第十五話(通算第四十五話) 予兆
魔獣の氾濫から四日。
まだ、アステミリスは目を覚ましていない。
ベラルマの対応が早かったため、事後対応はあっさり終わった。
アステミリスのお陰で仲間たちの傷も癒えている。
アステミリスが心配なこと以外、日常が戻っていた。
……昨日までは、そうだった。
今日になって、訪問者があり、何故か俺は王城での茶会に参加していた。
参加者は、俺、ベラルマ、リーシャ、レイ、二人のエルフ、そして一人のドワーフ、合計七人だ。
「ふふふっ! これだけの人数の到達者が集まるのは久しぶりじゃな。……しかも、七人中二人も新人がおる。アステミリスといいエリスといい、最近は豊作じゃな」
「それだけ、運命の日が近づいとる証左じゃろう。次の大魔境の活性化も近いとみた。腕がなるわい」
「楽しそうなのはいいがな、まず先に自己紹介をしろ」
楽しそうなエルフとドワーフに、ベラルマから苦言。
「おお、そうであったな。許せよベラルマ。……さて、自己紹介をしようかの。余の名前はリーベ・エテルノア。エルフの国、アルク・エテルノア精霊王国の先代女王じゃ。以後、よろしく頼むぞ。……ああ、到達したのは最上級魔法の技量の頂点じゃ」
「儂はドバン。ドワーフの国、フェルバデオン同盟出身の鍛冶師だ。鍛冶の業を極め、器具神様に認められた。武器が欲しけりゃ儂に任せると良い。……尤も、そっちの嬢ちゃんは新しい武器はいらんだろうから、どちらかと言うと必要となるのは防具だろうがな。……武器を触ることがあるとすれば、その斧に大魔獣の核を合成するときぐらいか」
「……もし、そのときが来たなら、お願いすると思います」
「まかせろ」
この前、空間転移を無詠唱で行使したエルフと、今日初めて会ったドワーフが名乗った。
ドワーフはその言葉からして、リーシャのギフトを理解している様子だ。
「私はクライス・メゼル。アルヴィリディ大森林のカコルの里出身のエルフです。魔法戦闘の技量を極め、到達者となりました。以後お見知り置きを」
もう一人のエルフ。こっちは男性のエルフだ。……魔法戦闘を極めたとは、なかなか興味を惹かれる。
俺の初級魔法介入による魔法無効化は、対魔法使いで限定すれば最強だと思っていたが……魔法戦闘を極めた相手にも通用するのか試してみたい。
「そちらの娘とは初めて会うからな、俺も自己紹介をしておこう。ベラルマ・ゼト・ラコニドゥム。この国の王だ。俺は闘気の総量が世界で初めて人間の限界に到達し、到達者となった」
ベラルマの自己紹介。……というか、到達したのは闘気の総量だったのか。そりゃあれだけ硬いわけだ。
……いや、それにしてもあれだけ硬いのはおかしい。総量以上に強化効率がイカレている気がする。
「レイ。出身はルチェアデオム神律国。気配の制御を極め、到達者となった」
レイの自己紹介だが……気配か。
それによって到達者になったってことは、やっぱり暗殺者タイプってことか。怖い怖い。
さて、次は俺の番かな。
「俺はクルト。オプタルス魔法王国出身。初級魔法の真理を究明したことで、到達者になった。これからよろしく頼む」
「ん? オプタルス魔法王国? エリスと同じ国の出身か。……そういえば、クルトという名もどこかで聞いたような?」
「……今は家名を名乗ることは許されていないが、かつての俺の名前はクルト・ウォルファルト……エリスの兄だ」
隠す必要もないことだから、リーベの疑問を解いてやる。
俺は超越級魔法の単独行使によって到達者に成ったという、エリス・ウォルファルトの兄だ。
「エリスの兄!? あの廃嫡されたとエリスが話していた兄か! ……いや、そうか……確か、廃嫡された兄は、ギフトを三つも受けていたが、その全てが初級魔法関連だったと聞いた。なるほど、初級魔法で到達者になるにはもってこいではあるな」
どうやら納得してくれたらしい。
……なんか、今の話しぶり、だいぶエリスを気に入っているらしいな。
「クルト、今度ぜひエリスに会ってやってくれ。きっと喜ぶ」
「……ああ、俺も機会があれば会いたい」
「そうかそうか! では今度、余が連れてこよう! 余ならばいつでも連れてこれるからな! ……まぁ、先触れも無しに空間転移で連れ去るのはやめてくれと言われているから、一応予定は確認するがな」
