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初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第一章

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第七話 聖女アステミリスの到達権能

「嫌な予感がしますね。……クルト、少し離れてください」


「ミリス?」


 クラーデ王国の王都へ向け走っていると、アステミリスは突然そんなことを言い出した。

 言うやいなや、突然アステミリスの体に光が降り注いだ。


「神々よ、我が道を照らし、導き給え」


「ミリス!?」


 止める間もなく、膨大な量の神威が放出された。

 そして、アステミリスは少しつかれた表情で、俺に声をかけてくる。


「少し西に逸れましょう」


「……いまのは?」


「神託です。何か嫌な予感がしたので、神託を受けました。……ここから少し西に逸れた先、そこに救うべき者達がいると。聖光神様より神託を受けることが出来ました」


 ……化け物か?

 神託ってたしか、ギフトを持っていないと出来ないだけでなく、儀式も必要なはずだ。神威の満ちた神殿で儀式をしてみたいな手順を踏まないと、まともに神々の声を聞くことはできないと聞いた。

 それを走りながらって……これがアステミリスの到達権能なのだろうか?


 到達権能。それは到達者に与えられる力。この世界の一部の理を無視できる特殊な権限であり、到達者一人ひとりその内容が違う。

 到達者になった瞬間に神々から与えられるものであり、当然俺も持っている。


「わかった。……だが、大丈夫か?」


「問題ありません。……このくらい、いつものことです」


 神託に従うのはいい。だが、アステミリスの様子がかなり不安だ。だいぶきつそうに見える。……儀式無しでの神託だからだろうか? あるいは、神託とはそもそもこの様に、聖女に負担をかけるものなのだろうか?


 彷徨神様の神秘式の補助を受けて、飛ぶような速度で駆けながら、俺達は目的地を変更した。

 先導するアステミリスに付いていく。


 既にだいぶ王都が近いが……目指している場所は王都の西にある森林か?

 ……というか、王都の方角から煙がみえるんだが、大丈夫か?

 まぁ、神託だと言うのなら仕方ない。そちらを優先しよう。


 想定通り森林の中に入り、そのまま走り抜ける。


「自然神ナトラサルトスよ、我らの道行きを助け給え」


 走りながら、アステミリスが神秘式を行使する。

 直後、俺とアステミリスの体が一瞬輝く。

 同時に、前方の草木が俺達に道を作るかのように動き始めた。


 ためらいもなくその道をゆく。

 俺達が通り抜けたあとは、再び木々は元の位置に戻っていく。


 森歩き、などと呼ばれる初歩の神秘式だ。……初歩と言っても、そもそも神秘式を使うこと自体がよほどの才能がない限り無理なので、そうそう使える者はいないが。


 そうして駆け抜けた先で森が途切れ、一つの道に合流した。

 道の反対側にはまた森が続いている。おそらく、森を突っ切るように作られた街道だろう。しっかりと石畳も敷かれている。


 その石畳の隙間に血が流れ、街道は赤い紋様が掘られているかのようになっていた。


 多数の兵士達が、二体の翼の生えた猿のような魔獣と戦っていた。

 兵士たちの奥には民間人のような姿も見える。……どういう状況だ? 護送?


