第四話(通算第四十九話) そして出発の日
訓練の日々はあっという間に過ぎ、大魔境への出発の日がやってきた。
「さて、クルト、リーシャ、クライス。今回の先発隊はお前たちだ。もしものときはレイがサポートするが、あてにはするな」
「了解」
大魔境への突入組は俺達三人。
到達者の中で味方側は十一人。そのうち突入組が俺達三人。残り八人の内、ラコニドゥムにいるのは四人。神威を貯め込む必要のあるアステミリス、アステミリスの護衛として残るベラルマ、移動手段であるリーベ、鍛冶師であるドラン。
ラコニドゥムにいないのが残り四人。内一人はレイ。どこにいるかもわからないが、いざというときにはサポートしてくれるらしい。……たぶん、彼女の神出鬼没具合は到達権能によるものだろう。
一人はエリス。今は封印に力を使ったせい弱体化しているらしい。また、家がゴタゴタしているらしく、そちらにかかりきりだとか。
で、残り二人はまだ見たことがないが、一人はエリスを陰ながら護衛しているとのこと。妹を守ってくれているとは、ありがたい。
……残り一人は放浪中と言われた。こんな重要なときに放浪してるって、どういうことだよ、ホント。
「では、飛ばすぞ。到着直後に戦闘開始の可能性も高い。気をつけるのじゃぞ」
「ああ、行ってくる」
「飛ぶ前に詠唱しておかないといけませんね……開始、吸引、早急、運ぶ、抱擁、準備 ──《柔風動》」
クライスが詠唱を終えたのを見て、ベラルマがリーベに向けて頷いた。
リーベが俺達に杖を向ける。直後に俺達の足元に魔法陣が展開された。
一瞬にして、周囲の風景が切り替わる。
たどり着いた場所はアルクサンドス渓谷。世界で最も危険とされる十大魔境の一つだ。
……そして、そこでは、百人を超える魔族が儀式を行っていた。
※※※
悪魔族。極めて有名な魔族だ。
残酷、陰湿、強欲。知能が高く、研究好き。その研究に人間などを使うこともしばしば。他者を支配することが好きらしく、他者を隷属させる呪いなどを得意とする。
儀式なんてことをやるのに一番向いている魔族は、悪魔族だろうと思っていた。
転移直後に遭遇したのは、悪魔族の男女、合計約百人。呪紋族の男一人。魔人族の男女十人。
気配からして、ここに到達者はいないようだ。
即座に悪魔族達に対して魔法をぶっ放したのは、俺とクライスがほぼ同時だった。
一拍遅れて、リーシャが動き出す。
ここにいる魔族はどいつもこいつもかなりのエリートのようだ。
全員、最低でも二級冒険者ぐらいの強さはある。危険度で言うなら、最低でⅦ。魔人族のやつらはⅨ、呪紋族に至っては危険度Ⅺクラスだろう。
ここにいる奴らだけで、人間の国なら一国の戦力を容易く凌駕しるう。
だが、同時に……その程度でしかない、とも言える。
そもそもそのぐらいの実力はないと、大魔境では生きていけない。むしろ、悪魔族の連中は大体危険度ⅦかⅧ程度みたいなので、この大魔境では護衛が必要だろう。……ああ、この魔人たちが護衛なのか。なるほど。
そして、この集団で一番強そうな呪紋族の男ですら、俺達の敵じゃない。
戦闘は、一方的だった。
まず、悪魔族の大半は俺とクライスの魔法をほとんど避けることも出来なかった。一体辺り一発かニ発で終了。偶然避けれても三発あれば十分。
それだけの火力の弾幕を張れる俺達からすると、百人いようと敵じゃない。ただの蹂躙対象だ。
魔人族の者達も、ほとんどが初撃で倒れた。が、一人、二人……三人は初撃から生き残って見せた。まぁ、当然だろう。
かつて護衛依頼で、俺の撃った"弾丸型"の《風》が、中級魔法の《風撃弾》と誤解された事があった。
それはつまり、俺の"弾丸型"と同じぐらい、中級魔法《風撃弾》は弾速も威力も高い魔法として知られている、ということだ。
クライスほど連打できる者はそういないが、単発なら撃てる者も少なくない。つまり、これを回避出来ない者は、中級魔法を使える者には一方的に殺されかねないということだ。
逆に言うと、ある程度以上の実力者なら、俺の"弾丸型"も回避可能であることを示す。
