20話
かたまる双方。
みな視線はブーツに身を包む聖棒へ向かっている。なぜかつられてリリも覗き込んでいる。
見られると興奮するようなタイプではないが、自分の自信のある部位を凝視されるというのは存外心地いい――などとは考えないように己を律する。
沈黙を破ったのは長毛種の猫顔。ティアスよりも後ろにいる猫人の女性だった。
「発情してる匂いがする。お前こんなところで盛ってたのかニャ」
なぜバレた。
獣人種は五感が鋭く鼻がきく者も多いのは知っているが、この距離で発情しているのがバレるほど鋭敏で、それも勃起していない状態で察知するとは。
「なにか誤解しているように見受けられますが、私は彼女を救助し、ダンジョンを出ようとしているところだったのです」
「その格好で誤解するなは無理があるんじゃないかな」
「…………」
ごもっともでございます。
こんななりのやつがうろついていたら通報するのが国民の義務です。
「これは成り行きです。魔物に襲われてこうなってしまったのです。ダンジョンで自ら率先してこのような姿になったわけではありませんよ」
「襲われた? 君がその背負っている女性を襲ったの間違いだろ。それとも自分のことを魔物と呼んでいるのかい?」
「…………」
状況的にそう思われても仕方ないし、リリが襲われたと言いだしたら否定できない。法廷では負けが確定するような真似もした。
嫌がるリリを無理やり脱がして舐めまわし。最終的にはキスを強要したのだから裁判にかけられたら絶対に負ける内容である。
この男、一々論破するのが上手すぎて反論の余地がない。
「おいていきたまえ」
「おいていくとは? ま、まさかこのブーツを!?」
聖棒を隠しているブーツだけは奪わないでくれ。これがなくなったら教会に戻る前に牢獄に連れていかれる。そうでなくともギリギリなのだ。
「そ、そっちじゃない! 彼女をおいていけと言っているんだ! 君のような発情期の性獣と一緒では彼女も生きた心地がしないだろ」
怒りすぎだし性獣はいいすぎだろ。
せめて人扱いしてほしい。
「それは難しいですね。彼女はこれから教会に連れて行き治療のつづきを――」
「僕はおいていけと言っているのだから君は従えばいい。治療が必要ならうちのメンバーを数人つけて信頼できる医師のところまで連れて行かせるさ。君の教会へ連行されては何をされるかわからない」
「私は神父です。あなたが想像されているような蛮行に及ぶことは神に誓ってございません。それに彼女の容態は熟知しているうえ、教会に戻れば薬草などの用意もありますので素早い処置ができます」
「神父がそのような格好をするものか」
それを言われると弱い。
この変態スタイルである限り、言い合いには勝てる見込みがない。
だからリリ、せめて鼻に髪をさしたままにするのはやめてくれ。変態度が増す。
「一目見たときから碌な奴じゃないと思ってたけど。まさか人さらいの真似事までしてるとは思わニャンだ。たぶんこいつダンジョンの中層なら人がこないと思ってはっちゃけた格好をしてたんだニャ」
「女性を性処理の道具としかみていないタイプですね。一度あの教会も捜索した方がいいかもしれません。地下にお腹を膨らませた女性が何人も出てくるかもしれません」
束縛を得意とする魔法使いと猫娘の罵詈雑言。俺でなければ激昂していただろう。俺はただただ委縮するばかりである。この時ばかりは聖棒も委縮して子供サイズになってもらいたかった。
「シザラ、カテナ、気をつけろ。やつは僕でも手を焼くような相手だぞ。下手に挑発をして怒りに任せて向かってこられたら無傷では済まない」
高く買ってもらっているようだが、もう少し安く見積もってもらいたい。
「はだかんぼうだから弱点が丸見えニャ。あそこを狙えば一発と見た」
