁ)」
「私の体重を支えられるほど馬車が……頑丈で……あることを……神に祈りまショウッ! こらリリ! 耳に息を吹きかけてはいけませんと何度もいっているでしょ!」
リリとは対照的に亀の様な遅さで馬車の上にはいのぼっている最中に、耳元に息を吹きかける悪戯をされた。お気に入りの悪戯らしくリリはキャッキャと喜んでいる。
「ごめんね。はい、手」
「いえ、私は重いので自力で上がりますよ」
上から、「お手」と言われたみたいで興奮する。
リリが手を差し伸べてくれるが、しゃがんでいるのでスカートを飛び越してその中が見えそうになったので、馬車に頭をこすりつけるように無様な姿をさらしながら這い上がった。
「馬車が頑丈で良かったです。どんなつくりをしているのか、たわみもしないですね」
「頑丈さなら君の方が上だよ? 乗り心地もね(ダーリンが眠っている間に毎朝乗っているからね。もちろん初めてはお互い意識のある時にと決めているけど)」
いや馬車と張り合わされても。そんなの俺の圧勝に決まっているだろ。
俺のお馬さんをみたらそんな暢気なことは言えなくなるぞ。
「視界の角度が取れたのはいいけど、こうも広いと焼け石に水びたしだね(私とダーリンは、焼けるような棒に水浸し)」
それだと効果覿面という意味になりそうだが可愛いので黙っておこう。
「私がもう少し背が高ければよかったのですが」
「それ以上大きくなったら灯台になっちゃうよ? (さすがにそれ以上になったら入らないよ)」
人の心とは面白いもので。賊に山だと揶揄られたときはあんなにも不快だったのに、リリに言われると不快どころか快感を得られる。
「ええ、これで目を光らせられたら完璧でしたね」
きょとんとしたあと、リリは想像したのか束ねた髪で口を隠して笑う。
「海を見下ろせる岬で、腕を組んでいる巨大な君が、目を光らせているところを想像しちゃった。海賊船に対して目から光線を出せたらつよつよだね」
怖いよ。よく笑っていられたな。
体を寄せるリリ。これはリリが笑っているときの癖である。
これがあるから余計に笑わせたくなってしまう。母性がおっぱいミルクをあげたくなり、義父性がおちんぽミルクをあげたくなっている。
でも他の男にもこれをやったらと思うと胃がきりきりするな。
今のところ俺以外に笑顔を見せるのはルカぐらいなものだが、それはそれで逆に心配だ。もっと俺たち以外の人ともうまく接しられるようになってほしい。
「でも灯台か……あっ、いいことを思いついたかも。ちょっとしゃがんでもらえるかな」
「はい、なんなりと。してなにゆえでしょうか」
冒険者でもあったリリの指示には迷わず迅速に応えるべきだろうと思い、行動してから尋ねた。
海のことは漁師に問え。こういうときは素人考えなどは捨てて言われるがままに行動するべきなのだ。
スカートをたくし上げて「舐めて?」とか言われてもそれはきっとそれは大切なプロセス。迷わず舐めて差し上げよう。
「君には灯台になってもらうよ」
何を言っているのかわからない。
灯台なら股間にあるがそれとは違うのはわかる。
「よっと」
リリが外套を器用によけて俺の肩に両足を乗せる。
肩車をしてより高い視点を確保するという意図は理解できたが、頭をよぎるノーパンの文字が思考の邪魔をする。
極力後頭部には意識しないよう、リリ様のおみ足を触らせていただきがっちりとホールド。
「うん、思った通りすごい安定感。二人が一体化したみたい。もういいよ立ち上がって」
立ち上がっての合図をリリ様の勃起要請と誤解した聖棒が膨らみかけた。
片足立ちになって筋トレ開始。
「わわっ、すっごい高い! これ楽しいー!」
「目的を見失わないでくださいねリリ。今は敵対生物の索敵ですよ」
「あっ、そうだね。じゃあ安全な日にまたして?」
こんな美女に安全日にしてと言われて断れる男子が世の中にはどれほどいるのだろう。選択肢は肯定の言葉しか浮かばない。
「リリが望むなら喜んで付き合いましょう」
「やったね。約束だよ」
ふざけているようでちゃんと索敵もしているリリ。身をよじって左右を見渡す度に後頭部を意識させられる。
襟の長い神父服でなければ終わっていたな。スーツスタイルで来なくてよかったと心底に思う。
「あっ」
「何か見つけましたか。であるならばすぐに馬車から降りましょう」
「うん……あれは……魔物で間違いないね」
あなたを肩車しているのも性欲の魔物みたい男です。早く分離しないと、今度は別の体勢で合体してしまうぞ。
「ではすぐに――」
「ちょっと待ってね。多分ゴブリンの群だから、そこまで急いでどうこうしなきゃいけないもんじゃないと思う。だからもう少し確認しておきたいんだ」
ゴブリンの群と聞いて安心できる女はリリぐらいなものだろう。
あらゆる生物のメスを犯して子を孕ませるゴブリンは、女性ならば忌避して当然の魔物である。そしてその生態は度々オークと混同されてしまうのが癪だ。
「やつらは狡猾で小賢しく、そしてすばしっこい魔物ですよ。のんびりしているうちに距離を詰められてしまいませんか」
「まあそうかもしれないけど大丈夫だよ。ゴブリンだけなら今からでもスレイプニルで逃げ切れるはずだし。問題なのはまた別のやつがいるかもしれないことなんだ」
「別の魔物ですか。ゴブリンは他種族にも嫌われているので一緒に行動する魔物など……いやいますね。とびきり厄介なやつが」
「でしょ」
ゴブリンとも共存するゴブリンの近縁種、レッドキャップだ。
頭に赤色の帽子をかぶった小型の老人のような見た目の魔物。
赤い帽子は生き物の血を吸わせたもので、常に帽子を血で濡らしていないと死んでしまうと言われている妖精や精霊に近い生態をしている。
ゴブリンとは違いメスを犯すことを一切目的に含めず。ただひたすらに殺戮を求める残虐性の強い魔物である。
「あーほら、やっぱりいたよレッドキャップ。見たところ一体だけまじっているみたいだね」
「一体いれば村一つが滅ぶこともあるという魔物です。急いで馬を出しましょう」
あたりに村でもあるならば討伐するという選択肢もあったが、地図には周辺に村の表記はない。大逃げあるのみだ。
依頼がなくとも死体を冒険者組合に引き渡せばそこそこの値段にはなるが、いまは金よりもリリの安全を優先したい。
「あー、ごめん。もう遅いかもしれないや」
「と、言いますと」
「あっち側だけじゃなくて後ろにもいるんだよね。それももう目の前まで来てるっぽい」
体をのけ反らしているリリ。
失敗した。普通に受け答えをしているふりをして後頭部に意識をもっていかれていたせいで同じ方向しか向いていなかった。
完全に俺のミスだ。旺盛な性欲による失敗だ。
「こうなったら降りて交戦するしかなさそうだね」
「そのようですね。まことに申し訳ありません」
「どうして謝るの? 君は何も悪くないよ。でも大丈夫、君は私が守るから」
まったく、これではどちらが親役なのかわからないな。
ファミリアども:みんなで黒い服着ようぜ! 黒が俺たちのチームカラーだ!




