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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第一部  作者: マスター


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9/24

第九話「原因が分かっても、すぐには直せなかった」

九話目です。山編の三話目。


原因が分かることと、解決できることは別の話です。凪は万能じゃない。できないことがある。その上で、何ができるかを考える話です。


焦らない凪と、焦りたくても焦れないゴルの、少し静かな話になります。


では、どうぞ。

朝、ゴルが来る前に、記録を読み返した。


昨夜、ある程度の見当はついていた。泉の水がどこに逃げたか。採掘によって割れた岩の、どのあたりを流れているか。でも、確信を持つには情報が足りなかった。


ゴルが入ってきたのは、日が高くなったころだった。


「読めたか」


「大体は。ただ、一か所分からない部分があります」


「どこだ」


記録を開いて、図を指さした。


「この、南の第三層の記録が、百年前で途切れています。その後が分からない」


ゴルが図を覗き込んだ。


「百年前に、山の南で大きな崩落があった。その後、立ち入れなくなった区域がある」


「その区域が、ちょうど今の採掘場所の近くですか」


「そうだ」


「崩落で地下の構造が変わって、もともと弱い場所があったのかもしれない。そこを採掘で割ったら、水が逃げた」


ゴルが黙った。


「証明できるか」


「直接見ないと、確信は持てないです。採掘場所の近くに行けますか」


「行けるが、危ない」


「どのくらい危ないですか」


「採掘している人間に見つかれば、追い払われる。岩人が近づくと、警戒される」


「私が行けば」


「転生者が一人で行けば、もっと危ない」


「ベルクに話を通せますか。採掘場所を調べたい、と」


ゴルが少し考えた。


「ベルクという人間は、話が通じるのか」


「森のときは、通じました。同じ調査部門なら、可能性はあります」


「人間に頼むのは、気が進まない」


「私も、なるべくなら自分でやりたいです。でも、今回は人間の採掘が原因です。人間を動かさないと、根本は変わらない」


ゴルが腕を組んだ。


岩みたいな腕だった。


「連絡を取る方法があるか」


「森の集落に戻れば、ベルクに伝えられます。少し時間がかかりますが」


「どのくらいかかる」


「往復で、四日から五日」


「その間、山はそのままだ」


「そうです。でも、急いで間違えるより、確認してから動く方がいいです」


ゴルがまた黙った。


長い沈黙だった。岩が動くのを待つような、そういう沈黙。


「分かった」とゴルはやっと言った。「ただ、その間に、お前にできることをやってもらいたい」


「やります」


「山の東側に、水が滞っている場所がいくつかある。昨日見た岩肌の苔の話もある。小さいことでいい。できる範囲でやってくれ」


「分かりました」



その日から、三日間、山を歩いた。


ゴルか、護衛の一人が案内してくれた。


やったことは、地味なことばかりだった。


岩肌に苔を生やした。水が滞っている窪みの出口を少し広げた。枯れかけている低木の根元に水を送った。崩れかけている斜面の土を少し固めた。


どれも、大きな変化じゃなかった。


でも、積み重なった。


三日目の夕方、集落の上の見晴らしの良い岩に立ったとき、ゴルが言った。


「山の色が、少し変わった」


「そうですか」


「白い部分が、少し減った。気のせいかもしれないが」


「気のせいじゃないと思います。苔が水を保ち始めている」


「たった三日で」


「苔は早いです。条件が合えば、すぐ広がります」


ゴルが山を見た。


「泉は、まだ変わらない」


「泉は、地下の流れが戻らないと変わりません。それは、採掘の問題を解決してからです」


「時間がかかる」


「かかります」


ゴルが短く息を吐いた。


「岩人は、待つのは得意だ」とゴルは言った。「ただ、何もできずに待つのは、辛い」


「何もできないわけじゃないです」と私は言った。「今やっていることが、全部つながっています。苔が増えれば、山全体が少し湿る。湿れば、植物が戻りやすくなる。植物が戻れば、土が安定する。土が安定すれば、水が地面に染み込みやすくなる。泉の問題が解決したとき、山がその水を受け取れる状態になっているかどうかで、回復の速さが変わります」


ゴルが私を見た。


「やっていることは小さいが、つながっている」


「全部つながっています。切り離して考えない方がいいです」


ゴルが山に目を戻した。


「岩人の若い者に、教えてくれるか。お前がやっていることを」


「教えられることは教えます。ただ、私のやり方がそのままできるかどうかは分からないです」


「なぜ」


「私のやり方は、感覚に頼っているところが多い。説明が難しい部分がある。でも、考え方は伝えられます。何を見ればいいか、何に気づけばいいか。それだけでも、違うと思います」


ゴルが頷いた。


「明日、若い者を集める」



翌朝、集落の広場に十人ほど集まった。


若い、といってもみんな私より大きかった。二十代から三十代くらいの岩人たち。みんな、少し緊張した顔をしていた。


「教えてください」と一人が言った。若い女性の岩人だった。名前はレナといった。「山を直す方法を」


「直すというより、手伝う、の方が近いです」


「手伝う」


「山は、自分で回ろうとしています。でも、何かが邪魔している。その邪魔を取り除くか、足りないものを足すか。それだけです」


「足りないものとは」


「水だったり、土だったり、植物だったり、場合によって違います。まず、今山が何を必要としているかを感じ取ることが大事です」


「感じ取るとは」


私は少し考えた。


「触ってみてください。岩でも、土でも、木でも」


レナが近くの岩に手を当てた。


「何か感じますか」


「冷たい。乾いている」


「その乾き方は、普通の乾き方ですか。それとも、おかしい乾き方ですか」


レナが少し黙った。


「おかしい気がします。もっと、こう、奥まで乾いている感じ」


「正解です」私は言った。「岩の表面が乾いているのは普通のことです。でも奥まで乾いているのは、水が長い間来ていないサインです。そういう感覚の違いを積み重ねていくと、山のどこが困っているか、分かるようになります」


