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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第一部  作者: マスター


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18/24

第十八話「ルナが、精霊に好かれた」

十八話目です。


ルナと北の池に行く話です。凪がいない間、毎日森を歩き続けたルナが、何かに気づく場面です。


子どもは、大人より素直に世界と向き合えることがある。理屈より先に、体が分かることがある。ルナという子の、そういう部分が出てくる話です。


では、どうぞ。

朝、ルナが小屋の前で待っていた。


日が出る前から、待っていたらしかった。


「早すぎる」と私は言った。


「待つのは平気」とルナは言った。「毎日、森歩いてたから」


「毎日、どのくらい歩いてたの」


「朝と夕方、二回。ガルじいちゃんに、遠くには行くなって言われてたから、集落の近くだけ」


「それでも、続けてたんだ」


「うん。なんか、気になって」


「何が気になった」


「木が、毎日少し違う感じがするから」


私はその言葉を聞いて、少し立ち止まった。


「毎日、少し違う感じ」


「うん。同じ木なのに、昨日と今日で、なんか違う。うまく言えないけど」


「それ、分かるの、ちゃんと」


「分かるか分からないか、よく分からない。でも、気になる」


気になる、という言葉。


私が最初にこの世界でやったことも、気になるからやった、だった。


「じゃあ、池に行こう」



池への道を歩きながら、ルナが色々聞いてきた。


「都って、どんなとこ」


「人が多くて、建物が多くて、木が少ない」


「木が少ないの、辛くなかった」


「少し、辛かった」


「だよね」とルナが言った。「森がないのは、なんか息苦しい感じがする。都の人は、それが普通なの」


「普通だと思っている人が多いと思う。別の状態を知らないから」


「知らなかったら、辛くないのかな」


「辛くても、それが当たり前だと思ってたら、辛いと気づかないかもしれない」


ルナが少し考えた。


「それって、なんか、もったいないね」


「もったいない」


「もっと良い状態があるのに、それを知らないまま過ごすの、もったいない」


トウのことを思った。


眼鏡をかけてから、星がきれいだと思ったトウ。


見えていなかったものが見えるようになった、あの顔。


「そうだね、もったいない」と私は言った。


「だから、ナギは直したいの」


「直したい、というより、気になるから、直す。でも、もったいない、という感覚も、あるかもしれない」


ルナが頷いた。


「私も、なんかそういう感じ、ある」


「どういう感じ」


「木が元気じゃなかったら、なんか、もったいない感じがする。もっと元気になれるのに、ならないのが、もったいない」


「そういう感覚、大事だよ」


「そう?」


「そういう感覚がある人は、気づける人だから」


ルナが少し嬉しそうな顔をした。



池に着いた。


水は、都に行く前より、さらに透き通っていた。


底まで、はっきり見えた。水草が緑で、小さな魚が泳いでいた。


ルナが池の縁にしゃがんで、水面を覗き込んだ。


「きれい」


「来る前より、良くなってる」


「精霊が元気になってるから?」


「そうだと思う」


ルナが水面に手を近づけた。触れるか触れないかのところで、止めた。


「触っていいの」


「触ってみれば分かる」


ルナが、そっと指先を水に入れた。


冷たかったらしく、少し声を上げた。


「つめた」


「この時期は冷たい」


ルナが指を水に入れたまま、じっとしていた。


しばらくして、水の中で、青い光が動いた。


精霊だった。


水草の影から出てきて、ルナの指に近づいた。


ルナが息を止めた。


「動かないで」と私は言った。


ルナが頷いた。首だけ動かした。


精霊が、ルナの指先に触れた。


ルナの手が、少し震えた。驚いたのかもしれなかった。でも、動かなかった。


精霊が、指の周りをくるくると回った。


遊んでいるような動きだった。


「なんか、くすぐったい」とルナが小さく言った。


「じっとして」


「うん」


精霊が、ルナの指から離れた。


水面近くまで上がってきた。


ルナの顔の前で、ぴかりと光った。


ルナが、ぱちぱちとまばたきをした。


「目の前にいる」


「いる」


「ちっちゃい」


「ちっちゃい」


「かわいい」


精霊が、また光った。


分かってる、というような光り方だった。



精霊が、少し離れた場所で浮かんでいた。


ルナが、それを見ながら言った。


「精霊って、話せるの」


「言葉じゃないけど、何かは伝わる」


「ナギは、分かるの」


「なんとなく」


「私も、なんとなく分かる気がした」


「何が分かった」


ルナが少し考えた。


「嬉しい、みたいな感じ。人が来てくれて、嬉しい。みたいな」


「たぶん、合ってる」


「ほんとに?」


「精霊は、自分たちの池を気にしてくれる存在が来ると、嬉しいみたい」


「ナギが来たときも、嬉しかったの」


「たぶん」


「じゃあ、私も来ていいんだ」


