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第二話「魔族って、普通に話せるんだな」

二話目です。


今回は凪が初めて「この世界の人たち」と言葉を交わします。エルフに似た種族、正式名称は「森人もりびと」と呼ばれる人たちです。


難しい設定説明はなるべく会話の中に自然に入れていくつもりです。気づいたら世界観が分かっていた、という感じを目指しています。


では、どうぞ。

お爺さんの名前は、ガルといった。


年齢は聞かなかった。聞いていい雰囲気じゃなかった。顔のしわが深くて、髪は白くて、でも目だけがまだ若かった。エルフに似ているというのは私の第一印象で、正確には「森人もりびと」という種族らしかった。耳が少し尖っていて、背が人間より少し低い。それ以外は、見た目はほぼ人間と変わらなかった。


ガルは私を集落に連れていった。


集落といっても、家が七軒あるだけだった。木を組んで作った小屋が並んでいて、屋根には枯れた草が積まれていた。人の気配は少なかった。


「ここに何人いるんですか」


「今は二十三人です。昔は百人以上いましたが」


「減ったんですね」


「人間の街が広がるたびに、森が切られました。森が減れば、私たちは生きていけない。追われて、追われて、ここまで来ました」


淡々とした口調だった。怒りでも悲しみでもなく、ただ事実を述べる声。それがかえって、胸に刺さった。


「この先、森はどこまで続くんですか」


「二日歩けば、終わります」


二日分の森。


その向こうに、人間の街がある。



集落の広場に、人が集まってきた。


老人が多かった。あとは子どもが数人。若い人間は少なかった。みんな私を見て、驚いた顔をした。それから、ガルが何か言うと、おずおずと頭を下げた。


「魔王様と呼ぶのはやめてください」


私は最初にそう言った。


「でも」とガルが言いかけた。


「凪でいいです。桐島凪。ナギ、でもいい」


しばらく沈黙があった。


一番小さな子どもが、おそるおそる前に出てきた。五歳くらいの女の子で、ガルの孫らしかった。耳が少し尖っていて、目が大きかった。


「ナギ、花くれた人?」


「そうだよ」


「きれいだった」


「ありがとう」


女の子は満足そうに、またガルの後ろに隠れた。


それで、場の空気が少し緩んだ。



その夜、ガルの家に泊めてもらった。


粗末な食事だったが、ありがたかった。木の実を煮たスープと、硬いパンみたいなもの。食べながら、ガルにいろいろ聞いた。


「この世界の名前はなんていうんですか」


「世界に名前はありません。ただ、世界です」


「人間の国は」


「いくつかあります。一番大きいのはアルドという国。この森の東にあります。百年ほど前から急に大きくなって、今は周辺の小国をほとんど飲み込みました」


「魔族は」


ガルが少し黙った。


「魔族というのは、人間がつけた呼び名です。私たち森人も、魔族と呼ばれます。それから、山に住む岩人いわびとも。竜も。精霊も。人間以外のものは、大体魔族と呼ばれます」


「みんながみんな、仲いいわけじゃないんですね」


「ええ。森人と岩人は、昔から仲がいいわけではない。でも、人間が広がってから、なんとなく同じ立場になりました」


共通の敵がいると、まとまる。それは、どこの世界でも同じらしかった。


「魔王というのは」


「百年に一度、現れると言われています。ことわりが大きく乱れたとき、それを整えるために生まれる存在。人間には恐れられますが、私たち森人には、守り手のような存在です」


