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初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第一章

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第八話 少女達の目覚め

「聖光神ルクスレスティア、二人に目覚めを与え給え」


 言葉と共に、寝かされていた二人は目を覚ました。簡単な神秘式だからか、今回は詠唱(正確に言うと神秘式で唱える言葉は魔法の「詠唱」とは違う言葉で表されるので「祝詞」みたいな何か別の言葉をあてるべきだが、面倒なので俺はまとめて「詠唱」と呼んでいる)がいつもより少し簡易的だったな。


 元の姿に戻った直後は二人とも裸だったが、今はアステミリスによって服……アステミリスの予備の服を着せられている。

 ……アステミリスの荷物の何処にあんなに毛布やら服やら入っているのだろう? この世界、前世のフィクションのようなアイテムボックスやら空間魔法による収納みたいなものはなかったはずだが? 仮に存在するとしても超越級魔法だろう。しかも、そんな魔法があったとして、マジックアイテム化は困難だ。その収納用の超越魔法を行使できる集団と、物質への魔法付加が可能な技術者とが力を合わせる必要がある。物質への魔法付加が可能な技術者は、現在世界に一人か二人しか存在しない。その辺りを加味すると、空間収納魔道具の製作は事実上不可能なはず。

 ……いや、もしかしたらそういう事ができる神秘式とかあったりするんだろうか? ……他の誰でもないアステミリスが所持しているものである以上、その可能性が高そうだ。


 目を覚ました二人は俺やアステミリス、兵士たちを見回した後……号泣し始めた。


 ごめんなさい、ごめんなさい、と謝りながら涙を流し続ける。


 泣きながら謝り続ける二人をなだめるのに、そこそこの時間が必要だった。


※※※


 二人が泣き止むまでなだめた後、事情を聞き始めた。

 この時点で、さっきまでこの二人を警戒していた兵士さんたちも普通の少女に対するような態度に変わっていた。


「私はリルカっていいます。こっちはセルマちゃん」


「セルマです」


 簡単な自己紹介をした二人は、事情を説明し始めた。


 二人は元々クラーデ王国北部の村の出身だということ。

 その村が謎の魔族の男二人によって壊滅させられたこと。

 その男たちに興味を持たれたリルカとセルマは、呪いをかけられて魔獣の姿にされたこと。

 ……そして、その男たちの命令に逆らうこともできないまま、この半年人々を殺し続けていたこと。

 ……半年間、命令に逆らうことはできないのに、彼女たちの意識は起きていて、魔獣となった自分が人々を殺戮する光景を見続けていたこと。


 淡々とそれらを説明した後、セルマが言った。


「私達を殺してください。私達赦されないことをしました」


 セルマはそう言ったが、リルカの意見は違うようだった。


「ダメ、まだダメだよセルマちゃん。私はまだ死ねない」


「何を言っているの? リルカちゃん。……私達、あんなひどいことしたんだよ。命でしか償えないようなことを」


「そうだけどダメ! あの二人を殺すまで、私は死ねない!」


 リルカはそう叫んだ後、俺とアステミリスに向き直り懇願した。


「お願いします! あの二人を……私達の村を壊したあの男たちを殺すまで、生きさせてください! あの二人を殺した後なら、私は殺されてもいいです! だからそれまで待ってください!」


 そう懇願するリルカに、アステミリスが冷ややかに告げる。


「あなたごときがその二人をどうやって殺すのです?」


「わかりません! でも、どんな方法を使ってでも必ず殺します!」


 言ったリルカの目には強い意志が……訂正、漆黒の復讐心が宿っていた。


 これは、良くない。復讐心というのは最も呪いと親和性の高い感情だ。


 アステミリスも良くないと思ったのか、首を横に振る。


「却下です。……あなたが為すべきは復讐ではない。あなたが……あなた達二人がすべきは贖罪です。それも、命で償うのではなく、生きて人々の助けとなりなさい」


 その言葉に、リルカもセルマも驚いた様子だ。

 死ねと言われるだろうと思っていたのかもしれない。

 殺すつもりなら最初から元の姿に戻していないので、俺にとっては予想外ではなかった。


 いや、違うな。予想外ではある。……俺は、二人のことを赦すと言うと思っていたのだ。

 ……アステミリスは二人に罪が無いとは言わなかった。

 それは厳しさであり、同時に優しさなのかもしれない。


 だが、リルカは納得しなかった。


「でも! お父さん達を殺したあの二人が生きているなんて! 私は許せない!」


「安心なさい。……あなたが復讐したいという二人は私の敵です。仇は討ちます」


 そう言いながら、アステミリスは俺を見て頷いた。

 ……なるほど、その二人の魔族、心当たりがあるらしい。


 つまり、魔族の到達者ということか。


「あなた達二人には、私達に付いて来てもらいます。まだ、あなた達……特にリルカには呪いの影響が残っていますから。……今は私の力の影響で呪い皆無どころか、むしろ触れた呪いを浄化するぐらいの清浄な神威を纏っています。ですが、数日もすればそれも消えて、またあなた達の内側から呪いが湧き出してしまうでしょう。だから私の側にいて、定期的に浄化を受けなければなりません。セルマは一年、リルカでも五年もすれば、完全に呪いの影響を消しされるはずです」


「でも……」


「私達に付いて来れば、その二人にトドメを刺すチャンスだってあるかもしれませんよ?」


 なおも食い下がろうとするリルカに、アステミリスは可能性を提示した。

 リルカはその言葉に少し悩んだ後、頷く。


「……わかりました。私とセルマちゃんをよろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 リルカの言葉に、セルマも追従する。


