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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第一部  作者: マスター


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20/24

第二十話「山の東側に、誰も知らない問題があった」

二十話目です。区切りの話になりました。


山の東側を歩く話です。凪が、今まで見てきた中で、一番大きな問題に気づきます。すぐには解決できない問題。でも、気づかないより、気づいた方がいい。


この物語の、ここまでの流れが、少し広がる話です。


では、どうぞ。

朝、ゴルとレナと三人で、山の東側に向かった。


シロもついてきた。


東側は、初めて歩く場所だった。


集落から一時間ほど歩くと、景色が変わった。


西側や南側と違って、岩が多かった。植物が少なかった。地面が固くて、ほとんど土がなかった。岩と岩の間に、細い草が生えているだけだった。


「ここは、昔からこうですか」と私は聞いた。


「昔から、少し荒れていた」とゴルは言った。「東は、風が強い。植物が根を張りにくい」


「それだけじゃない気がします」


「どういう意味だ」


「感じてみます」


岩に手を当てた。


乾いていた。


普通の乾き方じゃなかった。表面だけじゃなくて、深いところまで乾いていた。水の気配が、ほとんどなかった。


地面に膝をついて、岩の隙間の土に触れた。


固かった。


触れた瞬間、何かが分かった。


水が来ていないのではなかった。


水は来ていた。でも、留まらなかった。


地表に水が当たって、そのまま流れ去っていた。土が固すぎて、染み込めなかった。


「土が固くて、水が染み込めない状態です」と私は言った。


「だから植物が育たないのか」とレナが言った。


「植物が育てば、根が土を柔らかくする。柔らかくなれば、水が染み込む。染み込めば、また植物が育つ。でも、最初のきっかけがないと、その循環が始まらない」


「最初のきっかけ」


「固い土を、少し柔らかくすること。それだけで、変わり始めるかもしれない」


ゴルが、周りを見た。


「広い」とゴルは言った。「この区域、集落から見て、東の斜面全体だ。かなり広い」


「一気には無理です。でも、端から少しずつ、やれます」


「時間がかかるな」


「かかります。でも、始めないと始まらない」


ゴルが頷いた。



さらに東に歩いた。


一時間ほど歩いたとき、遠くに何かが見えた。


建物だった。


山の中腹より下の場所に、小さな建物がいくつか見えた。


「あれは何ですか」


「人間の街道の宿場だ。山の麓にある。最近、少し大きくなってきた」


「東の採掘場も、あのあたりですか」


「もう少し南になる。でも、近い」


「あそこから、ここまでの間に、何があります」


「特に、何もない。岩だけだ」


「岩だけ、というのが、気になります」


「気になる、というのは」


「もともと、ここに何かあったはずです。岩だけというのは、何かが失われた状態です」


ゴルが、その場所を見た。


「言われてみれば、昔の記録に、この区域に低木林があった、という記述があった」


「いつの記録ですか」


「二百年くらい前」


「二百年前に、低木林があった場所が、今は岩だけになっている」


「何が起きたのか、記録が残っていない」


私は、その方向を見た。


遠くの、岩だけの斜面。


感じてみた。


深いところに、かすかなものがあった。


水の記憶、というか、かつて水があったものの残影みたいなもの。


「ここ、相当前から、徐々に変わってきたんだと思います。急に変わったわけじゃなくて、少しずつ、少しずつ」


「何が原因だ」


「一つじゃないかもしれない。風、雨、それに、人間が街道を作ったことも関係しているかもしれない。街道ができると、雨水の流れが変わることがある」


ゴルが、麓の宿場の方向を見た。


「街道は、百五十年前にできた」


「二百年前に低木林があって、百五十年前に街道ができた。それから、少しずつ」


「植物が減って、岩になった」


「可能性として、そういう流れが考えられます」


ゴルが、しばらく黙った。


「直せるか」


「時間がかかります。かなりかかります。でも、方向は見えます」


「どのくらいかかる」


「早くて十年。本格的に変わるには、三十年から五十年かもしれない」


「長い」


「長いです。でも、今始めれば、三十年後の岩人の集落が違います」


ゴルが、再び周りを見た。


「今の集落の子どもたちが、大人になるころか」


「そうです。今の子どもたちのために、始めることができる」


ゴルが、レナを見た。


レナが、その斜面を見ていた。


「やる価値がある」とレナは言った。


ゴルが頷いた。


「そうだな」



さらに歩いて、岩だけの斜面の端まで来た。


そこで、もう一つ、気になるものが見えた。


川だった。


山の東側を流れる、小さな川。


でも、川の流れが、おかしかった。


色が、少し濁っていた。


岩の色に似た、灰色がかった濁り。


「この川、いつもこういう色ですか」と私は聞いた。


「いつも、こうだ」とゴルは言った。「東の川は、濁っている」


「それ、採掘の影響かもしれないです」


「採掘の粉塵が、川に入っているということか」


「そうだと思います。採掘で出た石の粉が、雨で流れて、川に入る。それが積み重なって、川底に溜まる。川底が変わると、水草が育てない。水草がないと、小さな生き物が住めない。生き物がいないと、上の生き物も来ない」