「私は転生者ですよ。別の世界から死んで来た、ただの人間です」


「それでも、あなたは今日、この森に理を戻した」


「花を咲かせただけです」


「その花が咲いたのは、三十年ぶりです」


私は黙った。


三十年。その白い小さな花が、この森で咲かなかった。それだけ、この土地が乾いていたということだ。



翌朝、目が覚めたら、昨日の三頭の灰色の狼もどきが小屋の外で寝ていた。


「なんでいるんだ」


一頭が目を開けて、尻尾をゆっくり振った。


ガルが外に出てきて、その光景を見て少し目を丸くした。


「ラグル族ですね。賢い獣です。普段は人に懐かない」


「昨日、花を見せたら舐めてきたんですよ」


「それは、認められたんでしょう」


認められた。その言葉が、なんとなくこそばゆかった。


一頭が立ち上がって、私の手に鼻を押しつけた。温かかった。


「名前、つけていいですか」


ガルが頷いた。


一頭目は、顔に白い模様があった。シロ。二頭目は、耳の先だけ黒かった。クロ。三頭目は、他の二頭より少し小さくて、いつもきょろきょろしていた。キョロ。


「雑すぎませんか」とガルが言った。


「覚えやすいので」



その日の午後、集落の周りを歩いた。


シロとクロとキョロがついてきた。ガルの孫のルナという女の子も、いつの間にかついてきていた。


歩きながら、気になる場所を直した。


水が滞っている場所があった。倒れた木が川をふさいでいた。手で動かせる大きさじゃなかったが、少し力を込めたら、ふわりと動いた。川が流れ始めた。


「すごい」とルナが言った。


「力持ちなだけです」


嘘をついた。力持ちじゃない。あれは普通に持ち上げられる重さじゃなかった。でも何か、自分の中から出てくるものを使えば、思ったより重いものが動いた。


乾いた斜面があった。手を当てたら、土が湿ってきて、小さな草が出てきた。


「魔法ですか」とルナが聞いた。


「たぶん、違います」


「なんで違うの」


「魔法って、呪文とか、杖とか、そういうものが要るんじゃないですか」


「ナギのはそのまま出てくるから、魔法より上なんだと思う」とルナは言った。


子どもの感想は正直で、たまに鋭い。


「ただ、おかしいところを直してるだけですよ」


「おかしいって、どこが?」


「水が足りないとか、土が乾きすぎているとか、木が少なすぎるとか。それが分かる。分かったら、直したくなる」


「なんで直したくなるの」


「……気になるから、かな」


ルナは少し考えてから、「変なの」と言った。


「そうかもしれない」



夕方、集落に戻ったとき、ガルが待っていた。


珍しく、難しい顔をしていた。


「東の方から、人間の調査隊が来ています。明日、この森の端まで来るかもしれない」


「調査隊?」


「アルドの国の者たちです。ここ最近、この森に近づいてきている。おそらく、次に切る場所を探している」


私は少し考えた。


「戦うんですか」


「戦えません。こちらには戦える者がいない」


「逃げるんですか」


「逃げる場所がありません。この先に森はない」


沈黙があった。


シロが私の横に来て、静かに座った。


「私が話してみます」


「危険です」


「人間と話せないわけじゃないでしょう。言葉は通じますよね」


「通じますが、私たちの言葉を聞こうとする人間は少ない」


「聞かせてみます」


ガルは長い間、私を見ていた。


「あなたは本当に魔王様では」


「違います。ただの凪です」


「凪様は、戦わないのですか」


「戦っても、何も直らない。直るなら戦いますけど、たぶん直らない」


ガルは、また深く頭を下げた。


私は少し困って、空を見上げた。木の隙間から、星が見えた。


この世界の星は、東京で見るより多かった。当たり前だ。街灯がないから。


綺麗だなと思った。


それから、明日どうしようかと考えた。


人間と話す。ただそれだけのことが、この世界では大事件らしかった。



その夜、眠れなかった。


べつに怖いわけじゃなかった。ただ、いろいろ考えた。


私は何しにここに来たんだろう。花を咲かせるために転生した。それはそれで悪くない気がする。でも人間の調査隊が来たら、また森が切られるかもしれない。そうしたら、また花が咲かなくなる。


堂々巡りだ。


でも、とりあえず明日話してみよう。


それだけ決めて、目を閉じた。


隣でキョロが丸くなって寝ていた。温かかった。

二話目、書きました。


今回は世界観の説明回でもあります。でもなるべく会話の流れで自然に出てくるようにしました。


森人のガルと、孫のルナ。この二人はしばらく重要な人物として出てきます。ルナは子どもらしい素直な疑問を投げかけてくれるので、凪の思想を説明するのに便利な存在です。子どもって、大人が当たり前にしてることに「なんで?」って聞いてくる。そのなんでが、けっこう本質を突いていたりする。


シロ、クロ、キョロも引き続き出てきます。名前が雑すぎるというガルのツッコミは、正直な感想です。


次回、いよいよ人間の調査隊と接触します。凪は戦わない。ではどうするか。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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