第ニ話(通算第四十七話) 実戦訓練
「まずは、到達者になったばかりのリーシャからだな。……そっちの娘二人は見学か?」
ベラルマが、俺が連れてきたリルカとセルマを見て問いかけてきた。
まぁ、言う通り。見学だ。
「この二人はどうせアステミリスと一緒に行動しないといけないからな。今回についてはアステミリスの出番は最後だけだが、今後最初からアステミリスが加わらないといけないこともありうる。そのときは、こいつら二人も戦場に付いていかなければならない。……だから、到達者の戦場を理解しておいた方がいい」
「なるほど、いいだろう」
「というわけだ、リルカ、セルマ、二人共しっかり戦いを目に焼き付けておけ。……その戦いについていけなくとも、規模感や雰囲気を知っていれば、生き残る可能性は上がる」
「「はいっ!」」
ベラルマからの許可も出たし、二人は見学。
俺や他のメンバーも見学だ。味方の実力や戦い方を知るのも大事だし、外野から、それぞれの到達者の視点でアドバイスができるかもしれない。
今後は個別の訓練もやっていくが、今日のところは全員一箇所で入れ代わり立ち代わり模擬戦を行うことになる。
「そんじゃ、リーシャ、お前はまず俺と模擬戦だ」
「はい! よろしくお願いします!」
ベラルマ対リーシャ。
互いに到達者ではあるが、つい先日到達したリーシャと、到達者になって四百年以上君臨しているベラルマでは格が違う。リーシャにはしっかり強くなってもらわないと。
二人の間の緊張感が高まり……そして、一気に二人が動き出した。
※※※
リーシャの攻撃には、闘気とは別のあまり感じたことのない力が宿っていた。
……一応、全く感じたことがないというわけじゃない。稀にこれと遭遇することはある。
器具神の神威が変化したものだ。
それによって、あの斧の破壊力と重量が増しているらしい。しかも、それをやりつつ、闘気による強化と戦技の発動も行っている。
破壊力に関してはかなり凄まじいものがあった。
いくら俺でも、戦技なしの闘気による強化だけで受ければ、防御しきれず斬られるだろう。
それに加えて、武器を操る技術も高い。これが共鳴の力か。武器を己の手足のように……いや、それ以上に自在に扱っている。
だが、戦闘経験が足りていないな。全く。
「よっ!」
「!?」
呼吸の隙間に、剣を滑り込ませた。
戦技も何もなし、ただの基礎的な剣技。
ただ、相手の対応できないタイミングを突いただけ。
それだけで、俺の剣はリーシャの喉元に突きつけられ、勝敗が決した。
「リーシャはまずそもそもの戦闘経験を積むことだな。……割り切って武器がでかいことを活かす方向性で戦闘技術を磨くのはいい判断だ。だが、それはそれとして最低限身を守れないと、大魔獣に到達する前にやられかねない」
「わかりました! もし、問題なければもう一本お願いできませんか?」
「……もう一本ねぇ」
言いながら、俺はクルトとクライスを見た。二人共、頷いて問題ないことを告げてくる。
それなら、もう少しリーシャの動きを観察しよう。
「いいだろう。どんどん打ち込んでこい!」
「はい! はああああああああ!!」
やはり、武器の扱いはいい。洗練されている。
だから重要なのはそれ以外だ。
例えば、武器の扱いに関する稽古をするという話になった場合、おそらく全到達者で一番綺麗にその型をこなせるのはリーシャだ。……器具神と武勇神の神秘式を使ったアステミリスという可能性もあるが、あれは例外。
それだけリーシャの武器の扱いは卓越しているが、武器を手足のように扱える、というだけでは戦いには勝てない。
器具神の神威を炸裂させるようにして、一気に加速した斧。その斧の腹を殴り、軌道を逸らす。
外れた斧が床を砕いた。
そこから更に斧を軸に、全身を使ってポールダンスじみた動きで後ろ回し蹴りを放ってきたが、それは残念ながら威力が低すぎる。俺の闘気の鎧には効かない。……一応〘破砕脚〙を使っていたようだが、リーシャの蹴りは軽すぎる。
「うそっ!?」
防御すること無く受けたのに、小揺るぎもしない俺にリーシャが驚く。
防御をしていないということは、そのまま攻撃できるということ。
剣を振り下ろす。
リーシャは斧の柄だけを動かし、ギリギリでガードしてみせた。
だが、その状態では俺の連撃を防ぎきれんだろう?