 アステミリスはその様子に頷いたが、今度は背後から言葉が飛んできた。


「待って欲しい。その二人が呪われて姿を変えられて無理やり従わされていたことはわかった。それなら情状酌量の余地はあるだろう。だが、それでもその二人の処遇はお前たちが勝手に決めて良いことではない。……そもそもお前たち二人は何者なんだ!」


「……そう言えば、この二人への対処ばかりで自己紹介もしていませんでしたね。……改めて、私の名前はアステミリス。こちらは仲間のクルトです」


 ……そう言えば戦闘に参加したときも、その後も自己紹介した記憶はなかった。

 ようやく名乗ったアステミリスに兵士は驚く。


「アステミリス!? セファイルート真王国の天啓の聖女様ですか!?」


「もう、聖女ではないわ。今は神殿の恨みを買って、あらぬ罪を押し付けられた罪人よ」


 アステミリスはわずかに自嘲気味に言った。

 だが、すぐにその自嘲の色を消し、兵士に向き合って提案する。


「私達の事情も、この二人の処遇も、それにあなた達が民間人も引き連れてここにいた理由も、必要なことを話し合いましょう。時間に余裕はありませんが、私達は情報を正しく処理する必要があります」


 アステミリスの言葉に兵士の中の代表が頷き、情報共有が始まった。


※※※


「……呪いを自在に制御できる呪紋族(ノータム)と、呪いから魔獣を生み出す悪魔族(デーモン)……そんな恐ろしい魔族が我が国を襲っているとは」


「あなた達は別の都市から王都に向けて民衆を護送してたのね」


 アステミリスは魔族二人について情報を持っていると言い、到達者に関することは濁しつつその能力を説明した。

 なかなかに恐ろしい相手だ。


 また、兵士たちも事情を説明してくれた。

 どうやら彼らは王都とは別の都市の兵士達らしい。その都市も長いこと魔獣たちに攻められていたそうだ。そして、その都市がもう耐えられないからと、最後に決死の覚悟で魔獣たちに打撃を与え、その隙に民衆を逃がしたのだそうだ。ここにいる兵士たちは民衆の護送のために割り振られた者達で、未来ある若者が中心だ。

 兵の大部分は追撃を食い止めつつ、囮になるため都市に残ったらしい。……おそらく、もう死んでいるだろうとのこと。

 彼らは仲間の犠牲を無駄にしないため、決死の覚悟で民を王都に向けて護送していたところ、少女二人が変貌した魔獣に襲われたらしい。


 少女二人が変貌した魔獣はこの半年でクラーデ王国に多大な被害をもたらし、恐れられていたらしい。

 存在が確認された当初の推定危険度はⅨとⅩ。それがどんどん強さを増していき、今では危険度ⅩとⅪという評価だったらしい。それが二体常に一緒に行動していた。……これは、英雄と呼ばれるような実力者であっても命がけとなるような相手だ。

 実際、精鋭部隊が討伐に送り込まれたが、闘気を纏った剣や槍でもほとんど傷をつけることができず、犠牲者が多数出て敗走したらしい。……俺の魔法の手応え的にもその硬さには納得だ。


 情報共有が終わったところで、突如アステミリスに光が舞い降りた。


「神々よ、我が道を照らし、導き給え」


 アステミリスから湧き出る尋常ではない量の神威。

 神託だ。アステミリスは、神託を受けている。

 ……顔色を土気色に変えて。


「ミリスっ突然なにを!?」


「はぁ、はぁ……民衆の護送先が、王都なの……ですから、王都の情報は必要です。それに、その情報は、私達にも必要でした」


 どうやら神託で王都の情報を得たらしい。

 息を切らして、明らかに体力も気力も大幅に消耗している。……それだけではなく、貯め込んでいたはずの神威も。

 アステミリスは息を整え、兵士に顔を向けた。


「では、私達もあなた達に同行します。目的地は同じく王都ですので。……あなた達は避難として王都を目指していたようですが、残念ながら王都も平和ではありません。武勇神様から神託がありました……王都でも戦いが始まっています。私達もそこに参戦します」


「そうですか……王都も戦いに……。いえ、我々もその可能性は考えていました」


「私が道を切り拓くので、あなた達はなんとか民衆を王都の中へ入れてください」


「助かります。天啓の聖女様と、あの強大な……いえ、あれだけ素晴らしい戦いを見せてくださったクルトさんが参戦してくださるなら百人力……いえ、千人力です」


 リルカとセルマへの配慮が遅い。


「リルカとセルマにも民衆と一緒に来てもらいます。処遇の決定などは王都を防衛したあとですが、彼女たちの呪いについては私しか対処できません。ですので、最終的には私に付いてきてもらうしかありません。放置すれば最悪、また魔獣の姿に変貌しかねませんから」


「わかりました」


 今後の行動は決まった。

 俺達は王都を目指す。


 行動準備を開始した直後、アステミリスが寄ってきて耳元で告げた。


「王都には敵の一人がいます。……私と二人で、確実に仕留めましょう」


「……了解」


 魔族の到達者の一人が、王都にいる。


 俺は人生初の対到達者戦を見据え……ようやく自分の実力が試せることに、この状況的には不謹慎だとは思いつつも興奮を覚えたのだった。

読んでくださり、ありがとうございます


以下投稿予定です。


4/19は12時と20時に投稿予定。

4/20以降は1日1話、20時投稿予定。


4/19 17:10 本文微修正(セファイルート王国→セファイルート真王国)

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