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18話

「リーア・リーナ・リーサ・リース……でしたよね。呪文の詠唱かと思いました。早口遊びにもつかえそうな名ですね」

「人の体をもてあそび、あまつさえ名前でも遊ぼうとするんだね」

「…………」


 そんな言い方する?

 やや、俺なんぞに体を舐められ唇を吸われたら誰でも嫌悪が先にくるのは当然か。

 そのうえ名前をからかうなど俺はなんて配慮の欠けた愚かな発言をしてしまったのか。

 エルが治ったので気が抜けてしまっている。これはいかんぞ。


「失礼しました。あなたの大切な名を貶す意図はございませんでした。不快な思いをさせてしまったことどうかお許しください」

「ん、許す」


 エルが寛容で助かった。

 嫌われたらどうしようかと思ったが雰囲気の通り細かいことを気にしないカラッとした性格のようだ。


 いやなことをいつまでも記憶していて。あのときこう言えばよかったとか、こうすればよかったとか毎晩思い出しては後悔している、じめっとしてどろっとした湿度の高い俺とは大違いだ。


「それとあれは弄んだわけではなく、純然たる治療行為でしてそれ以上の意味はございません。気にしない……というのは難しいかもしれませんが、あまり重くとらえないでいただけたなら幸いです」


 人口呼吸と心臓マッサージが愛撫ではないように、あれは治療行為であって性的な意味あいを持つ行為ではなかった。どうか誤解をして通報しないでください。お願いします。


「うん……気にしないでほしいならそうしようかな……。うん」


 散々腹を舐められてキスまでされたのだから歯切れが悪くなるのも頷ける。本人も忘れたいのだろう。

 どうしよう。慰謝料とかも用意した方がいいかな。女性の心を傷つけておいて金で解決できると思っているのかと思われるのも困る。なんでも金で解決する無責任な神父という噂が町で一斉に広まるぞ。


「まあそれはいいよ。それよりもさ、君の言う通り名前が長いのは認めるところなんだ。自分でもそう思うしね。でもロ、ロ、ロイ、ロロロ……君は私の命の恩人だから、特別にリ・リ・リ・リと呼んでくれて構わないよ。どうかな……?」


 俺の名前を忘れているなこれ。ロイズレッドのイまでしか覚えられていない。

 自然に流そうとしていたが聞き逃せないほどに噛みすぎていた。


「同じ言葉が連続すると舌を噛んでしまいそうですが、それでも許していただけるなら喜んでそうしましょう」

「ふーん喜ぶんだ? リリと略して呼んでいいのは本当に大切な人や家族だけなんだけどね。命を救われたのだから仕方ないよね。もう家族みたいに呼ばれても特別に許すしかないよね」


 命を救われたと受け取ってくれているのが嬉しいじゃあないか。

 人助けをしても「頼んでもないのに」や「余計なお世話」や「でしゃばりなありがた迷惑」などと冷たくされた過去も多くあったので新鮮である。めげずに善行を積んできてよかった。これからも頑張ろう。


 しかし家族は短い名前で呼び合うというのは司教にも聞いたことのない習わしで実に興味深い。

 一口にエルフと言っても住んでいる地域によって様々な文化があり見た目も大きく変わる。同じ種族であってもグループごとに習慣が違うのは旅の中で学んだが、エルはそういう文化圏で育ったのだろう。


