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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第一部  作者: マスター


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第十一話「ベルクは、思ったより早く来た」

十一話目です。


青い布を結んでから、三日後にベルクが来ました。思ったより早かった。それには理由がありました。


ベルクという人物が、少し違う角度から見えてくる話です。組織の中で動く人間が、何を考えて、何に困っているか。凪はそれを責めない。ただ、一緒に考えます。


では、どうぞ。

青い布を結んでから三日後の朝、ラグル族が知らせに来た。


東の端に、人間が一人来ている、と。


私はシロを連れて、一人で向かった。


草原との境目に、ベルクが立っていた。前回と同じ服だった。眼鏡に似た何かをかけていた。手に何も持っていなかった。


私を見て、少し眉を上げた。


「早かったな」


「思ったより早く来てくれました」


「ちょうど、この方向に来る用事があった」


「用事ですか」


「後で話す。先に、お前の用件を聞かせてくれ」



草原の端に腰を下ろして、話した。


シロが隣に座った。ベルクはシロを見たが、何も言わなかった。慣れてきたのかもしれなかった。


山のことを話した。岩人の集落のこと、泉のこと、採掘との関係について、感じ取ったことを順番に話した。


ベルクは黙って聞いていた。


途中で何度か手帳らしいものに何かを書いた。


「採掘が泉の水を奪った、という話だな」と、最後にベルクは言った。


「そう思っています。証明するには、採掘場所の近くで確認が必要です」


「採掘はどこの管轄だ、知っているか」


「知りません。調査部門ではないですか」


「採掘は別の部門だ。鉱山局という部署が管轄している」


「ベルクさんの部門とは、別ですか」


「縄張りが違う。私が直接動けない」


「どうすればいいですか」


ベルクが少し考えた。


「報告書を書く。農業用水への影響という形で出せば、農務局も動く可能性がある。農務局と鉱山局は、以前から対立している。うまく使えば、調査が入るかもしれない」


「縄張り争いを利用するということですか」


「そういうことだ。お前が直接動くより、組織同士を動かした方が早い場合がある」


「それは、ベルクさんがやってくれるんですか」


「条件がある」


「なんですか」


ベルクが私を見た。


「お前に、都に来てほしい」



しばらく、沈黙があった。


「都に来てほしい、というのは、どういう意味ですか」


「前にも言ったが、転生者が魔王と呼ばれているという話は、広まりつつある。国の上の方が、気にし始めた」


「気にして、どうするつもりですか」


「把握したい、ということだ。敵か味方か、危険かどうか。確認したい人間が、上にいる」


「敵でも味方でもないですが」


「そう言っても、見ていない人間には分からない。一度見せれば、判断できる」


「私を見せ物にするということですか」


「そういう言い方もできる」ベルクは正直に言った。「しかし、お前が行くことで、保護区の承認が早まる可能性がある。採掘の調査も、通りやすくなる」


「私が行くことと、保護区と採掘の問題が、なぜつながるんですか」


「魔王の調律者、とでも言えばいいか。上の人間は、不思議なものを見ると、機嫌が良くなることがある。機嫌が良いときに、話を通すのが早い」


「機嫌取りですか」


「政治というのは、そういうものだ」


私は少し考えた。


正直、気が進まなかった。


都に行く、というのが、どういうことか分からなかった。人間の都市が、どういう場所か。どんな人間がいて、どんな反応をするか。


でも、保護区と採掘の問題が早く動くなら、集落にとっても、山の泉にとっても、良いことだった。


「条件があります」と私は言った。


「聞こう」


「一つ目。森の集落の森人と、山の岩人の集落が、保護区に含まれること。居住区として保護されること」


「難しいが、交渉はできる」


「二つ目。採掘の調査が、実際に行われること。報告書だけでなく、現地確認が入ること」


「これも、農務局を動かせれば、可能だ」


「三つ目。私がいつでも、都を離れられること。用事が終わったら戻れること」


ベルクが少し目を細めた。


「それは、できる限り、という条件になる。状況によっては、引き留められる可能性がある」


「できる限り、でいいです。ただ、閉じ込められるのは困ります」


「約束しよう。閉じ込めはしない」


「分かりました。行きます」


ベルクが少し息を吐いた。安堵したような音だった。


「思ったより、すんなり決まったな」


「条件が通るなら、行かない理由がないです」


「恐くないのか」


「怖いかどうかは、よく分からないです。ただ、行った方が直せることが増えるなら、行きます」


ベルクが私を見た。


しばらく、何かを考えているようだった。


「一つ聞いていいか」


「なんですか」


「お前は、何のためにそれをやっているんだ。花を咲かせたり、水を直したり、岩肌に苔を生やしたり」


「気になるからです」


