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初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第四章

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第一話(通算第四十六話) 攻略会議

 あの神託を受けて、アステミリスはまた一日ほど寝込んだ。


 神託は、神秘式と同じ要領で、聖女が神々に祈り授かるという能動的なものが主だ。だが、それだけでなく、神々の側から与えられる受動的なものもある。

 ……受動的な神託は、必然的に儀式なしの神託になる。そのうえで、神々が受け手を補助しつつ行うため、途中で気絶するという逃げ道すらなく、神託が流し込まれる。

 そして、神託の内容を他人に伝えるまでは神々の補助があるものの、伝えた直後にその補助が解かれ……元来受けるべき負荷を一気に受ける。

 結果、受動的な神託を受けた聖女は長期間の昏睡状態になったり……最悪そのまま再起不能になったりするらしい。

 つまり、受動的な神託は聖女を潰しかねないものであり、同時にそれでも神々から伝えなければならない情報があることの証左なのだ。


 今回はその受動的な神託だ。

 すぐにでも大魔境攻略に動き始めなければならない。


 ……ちなみに、そんな受動的な神託を受けていながら、アステミリスは翌日には目を覚ました。

 この聖女は例外中の例外だ。


「マレディエスが封印されている今なら、余の力で転移させれば目的地に一瞬で着く。問題は大魔境に着いたあとじゃな」


「昨日の会議でも疑問だったんだが、マレディエスの封印とリーベの空間転移になんの関係があるんだ? マレディエスがいると失敗したりするのか?」


 リーベの言葉に疑問を持って問いかけた。すると、予想外の答えが帰ってきた。


「……ふん、忌々しいことに、余は一度マレディエスに敗北しておってな。そのときに、余の魔力を覚えられてしまっているのじゃ。……で、やつは一度覚えた魔力であれば、その痕跡から、因果を辿って相手を呪うことができる。最上級魔法である空間転移を使えば、術を使った場所にも転移先にも、痕跡が強く残るらしくてな……今まで、マレディエスが現れそうな場所には空間転移が使えなかったのよ」


 因果を辿って呪う? 魔法の痕跡から?

 なんだそれ、聞いたこともないぞ?

 流石到達者というべきか、敵も馬鹿げた能力を持っているものだ。


「因果を辿って呪う? 馬鹿な……いや、到達権能ならそれもありうるか。だけど、転移元にも転移先にも痕跡が残るってどういうことだ? 魔力の残滓はそのようなものでは無いとおもうが?」


「残滓とも違うのだ。……魔法の理論とは別物と考えると良い。その痕跡から呪うというのは、どちらかと言うと呪い側の術理のようじゃからな」


 そもそも俺が思っていた痕跡の考えが間違っていたらしい。

 てっきり魔法使用後の魔力の残滓などを言っているのかと思ったが……なるほど、呪い側の理屈なのか。


 自分が呪いについて何も知らないことに思い当たり、ふとニーグルイスを思い出す。


「……なるほど。まぁ、向こうの到達者が魔法において二流以下なのと同じ様に、俺も呪いに関しては素人だからな」


「仕方あるまい。人もエルフもあまりに呪いを避けすぎた。故に、敵の扱う技術への理解が浅い。……余がマレディエスと戦ったときも、呪いについてもう少し知っておれば、まだやりようがあったやもしれぬ」


 ……リーベが暗い。かつてマレディエスに敗れたことが相当彼女に陰を落としているらしい。


「……ちなみに、実際にそれで呪われたことがあるのか?」


「……ああ。あるぞ。余が、かつて敗北した直後、空間転移で逃げた後に呪われた。……端的に言って、死にかけたな。当時の聖光神様の聖女の尽力でなんとか命は助かったものの、その後百年程固有回路が壊れて魔法が使えなくなっておった。軽くトラウマじゃな。……余は最上級魔法の到達者じゃが、できるだけ国外では最上級魔法は使いたくなかったほどじゃ。少なくとも、マレディエスにはもう会いとうない。……この前、マレディエスの封印のためにエリスを転移させたときも、戦々恐々じゃった。レイがタイミングを図ってくれるという条件でなければ、断っていたやもしれぬ」