「いいと思う。精霊が嫌なら、近づかない。好きなら、近づいてくる」


「近づいてきた」


「そうだね」


ルナが、また精霊を見た。


精霊が、ゆっくり水の中に沈んでいった。


消えたわけじゃなかった。水草の間で、青い光がゆっくり動いていた。


「また来ていい?」と、ルナが池に向かって言った。


精霊が、水面をぱしゃりと叩いた。


ルナが笑った。


「いいって言った」


「そうみたい」


シロが池を覗き込んだ。


今回は、精霊が驚かなかった。


シロを見て、少し光が強くなった。


「シロのことも、覚えてるんだね」と、ルナが言った。


「何度も会ってるから」


「精霊って、記憶があるんだ」


「あると思う」


「じゃあ、私のことも、次来たとき、覚えてるかな」


「覚えてると思う」


ルナが嬉しそうな顔をした。



池の周りを少し歩いた。


ルナが、植物を見ながら歩いた。


「これ、前はなかった」と、ルナが水辺の植物を指さした。


「増えてる」


「精霊が元気になったから?」


「水が良くなったから、水辺の植物が増えた。植物が増えたら、精霊も元気になる。どちらが先かは、分からない」


「どっちも一緒に良くなった感じ」


「そういうこと」


「つながってるんだね」


「全部つながってる」


ルナが、植物に触れた。


「これ、食べられる?」


「それは、ガルさんに聞いて。私は、食べられるかどうかは、あんまり分からない」


「ナギでも分からないことあるんだ」


「たくさんある」


「そうなんだ」


ルナが少し安心したような顔をした。


「全部分かる人みたいだから、なんか、すごすぎて」


「全然分からないことの方が多い」


「じゃあ、ナギが分かることって、何」


「ずれているところ。水が足りないとか、土が乾きすぎているとか、流れが詰まっているとか」


「それだけ?」


「それだけ」


「でも、それだけで、いろんなことが直せるんだね」


「直るかどうかは、分からない。でも、気づかないよりは、気づいた方がいい」


ルナが、また少し考えた。


「私も、気づけるようになりたい」


「なってきてると思う」


「本当に?」


「木が毎日少し違う、って言えた。それは、気づける人の言い方だよ」


ルナが、照れた顔をした。


「そう、かな」


「そうだよ」



帰り道、ルナが言った。


「ナギ、いつまでいる?」


「しばらくはいる。山にも、もう一度行くけど」


「また、帰ってくる?」


「帰ってくる」


「ちゃんと言えた」


「ルナが練習させてくれたから」


ルナが笑った。


「もっと練習させてあげようか」


「もう大丈夫だと思う」


「じゃあ、次は何を練習する」


「何か、ありますか」


ルナが少し考えた。


「難しいことを、簡単に説明する練習」


「難しい」


「ナギの説明って、なんか難しい言葉は使わないけど、ちょっと遠回りなことがある」


「そうかもしれない」


「もっとぱっと言えるといい。子どもでも分かるように」


「それは、確かに大事だな」と私は思った。


「じゃあ、今日習ったこと、一言で言ってみて」と、ルナが言った。


「今日習ったこと」


「精霊と池と、つながってること」


少し考えた。


「池が元気なら、精霊も元気。精霊が元気なら、池も元気」


「それだけ?」


「それだけ」


ルナが頷いた。


「うん、分かりやすい。合格」


「ありがとう」


「私も一言で言うと、」とルナが続けた。「全部、友達になれる」


私は少し黙った。


「全部、友達」


「木も、池も、精霊も、シロたちも。友達になれば、分かることが増える」


「それは、すごくいい言い方だな」


「ナギの言い方より、分かりやすい?」


「ずっと分かりやすい」


ルナが、また笑った。


集落が見えてきた。


夕方の光が、木の間から差していた。


オレンジ色の光が、地面に模様を作っていた。


「きれいだね」とルナが言った。


「きれいだね」と私も言った。


シロが前を歩いた。


クロとキョロが、集落の方から走ってきた。


夕飯の匂いがした。


ガルが何か作っているらしかった。


今日も、ここに帰ってくる場所があった。


それだけで、十分だった。

十八話目、書きました。


ルナが精霊に好かれた話です。精霊が近づいてくるのは、ルナが毎日森を歩き続けたからだと思います。毎日触れていると、自然の方が慣れてくる。それは、凪が教えたわけじゃなくて、ルナが自分でやり続けた結果です。


「全部、友達になれる」というルナの一言は、この話の中で一番好きな言葉かもしれません。凪が色々と説明してきたことを、ルナが子どもらしく、シンプルに言い直した。木も、池も、精霊も、友達。それで全部説明できている。


「難しいことを簡単に説明する練習」というルナの提案。これは、凪だけじゃなくて、誰にとっても大事な練習だと思います。難しいことを難しく説明するのは、実は簡単です。難しいことを簡単に言えるようになるのが、本当に理解している証拠、とも言います。


次話では、山に戻る準備と、ゴルへの書類を届ける話になります。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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