「全部つながってるな」とレナが言った。


「つながってます」


「採掘が止まれば、改善するか」とゴルが言った。


「止まっても、すぐには改善しない。底に溜まった粉塵が、しばらく残るので。でも、止まれば、少しずつ薄まります」


「また時間がかかる」


「かかります。でも、止まらないと、時間をかけても薄まらない」


ゴルが川を見た。


「採掘停止が、早く正式に決まってほしい」


「そうですね」


「動いてくれているのか、都で」


「動いています。あとは、正式な決定を待つだけです」


ゴルが、川から目を上げた。


「お前に頼んで良かった」


「動いたのは、ベルクさんやエイラさんたちです」


「それを動かしたのは、お前だ」


「きっかけを作っただけです」


ゴルが、また短く笑った。


「お前は、いつもそう言うな」


「本当のことなので」



昼過ぎ、少し高い場所に登った。


山全体が、見渡せる場所だった。


西側、南側、東側。


西側は、苔が少し広がってきていた。来たときより、緑が増えていた。


南側は、採掘場があって、岩肌が削られていた。でも、暫定停止の影響か、作業が減っていた。


東側は、岩だけの斜面が続いていた。遠くに、濁った川が光っていた。


全体として見ると、問題がよく分かった。


「山全体を見ると、東側が一番大変ですね」と私は言った。


「そうだな」とゴルは言った。「東側は、長い間、後回しにしてきた。手の届く範囲から、やってきた」


「後回しにしてきた理由は」


「難しすぎた。何から始めればいいか、分からなかった」


「今は、少し分かりますか」


「土を柔らかくすること、から始めればいいと、お前が言った」


「そうです。最初の一手が分かれば、動ける」


「最初の一手が、一番難しかった」


「分かります」


ゴルが、東側の斜面を見た。


「レナたちに、頼もうと思う」


「レナさんたちは、続けてくれると思います」


「そうだな。あいつらは、続ける」


レナが、東側の斜面を見ていた。


何かを考えている顔だった。


「ナギ」とレナが言った。


「なんですか」


「東側、何から始めればいいか、詳しく教えてくれる? 今日のうちに」


「今日、全部は説明できないかもしれないですが、基本的なことは」


「基本だけでいい。あとは、自分たちで考える」


私は、少し驚いた。


「自分たちで考える」


「前も、ナギが言ってたことを続けてたら、自分で気づくことが増えた。基本を教えてもらったら、あとは自分たちでやれると思う」


「そうですね」


「過信じゃないよ。でも、やってみないと分からない」


「やってみれば、分かります」


レナが頷いた。


「教えて」



その場で、基本的なことを話した。


土を柔らかくするために、どういう植物を最初に植えれば良いか。岩の間に、どういう苔を生やせば、水が少しずつ保たれるか。どの場所から始めれば、広がりやすいか。


レナが、熱心に聞いていた。


ゴルも、黙って聞いていた。


一時間ほど話して、レナが言った。


「大体分かった」


「大体で十分です。やりながら、気づくことがある」


「そうする」


「一つだけ、注意することがあります」


「なに」


「急ぎすぎないこと。一気に全部やろうとすると、続かない。少しずつ、続けられる量でやることが大事です」


「少しずつ」


「少しずつが、一番長く続く」


レナが頷いた。


ゴルが、その様子を見ていた。


「レナ、できるか」


「やる」とレナは言った。


「できるか、と聞いた」


「やってみなきゃ、できるか分からない。やる」


ゴルが、短く笑った。


「そうだな」



集落に戻る道で、ゴルが言った。


「今日、どのくらいの問題を見つけた」


「大きいものが三つ。土の問題、川の問題、東側全体の長期的な問題」


「全部、すぐには解決しない」


「しないです。でも、方向は分かった」