それは本当によくない。
ティアスもそうだったが股間を狙うのは反則だ。
「シザラ、勇気と無謀を履き違えてはいけないよ。あの時だってロイズレッドは武器を持っていなかったし防具も身にまとっていなかったんだ」
猫娘がシザラという名前らしい。では小柄な魔法使いはカテナか。そして俺の名前もしっかり把握されている、と。
「狡猾な罠にハメてティアスに入れていましたね。あれはカウントに入れなくてもいいんじゃないですか。あんな図体で搦め手を使う輩だとは普通思いもしませんから」
「負けは負けだよカテナ。油断をした僕が悪いんだ」
「さすがはティアス様だぜ!」
「不意打ちであっても自分の敗北を認められる男の中の男!」
うしろにいる外野がやんやと騒いでいる。
猫にしか見えない雑用係の小型獣人が四人とその他の人間が一人。ティアスたち戦闘要員は三人なので合計八人のパーティーだ。
「ご希望に沿えず恐縮至極ではございますが、なんと言われましても彼女を置いていくという要求を聞き入れるわけにはいきません。私は彼女を安全な場所まで連れて行くと約束しましたのです。一度かわした約束を破るような真似は神父としてできません」
「処女膜は破るくせによく言うニャ」
どっちも破ったことねぇよ。
「相変わらず頑なようだね」
相変わらずと言われるほど深い関係ではない。あなたとはただの顔見知りです。
「なら交渉は決裂ということでいいんだね」
「ケツが裂けてケツ裂ニャ」
「さっきから下品ですよシザラ」
下品と言うか恐怖なんだが。
なんで唐突にケツを裂こうとしているのだ。やつにだけは背を向けてはいけない。今の俺は裂けやすすぎる。
「申し訳ありませんが譲歩の余地は一切ございません。敵対の意思がないのは当然として、私はこの通り両手がふさがっている状況ですので何をしようにも手も足もだせません。ですので何卒、今回ばかりは何事もなく通してくださると幸いなのですが」
「嘘ニャ! まだ三本目の足が出せるニャ!!」
聖棒にブーツを履かせていたせいで足判定され揚げ足を取られてしまった。
ニャーニャーうるせぇし指をさすな。そこには触れない流れだろ。真面目に話している俺とティアスが馬鹿みたいに見えるじゃないか。
この町の猫人たちは聖行為関連の話題が好きすぎる。
「そうかい。じゃあ君の後ろに隠されている女性の意見はどうかな。彼女の意見こそ尊重するべきだろ。さっきから聞いていれば君の一方的な要求ばかりじゃないか」
「…………(なぜ私が発情しているのをあの猫人にバレたの?)」
リリは何も言わない。
頼むから何か言ってくれ。誤解される。
「怯えて声も出ないってわけだね。それとも予め脅していたのかな」
ほらな。誤解されちゃった。
酒場でも一言も話していなかったし、リリは人見知りなだけなんだと思う。
さっきまでは楽し気に喋っていたもの。
「わ、私はこのままでいい……早く……この場から離れたい」
その如何にも言わされている感じを醸し出す弱々しい言い方よ。
さっきみたいに長い言葉を並べてもっと大きな声で言ってくれ。
恐怖に竦んで短い言葉しか喋れないんだ――みたいに受け取られてしまう。
「リリ、もっとはっきり言ってくださらないとですね。その言い方だと増々疑われると思うんですよ」
「っ……!?(はっきりイッてください!? 今ここで!?)」
なぜ何も言わない。耳元でも聞こえないほどの小声で何かを言うのではなく大声で頼む。
「あれは相当怯えてますよ。よほどひどい仕打ちを受けたんでしょうね」
「あんなもんぶち込まれたらそれだけでひどい仕打ちニャ」