「あ、うん……それが良いと思う。あと、できれば俺にも連絡はちゃんとしてくれ」
……この人、案外フリーダムなのかもしれない。
連絡なしの空間転移とか、マジでやめてくれよ? 敵と勘違いして撃ちかねない。
「最後は私だね……失礼、私ですね。私はリーシャ。本名はリエルシアナ・カルティーベルといいます。セファイルート真王国出身。相棒……この斧と共鳴したことで、つい先日到達者になりました。よろしくお願いします」
「【共に歩む相棒器】による共鳴か、器具神様に認められた到達者は俺に次いで二人目だな、ま、仲良くしようや」
「はい、よろしくお願いします」
どうやら、器具神様に認められた者同士、相性が良いらしい。
ま、俺も魔法関連の人達に興味を惹かれるしな。
……そういえば、レイは気配の制御を極めたことで到達したと言っていたが、どの神に認められたのだろう? 九大守護神には気配に関する神はいない気がする。強いていうと武勇神様か? ……より下位の神格なら気配に関連しそうな神様もいるが、到達者の選定は九大守護神によるもののはず。
そう思ってレイを見ると、俺に気づいたレイが……なんと俺の思考まで読んで教えてくれた。
「私は自然神様に認められて到達者となった」
「自然神様? 気配操作での到達が自然神様によるものとは予想外だ」
「……自然に生きる生物だって、気配を殺して狩りをするだろう? あるいは、自分の気配を振りまいて縄張りをアピールすることもある」
「……まぁ、それは確かに」
なるほど、言われてみれば納得できることでもあった。
その後、俺達はようやく茶会らしく、茶を飲み菓子を頂いて、今後について話し合った。
「今後、リーベは到達者達の移動の補助、ドバンは確保した大魔獣の核の加工を頼むことになる。レイは今まで通り情報収集及び連絡要員だ。残るメンバーは戦闘要員だが、その中で大魔境を攻める者と、ラコニドゥムに残ってリーベやドバンを護衛する者に分かれることになる」
「マレディエスが封印されとる今、余の空間転移が主な移動手段となるのは当然じゃな。それはいい。だが、護衛とはなんじゃ? 余に護衛などいらんが?」
「お前の強さは知っているが、お前という存在の重要度が高すぎる。護衛ぐらい付けさせろ」
「はぁ……窮屈なことじゃ」
ベラルマとリーベのやり取りは気安い。ベラルマが四百歳で、リーベはエルフ……それもおそらく、かなり長い時を生きたエルフだ。長い付き合いなのだろう。
アルク・エテルノア精霊王国の先代女王と言っていたが、それはおそらく伝説の精霊女王その人だ。仮に、現存する到達者の中で最古参だったとしても不思議じゃない。
「あの、私は武器の関係上……大魔獣討伐に入るべきかと思います」
リーシャがおずおずと手を上げた。
「確かに、その超重量級武器なら、対人戦の可能性が高くなる護衛より、大魔獣戦の方がいいだろうな。わかった、リーシャは基本そちらに入れよう」
ベラルマはリーシャの提案に頷いた。まぁ、妥当だ。
さて、そうなると、俺も到達権能の内容的に大魔獣討伐の方が良いんだが……提案するか。
……そう、考えたところで、それが起こった。
「なんだ!?」
ベラルマは声を上げながら、気配のした方角を見る。
全員そちらを向いていた。
感じたのは膨大な神威。
それもアステミリスの屋敷の方角だ。
すぐに、リーベが魔法を使った。
一瞬にして緻密な魔法陣が描かれ、全員が転移する。
到着したのはアステミリスの部屋だった。
既に神威は収まっていて、ベッドで起き上がったアステミリスが、辛そうに頭を抱えている。
そして、俺達に気づいたアステミリスは、一度頭を振って、言った。
「神託がありました。……次の大魔境、アルクサンドス渓谷の活性化が始まりました。しかも、魔族の謀略により、その活性化が凄まじい速度で進んでいると」
驚く。
いくら魔族が呪いに通じるとはいえ、大魔境の活性化を加速させる技術があるとは思わなかった。
そして、アステミリスは衝撃的な言葉を告げた。
「アルクサンドス渓谷が臨界を迎えるのは……二十日後です」




