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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第一部  作者: マスター


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第十三話「偉い人は、思ったより人間だった」

十三話目です。都編の二話目。


権力者との対面です。凪は緊張しません。理由は、相手が怖いかどうかより、何を言うべきかの方が気になるからです。


偉い人というのは、偉く見える場所にいるから偉く見えるだけで、話してみると、困っていることがある普通の人間だったりします。全員がそうとは言いませんが。


では、どうぞ。

朝、ベルクが用意した服が届いた。


深緑色の、この世界の標準的な服だった。シャツと、ズボンと、上に羽織るものが一枚。素材が柔らかくて、思ったより動きやすかった。


「これでいいです」と私は言った。


「よかった。似合っている」


「そうですか」


「パーカーより、この世界らしく見える」


「パーカーが何かは、ベルクさんには分からないですよね」


「分からないが、あれより良い」


シロが私を見た。


「変わった気がするか」


シロが尻尾を振った。どちらでもいい、という感じだった。



午前中、ベルクに連れられて、宮殿の一角に向かった。


大きな建物だった。石でできていて、天井が高くて、廊下が長かった。窓から光が入っていたが、中は少し薄暗かった。


庭が見えた。


木があった。手入れされた木が、整然と並んでいた。きれいだったが、少し窮屈そうだった。自然に育った木とは、違う形をしていた。


廊下を歩く人たちが、私を見た。シロを見て、少し驚いた顔をした。


「大丈夫ですか、シロを連れてきて」


「許可は取った。ただし、おとなしくしていること、という条件だ」


シロが真面目な顔で歩いていた。


普段より背筋が伸びている気がした。



通された部屋は、広かった。


長いテーブルがあって、椅子が並んでいた。窓が大きくて、外の庭が見えた。


先に人が三人いた。


一人は五十代くらいの男で、服が豪華だった。金の刺繍が入っていた。名前は後でリドルという名前だと分かった。調査部門の上の上、らしかった。


一人は四十代くらいの女性で、目が鋭かった。農務局の長、とベルクが小声で教えてくれた。名前はエイラといった。


一人は三十代くらいの男で、ずっと手帳に何かを書いていた。書記らしかった。名前は最後まで聞かなかった。


私が入ると、三人が見た。


シロを見て、リドルが少し眉を上げた。


「これが例の転生者か」


「凪といいます」と私は言った。「よろしくお願いします」


「礼儀は知っているんだな」


「一応は」


リドルが少し口を開けた。思っていた返答と違ったのかもしれなかった。


「座れ」


「ありがとうございます」


座った。シロは隣に座った。


エイラが私を見た。


「単刀直入に聞く」とエイラは言った。「お前は、国に何をするつもりだ」


「何もするつもりはないです」


「何もしない人間が、なぜここにいる」


「ベルクさんに呼ばれたので」


エイラがベルクを見た。ベルクが少し頷いた。


「森の保護区の件と、採掘の調査について、話を通すためです」とベルクが言った。


「それは聞いた」とリドルが言った。「なぜ、そのためにこの転生者が必要なんだ」


「転生者が魔王と呼ばれているという話が広まっています。ここで対面して、危険ではないと確認できれば、余計な騒ぎを防げます。また、実際に話してみると、有益な情報を持っています」


「有益な情報とは」


ベルクが私を見た。


私は少し考えてから、話すことにした。


「この国の街をいくつか通ってきました。気になることがあったので、話してもいいですか」


リドルが頷いた。


「街の井戸の水位が下がっています。特に、森から遠い街は、地下水に頼っている割合が高い。このまま地下水が減り続けると、十年以内に深刻な水不足になる街がいくつか出ます」