「あれは……」


 二体の魔獣を見て、アステミリスは驚きの混ざった声で呟く。

 そして──


「クルト、あの二体の魔獣を無力化してください。ただし、殺さないように。死にさえしなければ、手足などは破壊して構いません」


「了解」


 なぜ殺すのではなく無力化なのか。疑問には思うが、理由は問わない。

 アステミリスにしかわからない事があるのだろう。それは神託かもしれないし、聖女としての研鑽で感じ取れるようになったなにかなのかもしれない。

 ただ、到達者である彼女が何かを感じ取り、わざわざ俺に頼んできたことだ。なら、彼女を信頼して応えよう。


 今まさに兵士を叩き潰そうとしていた魔獣の腕を狙う。


 この世界の魔法は世界と契約することで、世界の魔法法則……魔法基盤上にある自らの回路に接続して扱うもの。

 元来その契約には詠唱が必要だが、今回は出し惜しみはしない。【初級魔法詠唱不要】の力で、詠唱無しで世界と契約し、接続する。

 この世界の魔法基盤上における自分。物理世界とは別次元の自分自身。

 その基盤における自分の回路に魔力を通し、その性質を変換していく。

 変換された魔力で魔法基盤上の術式を写し取り、物理空間に展開する。

 そうして展開された魔法陣に、改めて変換した魔力を注ぎ込んでいく。

 注ぎ込む量は、一般的な魔法使いが使う初級魔法の軽く十倍。


 使うのは今回も《(ヴェン)》。風の弾丸を作り出し、高密度に圧縮。

 そして、超高速で撃ち出す。


 通常の初級魔法では考えられない魔力を注ぎ込んで、風の弾丸を超音速で射出する。


 パァン!


 音速を超える弾丸の発射により、凄まじい破裂音が鳴り響いた。

 魔獣が振り上げていた腕が、圧倒的な威力によって破裂する。


 ……だが、思ったよりダメージが少なそうだ。肘に命中させ、実際に肘を消し飛ばした。……だが、本当なら肩辺りまで吹き飛ばすつもりで撃ったのだ。

 想定以上に強い魔獣らしい。肉体強度が桁外れだ。


 現状、俺とアステミリスの立ち位置は、魔獣の後方。つまり、魔獣を挟んで反対側に兵士、その奥に民間人がいる。

 ……外すつもりはないが、この角度からの攻撃はやはり少し撃ちづらい。貫通するほどの威力を出すわけにもいかなくなる。


 というわけで、角度を変える。


 足の裏に【初級魔法焦点自在】で起動した《(ヴェン)》を利用し、二体の魔獣の頭上まで跳躍する。

 さっきの攻撃でこちらに気づいた魔獣は目で追ってくるが、まだ驚いている状態らしい。俺に対する迎撃準備はできていない。

 速攻で決める。


 即座に同時展開する《(ヴェン)》の数は七。

 それぞれ、魔獣たちの手足を狙って、頭上から撃ち下ろす。


 パァン!


 再びの破裂音。完全同時に撃ち出したため、聞こえる音は一度。


 魔獣の内一体、先程の一撃で片腕を失った方は、攻撃を避けることができずに残る手足に命中。想定通り破壊。

 だが、もう一体は、俺に攻撃しようと跳躍してきた。翼と脚力両方を使っての大跳躍。

 その跳躍時に片腕には命中。驚くことに腕は千切れることさえなかった。それでも、あらぬ方向に曲がった腕はもう使えないだろう。

 だが、それでも残るもう一方の腕で殴りかかってくる。


 こちらの個体のほうが強いらしいし、一級冒険者パーティでも圧倒されかねないほどの圧を感じる。俺の魔法で腕を吹き飛ばせなかったことを考えると……おそらく、魔法系の二級冒険者が上級魔法を撃っても、簡単にはダメージを与えられないほどの強度をもっているだろう。


 だが、俺の敵じゃない。

 中・近距離の一対一の戦闘において、俺の初級魔法は世界最高効率の攻撃魔法だという自信がある。


 俺に向かって振り下ろされる拳を、真下から上に撃ち上げる一撃で破壊する。拳を一撃で砕いてやると、流石に数本指が弾け飛んだ。

 さて、俺の懐に入ったんだ。焦点自在の恐ろしさを味あわせてやろう。


 魔獣を囲うように展開する魔法陣、生み出される風の弾丸。

 それらが俺の意思に従って、破裂音と共に魔獣を襲う。


 破壊するのは翼と足、念の為既に破壊した腕も根本の肩の部分から、念入りに吹き飛ばす。指程度の太さなら破壊できたのだ。概ね肉体強度はわかった。今まで以上に密度を上げて撃ち込んでやれば、流石に手足を吹き飛ばす事もできるだろう。