「無理やり犯されたのか……想像を絶する恐怖だったろう。あの状況で声をあげて人に助けを求められる婦女子はそういない。こういうときのために予め脅されている可能性だってある。逃げようとしたら家族もろともすべての穴を犯す――とかね」
世間で俺の噂が独り歩きしていい感じに醸成されているのを感じる。
どういう事実をもとに俺のキャラクター性は構築されていいているのやら。
「どちらにせよそうするつもりなのだろうけどさ」
「ネズミ算的に家族を増やしてやるよグヘヘ……とかですかね」
低俗すぎる。
カテナとかいうショタ風の魔法使いめ、俺の繁殖力をネズミと同等レベルだと思っているのかこいつ。
随分と侮られたものだが、俺はそれ以上に性欲が強い自信がある。
一回の交尾期に何十回もの挿入と複数回の射精を執拗に繰り返すと言われるアカネズミ。一日の交尾回数は二十をこえることもあるそうだが、俺はその話を司教から聞いたときに「案外少ない」という感想を抱いたのだから。
「ニャフッ!? いきなり発情してる匂いが急激に増した。もうそれが答えニャ。人は騙せてもニャーのこのっキュートなお鼻は欺けニャいぜ!」
「…………!?(ダーリンと家族を増やすのくだりに反応しちゃったのもバレてる)」
なんか滅茶苦茶言われているな。
そして俺はそんなに発情しているのか。緊張でそれどころではないのだが自分ではわからないものだな。
「こんどこそ交渉は決裂だね」
言うほど交渉していただろうか。一方的に悪口を言われて辱められていただけなのだが。
「カテナ、頼む――奴を捕まえてくれ」
「お任せてください」
魔法使いが何やら念じている。イヤな予感しかしない。
攻撃をしてくるつもりならばリリだけは守らなければ。
「……縛ッ!」
「おぐッ!?」
黄色い縄のような魔法が突如として足元に出現すると、二本の足をそろえるように巻き付いて俺の身動きを封じる。
「人質を取られている手前、動きは封じさせてもらうよ。まさか卑怯とは言うまいね。先に卑怯な手を使ったのは君なのだから」
瞬時に両足が縛られてしまったが、どういうわけか三本目の足まで縛られている。足は二本なのに聖棒だけ念入りに五本巻かれているのはどういうことか。こちらのほうが要警戒対象であるという意味なら誤解もいいところである。
こっちの足は新品未開封で戦闘実績は0なんだぞ。
「なにをなさるのですか。私に抵抗の意思も争うつもりもございません。このような真似はおやめください。お互い一度冷静になって話し合いの場を設けませんか」
「そんなに発情臭をプンプンさせて冷静は無理があるニャ」
じゃあせめて聖棒をイイ感じの具合で縛るな。どうなっても知らんぞ。
「手足を千切るつもりで縛っているのにまるで効いた様子がない……バケモノですね」
ひとの聖棒をそんなつもりで縛るなバカ。
腹に穴をあけるつもりで殴ってきたティアスといい、このパーティーには人の心がないのか。
「話し合いなら十分に済ませたよ」
「私にとっては不十分極まりないものでしたので再度お願いします」
程よい具合のバインドのせいで膝の力が抜けそうだ。まじでやめてほしい。
玉の方だったらもっと危なかったので、そうならなくてよかったと前向きにとらえるべきか。
「あのときだってそう言って頭突きをお見舞いしてくれたのは他でもないロイズレッド、君だろうに」
「あれは不慮の事故の中の不幸な事故です。悲しい行き違いがありまして意図したものではございません」
「もしそうならすぐにその場で弁明すべきだろう」
あのときすぐに謝るべきだったのはそうかもしれない。
だがマスターが怖くてそれどころじゃなかったのだから仕方ないじゃないか。それは双方同じだったろ。
「あの人、口だけは達者ですね。どうせなら口も拘束しますか?」
それほど達者ではなかったように思う。だって聞く耳持ってくれていないじゃない。