「それだけか」


「それだけです。ずれているのが気になって、直したくなる。直すと落ち着く。それだけです」


ベルクが少し間を置いた。


「見返りを求めていないのか」


「求めていないです。求めても、もらえるものが思いつかないので」


「普通の人間なら、権力とか、金とか、求めるものがある」


「私は、転生者なので、この世界の権力や金が何の役に立つか、あんまり分からないです」


ベルクが、また口の端を上げた。


「変なやつだ、本当に」


「よく言われます」



集落に戻って、ガルに話した。


ガルは黙って聞いていた。


「都に行くことを、承諾したんですか」とガルは言った。


「条件付きで」


「危険です」


「危険かもしれないです。でも、条件の中に、集落の保護が入っています。あと、採掘の調査も」


ガルが少し目を伏せた。


「凪様のことが、心配です」


「大丈夫です。たぶん」


「たぶん、というのが心配です」


「正直に言いました」


ガルが小さく息を吐いた。


「いつ出発しますか」


「三日後に、ベルクが迎えに来ます」


「三日しかない」


「ガルさん、一つお願いがあります」


「なんでしょう」


「私がいない間、森の様子を見ていてほしいです。いつも私がやっていること、水の流れと、土の乾き方と、木の状態。気になることがあったら、記録しておいてほしいです」


「私には、凪様のようなことはできません」


「できることだけでいいです。ルナも、木に触って変化に気づいていました。感じ取れることから、やってみてください」


ガルが頷いた。


「分かりました」


「あと、ゴルさんに、都に行くことを伝えてほしいです。採掘の調査が入ることになる、と」


「伝える方法がありますか」


「ラグル族に頼めないですか。山と森の間を動ける子がいれば」


ガルが少し考えた。


「一頭、心当たりがあります」


「お願いできますか」


「やってみます」



夕方、ルナが来た。


「ナギ、都に行くって本当?」


「本当です」


「やだ」


「また言う」


「だって、また離れるじゃん」


「戻ってきます」


「また、できる限り、って言うでしょ」


「言います」


ルナが膨れた。


「もっとちゃんと約束してよ」


「ちゃんと約束できることしか、約束したくないんです」


「なんで」


「嘘の約束をすると、破ったとき、もっと辛いから」


ルナが少し考えた。


「……まあ、いいか」


「ありがとう」


「でも、早く帰ってきて」


「努力します」


「努力、じゃなくて、する、にして」


「します」


「よし」


ルナが満足そうな顔をした。


条件を下げさせられた気がしたが、悪くなかった。



三日間、できることをやった。


集落の周りの木に、一本一本手を当てた。状態を確認した。良い木は、そのままにした。乾いている木は、根元に水を送った。


北の池にも行った。


精霊が、水の中で元気に動いていた。水はまだ透き通っていた。


「しばらく来られないかもしれない」


精霊が水面をぱしゃりと叩いた。


「元気でいてください」


また叩いた。


「池の水、続けて頼みます」


何かが伝わった気がした。


伝わっていなくても、言いたかった。



出発の前の夜、眠れなかった。


不安というより、確認していた。


やり残していることはないか。伝えていないことはないか。


森の状態は、三日前より少し良くなっていた。劇的な変化じゃなかったが、方向は合っていた。


ガルとルナと、クロとキョロとシロに、ここを頼む。


都でやることは、交渉だ。私が直接何かを直すわけじゃない。人間の組織を動かして、保護区と採掘調査を実現させる。それだけだ。


直接手を当てて直すより、難しいかもしれなかった。


でも、やってみないと分からない。


シロが隣で寝ていた。


「都に、一緒に来てくれるか」


シロが目を開けた。


「来なくていいぞ。集落に残ってくれてもいい」


シロが起き上がった。


来る気満々だった。


「そうか。ありがとう」


シロが丸くなり直した。


もう決まったことだから、寝る、という感じだった。


私も目を閉じた。


明日から、都に行く。


どうなるかは、分からなかった。


でも、戻ってくる場所が、ここにある。


それだけで、十分だった。

十一話目、書きました。


ベルクとの交渉が核になりました。凪は条件を三つ出した。集落の保護、採掘の調査、自由に戻れること。この三つだけを求めた。権力も金も求めない。それがベルクには、かえって不思議に見えた。


「変なやつだ」とベルクが言うのは二回目です。最初より、少し温度が上がっています。


ルナとの「します」の会話。「できる限り」から「します」に言葉を変えさせられた凪。条件を下げた、というより、ルナとの関係の中で言葉が柔らかくなった、という場面でした。


都編に入ります。森や山とは違う環境で、凪が何を見て、何をするか。人間の都市の中で、凪の目にはどんなずれが見えるか。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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