 魔獣の強靭な肉体を、有無を言わさず破壊する風弾。

 それが連続して、魔獣の体へと殺到し、狙い通りに各部位を破壊した。


 決着だな。


 俺も魔獣も飛行してるわけじゃない。俺達はそのまま自由落下していく。

 もちろん、俺は自分で跳躍してからバランスを崩したわけでもない。地面に着く直前で軽く風を起こし、落下速度を軽減して着地する。

 対して魔獣は、腕、翼、足を撃ち抜かれたときの衝撃で、きりもみ回転しながら受け身も取れずに落下した。

 今落ちた方は少し離れたところに落下したから一旦無視。

 もう一方、最初に倒した方に目を向けると、今にも兵士がその魔獣の首に剣を振り下ろそうとしていた。

 俺はとっさに、密度をかなり下げた速度だけの魔法を撃ち出し、その剣を弾く。


 兵士は驚いた後、こちらに顔を向け、怒鳴りつけてきた。


「貴様! 何をする!」


「その魔獣を殺してはなりません」


 俺が答えるより先に、アステミリスが言い放った。


「貴様は何者だ! なぜ魔獣に味方する!」


「味方しているわけではありませんよ。そもそも、クルトが攻撃しなければあなた達が死んでいたでしょう。……それに、そこの人たちも私が助けなければ死んでいましたよ」


 アステミリスはいつの間にか神秘式を行使していたらしく、魔獣付近で死にかけていた幾人かが今は穏やかな表情で眠っている。


「ではなぜこの魔獣たちを生かす! この魔獣たちこの半年我が国を脅かした災害級の怪物だ! この二体の魔獣によって多くの人々が命を落としたのだぞ!」


「それを……この魔獣たちを生かす理由を、今からお見せします。……クルト、もう一体をこちらに運んできて」


「……吹っ飛ばして運ぶのはありか?」


「今は時間がないので良しとします。後で謝りなさいね」


「? 了解」


 後で謝る? それはどういうことだろう。

 わからないが、とりあえず遠くに落下したほうの魔獣の近くに移動し、魔法でアステミリスたちの方に吹っ飛ばす。


 二体の身動きの取れない魔獣を見下ろし、アステミリスは一つ頷いた。

 一度荷物から毛布を取り出し持ってくると、それを足元に置いて周囲の者達に告げる。


「皆さん、離れていてください」


「しかし」


「聞こえませんでしたか? 離れなさい」


 有無を言わざす、兵士たちを魔獣から離す。


 そして、次にアステミリスが行ったのは……常識を超えた神秘式の行使だ。


「聖光神ルクスレスティア、生命神ヴィタサニータ、魔法神ラツィオヴェリタス、美麗神プルクラエテルニ、魂魄神アニマコルディア、五柱(いつはしら)神威(しんい)を以て、この二人の憐れなる子らを、元来あるべき姿に戻し給え!」


 その言葉と共に、光が落ちた。

 天から舞い降りた二本の光の柱。五色に輝くその光に包まれた二体の魔獣。


 変化は劇的だった。


 二体の魔獣の体が縮み、段々と少女の姿へと変わっていく。

 ちぎれた手足もまた、再生されていく。


 それはありえない偉業だった。

 神秘式は一柱の神から力を借り受けるもの。常識だ。

 それを同時に五柱から借りて行使する。こんなことができる者は歴史上一人もいなかっただろう。

 複数の神威を同時に操ることも、複数の神の力で一つの神秘式を為すことも、今まで聞いたこともない力である。


 確信した。……この複数の神から力を借り受け一つの神秘式を行使する能力。これこそがアステミリスの到達権能なのだろう。

 ……つまり走りながら神託を受けていたのは到達権能じゃないのか。本気で怪物だな。


 数秒後、二体の魔獣がいた場所には、二人の幼い少女が裸で横たわっていた。


 兵士たちも俺も唖然としている中、アステミリスは二人に毛布を被せる。


「二人を運びましょう」


 言いながら一人の少女を抱えるアステミリス。

 俺もそれに従い、もうひとりの少女を毛布ごと抱え上げた。

読んでくださり、ありがとうございます


以下投稿予定です。


4/18、19は12時と20時に投稿予定。

4/20以降は1日1話、20時投稿予定。

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