エイラが少し前のめりになった。


「どこの街だ」


「街道の二番目と、五番目の街が、早めに対処が必要です。川が近いので、川から水路を引けば解決できます。工事の規模は、それほど大きくないはずです」


エイラが書記の方を向いた。


「記録しているか」


「しています」と書記が言った。


リドルが私を見た。


「それを、なぜお前が知っている」


「通りながら、見えたので」


「見えた、とはどういう意味だ」


「井戸を覗いたら、水位が分かります。川の流れを見たら、水量が分かります。土の状態を見たら、地下水の量が分かります。それだけです」


「普通の人間には、分からない」


「私が転生者だからかもしれません。別の世界で、同じことが起きていたので、見方を知っているというだけだと思います」


リドルが少し黙った。



その後、一時間ほど、色々な話をした。


森の保護区の話、採掘と泉の話、都の排水の問題、農地の土が痩せていること。


私が言ったことに、エイラが特に反応した。農地の土の話をしたとき、身を乗り出した。


「土が痩せている、とはどういうことだ」


「同じ農地を使い続けると、土の中の養分が減ります。別の植物を交互に育てると、土が回復します。一種類の作物だけを何年も育てていると、だんだん収量が落ちます」


「それは知っている。しかし、そこまで落ちていないはずだ」


「街道沿いの農地は、落ちています。見た感じ、十年ほど前より収量が減っているはずです。記録を確認すれば分かります」


エイラが書記に目配せした。


「あとで確認しろ」


「はい」


リドルが、また私を見た。


「お前は、脅威ではなさそうだ」


「脅威のつもりはないです」


「しかし、こういう知識を持った転生者が、国の外にいると、国としては不安がある」


「国の中にいれば、不安がないですか」


「ないとは言わない。しかし、動向が分かる方が、管理しやすい」


管理、という言葉が気になった。


「管理される気はないです」とはっきり言った。


リドルが少し目を細めた。


「はっきり言うな」


「言わないと、勘違いが起きると思ったので」


「国に従う気はない、ということか」


「従う、というより、条件が合えば協力できます。合わなければ、しません。それだけです」


「条件とは」


「今回で言えば、森の集落の保護と、採掘の調査と、いつでも戻れること。この三つです」


リドルがベルクを見た。


「ベルク、これは聞いていたか」


「聞いていました。妥当な条件だと判断しました」


「妥当か」


「保護区の設定は、農業用水の安定にもつながります。採掘の調査は、農務局が求めていた案件です。戻れること、については、閉じ込めるより、協力関係の方が長期的に有益です」


エイラが頷いた。


「農務局としては、採掘の調査は以前から求めていた。鉱山局が動かないだけで。今回、別の案件と合わせて動かせるなら、賛成する」


リドルが少し考えた。


「保護区の件は、承認する方向で動かせる。採掘の調査は、農務局と連携すれば、鉱山局を動かせるかもしれない。戻ることについては、都にいる間に、協力できることをやってもらう、という条件でどうだ」


「どのくらいの期間ですか」


「一か月」


「短くできますか」


「二週間が限度だ」


「分かりました」


リドルがまた少し目を細めた。


「交渉が早いな」


「条件が明確な方が、お互い動きやすいと思ったので」


「確かに、そうだな」


エイラが、初めて少し笑った。


「面白い転生者だ」とエイラは言った。「今まで会った転生者は、力を誇示するか、ひたすら従うかのどちらかだった」


「他にも転生者がいるんですか」


「何人かいた。ただ、長くは続かなかった」


「どうなったんですか」


エイラが少し間を置いた。


「力を誇示した者は、国に危険と判断された。従いすぎた者は、使い潰された」


「どちらも、良くないですね」


「そうだ。お前は、どちらでもない」


「自分のことは、自分で決めたいだけです」


エイラがまた笑った。


今度は、もう少し本物の笑いだった。



会議が終わって、廊下に出た。


ベルクが横に来た。


「うまくいった」と小声で言った。


「そうですか」


「リドルが動いた。それだけで、かなりの案件が動く」


「エイラさんも、採掘の件で協力してくれそうでした」


「エイラが動けば、農務局全体が動く。農務局と調査部門が一緒に動けば、鉱山局は無視できない」


「組織って、そういうものですね」


「そういうものだ」


廊下の窓から、庭が見えた。


手入れされた木が並んでいた。


「あの庭、木が窮屈そうです」


「窮屈?」


「自然に育てば、もう少し枝が広がるはずです。形を整えすぎると、木も大変です」


ベルクが庭を見た。


「木も、大変なのか」


「生き物は、形を押し付けられると、大変だと思います」


ベルクが少し笑った。


「木の話をしているのか、別の話をしているのか、分からなくなった」


「両方です」


シロが廊下を歩きながら、きょろきょろしていた。


都の建物が、珍しいらしかった。



宿に戻って、窓から外を見た。


昼間の都は、また違う顔をしていた。


市場が賑わっていた。果物や野菜が並んでいた。人が買って、歩いていった。


果物の色が、少し薄い気がした。


土が痩せているなら、果物も影響を受けるはずだった。味が落ちているかもしれなかった。


でも、買っている人たちは、それが普通だと思っているかもしれなかった。もっと良い状態を、知らないだけで。


知らない人に、知れと言っても、難しい。


でも、知っている人が、少しずつ伝えることはできる。


エイラが農地の土の話に反応したのは、記録を確認すれば証明できるからだ。感覚ではなく、数字で示せる。それが組織を動かすには、大事だった。


二週間、ここで何ができるか。


都の水の問題、土の問題、木がないことによる暑さの問題。全部を解決するのは無理だった。でも、記録として残して、方向を示すことはできるかもしれなかった。


シロが私の隣に来た。


「二週間、頼むよ」


シロが尻尾を振った。


「終わったら、帰る」


また振った。


約束した。

十三話目、書きました。


リドルとエイラとの対面が核になりました。偉い人たちも、困っていることがある。農地の収量が落ちていること、水の問題。凪が持ってきた情報は、彼らが知りたかった情報でもあった。


「力を誇示した者は危険と判断された。従いすぎた者は使い潰された」というエイラの言葉。凪はどちらでもない第三の立場を取っています。自分のことは自分で決める、ただし条件が合えば協力する。それが一番、長く続く関係です。


「木も、形を押し付けられると大変」という凪の言葉。木の話ですが、木だけの話ではないです。


二週間、都に滞在する間に、凪は何をするか。次話では、都の中で動き始めます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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