「ではリリリリリとお呼びしましょう」

「すでに一文字多いね。君の気をつけるとはあまり信用ならないものらしい」


 身じろぎをして抗議するのでおっぱいが押し当てられる。

 こちらの胸がありがとうと言っております。


「ありりリリディリッ――」

「舌を噛むほど言いにくいかな」


 こらえきれずに込み上げてきてしまった感謝の念。思わずありがとうと言いそうになるお喋りな口を無理やり修正しようとして自ら噛んだだけです。


「……ふーん。じゃあ特別にだよ。君は命の恩人だからね。もう少し短くしていいよ」

「ではリリリでしょうか」

「リリでも可。短いほうがいいなら仕方ないね。リでも可」


 リはさすがに短くしすぎだろう。何文字消し飛ぶんだ。どんだけ記憶力のない舌の回らない男だとおもわれているのやら。


「でしたらお言葉に甘えてリリと呼ばせていただきますね」

「フゥ……そう、好きにすればいいさ。念のため間違えないようにもう一回呼んでみて」

「ハハ、さすがにもう間違えたり噛んだりはしませんよ――リリ」

「クフゥー……これでもう噛まなそうだね。やれやれだよ」


 呆れられてしまった。まあおっぱいに感謝しようとしたのをバレるよりは噛みやすい男として呆れられるほうがよいと前向きに考えよう。 


 雑談をしながらいそいそと片付けも済ませ。抱いていたリリを前から後ろに背負いなおし。忘れ物はないかと最後の確認をしてダンジョンから脱出しようと立ち上がる。

 そこに至って大きな忘れ物を一つしていることに気づく。あまりにも自然だったので完全に忘れていた。


 俺全裸だったね。



 リリを背負って前かがみになる。

 勃起したからではない。冷静になると急に恥ずかしくなったからだ。


「申し訳ありません。出発しようというところで問題を発見しました。この姿ではダンジョンの関門や街で騒ぎを起こしてしまうかもしれませんので何か下を隠すものを用意する時間をください」

「それは取り立てて騒ぐような問題かな? 私はそのままでもいいと思うけど」


 いいわけあるか。

 大騒ぎになるような大問題だ。ならないならリリも脱いでくれ。


 世間知らずとは違うかもしれないが、リリは浮世離れしていて一般とは感覚がずれているように思える。

 本来排他的なエルフだけが集まる土地で育ったのならそういうこともあるだろう。俺もエルフにはよく果実をぶつけられたし。


「よいわけがないのです。さてどうしたものでしょう」


 ナマラカインに破られた衣服は必要以上に引き裂かれているので俺の巨大な聖棒を隠すには心もとない。縫い合わせるような道具もないので衣服関連でどうこうというのは難しいだろう。


「私の靴を使いなよ」

「……はい?」


 聞き間違いかな?


「だからそのおっきな陰茎を隠したいんでしょ? 私の靴を使えばいいよ」


 とてもありがたい提案だが、さすがにそれはまずいのではないか。

 そんなのもう間接足コキだぞ。間接キスよりエッチだ。それに美女が放ったおっきな陰茎という文言の威力も凄まじい。


 とりあえずスクワットしておこう。

 だめだ、胸が揺れて逆効果だ。おっきな陰茎が巨大な塔になってしまう。


「よ、よろしいのですか?」

「うんいいよ。特別にね」


 だったら外套の方をかしてほしいのですが。

 外套ならまだ腰巻にみえるし形にはなる。

 だがどうしたって俺の股間に触れるものなので自分から要求するのは気後れしてしまう。

 リリが熟考の末に導き出した情けなのだろうから文句は言えないし贅沢な注文もできないか。


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」

「うん、たくさん甘えるといいよ」


 おいおいそんなことを言われたら本当に甘えてしまいたくなるだろ。(ママ)えるぞ。

 

 背負っているリリが足をプラプラと振って脱ごうとしていたので一度床におろして革製の長いブーツを脱がせる。見すぎると踏まれたくなりそうなのですらりと伸びたおみ足からちょちょいとブーツを拝借。

