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初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第四章

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第三話(通算第四十八話) 魔法戦闘の頂点

「よろしく、クルト」


「ああ、クライス。楽しみだ」


 向かい合う俺とクライス。

 相手はこの世界の魔法戦闘を極めた者。


 実際、ベラルマ相手は相性が最悪だっただけで、凄まじい戦闘能力だった。

 存分に試させてもらおう。


「開始前の詠唱はしてもいいよ、クライス」


「そうですか? ではお言葉に甘えて……開始(サートゥ)吸引(スクトゥ)早急(スタティ)運ぶ(ポルト)抱擁(アンプレ)準備(プラエ) ──《柔風動プルヴィ・ヴェン・モーヴェ》」


 ……詠唱で大体の効果を察する。

 予想した通りの内容ではあった。ダメージを与えること無く対象を吹き飛ばす下級魔法だ。

 詠唱の「抱擁(アンプレ)」の部分が、風属性の内包するクッション性を概念的に抽出している。「運ぶ(ポルト)」の部分もあくまで対象を移動させるためのものだって強調しているな。これにより、どれだけ出力を上げても、ダメージ無く凄まじい速度で吹き飛ばせるようにしている。……もちろん、その速度のままなにかに激突したりすると、そのときはダメージを受けるが。

 だが、この術式によるものであれば、慣性による影響すら一切無視してダメージ無しの移動が可能。つまり、今までとは全く逆方向への移動でも、ノーダメージ。

 物理的にはおかしいが、それが概念を用いた魔法の厄介さだ。


「じゃ、やりましょう」


「ああ」


 構える。

 魔力が高まる。


 ……やばい、まだ始まっていないのに楽しくなってきた。

 高まる魔力に、抑えたくても高ぶってしまう。


 なんの遺恨もない戦闘。ベラルマのときより楽しみなのは、戦闘スタイル的に、間違いなく学べるものが多いからだろう。


 さぁ……やろうか!


 魔力の高まりが頂点に達した瞬間。


 俺とクライスは風となった。


 到達者になったリーシャになら見えるだろう。だが、リルカとセルマが、俺とクライスの姿を目で捉えられているのかは怪しい。


──わかっていたが、完全に速度は負けているな。


 無理に速度で張り合うと、間違いなく自滅する。


 攻撃の手数に関してはこちらが上。下級魔法をこちらに使って来るのを含めてなお、俺のほうが上だ。流石に下級中級より初級のほうが数は展開しやすい。それに、焦点自在が強い。

 向こうはベラルマ相手に使っていた火力特化中級魔法は使っていない。まぁ、あれは俺に使うには威力が過剰か。

 今相手が使っている魔法は撃弾(ルプトブーレ)系の一般的中級魔法。

 ……ベラルマと戦っているのを見ていてわかっていたが発動速度が速いな。恐ろしい。中級魔法でありながら、初級魔法を使う俺とそこまで大きな差がない。……というか、普通の初級魔法なら俺が速いが、操作の重い"弾丸型(バレットタイプ)"以上だと俺のほうが遅い。手数で勝てているのは、本当に焦点自在で広範囲に多数展開できるからというだけだ。


 はは、はははは!!


 確かに、間違いない。こいつは格上の魔法使いだ。

 真っ当なやり方なら、負けるな。


 まずは試そう。


 さぁ、目を見開け。


「砕けろ」


 視界に移る全ての中級魔法を把握する。焦点自在のない中級魔法であれば、相手の焦点は短杖の先の周囲の空間、それと左手の先。短杖の先は左手よりも広い範囲で焦点を結ぶことができる。だが、それでも焦点自在がない以上、かなり限定された範囲だ。

 それなら掌握しきれる。


 だから、問題は速度。


 バチン、という弾ける音が連鎖した。


「なっ!?」


 中級魔法が内包する初級魔法術式を強制起動し、術式を破壊していく。これは別に"弾丸型(バレットタイプ)"のような操作はいらないからな。俺のほうが速い。


 とはいえ、それでも妨害成功率は三割。

 ダメだな。妨害のためにこっちの弾幕が薄くなっていることを考えると、中級魔法を妨害するのは非効率だ。


 なら、こっちだな。


 超高速移動の要となっている《柔風動プルヴィ・ヴェン・モーヴェ》。

 その術式を破壊する。


 超高速で空間機動するクライスを受け止めようとした術式に干渉する。

 当然、クライスが詠唱済みの下級魔法を構築する速度は中級魔法より速い。……速いが、俺の初級魔法の方が速い。

 中級魔法と違って焦点自在ではあるが、移動経路を予想できれば、どこに展開されるかは予想がつく。そして、詠唱不要の中級魔法と違い、どの術式を使うか最初からわかっている。


「!? くっ!」


柔風動プルヴィ・ヴェン・モーヴェ》を妨害されたクライスが慌てる。再度展開した《柔風動プルヴィ・ヴェン・モーヴェ》も破壊する。

 今度は更に複数の《柔風動プルヴィ・ヴェン・モーヴェ》に加え、減速用の中級魔法魔法まで展開し、俺の妨害を越えて減速に成功した。


 だが、こっちも準備が整っている。

 能動的に妨害に動いた俺には、攻撃を用意する余裕があった。


 こちらの様子に気づいたクライスが、強力な魔法を展開する。ベラルマに対して使っていた火力特化の中級魔法だ。……やはり、制御力向上持ち専用術式ではない。……見たこともない術式だな。