「方向が分かれば、動ける」


「そうです」


ゴルが少し間を置いた。


「お前を、最初に連れてきて、正解だった」


「ゴルさんが、連れてきてくれたので」


「そうだったな」とゴルは言った。「あのとき、信用できるか確認したかったと言った」


「言いましたね」


「今は、信用している」


「ありがとうございます」


「礼はいい。それより、また来い」


「来ます」


「いつ」


「この山の東側が、少し変わった頃に」


「三年後か、五年後か」


「そのくらいかもしれないです。でも、来ます」


ゴルが頷いた。


「待っている」


山の夕日が、岩を赤く染めていた。


西側の苔が、その光の中で、かすかに光っていた。


来たときより、確かに緑が増えていた。


小さな変化だった。


でも、ゼロじゃなかった。


ゼロじゃないことが、続けば、いつか大きくなる。


それだけ分かれば、十分だった。



その夜、一人で空を見た。


山の夜空は、都より、森より、星が多かった。


高い場所にいるから、空が近かった。


全部で、今まで見てきたものを思い返した。


森の乾いた土に、最初に水を送ったこと。


北の池で、弱っていた精霊を手に乗せたこと。


集落の外れで、ガルに「帰ってきます」と言ったこと。


山に来て、ゴルと泉の記録を読んだこと。


山の精霊の、疲れた目。


都で、十七件の問題を見つけたこと。


トウの眼鏡。


星がきれいだと知ったトウ。


保護区の書類を受け取って、泣いたガル。


精霊に好かれたルナ。


苔を続けて広げていたレナ。


全部が、つながっていた。


小さな一点が動いて、別の小さな一点が動いて、また別の一点が動く。


それが積み重なって、今の状態になっていた。


まだ、解決していないことの方が多かった。


泉の水は戻っていない。東側の斜面は、まだ岩だけだ。川は濁っている。都の木は少ない。


でも、方向は変わった。


方向が変われば、時間がかかっても、いつかは違う場所に着く。


私は、転生してから、何ができたか。


花を咲かせた。水を流した。土を柔らかくした。精霊に会った。人間と話した。書類を届けた。眼鏡の作り方を教えた。


全部、小さいことだった。


でも、全部、ゼロじゃなかった。


ゼロじゃないことが、積み重なって、今日がある。


シロが隣に来た。


「ありがとう、シロ。一緒に来てくれて」


シロが尻尾を振った。


「まだ、やることがある」


また振った。


「続けよう」


シロが、空を見た。


星が、たくさんあった。


全部の星が、それぞれの場所で、光っていた。


つながっているわけじゃないかもしれない。


でも、同じ夜空にあった。


それで、十分だった気がした。

二十話目、書きました。区切りの話になりました。


今回、一番大きな変化は、レナの「やってみなきゃ、できるか分からない。やる」という言葉だと思います。教えてもらうのを待つのではなく、基本だけ聞いて、あとは自分たちでやると言った。これは、凪が目指していたこと、つまり「自分がいなくても続けられる状態」に、かなり近づいた瞬間です。


東側の斜面の問題は、三十年から五十年かかる問題です。すぐには解決しない。でも、今の子どもたちのために始めることができる、というゴルの言葉が、この物語のテーマを一つ表しています。自分が結果を見られなくても、始めることに意味がある。


二十話まで来ました。凪が転生してから、森、山、都、また森、また山と動いてきました。それぞれの場所で、小さな変化が積み重なっています。これからも、その積み重ねは続きます。


読んでくださっている方、ここまでありがとうございます。また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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