「いやかまわないよ。もう僕は二度と……彼の言葉に惑わされたりはしないからね」
「誤解なのです。前回の件はこの場を借りて謝罪させていただきます。深くお詫び申し上げます。だからどうかお許しください」
両足をそろえるように縛られているのでバランスを保つのに精いっぱいで、喋るのことに意識を割きづらくなってきた。
俺が倒れればリリも投げ出されてしまう。弱っている彼女にそんな真似はできない。
「ティアスはあいつをどうするつもりかニャ? 念のため手足の腱をきっておこうか?」
「必要なら心臓も縛りますよ。この状況なら容易くかけられます。あのようなバケモノは誤って死んでしまっても問題はないでしょうし」
なにやら恐ろしい相談をしているね。
目的がリリの奪還から俺への拷問に切り替わっていないかい。
「いや、そこまでする必要は――」
「……(殺す)」
ふっと背中が軽くなる。
なにかと考える間もなく眼前にはリリが飛び出していた。
「なんだ自分で逃げられたゃブミャ――!? あぎゃ……?」
地面に氷を出現させ突き出された氷の勢いで射出されるように飛んだリリがシザラの顎を蹴り。何が起きたのかも理解できぬままシザラは膝をおって昏倒する。
「――ば、縛ッ!! 縛ッ!!」
それにおくれて反応したカテナがバインド魔法を連続でかけるが、リリは足元に出した氷で飛び上がって的を絞らせない。
氷の壁をつくって遮蔽を作りバインド魔法にかからない状態を作る。
続けて天井にむかって氷で飛び上がり、天井から氷を出してシザラのときと同じ要領で射出された勢いで両ひざを顔面に落とす。
「ぐぶぅう――!」
あれは鼻が折れたんじゃないか。
「な、なにをしているんだい!? 僕たちは君をすくおうと――!」
次にティアスを狙って手を横に払うと、周囲には寒冷地帯の極寒の冬に発生する特有の自然現象――ダイヤモンドダストかのような景色が一帯に広がる。
美しい光景に見惚れてしまうが見惚れている場合ではない。
何が起きるかはわからない。わからないがこれ以上続けさせるのはマズというはわかる。
「待ちなさいリリ! むやみに人を傷つけてはいけません! 戻りなさい!」
「んぅッ!」
ダイヤモンドダストはかき消え。振り返って駆け足で戻ってきたかと思えば背中に搭乗するリリ。
あれだけ動けるなら背中におさまる必要もないのではなかろうか――というのは野暮な話だろう。疲れている中で俺を守るために無理を押して戦ってくれたのだ。それぐらい頭の回転が鈍い俺でもわかる。
「怪我はありませんかリリ。気持ちは嬉しいですが、あまり無茶をなさって心配かけないでください。あなたは病み上がり……ではなく病んでいる真っ只中なのですからね」
「うん……ごめんね?(ダーリンに待てって命令された……ダーリンに戻れって命令された……ヤバイ……効く……命令効く……)」
やはり疲弊している。さっきよりも体重の預け方が幾分も増してしまった。俺がもっとしっかりしていれば……。
「まさかこの氷魔法の練度に身体能力の高さ……君はエルだったのかい!?」
ティアスはいまさらになって気づいたようだ。
どうも様子がおかしいと思ったが、リリだとは知らずに話を進めていたようである。
火傷のあとも腕も治っているのだから、服や髪が似ている程度ではすぐには気づかないのも仕方がない。むしろよく気づけたものだと褒めてやるべきだろう。
「ほほう、よく気づきましたねティアスさん。さすがは一流の探索者だ。褒めて差し上げましょう」
「くっ、馬鹿にしてッ……!」
いやそんな意図はない。ただ単純に褒めただけなのにどうして。
もう何も言うまい。
「ハハ、そうか。そういうことか。二人で僕を騙していたというわけか」
