柔らかかった
「あっ……ぶないぃ…」
ハウスできゅうりの葉を摘んでいるとき
鋏を向けた先にカエルがいました。
ハウスの中には時々、
雨蛙と土蛙がいます。
土蛙は人間が近づくと、
ピョンコピョンコ跳ねて逃げるか
土のくぼみや、少しの穴に入り込んで
じーっとこちらを見てきます。
鉄の支柱を土にさしているんのですが、
その隙間に二匹がムギュムギュに入っていたり、
水滴で穿たれた土の穴に入って
上から落ちてくる雫を頭で受けていたりと、
なかなか面白いやつですね。
その色の示すまま
地面大好きなカエルさんです。
お顔は少し尖っています。
雨蛙は人間が近づいても
ピョンコピョンコしません。
いや、
地面にいる時は
ピョンコピョンコしてますね。
えーと…
葉っぱにいる時は、あまりしません。
緑のボディを葉っぱに擬態させて
バレていないと思っているので
あまり動かないんです。
なので今回、
鋏で切りそうになってしまい
声が出ました。
切らなくて良かった。
本当に良かった。
切ったら可哀想なことになってしまうし
娘はトラウマになってしまいます。
摘もうと思っている葉っぱの付け根で
じーっとしている雨蛙さん。
顔が丸くて
目がクリクリで
色も綺麗で
可愛いですね〜。
…退いてください。
なんとなく
見られているって
気付いているでしょう?
お願いします。
自分の意思で
ジャンプしてください。
娘のいない方へ。
いや
のそのそ歩いてもらっても
構いません。
全然待ちます。
だから
あの
本当に
退いてください。
そう願って10秒、20秒、30秒、、、
最初に見た時と変わらない姿勢で
喉だけ動かす雨蛙さんに
ひとつため息をこぼして
そっと手を近付けました。
手袋しているので
大丈夫です。
大体何か近づいてくると
ピョーンと逃げてくれるので
この子も逃げてくれるでしょう。
そろ〜っと
そろ〜っと
いつでもジャンプしていいですよ〜
っと思いながら
手を近付けていくと
「……ぇっ?!」
乗って…来ました。
「なん…で、乗るの?!」
こんなことは初めてです。
近づいてきた娘の手の
ノソノソとよじ登ってきた雨蛙さん。
これは予想外です。
どうしましょうか。
跳ねられたら叫んでしまいます。
跳ねられたら…
跳ね…
跳ねないの?
跳ねないね?
跳ねないのかぁ〜な?
指先に乗り
なんとも大人しくしている雨蛙さん。
え?
可愛い
可愛いなぁ
いやいやそれよりも
柔らかい?
手袋越しですが…
めちゃくちゃ柔らかいです。
懐かれたような感覚に
ウキウキと心が踊ります。
葉っぱに移し替える時も
トロトロとまったり動く雨蛙。
可愛いですが
そんな感じで大丈夫なんですか?
天敵に見つからないように
頑張ってくださいね。
お別れは名残惜しかったですが
仕事に戻った娘。
もう
あの雨蛙は娘のフレンドです。
認定しました。
また会いたいですね。
雨蛙が手に乗って柔らかかった。
そう父に話すと、
「ああ〜あの、田んぼに行った時になぁ〜、鷺がカエル食べるろ?いっつもは土蛙食べてるけどな、雨蛙がおったら雨蛙ばっかり食べてるぞ?」
「…え?なんで?」
「ん?柔らかかったのやろ?美味しいんじゃない?」
「……聞きたくなかった!」
愛着が沸いていたので
鷺に食べられてしまう雨蛙を脳内再生してしまって
ズドンとショックが駆け抜けた娘でした。
頑張れ
頑張って生き延びなさい。
雨蛙。