 ブーツを脱いでもしばらく足をあげたまま、首を傾けてややのけ反り、蔑むような目で俺を見るリリに劣情を催しかけたので聖棒をブーツの中へ即収納。


 危うくおみ足をお舐めして女王陛下のご機嫌を窺うマゾ豚奴隷になってしまいそうだった。


 リリと女王様という組み合わせのフィット感もさることながら、靴のフィット感も実に素晴らしいものだった。

 ちょうどきゅうきゅうに締まって心地よい。これをチュニックにつかっていた紐で縛ればちょっとやそっとでは抜けそうにはないな。


「どう?」


 よく締まっていてあたたかいです。

 誰が履いていたかを想像すると暴発の危険がありますね。


「ぴったりですね。いい履き心地ですよ」


 完全に返答を間違えたな。

 なんだよ履き心地って。人の靴にチンポさしといて出てくる言葉じゃないだろ。


「そう。ならよかった」


 気にしたふうもなく短い返事をするリリを背負いなおしていざ出発。

 聖棒丸出しの大男がいれば普通なら悲鳴をあげるなり軽蔑の眼差しをあびせてきそうなものなのだがリリは特に気にした様子もない。

 ずっとさらしていたので慣れてしまったのだろうか。それどころか上に乗せていたからな。


 天に召された想い人のように、出ているものは仕方ないと現実を受け入れているのかもしれない。聖棒を多角的に分析されるよりはいいだろう。



「――ところなのですが」


 ダンジョンから脱出をしている道中、話すネタもなくなったので切り出す。


「私にオークの血が流れていて、治癒効果があるということは内密にしてはいただけないでしょうか。これが広くしられると町を出なければなりません」

「それは大事だね」


 あまりピンときていないご様子。


 こちらとしては死活問題の大事なので、できることならば言いふらさないでいただきたい。軽い気持ちで「マスター痔になったの? じゃああの神父のところで舐めてもらいなよ。すぐに治るから」とか話されたら二重の意味で大変な目にあう。ロリ奥様の怒りも絶頂に達するだろうから三重で大変だ。


 信じて尻を突き出してくる強面のマスターに「エルにはやったんだってな? じゃあ頼むよ神父さん。俺の尻はもう限界なんだ。一回だけでいいから舐めてくれよ」などと迫られたらどう返すのが正解なのかわからない。とりあえず、「これが答えだ!」と治癒ポーションでも突き刺しておけばいいか。


 そも体液で傷が治るなんて荒唐無稽な話はそう信じる者はいないだろう。

 信じるとしたら余程世間に疎いお人よしか。エルのように一度経験した者ぐらいなものだ。


 しかしリリは腕が治り火傷も消えているという多少の説得力が生まれてしまっている。リリから言いふらされたら、もしかして本当なのかと聞いたものに信じさせてしまう信憑性がある。


 なかったはずの腕がはえていればみな興味を持つだろうし。どうやって治ったのかをエルが答えてしまったらそれで終わりだ。

 揶揄われたと思ってすぐに信じるような人もいないだろうが、半信半疑であっても人の好奇心というのは簡単におさえられるようなものでもない。そのうち藁にも縋るものが教会へ確認しにあらわれるだろう。

 

 なかには教会に巣食っていた賊のように、言葉による意思疎通が叶わず他人の命をなんとも思わない。同じ人類とはとても思えない救いようないアホも世の中には多くいる。

 エルなど舌を使って意志の疎通ができたというのにまったく嘆かわしいことだ。


 やつらのような手合いは考えるのが苦手だ。斬り殺して血を流させようとか。普通の人なら考えない一段も二段も飛ばした思考で噂の真偽を確かめようとしてくるだろう。


 そうなると困るのは俺ではなくルカだ。

 身代金目当てによるひとさらいにあった子供の生存率は1%にも満たないと聞く。もしルカが人質にされたら俺は迷わず聖水や聖液を発射して事の真実をつまびらかに説明し、身柄の確保を最優先とする。もしも殺されてしまっていたら……考えたくはないが発狂してしまうだろうな。

 

「うーん……じゃあ取引をしよう」

「取引ですか。いいでしょう。こちらに拒否権はありませんし背に腹は代えられませんから」


 探索者は慈善事業などではなく、命を賭して生きているのだから何の報酬もなく働きはしない。

 わざわざダンジョンに潜って死と危険が隣り合わせなまま生活をするよりも、こういうときに金を要求して働かなくてもよい安全な時間を長く確保したほうがいいに決まっている。


 これが生きようという意思の表れだと思えばかえって安心できる。リリが生きようとしてくれるならばそれに勝る喜びはないのだ。

 それに取引をするということは、俺が反故にしない限りは約束は守られる。リリが簡単に約束を破るような人とも思えないので、俺にとってもありがたい提案である。


「私は決まった家を持たずに宿で暮らしているんだけど、先にまとめて支払う契約をしているから多少は安くは済んではいる。それでもお金はけっこうかかるんだ。装備もすぐにボロボロになるから買い替えたりしなくちゃいけないし、探索で成果があがらなかった月なんかは結構ひもじい思いもする」