何も言わなければ別の誤解が生じるのね。
「ティアス、この国における探索者狩りの罪は重いよ。軽くても死罪。重くて拷問からの死罪。私が証言すれば後ろにいるやつらもそろって死刑囚の仲間入り。それも救出途中のスカベンジャーを襲ったんだ。パトロンの威光があろうとも減刑は望めない」
「こ、攻撃したのは君が先じゃないか!」
「先に魔法を行使したのはそっち。殺すための算段を立てていたから私は仕掛けた」
「っ……正当防衛と言いたいのか。だけどやりすぎだ。戦闘員の仲間が二人も行動不能になっている。ダンジョンの中層で三人中の二人も倒れたどうなるかわからない君じゃないだろ!」
「それはそっちの都合でこちらには無関係。先に仕掛けたのだから自業自得」
リリは端的で事務的な返答しかしない。
俺にだけは砕けた口調で話していてくれていたと知って地味に嬉しい。いや派手に歓喜。ぎちぎちに締めていたバインドが解かれていなかったらけっこう危ないところだった。
「それに彼が本気になっていたら、あなたたちはもうこの世にいなかった」
いるいるぅ。
「こちらは三人いて拘束も――いや、でもエルが言うほどならそうなのだろうね……。まだ僕は力を見誤っていたらしい」
リリの言葉は素直に信じるんだね。
「だいたいどうして君は顔も治って腕がはえているんだい。今までの姿はまやかしだったとでもいうのか。そうか、あのとき絡んだ恨みを晴らすため二人して僕たちを殺すために――」
待ち伏せするにしてもこの格好はおかしいだろ。気づけよ。
「甚だしい勘違い。彼はそんな小者じゃない」
ええ、もっと小者ですからね。
「怪我が治ったのはダンジョンの最奥でエリクサーを拾ったから…………彼が」
俺!?
「なっ、え、エリクサーを見つけたのかい!? 神酒にならぶ治癒系統では最高級ポーションだよ!?」
「私が倒れて死にかけているところ。彼の栄光の一部を拝借した」
「そ、それはまさかロイズレッドがみつけたエリクサーを君に使ったという意味かい……?」
「……(名前で呼ぶな。私だって呼べてないのに。イライラする)」
ああ、そういうストーリーラインで進めるのね。
俺の体液の治癒効果を隠すために。
「彼はとてもすごいんだ。あなた達じゃ束になっても敵わないよ。百人連れてきても勝てないね。私が千人いても勝てないと思う(千対一でダーリンを犯したい)」
持ち上げすぎだね。
そこはたまたま拾ったことにするだけでいいし、余計な補足はいらなかった。
「それ一つで城が買えるっていう高価な薬をたまたま倒れていたエルにつかった? 面識もないのにかい?」
リリは俺の秘密を守るために嘘をついてくれている。多少無理もあるが話を合わせるしかあるまい。そも予め言い訳も考えず、口裏合わせをしていない俺が悪い。
だって、初めて女の子とまともに会話ができたんだもの。楽しすぎてそこまで頭が回らなかったのだ。
「確認したい! ロイズレッド、君はエリクサーを手に入れながら本当にエルに使ったの?」
「神父ですから」
余計なことは言うまい。ぼろが出る。
「神父だからってそんなっ……! 聖人でもあるまいに!」
「ダーリ……彼は神父だからね」
「いやだから神父だからって! 前にいた神父は金に汚いろくな人間じゃなかったと聞いていたよ!?」
はて誰の事だろうか。賊に殺されたヨアヒムのことではないのは間違いないだろう。
ではゴルドー神父か? いや、いい加減な教団の事だから報告もなしにほかにも数名送っていた可能性はある。
「事実として彼はこうして私を守り、そして治療してくれた。この動く腕が何よりの証拠。それに新種の魔物も彼は倒している」
それ言う必要あるかなー?
誤解の傷口がひろがるだけな気がするよー?
