第五話(通算第五十話) 外縁部の戦い
祭壇を破壊したが、大魔境には入ったばかり。まだまだこれからだ。
大魔境は外縁部であろうと平気で危険度Ⅶ以上の魔獣が出没する。
魔族だって他の魔獣には襲われるが……人間等がいれば、全ての魔獣はそちらを優先して攻撃する。この現象が見られる場面は少ないものの、実際に間違いなくそうなると報告されている。原因は不明。魔獣は呪いを扱えない種族を優先的に狙うという説が有力だ。
つまり、魔獣と魔族がいる場では、俺達はその両方から狙われる。
魔獣は魔族と違って呪いに対してこだわりがない。知能が低いから。だから普通に魔法も使う。ちなみに人型であっても、ゴブリンやオークといった知能の低い種……正確に言うと邪神の加護が薄い種は魔獣扱いだ。
魔族は呪いにこだわるから、魔法や闘気を使うことはほとんどない。それに、基本は呪いを使った方が強い。
両方を相手にするということは、呪いに警戒しつつも魔法への警戒を怠ってはならないということだ。……基本、呪いへの対処の方が厄介ではあるが、魔法のほうがやれることが多い。……使い方や情報によっては呪いより厄介になりうる。
……まぁ、どっかの誰かさんと戦うときは一人相手でも同じ条件なのだが。
立場のせいか、敵も味方例外ばかりだ。
そんなふうに、今後の魔獣も交えた戦闘について考えていると、突然女性の声がした。
「外縁部には後三つ祭壇がある。この広大な大魔境の外周、四方に配置されている。はっきり言って、真っ当な進み方では何日かかるかわかったものではない。……私からリーベに連絡する。一度転移でそれぞれの祭壇に送ってもらって、破壊してから改めて転移で合流してくれ」
突然現れたレイからの情報。ちょっと驚いた。本当に神出鬼没だ。
渓谷は東西に長く続いている。それに加えて、南北にまで森が広がっている。小国一国簡単に飲み込めるほどの広さを持った森だ。その森も含めた広い範囲が大魔境アルクサンドス渓谷なのだ。
……その四方に祭壇があって、全て破壊しろと言うのなら、確かに転移を使う必要があるだろう。
「その情報、今まで入手できなかったのですか?」
「流石にアルクサンドス渓谷は遠すぎる。見る範囲が広がって他が疎かになるのを避けた。……それでも、祭壇が一つでないことはわかっていたが……さっき一つ目の祭壇が破壊されるまでは、詳細な位置はわからなかった」
クライスの言葉に、レイはばつが悪そうに答える。
「……リーベの魔力は大丈夫なのか? 俺達を送って、再度集合させるだけでも合計六回の空間転移だろう? さっきここに俺達を飛ばしたのと合わせて七回。更には俺達を転移させるためにリーベ自身の転移が四回は必要だから合計十一回……いや、リーベがラコニドゥムに帰るのを含めて十ニ回か。最上級魔法十ニ回はかなり重いと思うが」
「普通の者では無理だろう。最上級を行使する専門部隊などでも全員協力して三回が限度というところだろうな。だが、リーベは魔力量も別格。最上級魔法高々十二回程度ではどうこうなったりはしない」
……念の為訊いたが、流石は最上級魔法を極めた到達者。一日に転移を十二回やっても余裕があるなんて、敵に同情したくなる性能だ。……まぁ、実際は同情なんてしないが。
「……到達者はやっぱり常識外れすぎるな。……問題ないなら、頼もうか」
その後、やってきたリーベによって、俺達はそれぞれ別々の祭壇に飛ばされた。
※※※
百人以上の魔族を相手に、一人で立ち向かう。
相手は最低でもニ級冒険者並、中には一級やその上位層並……つまり冒険者なら特級になってもおかしくないレベルの実力者までいる。
つい最近までの私なら、一対一でも勝てないであろう相手ばかりだ。
が、到達者となった私なら、この人数差でも勝利できる。
共鳴は怖かった。それに、私という存在は確かに書き換わってしまった。
それが、歴史上誰も受け入れられなかった力だというのは、理解できる。
だが、私は、必要にかられて仕方なくそれに手を伸ばしただけだ。それを、あたかも私の凄まじい手柄や、覚悟の成果だとでも言うように、過剰な力を与えられた。
到達者に成った直後の戦闘が終わって興奮が冷めてからは、しばらく困惑していた。気後れもしていた。
けれど、ベラルマ陛下に、頼まれた。