「なるほど。そうだったのですね」


 意外だ。中層に入るぐらいなのでそこそこ儲けていると思ったのに苦しかったのだな。それによく喋るな。


「本当はさっき君が倒した魔物の素材を持ち帰りたいぐらいには困窮しているんだ。そこでなんだけどね……私を教会に住まわせてほしいんだ」

「ふむ。宿代を浮かせるために教会を利用したいというわけですね」

「教会は困った人を泊まらせることもあるんでしょ? だから私はお金に困っていてそれに該当するかなって思うんだよね……ダメ?」


 なにその「ダメ?」は。背負っているので顔は見えないが絶対に可愛い顔をしているだろ。

 どのような状況に陥ろうともそんな「ダメ?」を使われたらダメだと言えるはずがあるまい。「お小遣いちょうだーい。ダメ?」とか言われたら孫やひ孫に小遣いを渡す老人のようにじゃぶじゃぶ渡してしまいそうだ。


「ダメだなんてとんでもない。こちらとしは願ってもない提案ですよ」

「……(願ってたの……!?)」


 俺の耳をもってしても聞き取れない小さな声で何かを呟く。

 さっきから何度かやっているのでリリの癖みたいなものなのだろうか。


 世には同族にしか聞き取れない周波数で話ができるエルフもいたので、エルもそれなのかもしれない。「薄汚い豚がまんまとかかった」とか言われてたらどうしよう。ちょっとショックだけどすごく興奮する。


「実はまだ怪我や毒の経過観察も必要だと考えていましので。ですからすぐに挨拶のできる同じ土地にいてくれるというのは願ってもない話なのです。それなら互いに面倒が少なくて済みますからね」

「ふーん……そうだったんだね。それともう一つあるんだけどいいかな」

「もう一つですか? 構いませんが内容によっては多少譲歩してもらうために交渉をさせていただくやもしれません。取引に使えるようなものをお渡しできるとは限りませんので」

「私はこれからも探索者としてこの町にいるつもりなんだけど、また今日みたいなことが起こらないとも限らない。だから私が怪我を負ったら都度治療してほしいんだ」

「つまり私を薬草や治癒ポーション代わりに便利に使おうというわけですか」

「そういうわけじゃないけど、まあそういう結果にはなるかな」


 金がないと言っていたので薬草などを買うのにも苦労しているのだろう。


「……ダメ?」


 だからそれやめろ。破壊力がありすぎるんだよ。

 マスターの尻を舐めてこいと言われてもそれを使われたら頷いてしまいそうだ。

 

「構いませんよ。ですがそういうことならば、それに関してはこちらかも条件を出させていただきたいですね」

「な、なにかな?」

「まず治療している姿を絶対に人には見られないよう気を付けることに協力してください。見られたら最後、噂は一瞬にして広まってしまいます。できるだけ人目のつかない場所で、人目のつかない時間に行いたいのです」


 俺の噂の拡散力は凄まじい。それは身をもって知っている。


「う、うん! 夜に暗くて狭い個室でふたりっきりのときにしかお願いしないって約束するよ」


 探索者は朝と昼にダンジョンへ向かう。怪我をしたときにそう都合よく夜である場合も少ないだろう。

 まあ軽い怪我ならば薬草で応急処置をすればいいか。念のため聖水も予めストックしておきたいところだが、それを盗まれでもしたら大変な騒ぎになってしまうので難しい。


「そして今日のような無茶はせず、大きな怪我はもう負わないよう慎重に行動すると私と約束してください」

「そんなことでいいならお安い御用だね。いいよ」

「そんなことではありません。これはとても大事なことなんです。そういう軽い気持ちや油断が積もりに積もって、回りに回って今日のような事故を招いたと思ってください。とても心配したのですよ?」

