第十五話「採掘の調査が、本当に動いた」
十五話目です。
都での二週間も、半分を過ぎました。今回は、山の採掘の調査が、実際に動き始める話です。
組織が動くのは遅い。でも、動かないわけではない。条件が揃えば、ちゃんと動く。それを見届ける話です。
では、どうぞ。
都に来て八日目の朝、ベルクが珍しく早くに来た。
「動いたぞ」とベルクは言った。
「何がですか」
「採掘の調査だ。農務局が鉱山局に圧力をかけた。今日、現地に調査団が向かう」
私は少し驚いた。思ったより早かった。
「もう動いたんですか」
「エイラが、思った以上に本気だった。農地の収量の話を、彼女がリドルに直接話したらしい。リドルが、調査を急がせた」
「エイラさんが」
「あの人は、動くと決めたら早い」
「行ってもいいですか。調査に」
ベルクが少し考えた。
「許可は取れると思う。鉱山局は嫌がるだろうが、農務局の名目があれば、断れない」
「お願いします」
◇
その日の午後、馬車で山に向かった。
ベルクと、農務局から来た調査員二人と、私とシロ。鉱山局からも、立ち会いの人間が一人来ていた。名前はダロといった。あまり機嫌が良くなさそうだった。
「なぜ転生者が同行するんだ」とダロが言った。
「現地の状況を、感覚的に把握できる人材です」とベルクが答えた。
「感覚的、というのは、根拠がないということか」
「根拠がないとは言っていません。これまで、彼女の指摘は、ことごとく正しかった」
ダロは何も言わなかったが、不満そうな顔をしていた。
私は気にしなかった。
◇
山の麓に着くと、採掘場が見えた。
大きく掘られた区域があった。岩が削られて、土が剥き出しになっていた。作業員が何人か動いていた。
ゴルが、少し離れた場所で待っていた。
護衛も一緒だった。
私は驚いた。
「ゴルさん、来てくれたんですか」
「お前が来ると聞いた。山の話だ、立ち会わない理由がない」
ダロが、ゴルを見て、少し顔をしかめた。
「岩人が、なぜここに」
「山に関わることだ」とゴルは短く言った。
ダロは何も言わなかった。
◇
調査が始まった。
採掘場の周辺を歩き、地層を確認した。農務局の調査員が、専門的な道具で土の水分量を測っていた。
私は、自分の感覚で、地下の流れを探った。
採掘で割れた岩の断面に手を当てた。
水の流れが、はっきり感じられた。
「ここです」と私は言った。「この割れ目に沿って、水が南に流れています。泉の方向から逃げています」
調査員が、その場所を確認した。
「測定結果も、それを示している」と一人が言った。「地下水位が、この区域だけ、明らかに下がっている」
ダロが、その結果を見て、黙った。
「採掘を始めたのは、二年半前でしたね」と私はダロに聞いた。
「そうだ」
「泉の水が止まったのは、二年前です。時期がほぼ一致しています」
ダロが少し顔をしかめた。
「証明にはならない」
「証明とまでは言いませんが、可能性として、無視できないと思います」
調査員が頷いた。
「測定結果から見ても、相関関係は強い。採掘の振動と掘削が、地下の水脈の構造を変えた可能性が高い」
ダロが黙った。
◇
ゴルが、その様子を見ていた。
私の方に来て、小さく言った。
「証明されたか」
「証明、というより、可能性が高いと示せました。これで、何か対策が取られるかもしれません」
「対策とは」
「採掘の場所を変えるか、この区域の採掘を止めるか。どちらかだと思います」
ゴルが採掘場を見た。
「止まれば、水は戻るか」
「すぐには戻らないです。地下の流れが、元の場所に戻るのに、時間がかかります。でも、止めなければ、永久に戻らない」
ゴルが黙って頷いた。
◇
夕方、馬車に戻る前、ダロが私に話しかけてきた。
「お前」
「なんですか」
「鉱山局としては、この区域の採掘を止めると、損失が出る」
「そうかもしれません」
「お前は、それを分かっているのか」
「分かっています。でも、続けると、もっと大きな損失が出ると思います」
「どういう損失だ」
「農業用水が減れば、農地の収量が減ります。長期的には、採掘で得る利益より、農業の損失の方が大きくなる可能性があります」
ダロが少し黙った。
「数字で示せるか」
「正確な数字は出せないです。でも、別の世界で、似たことが起きた事例があります。短期の利益と、長期の損失の比較は、似たような結果になることが多いです」
「説得力に欠ける」
「分かっています。ただ、可能性として無視するより、考慮する価値はあると思います」
ダロが、しばらく黙った。
「鉱山局に持ち帰る」とダロは言った。「決定は、私一人ではできない」
「それで十分です」
ダロが、少し意外そうな顔をした。
「もっと、強く主張すると思った」
「強く主張しても、決まることじゃないと分かっています。私が言えることは、ここまでです」
ダロが何も言わずに、馬車に向かった。
◇
集落に戻る前に、ゴルと少し話した。
「今日、来てくれてありがとうございます」
「お前が来ると聞いて、来た。それだけだ」
「山の様子はどうですか」
「レナたちが、続けている。苔は広がっている。一部の場所は、確かに緑が増えた」
「良かったです」
「お前がいなくても、できることが分かってきた」
「それが、一番大事です」
ゴルが少し私を見た。
「都はどうだ」
「色々あります。ずれているところが、たくさん見えます」
「直せそうか」
「全部は無理です。でも、できる範囲でやっています」
ゴルが頷いた。
「お前のやり方は、変わらないな。どこにいても」
「変える必要がないので」
ゴルが短く笑った。
「次はいつ来る」
「都が終わったら、一度森に戻ります。それから、山にも行きます」
「待っている」
「ありがとうございます」
◇
馬車に乗って、都に戻る道で、ベルクが言った。
「今日の調査結果、報告書にまとめる。鉱山局が、すぐに動くとは思えないが、可能性を示せたのは大きい」
「そうですか」
「お前が指摘したことが、測定結果と一致した。それは、信頼につながる」
「証明できたわけじゃないですが」
「証明はこれからだ。だが、方向は示せた」
馬車の窓から、山が見えた。
少し遠くなった山が、夕日に照らされて、赤く染まっていた。
「あの山、いつかまた緑になりますか」
ベルクが少し考えた。
「分からない。だが、お前みたいなやつが関わっていると、可能性が上がる気がする」
「楽観的ですね」
「珍しいことを言ったかもしれない」
ベルクが少し笑った。
シロが窓の外を見ていた。
山が、視界から消えるまで、見ていた。
私も、同じものを見ていた。
戻ってくる場所が、また一つ増えた気がした。
十五話目、書きました。
ダロというキャラクターを出しました。最初は敵対的でしたが、最後には「持ち帰る」という、組織人としての誠実な対応を見せました。完全な敵にも、完全な味方にもしない。現実の組織は、そういう人が多いと思います。
ゴルが採掘場に来てくれたのは、岩人としての立場を示す行動でした。山の問題に、岩人が立ち会わない理由がない、というゴルの一言に、その姿勢が表れています。
「証明できたわけじゃないですが」「証明はこれからだ。だが、方向は示せた」というベルクの言葉。すぐに結果が出ないことでも、方向を示すことに意味がある、というのは、この物語全体のテーマでもあります。
次話では、都での残りの日々と、そろそろ森に戻る準備の話になります。
また明日。
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)