「新種の魔物? それは僕たちが依頼を受けて探していた相手だ。どこに出現したんだい!」
案外食いつきがいい。
誤解を恐れるなら俺ではなくリリにこのまま任せた方がよさそうだ。
「このずっと奥にある膨らんだ広い空間。素材ならまだ残ってるはず。彼は一つも剝ぎ取らずに私を守るためにここまで急いで戻ってくれたから。でもあなた達が脱出の邪魔をした。そういう流れ」
「くっ……それじゃあまるで僕たちが悪いみたいじゃないか」
まるでではなくそのまま悪いんですけどね。
ティアスの後ろでは荷物持ちたちに何かしらのポーションを使われていたシザラとカテナが意識を取り戻してのそのそと起き上がる。
二人が話し合っているのを見て状況の把握に努めているご様子。
「三人に戻ったし素材だけでも取りに行ったら? 依頼を受けているなら素材を持ち帰ってあなた達が倒したことにすればいい。私たちは口外しない。ね?」
最後の「ね?」は俺へ同調を促すものだろう。そこだけ声が気持ち高くなっていた。
「彼女の言う通り、私たちは素材を持ち帰るつもりも依頼の成果を横取りするつもりもありません。私はただ彼女の治療のためにいち早く安全な場所へ連れ帰ってあげたいのです。ですのでどうかここを通してはいただけませんか」
「そんなたわ言を……それを全て信じろと言うのかい」
「信じてもらう以外にありません。私では難しいなら彼女の言葉を信じてください。彼女は中層に一人で挑む勇気と実力を兼ねそろえた現役一等の探索者ですよ」
「でもエルはエリクサーも使われて元気いっぱいに見えたけど。僕の仲間を二人一瞬で無力化してしまったんだ」
「見た目は治っているので瞬間的には動けるでしょう。ですが体内には強力な毒が残っています。予断を許しません。一刻一秒を争う状況であることをどうかご理解ください。あなた方が今しているのは、病人の搬送妨害ですよ。それでも探索者狩りなどとは思っていませんので通報も致しません。その点はご安心を」
「………」
しばしの沈黙。
「わかった。ここを通そう。その代わり魔物の素材は僕らが持ち帰るけどいいね。依頼の達成もこのまま僕らの名で申請させてもらうよ」
「そのようにしていただいて構いません。元より依頼を引き受けてはおりませんので、依頼主様から報酬を受け取る資格はありませんので。素材を売るにしても私はスカベンジャーでの登録をした身。この通り何も持ち帰っていませんから」
ならブーツの中を見せてみろ! とか言われて脱がされたらどうしよう。
「あ、あとから分け前がニャンだとか言うなよ!」
「そのような恥知らずな申し出は神が許しません。そも私は神父です。神に仕える身なのです。己の勇名を馳せるに興味を持ちません。あなた方の今後益々の活躍とご健勝を陰ながらお祈り申し上げさせていただきましょう」
平和的な解決を望むので最後は作り笑顔でしめる。
「嘲笑っている。嫌味なやつですね」
「いやらしい言い方。なんてイヤなやつニャ」
誠意を込めて応援しただけなのに。
「もういい二人とも。争いの種を増やすような真似はやめるんだ」
「でもティアス!」
「あいつはニャーを蹴ったニャ!」
「それは先に仕掛けた僕らが悪いんだ。彼らは自衛の権利を行使したにすぎない。紛れもない正当防衛だ。法的にはそれが成立してしまっている」
「もしかして、ぼくがバインドをつかってしまったからですか……?」
「それを命じたのは僕だ。もしも探索者狩りの嫌疑をかけられたなら僕だけが出頭するよ。全ての責は僕が背負う」
「ティアス……」
「ゴロゴロ……」
こういう人たちのリーダーって仲間には優しいんだよな。
俺には死ぬほど厳しいのに。
「それでは急ぎますので。魔物に関して何か問題や尋ねたいことなどがあれば教会へお越しください」
社交辞令だからな。絶対に来るなよ。
「ああ、次こそは覚えておいてくれ。正当な手続きのもと君に決闘を申し込みにいくよ」
絶対に絶対に来るな。