 いや、なんだあれ? そんな術式じゃなんの意味も……いや、そうか、そういうことか。

 ……あの魔法、すごいな。ベラルマに回避を強制した威力の理由がわかった。


 こちらが用意した"穿弾型(ライフルタイプ)"七発。

 あちらが展開している……積層中級魔法とでも言うべきかな? その魔法が五つ。


 撃ち合う。


 殺すつもりで撃ち出した"穿弾型(ライフルタイプ)"。


 それに向けて放たれたクライスの魔法。


 それらはややクライスよりの地点で衝突し、凄まじい爆風を発生させた。


 更に四発。これも同様。


 相殺だ。


 ……あの魔法、"穿弾型(ライフルタイプ)"に匹敵する威力らしい。

 消費魔力はこちらの方が少ないが……発動速度はあちらのほうが俺の"穿弾型(ライフルタイプ)"より上だ。

 ちょっと自信をなくす。


 ……だがま、今回に限れば俺の勝ちだ。


「そこまでだな。弾をニ発残していたクルトは、実戦ならクライスを仕留められていただろう」


「《終了(フィーニ)》……そうですね。まさか魔法での戦闘で負けるとは思っていませんでした。あの術式破壊は脅威ですね。魔法使い相手なら圧倒的に優位に立てる。……とはいえ、クルトの手の内がわかった以上、次は勝ってみせます」


「確かに単純に魔法戦闘の実力で言えば、クライスのほうが上だろうから、次回は負ける可能性が高そうだ。それでも、簡単に負けてやる気はないが」


 たぶん、クライスの言う通り、今回は俺の妨害がバレていなかったから勝てただけだ。

 おそらく、次は本当に負ける。


「にしても、制御力向上なしであれほどの速度で魔法を発動できるのは正直言って衝撃だった」


「発動速度だけなら訓練次第である程度どうにかなります。……制御力向上があれば、もっと魔力効率が良くなったり、制御力向上前提の術式が使えたりするんですがね」


 なるほど? 中級などで求められる制御力は主に魔力の変換精度や術式の転写精度など。妥協点を上手く見繕えば、その辺りの速度自体はかなり速くできるはず。確かに、発動速度だけならなんとかなるというのはわかるかもしれない。それでもやはり、制御力が高いに越したことはないはずだが……。


「あの初級魔法は驚きました。操作工程を重視した魔法の使い方ですね。私の戦い方には合いませんが、いろいろな活用法がありそうです」


「クライスの戦い方の場合、操作工程を重くすると、魔法の発動速度が大幅に落ちそうだからな。それに、制御力向上も無い以上、劇的な火力アップには繋がらんだろうし」


 クライスの使っていた攻撃用の中級魔法の大半は、俺からするとあまり中級魔法である意味のない魔法だった。

 なにせ、わざわざ中級魔法を使わずとも、下級や初級の魔法を上手く操作すれば同じ効果を得られる。そういったものばかりだったのだ。

 にも関わらず、クライスが使うそれらの魔法は、中級魔法であることが活かされていた。

 ……ギフトの詠唱不要の効果を受けることができるというのが一番だが、もう一つ重要な恩恵が発動速度だ。

 中級魔法になっている分、術式が大きく複雑で、変換や転写、充填などは初級魔法より重い。だから、普通の初級魔法よりは時間がかかる。初級魔法で中級魔法と同じことをしようとした場合は話が別だ。初級魔法の操作工程で中級魔法の術式と同じことをするよりは、術式側で処理する中級魔法のほうが速いのだ。……クライスの撃弾(ルプトブーレ)系中級魔法が、俺の"弾丸型(バレットタイプ)"より発動速度が速かったことからもわかる。


「俺の方も、あの術式を重ねるやつを面白いと思ったんだが……初級魔法では応用が効かないな」


「ああ……積層魔法ですね。下級以上の詠唱不要持ちなら色々応用が効く面白い技術ですが……初級魔法の場合術式をいじれませんからね」


 クライスがベラルマ相手に使っていた強力な中級魔法。それは三つの中級魔法を同一焦点で接続し、同一地点で三つ重ねて発動する魔法だ。三つの術式はどれも単体では無意味で、重ねることが前提の作りになっていた。少し違うが、例えるな一つが砲弾を作るのに特化した魔法、一つが砲身を作るのに特化した魔法、一つが発射に特化した魔法というような感じだ。

 あれは事実上、中級魔法の皮を被った上級魔法だった。

 あれの利点は、中級魔法三発の労力で上級魔法相当の魔法が使えること。三つ以上魔法を並行して構築できる人間なら、中級魔法一発と同じ構築速度で上級魔法相当の魔法を構築できる。

 デメリットとして、魔力消費が重い。詠唱不要がないと使えない。専用の術式を作らないといけない。……あとは、精密かつ複雑な処理をするような術式を使うのには向いていない、ということか。簡単に言うと、複雑な処理が必要な術式には向いていない。戦闘用などの単純な用途に限り、中級魔法三発を上級魔法相当に変換できる技術というわけだ。

 ……まぁ、そもそも多重積層魔法のメリットが発揮されるのは戦闘時ぐらいだろうけど。


「二人共、互いに興味深い技術を見れただろ? 今後も刺激を与え合って強くなれ」


「ええ、そうですね。自分に向いていない技術とはいえ、新しい発想はいい刺激です」


「俺もそう思う。……今後もよろしく頼む、クライス」


「ええ、こちらこそ、クルト」


 ベラルマの言葉に二人で頷き、握手を交わした。

 その後は、リルカとセルマに解説を求められ、俺の妨害技術とクライスの魔法について説明した。


 二人共、俺達の模擬戦の途中からは少しずつ目で追えるようになってきていったらしい。……正直言って驚きだ。このまま成長したら、どこまで強く成れるのだろう?

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