 ……あのとき、マレディエスの封印は最重要事項だったはずだ。

 にも関わらず断っていたかもしれないとは……それほどまでにトラウマということだろう。


「まぁ、エリスのお陰でマレディエスを気にせずによくなった! エリス様々じゃなぁ! また今度美味い菓子でも買っていってやろう! そういうわけで、どんどん余を頼るがよいぞ!」


「おう、どんどん頼らせてもらうぞ? まぁ、お前が拒否しようと手伝わせるつもりだったがな」


 調子良さげなリーベに、ベラルマが言った。……獰猛な笑顔で。


「前回のホクマラス砂漠だと、直接の激突はなかった。……あっちからはマレディエスが出てくるのがわかっていたからな。あいつが相手だと、数は意味をなさん。有効打となりうるのはアステミリスの神秘式とエリスの超越級魔法、後は俺の全力の戦技ぐらいだ。しかも、リーベの転移を使うわけにもいかない。……あの頃は同時に敵がルチェアデオムにもちょっかいを掛けてきていたのもあって、ホクマラス砂漠は俺とアステミリスの二人だけで対応という予定になっていた。……結局、アステミリスは消耗させられ、俺は毎晩毎晩ニーグルイスの分体に襲撃され、予定を変更。エリスに任せることになっちまったがな。……どちらにせよ、予定でも実際の結果でも、俺達と敵との正面衝突という状況ではなかった」


 俺達がクラーデ王国で戦ったりしていた裏で、ベラルマは毎晩ニーグルイスに攻撃されていたのか……お疲れ様。

 少なくとも、分体相手ならベラルマの方が圧倒的に強い。

 だが、それでも毎晩襲撃されれば疲労は溜まっていくことだろう。相手もそうやって疲れさせ、足止めするのが狙いだったはずだ。


「今回は、マレディエスはいない。しかも、相手は相手で万全で待ち構えていやがるらしい。……ようやく、世界の命運をかけた最終戦争らしくなってきたな」


「今回活性化する大魔境は、アルクサンドス渓谷。その谷の周囲は、儀式を行っている多数の魔族に囲われています」


 アステミリスが状況を説明してくれる。


「その魔族を倒して活性化を遅らせることは?」


「出来なくはありませんが、既にかなり活性化が進んでおり、しかも活性化に勢いが付いています。今更妨害しても十九日後の活性が二十九日後になる程度です」


 クライスの問いに、アステミリスが淡々と返す。


「私の準備も十五日あれば十分ですから、わざわざ妨害に力を尽くす必要はありません」


「むしろ、こちらも準備を整えるのに時間を使い、活性化の数日前に乗り込んで、一気に攻め込むべきかな? リーベ、空間転移はどこまで跳べる?」


「レイが言うには、儀式と一緒に妨害のための呪いも使われているらしくてな。外縁部で阻害されているらしいから、そこまでじゃ」


 アステミリスの準備。……それは、神威を蓄えるということだろう。

 リーベの転移は外縁部まで。つまり、そこから先は魔族の妨害を退けつつ、中央部を目指す必要がある。


「大魔境の探索は妨害なしでも外縁部から中央部まで五日程だ。妨害を考えるともっとかかることになる。……それと、アステミリスは限界まで神威を溜めることにすべきだろう。だから、先発隊を送り込んで相手の転移妨害を破壊し、アステミリスは直接中央部に送り込むのが最善」


「……仮に、活性化予測日の五日前か六日前に転移して、敵を倒しつつ中央部を目指した場合……結果的に儀式の妨害にも繋がると思うが、それで何日ぐらいずれる?」


 アステミリスを見て問いかける。今一番正確に予測できるのはアステミリスだろう。


「そのタイミングだと、二日程度でしょう。かなり活性化に勢いがあるはずなので」


「なら、最適なタイミングは活性化六日前ぐらいか? ……ずれまで込みで言えば八日前になるが」


「だな。……つまり、今日から十三日後に、アルクサンドス渓谷に殴り込むことになる」


 俺の予測を、ベラルマが肯定した。

 そして、獰猛な顔で宣言する。


「その十三日間……到達者の戦いの経験を積むとしようか」

すみません、ちょっと第四章難航しているので、投稿ペース更に落ちます

週一で土曜に投稿します

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