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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第一部  作者: マスター


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第十四話「市場で会った子は、目が良かった」

十四話目です。


都の二週間、凪は何をするか。今回は市場での出会いです。子どもとの会話が、また物語を少し動かします。


凪は大人より子どもの方が話しやすいことが多い。理由は、子どもは建前を言わないからです。


では、どうぞ。

二週間の滞在中、まずやることを決めた。


都の水と、土と、木の問題について、記録を残すこと。それと、ベルクが言っていた「協力できること」をやること。


朝、ベルクと一緒に市場に向かった。


「市場を見るのが、今日の用件ですか」と私は聞いた。


「都の経済の中心だ。問題があるなら、ここに現れる」とベルクは言った。


市場は、思ったより広かった。様々な店が並んでいて、声が飛び交っていた。果物、野菜、肉、布、道具。色々なものが売られていた。


シロが少し緊張していた。人の密度が高くて、匂いも多かった。


「大丈夫か」


シロが小さく鳴いた。我慢する、という顔だった。



野菜の店を見たとき、気になった。


トマトに似た野菜が並んでいたが、色が薄かった。形も、少しいびつだった。


手に取って、触ってみた。


「これ、土から何か感じますか」と店主に聞いた。


店主は私を見て、少し怪訝な顔をした。


「何だ、お前」


「すみません、ちょっと気になって」


「気になっても、買わないなら触らないでくれ」


「買います」


一つ買った。


店主が少し機嫌を良くした。


野菜を持って、少し離れた場所で観察した。


色の薄さは、土の養分不足だと思った。それから、形のいびつさは、水のやり方が一定じゃないことを示していた。


「どう思う」とベルクが聞いた。


「土が痩せています。前に話した通りです。それと、水のやり方が一定じゃない。たぶん、雨に頼っている部分が多いです」


「水路はないのか」


「街道沿いの農地には、一部しかないと思います。全部に水路を引くのは、大きな工事になります」


「予算がかかるな」


「すぐには無理だと思います。でも、優先順位を決めて、少しずつやれば、変わります」



果物の店の前で、子どもが一人、店主に怒られていた。


「また落としたな」と店主が言った。「いくつ目だ」


子どもは小さくなっていた。手に果物を持っていたが、その横に、潰れた果物が落ちていた。


「すみません」と子どもが言った。


「すみませんじゃ済まないんだよ。買い手につけが回る」


子どもが何も言えずに立っていた。


私はその様子を見ていた。子どもの手を見た。


「あの」と私は店主に言った。「その子、目が悪いんじゃないですか」


店主が私を見た。


「何だお前」


「果物の段差を、見落としているように見えます。落としたのは、不注意というより、見えていなかった可能性があります」


店主が子どもを見た。


「お前、見えてないのか」


子どもが少し黙って、それから小さく頷いた。


「言えよ、それを」


「言ったら、辞めさせられると思って」


店主が少し黙った。


それから、ため息をついた。


「もういい。今日は休んでいい」


子どもが、ほっとした顔をした。



子どもの名前は、トウといった。十歳くらいだった。


市場の隅で、トウと少し話した。


「いつから見えにくいの」と私は聞いた。


「半年くらい前から」


「近くは見える?」


「近くは見える。遠くがぼやける」


「眼鏡みたいなものは使ったことある?」


「眼鏡って何」


この世界には、眼鏡という発想が、まだ一般的じゃないらしかった。ベルクがかけていた眼鏡に似た何かは、別の用途のものらしかった。


「目を助ける道具です。私の世界では、よく使われていました」


「そんなのあるの」


「作れるかどうかは、分からないです。でも、考えてみる価値はあります」


ベルクが横で聞いていた。


「眼鏡というのは、視力を補正する道具か」とベルクが言った。


「そうです。レンズという、ガラスのようなものを使います。ガラスがあれば、作れる可能性があります」


「ガラスはある。工房がいくつかある」


「形を調整できる技術者がいますか」


「探せば、いるかもしれない」


トウが私たちを見ていた。