ゴルが後ろで聞いていた。


レナが、また岩に手を当てた。


今度は、もう少し長く触っていた。


「山が、疲れている感じがします」


「そうです」


「昨日まで、気づかなかった」


「気づこうとすると、気づけるようになります。最初は感じにくくても、繰り返すうちに分かってきます」


他の岩人たちも、それぞれ岩や土に触り始めた。


真剣な顔だった。



昼過ぎに、ゴルに呼ばれた。


集落の外れで、二人で話した。


「若い者たちに、教えてくれたことは良かった」とゴルは言った。「あいつらは、山が好きだ。ただ、何をすればいいか分からなかった」


「やり方より、見方を変えるだけで、だいぶ違います」


「見方」


「山を、変えられないものとして見るか。一緒に生きているものとして見るか。その違いです」


ゴルが少し黙った。


「岩人は、山と一緒に生きていると思っていた」


「思っていたんですね」


「今もそう思っている。ただ、何かが変わってきた。山が変わったのか、岩人が変わったのか、分からない」


「どちらも変わったんじゃないですか。山は人間の影響で変わった。岩人は、その変化に気づきながらも、どうすればいいか分からなかった」


「それが、百年で三百人から六十人になった理由か」


「一つの原因ではないと思います。でも、関係しているかもしれない」


ゴルが山を見た。


「お前は、正直だな」


「聞かれたことに、正直に答えているだけです」


「それが難しい」とゴルは言った。「聞かれたことに正直に答えると、相手が傷つくことがある。だから、みんな少し曲げて答える」


「傷ついても、正しい方がいいことがある、と思っています」


「なぜ」


「間違ったままだと、後でもっと傷つくから」


ゴルが短く笑った。


岩みたいな顔が、少し動いた。


「お前の世界でも、同じことを言われたか」


「言ったことはありましたが、聞いてもらえないことが多かったです」


「こっちでは聞いてもらえているか」


「少しは」


「それで十分か」


少し考えた。


「十分かどうかは分からないです。でも、ゼロよりはいいです」


ゴルがまた短く笑った。


「ゼロよりいい、か。お前はそういう言い方をよくするな」


「それが本当のことなので」



夕方、集落に戻る前に、泉に寄った。


一人で行った。シロはレナたちと一緒にいた。岩人の子どもたちに囲まれて、満更でもない様子だった。


泉の底に、また手を当てた。


変わっていなかった。水はまだ戻っていなかった。


でも、地下の流れの感触は、昨日と同じだった。逃げた水は、まだそこにある。採掘の割れ目を塞げば、戻る可能性はある。


「待っていてください」


泉の底に向かって、言った。


山の精霊がいるかどうか、分からなかった。でも、言った。


「原因は分かっています。解決できるかどうかは、まだ分からない。でも、やってみます」


風が吹いた。


岩の間を通り抜ける、静かな風。


答えではなかった。でも、聞こえた気がした。



翌日、森の集落に向けて出発した。


ゴルと、護衛の一人が、山の入口まで送ってくれた。


「帰ってくるか」とゴルが言った。


「ベルクと話がついたら、また来ます。採掘の場所を確認しに」


「待っている」


「レナたちに、続けてもらえますか。岩肌の苔と、水の滞りを直すやつ」


「言っておく」


「記録の続きも、できれば書いておいてもらえると、次に来たとき役に立ちます。今の山の状態を」


「書く者がいる」


「ありがとうございます」


ゴルが頷いた。


「一つだけ聞いていいか」


「なんですか」


「お前は、この山の泉が戻ると思っているか」


正直に答えようとした。


「五分五分です。採掘を止めさせるのは、簡単じゃない。でも、ゼロじゃない」


「五分五分か」


「今の時点では。動けば、もう少し上がります」


ゴルが、また短く笑った。


「正直なやつだ」


「ゴルさんが、正直に答えてくれと思っている気がしたので」


「その通りだ」


シロが私の横に来た。


「では、また来ます」


「待っている」


山を下り始めた。


振り返ったら、ゴルがまだそこに立っていた。山を背負って、岩みたいに立っていた。


また来る。


その約束だけは、守れると思った。

九話目、書きました。


今回は、すぐには解決しない話でした。原因は分かった。でも解決は次のステップが必要。その間にできることをやる。それが凪のやり方です。


レナへの「見方を変える」場面は、この話の中で大事なシーンでした。岩に触って「疲れている感じがします」と気づくレナ。技術を教えるのではなく、感じ方を教える。それだけで、できることが変わります。


ゴルとの「五分五分」の会話。凪は希望を大きく見せない。でも、諦めてもいない。正直に五分五分と言って、動けば上がると言う。それがゴルには一番響いた。


次話は森に戻ります。ガルとルナの話、そしてベルクへの連絡。山と森がつながっていく流れになります。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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