とはいえ、危険度がⅧ以下のやつらが撃弾系に対処する場合、大体展開された魔法陣を見て、発動前に射線から退くことで回避する。俺やクライスのように、それを許さない速度で発動した場合は避けることが出来ない。
問題は危険度Ⅸオーバーの実力者。
単にエネルギー量が高いだけの魔獣などと違い、知能のある危険度Ⅸ以上の魔族は、当然戦闘技術を磨く。
そういった者達は、距離によっては撃弾系中級魔法や俺の"弾丸型"すら、射出された弾丸を見てから回避してくる。
今も実際、魔人族と呪紋族は頑張って回避していた。魔人族三人は体の一部に当たって欠損しつつも、以降は生き残る努力をしていた。呪紋族に至ってはなんと被弾することなく、初撃を避けてみせた。距離的に一番遠かったからということもあるだろうが、かなりの実力者だ。
だが、一発から数発程度を回避するのと、雨のように降り注ぐ弾丸を避けるのとでは、話が全く違う。
雨あられと連打される魔法を避けきれなかった魔人族は、腕が吹っ飛んだり、腹の一部が消し飛んだりしている。
倒すのも時間の問題。
そんな中、呪紋族は回避に加えて直撃するものを呪いでガードしつつ、こちらに突っ込んできた。
正直、並の魔法使いのものならともかく、俺たち相手にあの程度の呪いじゃガードは成立しない。が、そのガードごと吹き飛ばすことはしなかった。リーシャの出番を全部奪うのも悪いからな。任せよう。
呪紋族は何かしら呪いを剣に込めて斬り掛かってきたようだ。
だが、リーシャは走る勢いを利用しつつ、妙にアクロバティックな動きで回避しながら、剣を持った腕を切断した。
【過重武器運用】と到達権能の両方を利用し、自分への仮想質量付加をしたり、逆に付加された仮想質量を解除したりしていたのだろう。あのアクロバティックな動きは、仮想質量の変化によるスピードや重心の変化によるもの。傍から見ると非合理に見えるアクロバティックさだが、その瞬間瞬間の仮想質量の状態においては最適な動きがなされているわけだ。
非常にトリッキーでありながら、威力を無駄にしているわけでもない恐ろしい戦闘スタイルでもある。あの動きを予測するのはかなり難しい。……対人戦に向かない超重量武器を使うリーシャの、現状での対人戦への回答だ。
腕を切り落とされた呪紋族は、なおも次なる呪いで応戦しようとした。切り落とされた腕の部分に呪いが集まり、腕の形になってリーシャへ襲いかかる。
対するリーシャも冷静だった。斧を引き戻すような動きで、コンパクトに操作し、再び迎撃する。斧に勢いと威力を乗せるために、自分の体はむしろ後退するような形で、カウンター気味に斬り下ろした。
呪紋族の肩から腰にかけてが、両断された。最後、切断する瞬間だけ戦技を使っていたな。迎撃のためにコンパクトな動きにした分、勢いが乗り切れていなかった。威力を補うのに戦技が必要だったのだろう。
リーシャが呪紋族を沈めたときには、残りの魔人族達の処理も終わった。
ほんの僅かな時間で、周囲は地獄絵図と言っても良いような有り様になっていた。
そこかしこ、原型を留めていない魔族の死体だらけである。
「さて、少し祭壇を調べてみましょう」
この儀式の場には、祭壇があった。
祭壇自体は余り大きいものではない。せいぜい学校の体育館の舞台ぐらいの大きさだ。それに民族的な飾りつけをして、呪術めいた印象にしている感じ。
クライスの提案で、祭壇を調べることにする。
だが、残念ながらよくわからなかった。
「……我々も、もう少し呪いについてよく知る必要がありそうですね」
「ああ。あまりにも呪いに関する知識がたりないな」
祭壇も、儀式も、呪いの術理に基づいたものだった。
そのため、俺達であっても祭壇がどのような役割を持っていて、儀式がどういう内容だったのかわからない。
ひとまず、残しておいて敵の利益になることはあっても、こちらの利益になることはないだろう。ということで、祭壇を破壊した。単純な破壊において一番素早く、魔力効率が良いのは俺だ。なので俺が破壊した。
加えて、魔族の死体も念入りに焼却。こいつらの死体、たぶんかなり呪いを含んでいるからな。クライスの浄化用の火と光の複合属性魔法で焼き清めた。
こうして、俺達の大魔境攻略が始まった。