「それ、できたら、見えるようになるの?」


「もしかしたら。確実じゃないですが」


トウの目が少し明るくなった。


「もしできたら、また落とさなくて済む」


「そうかもしれないです」



その日の午後、ベルクと工房を回った。


ガラスを扱う職人がいた。レンズの概念を説明すると、最初は怪訝な顔をされたが、図を描いて説明すると、興味を持ってくれた。


「曲面を作るのは、難しいが、可能だ」と職人は言った。「ただ、視力に合わせて調整するのは、試行錯誤になる」


「最初は完璧じゃなくていいです。少しでも見やすくなれば」


「やってみる」


数日後、トウに眼鏡が届いた。


完璧ではなかった。でも、トウが眼鏡をかけた瞬間、表情が変わった。


「見える」


トウが市場の向こうを見た。


「あそこの看板、文字が読める」


「読めなかったの」


「ぼやけてた」


トウが嬉しそうな顔をした。


店主が、その様子を見て、少し驚いていた。


「お前、本当に見えてなかったのか」


「見えてなかった」


店主が少し気まずそうな顔をした。


「悪かったな、怒鳴って」


「ううん」とトウは言った。「これで、もう落とさない」



その夜、宿に戻って、ベルクと話した。


「眼鏡の話、広まると思いますか」と私は聞いた。


「広まるだろう。職人が興味を持った。需要があると分かれば、作る者が増える」


「都の人たちの中に、トウみたいな子が、他にもいるかもしれません」


「そうだろうな」


「目が悪いだけで、不注意だと思われて、怒られる人が、減るかもしれません」


ベルクが私を見た。


「お前は、水とか土の話だけじゃなく、こういうことにも気づくのか」


「気になることが、色々あります」


「井戸の水位を見るのと、子どもの目を見るのは、似ているのか」


「似ています。ずれているところに、気づくだけです」


ベルクが少し笑った。


「お前のずれを見つける目は、便利だな」


「便利かどうかは分からないですが、止められないです」


「止めなくていい」とベルクは言った。「都にいる間、好きなだけ気づいてくれ」



数日後、市場に行くと、トウが眼鏡をかけて、楽しそうに働いていた。


果物を落とすことが、明らかに減っていた。


店主が、私を見て、少し頭を下げた。


「ありがとうな」


「私は何もしていません。眼鏡を作った職人さんのおかげです」


「お前が言ってくれなきゃ、分からなかった」


「気づいただけです」


店主が苦笑した。


「お前、変なやつだな」


「よく言われます」


トウが私に気づいて、走ってきた。


「ナギ、見て」


トウが、果物を綺麗に箱に並べていた。


「上手になったね」


「うん。落とさない」


トウが眼鏡を直した。


「これ、お礼に何かしたい」


「お礼はいいです」


「でも、何かしたい」


少し考えた。


「じゃあ、その眼鏡で、見えるようになったものを、教えてください。今度会ったときに」


トウが少し考えた。


「分かった」


それで十分だった気がした。



宿に戻る道で、ベルクが言った。


「都にいる間、こういうことが、増えるかもしれない」


「そうかもしれません」


「全部に対応するのは、無理だぞ」


「分かっています。できることだけ、やります」


「優先順位はどうつける」


「気になる順番です」


ベルクが少し笑った。


「正直な答えだな」


「それが正直なので」


シロが横を歩いた。


都の喧騒に、少しずつ慣れてきたようだった。


森とは違う場所だった。でも、ずれているところは、どこにでもあった。


直せることも、どこにでもあった。


それだけ分かれば、十分だった。

十四話目、書きました。


水や土の問題だけでなく、人の問題にも目を向ける話でした。眼鏡という、現代人には当たり前の道具が、この世界にはまだない。それを持ち込むことで、トウという子の生活が変わる。


「気づいただけです」という凪の謙遜は、本人にとっては本当にそう思っている部分です。でも、気づくことができる人は、実は少ない。気づいて、それを行動に変える人は、もっと少ない。


店主とトウのやりとり、「悪かったな」「ううん」という短い会話は、誤解が解けた後の、ちょっとした優しさのつもりです。


次話では、都の水と土の問題について、もう少し具体的な動きが出てきます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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