「うん……ごめんなさい……」

「…………」


 そんなしおらしい態度で謝られてはこれ以上強くは言えない。だって可愛いから。

 まるで娘ができたような感覚だ。俺の中で父性と母性が激突し、どちらが親権を取るのかと四つ手で組み合っている。


「ではその条件で秘密にしていただけるということでよろしいですか」

「そうだね。これ以上ない条件だと思うよ」

「油断してはいけませんからね」

「わ、わかってるよ。もう大きな怪我をして迷惑をかけるような真似はしない――。これでいいでしょ?」

「勘違いなさらないでください。リリを助けたのを迷惑などとは微塵も思っていませんよ。むしろ救えたことを誇りに思います。私はただただリリの身を案じて心配しているだけなのです。口うるさいのは煩わしく思うかもしれませんが、ちゃんと理解していただけるまでは口を酸っぱくして言い続けますからね。いいですか」

「…………(心配性なところも好き)」


 また高周波でしゃべっている気配を感じる。

 何を言っているのだろう。できれば罵倒の言葉であってほしい。


「じゃあこの話とはべつなんだけれど、私も秘密にしてほしいことがあるんだ」


 ならお互いの秘密の共有で取引はとんとんではなかったのか。

 いや、俺の秘密よりも重いということはそうないか。


「なんでしょうか。秘密にしろと頼まれたなら自白草をお腹いっぱいになるまで飲まされても言いませんよ」


 俺の口と聖棒は世界一かたいので安心してほしい。

 口と尻穴は何千年も放置された遺跡にある赤錆びた鉄の扉のように固く閉じ。聖棒はその口と扉を容易にこじあけるほど硬いのだ。


 ――幼い頃に司教から、もしも体の秘密がバレてしまい詳細を話させようとする悪人に拷問を受けた場合のリアルシミュレーション、と題されたレクリエーションを連日開催された。

 いまでこそ自白草の耐性もあるが、当時はまだ幼いので自白草の粉末を盛りに盛られてほぼすべてを話してしまった。特に司教をママだと思っていることを白状してしまったのは痛恨の暴露である。あのせいで司教はわざとらしく母親ぶることが増えて非常に鬱陶しくなった。


「私の名前を誰にも教えないでほしい。人前でリリと呼ぶのは構わないけれど真名だけは隠してくれないかな。世界で君だけが知っていればいい……命の恩人だから特別にね」


 探索者や冒険者の中にはすねに傷持つ者や逃亡奴隷なども多いので名を隠す者や偽名をつかう者も少なくない。リリは奴隷や犯罪者には見えないので種族的な誓約や宗教的な縛りでもあるのだろう。


「かまいませんよ。けっして口外しないと約束しましょう」


 不便なので用があって呼ぶときにあの長い名前を使うこともない。

 一々フルネームで呼び合う機会があるのは貴族同士ぐらいなものだ。


「一つ質問なんだけどさ。君は子供の頃、エルフの町に来たことはあるかい」

「環境保護を名目に各地の湖や森を旅してまわっていましたね。そのさいに何度かエルフの世話にはなりましたが」


 司教に連れられて毒に汚染された場所や魔物に占拠されていた村などを転々とし、お掃除させられていた頃の話だ。

 表向きの理由は環境保護だったが、実体は俺の体液が人以外の生物や精霊などにも効果があるのかという実験と。妙薬のもとになる毒性の強い魔物を収集するのが主目的だった。

 そして司教は妙薬のもとを売ってかなり儲けていた。


「以前にどこかでお会いしていましたか?」

「いや……君がエルフに慣れているように見えたからさ。普通は物珍しがったりするものだから」


 慣れるも何も司教がエルフだからね。


「慣れていると言えばそうですが、矢を受けて倒れているエルフを見たのは初めてでしたね」


 冗談を言ってみるがパンチが弱い。というか不謹慎で無遠慮だったかもしれない。

 ルカと話しているときはユーモアあふれる話しで呼吸困難になるほど笑わせられるのに、リリとはまだ距離感がつかめないのもあり上手に自分のよさを発揮できない。


「実を言うと矢を受けたのはわざとなんだ」


 そして返されたリリの話はパンチがありすぎる。


「面白い冗談ですね」


 笑えないけれど。


「冗談じゃないよ」


 冗談であってくれ。


「君だから本当のことを話したんだ」

「私だから話すですか……まさか私に惚れてしまいましたか?」

「…………」

「…………」


 場を和ませて笑いを取るための冗談がことごとく滑っているのが自分でもわかる。痛いぐらいにわかる。自分が痛いのがわかる。

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