「この世界のため、お前の力を貸してくれ」
同じ到達者である以上、ベラルマ陛下も当然わかっているはずだ。
仮に、この戦いに勝利したとしても……私達到達者は、この世界……人の世からは消えることになる。
だが、それでも、到達者の責任を背負ってくれと、頼まれた。
私自身、あの時、器具神様から流し込まれた使命と情報を飲み込んで、その使命を受け入れた。
だからもう、到達者という肩書にも、この力を使うのにも、躊躇いも気後れもない。
全力で、相棒を振るう。
仮想質量を増やせば、速度は落ちる。増やした仮想質量を消せば、速度は上がる。
私は【過重武器運用】と器具神様の神威、二つの仮想質量制御手段がある。それを駆使して変則的に動く。相棒と共鳴している私なら、常識外れの動きの中でも相棒の最適な動かし方がわかる。
傍から見ると、明らかに不自然なのに、瞬間瞬間を切り取れば最適な武器の動かし方をしているという、気持ち悪い戦闘スタイルになってしまった。
だが、それで良い。
到達者の戦いは、大物の魔獣だけを倒せばいいというものではないのだから。
※※※
純粋な魔法戦闘での敗北。それを経験したのはいつ以来だったろうか? 少なくとも、三百年以上前だ。……確か、私の戦闘スタイルを徹底研究したリーベが専用術式を持ってきたのだったか。
魔法戦闘を極めて以降も、負けたことが無いというわけじゃない。
が、初見の相手との魔法戦で敗北したのは初めてだった。
確かに、あの一戦以降、全ての模擬戦で私が勝利した。この十三日間、クルトに敗北したのは最初の一戦だけだった。
だが、それでも負けたのだ。
魔法戦闘を極めた私が、魔法戦闘で、初見の相手に敗北したのだ。
到達権能は使わなかったが、それは相手も同じ。
同じ条件で、敗北した。
相手が魔法使いに対して圧倒的優位に立てる技術を持っていたのは事実だが……そんなことは関係ない。
私は、魔法使いに負けたのだ。魔法戦を極めたと魔法神様に認められておきながら。
これほどの屈辱を感じたことはなかった。
自分の存在を否定された感覚。
血が煮えたぎるほどの怒りを感じた。自分自身に。
無論、その感情を見せる無様は晒していない。
だがそれでも、もう二度とこんな思いを味わいたくはなかった。
故に、この十三日……わずか十三日とはいえ、私は己を洗練させることに努めた。
クルトの技は、私向きではなかった。
だがそれでも、今までとは違う形、違う発想で魔法に向き合うことが出来た。
その成果を発揮する。
今回の祭壇も、百人を超える魔族が儀式を行っている。
そこに、この十三日で更に効率を突き詰めた魔法を向ける。
結果は……蹂躙。
まずは悪魔族が死に絶えた。
続いて、魔人族もさほど間をおかずに倒れ伏した。
残る呪紋族は、なんとかこちらに向かってこようとしたので、積層魔法の弾丸をくれてやった。
目前に残るのは、数多の死体と祭壇のみ。
再び積層魔法を展開し、私は祭壇を粉々に砕いた。
※※※
敵の構成はほぼ同じ。
これ、全部で同じなのだとしたら、外縁部だけで四百人以上いたのか。
魔族は基礎スペックが人間より高いが……それでも危険度Ⅶ以上を四百人以上集めるのは生半可なことではないだろう。
正直、敵に同情する。
危険度Ⅶ、ニ級冒険者相当。
そんなところまで力を付けたのに、使い捨ての儀式要員として人生を終えるなんて。
俺は、いつもどおりの"弾丸型"を連打しつつ、避けるであろう魔人族と呪紋族に向けて"穿弾型"を構築し始める。
打ち砕かれていく悪魔族。コイツラは瞬殺だ。
さて、残りを"穿弾型"で殺して終わろう。
そう、考えていた時……それは来た。
突然の凄まじい魔力に、俺は飛び退いた。
一瞬の後、炎の塊が、俺が立っていた場所に飛来し、爆発した。
炎の塊が飛んできた方向に、目を向ける。
そこには、多数のオークが居た。
ただのオークじゃない。全身が黒いオークだ。
ブラックオーク。約三十体。魔法使いあり。……統率固体あり。
一体一体の危険度がⅧ、魔法使いはⅨ、統率固体は……Ⅺぐらいあるか?
流石大魔境。コイツラだけで一国滅ぼせる。
そして、走り寄ってきた魔人族からは呪いが込められた剣の一撃。一発貰えばアウト。
……はは。
そうこなくっちゃ。
これなら、少しは楽しめそうだ。