リーシャの巨大な斧は小回りが効かない。
斧の重心、頭側の重みを考えた動きでガードを続けているが……すぐに受けきれなくなる。
俺の剣を受けたリーシャが吹っ飛ぶ。
本当ならその吹っ飛んだ勢いを使って距離を取り、体勢を整えるぐらいして欲しいが……闘気の量が追いついていないな。ダメージが大きそうだ。
ひとまず、再びの決着だ。
「どうだ? 到達者と戦ってみた感想は」
「すごいですね……ここまで歯が立たないとは。……それに、ベラルマ陛下は全く本気を出していらっしゃらなかったですよね? できればどなたかと全力で戦うところを見てみたいです」
「ふーむ。俺と誰かの全力戦闘か……クルト、どうだ?」
「無理です」
「なら、クライス」
「……はぁ、了解」
少しばかり嫌そうにため息を付いて、クライスが俺の前に立った。
※※※
リーシャは観客席にいる俺の横に来る。
「いやーベラルマ陛下強いね。全く歯が立たないや」
「あの人、たぶんだけど近接戦だと人類側の到達者の中で最強だしな」
「そうっぽいよねー……そしたら、この戦いもベラルマ陛下の勝ちかな?」
「どうかな、おれはクライスの実力を見たことがないから」
言いつつ、俺達は向かい合うクライスとベラルマから視線を外さない。
再び、緊張が高まっていく。
「ベラルマ、下級魔法は詠唱してから始めさせてもらうよ」
「いいだろう」
宣言通り、クライスが下級魔法を詠唱する。
少し距離があるのであまり聞き取れなかったが、どうやら風属性の魔法らしい。
そうして、戦闘が始まった。
「は?」
とりあえず、クライスが【中級魔法詠唱不要】を持っていることはわかった。
加えて……どうやら【下級魔法焦点自在】を持っているらしい。
詠唱した風属性の下級魔法で、自分を吹き飛ばしながら、縦横無尽に高速移動。
俺も似たような移動方法を使っているが、あそこまでの速度は出ない。俺が同じことをすれば……たぶん俺の体はバラバラに砕け散る。
クライスのあれは術式自体が物を弾き飛ばすためのものだな。ダメージが出ないような術式になっている。
……残念ながら、初級魔法でアレの真似は難しい。もし本気で似たようなことがしたいなら、自分を吹き飛ばす魔法と自分の間に、複数の初級魔法をクッションとして挟んだりという手間が必要だろう。そして、その制御に意識を避けば、攻撃の密度が下がる。
……いや、でもまぁ、それも使い道はある、か。今度練習してみよう。
高速移動するクライスは、短杖を常にベラルマに向けつつ中級魔法を連続展開。
火力特化の中級魔法を全方位から連打している。
異常といえる大火力の連打。それも、全方位からの飽和攻撃。
一発一発の火力もおかしい。火力特化の中級魔法でも、普通あの威力は出ない。
というか、あの中級魔法、あの高速で移動しながらよく発動できているな? 短杖の先の焦点で接続してから、中級魔法の発動、操作までを、焦点となった座標が自身の魔力範囲内にある内にやらなければならない。かなり魔力を広げてはいるが、それでもあの速度だと焦点座標が魔力範囲外に出るのも一瞬だ。……俺の初級魔法と違って、中級魔法は変換も発動も難しさが段違い。あそこまで一瞬で発動できるのは常識の外側で生きている。
更に言うと、中級魔法の攻撃以外に、自身の移動に使っている下級魔法も、ベラルマに向けて使っているようだ。一瞬だけベラルマを自身の魔力圏内に捉えた瞬間、その片足を吹っ飛ばして体勢を崩そうとしたりしている。……それも、ベラルマが凄まじい反応速度で躱しているが。
……いや、対処しているベラルマもおかしいな、本当に。
ベラルマの剣は対魔法使いで相性良いのかもしれないが、それでもあれだけの数の攻撃を全方位から撃たれて普通対応なんて出来ない。
……というか、ベラルマが回避や防御をしている以上、あの攻撃はベラルマの防御を貫けるのか。すごいな。
だが……やはり今回もベラルマはタイミングを図っているな。
最小限の動きで躱し、飛来する攻撃を剣で落とし、直撃する攻撃に合わせて局所防御用の戦技をつかい……タイミングが来た。
ベラルマは一気に跳ぶ。移動用戦技だな。
下級魔法で自分を弾き飛ばしながら空中を移動するクライスを、それ以上の速度で追いかけ、剣で斬り掛かった。
だが、どうやらクライスはわざとベラルマにタイミングを掴ませていたらしい。読みどおりに飛び込んできたとばかりに無数の魔法が襲いかかった。右手の短杖だけでなく、空いている左手も使って、可能な限り大量の中級魔法を発動したらしい。
だが、直後、その全ての無に帰した。
ベラルマの戦技〘剣界〙。かなり闘気を消耗する戦技だが、範囲内の全てを切り裂くという凄まじい戦技だ。
クライスも防御や迎撃の魔法を使ったが、全て切り捨てられた。
最後に自分の移動用に使っていた下級魔法でベラルマを吹っ飛ばそうとしたものの、それも読まれ、そのまま敗北した。
……いや、やっぱりあの剣ずるいって。魔法攻撃は斬られて消滅、魔法での防御も不可。魔法使いの天敵だ。
「リーシャ、参考になったか?」
「はい、陛下! とても参考になりました。……すごい戦いでした。これが到達者の戦いなんですね! 私も頑張ります!」
「おう、頑張れ。……んじゃ、クルト、来い。お前とクライスで戦ってみろ」
「……了解」
そう言って、俺はベラルマに誘われるまま、クライスの前に立った。




