表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/50

第十一話(通算第四十一話) 「共鳴」到達

 エッボを真っ二つにした相棒を構え直す。

 油断はしない。なにせこいつからは吸血鬼(ヴァンパイア)と同じ気配がする。


 そしてやはり、これで終わりではなかった。


 エッボの肉体が、突如赤い液体に変わり、その場にぶちまけられたのだ。

 骨も、内臓も、皮もない。ただ血だけで出来ていたかのように。

 ……両断したときの手応えには、確かに頭蓋や背骨を断ち割る感覚があったに関わらず、だ。


 直後、周囲からエッボの声が聞こえてきた。


「ほう? やるじゃねぇか。いやはや、余所者の女とガキばかりで油断していたぜ。ま、俺の分体を倒したことは褒めてやるよ」


「毎回油断してるくせに、なに偉そうにしてるの? はやく本体出てきたら? 今度こそ蹴り飛ばしてあげる」


 周囲の声に対して、リルカちゃんが挑発していた。

 軽い口調に反して、周囲への警戒レベルは高い。


「ははっ! 本体と戦いたければ力ずくで引っ張り出してみせろよ! そら、俺の分体達を倒してなぁ!」


 その言葉の後、周りにエッボが現れた。

 ……同時に、六人。


 まずい。

 元の二級冒険者のエッボが六人だとしても厳しいが、今のエッボ六体は勝ち目がない。さっきミルシーに斬り掛かったときのスピードを見るに、二級冒険者のスペックを大きく逸脱するレベルまで強くなっているはずだ。


──ならば、やるしかあるまい? 


 相棒から声がした。


──今日、このときが、お前の限界を超えるときだ。


 私の二つ目のギフト【共に歩む相棒器】。器具神様のギフトの中でも、”外れ”とされるギフト。

 相棒となる武器の声を聞き、成長させる事のできるギフトだが……相棒を自分の意思では選べない。自分が好むか否かに関わらず、相棒かどうかは見ればわかる。わかってしまう。そして、相棒は必ずしも、業物とは限らないし、まともに扱える武器とも限らない。

 相棒は必ずこの世のどこかにはあるとされる。だが、相棒に出会えるかはわからないし……出会えたとしても壊れる可能性がある。一度相棒が完全に壊れ、その声が聞こえなくなってしまうと、再び世界の何処かにある新たな相棒を探さなければならない。


 その代わり、相棒が成長すると、非常に強力になる。

 ……世間一般では、強力になる「らしい」という伝聞形で語られる話だが、私は実感している。

 確かに、成長した相棒は極めて強力だ。……私と相性のいい武器だったからこそということもあるが、唯一無二の強力な武器と言っていい。他の武器ではできないような、超高威力の攻撃を繰り出せる。


 それだけでも、上手く扱えば強いギフトだ。

 だが、それだけではなくもう一つ……かつて器具神様の神託を受けた聖女様が語ったとされる「伝説」がある。


 それは、一定以上成長した相棒と、「共鳴」できる様になるらしい、ということだ。


 ただし、歴史上、「共鳴」に達した者はいないとされている。

【共に歩む相棒器】のギフトを得た者の大半は、相棒に出会うことなく人生の幕を閉じる。

 相棒に出会った者の大半は、育つ前に相棒が壊れ……その後次の相棒に出会うことはない。

 そして、数少ない相棒を成長させた者であっても……「共鳴」には躊躇う。


 なぜか?


 それは、「共鳴」することで、自分が自分ではなくなると確信できるからだ。

 人と武器が一つになり、人の(くびき)から外れる。


 それは、きっと器具神様が目指した人と武器……いや、武器に限らず器具神様の言う「器具」との在り方の到達点の一つ。

 けれど、過去そこに踏み込めるだけの力を得た人達は、皆一様に躊躇った。

 ……それは、私も同じ。


 私は【共に歩む相棒器】以外にもう一つのギフトを持ち、更に相棒に出会うこともできて、しかもその相棒がもう一つのギフトと極めて相性が良かった。そんな、極めて稀で、かつ恵まれた存在だ。

 だからこそ、ギフトを受けてわずか数年で、相棒との「共鳴」に手をかけた。


 そして、過去の人々同様に、立ち止まった。

 恐怖を、感じた。

 それでも問題なかった。「共鳴」せずとも、相棒は成長し続ける。だから、無理に「共鳴」する気は起きなかった。過去の他の人達もみんな、同じだったんじゃなかろうか?


「さぁ、足掻いてみせろ!」


 思考を打ち切る、エッボの声。


 向かって来るエッボ達。

 速すぎる。


 立ち上がっていたミルシーはギリギリで躱したが、セルマちゃんとアリーネがまずい。キルスもさっきのダメージが残っている。リルカちゃんも余裕はなさそう。

 私も、相棒でなんとかガードする。


 まずい、時間がない。


──諦めるか? 我が相棒よ。誰かの助けを待つか? アリーネとセルマはすぐにでも殺されるぞ。


 キルスに襲いかかっていた一人を、横からセルマちゃんが凄まじい破裂音と共に撃ち抜いた。

 が、同時にセルマちゃんが斬られた。セルマちゃん、自分に迫っていた相手を無視して、キルスの方の相手を攻撃したんだ。……そっちなら当てられたから、というだけかもしれない。それでも、自分が斬られることを無視して、キルスを助けた。


 斬られたセルマちゃんが倒れる。どんどん血が流れ出している。


「セルマちゃん! この! 殺す!」


「ははっ! 無様だなぁ! やれるもんならやってみろ!」


 リルカちゃんが怒っているが、不利なのは変わらない。感情の力で覆せるような差じゃない。


 私自身も、あと数合打ち合う内に追い詰められ、詰むだろう。

 アリーネは今にも斬られそう。ミルシーもかなり不利。


 そこまで見て、ようやく覚悟が決まった。

 ……こうなるまで、覚悟を決められなかった。


 けれど、私はここで、自分よりも皆を取ることに決めた。


──ようやく、覚悟が決まったか。


(うん、やろう。相棒。……私は、私自身を捨ててでも、皆を守る。……そのために、私と共鳴して)


──ああ、承った。


 直後、相棒を握る手から、「相棒」が”流れ込んで”くる。

 そして、同時に、私から相棒へと、「私」が”流れ込んで”いく。


 世界が、静止した。

 残り五人のエッボも、戦っている仲間たちも、私も、止まっていた。

 その止まった世界で、私は声もなく絶叫する。


 自分が書き換わっていく感覚。

 それは、あまりにおぞましい感覚だった。

 生理的嫌悪感の極致。

 相棒と自分の間の壁がなくなり、同一化していく。


 すぐにでもやめたい。

 だが、今ここでやめれば、皆が死ぬ。

 湧き上がる吐き気を、這い回る悪寒を、意地で抑え込む。


 耐える時間は無限のようだった。


 その無限に思える時間の涯て、私の全てが相棒に流れ込み、相棒の全てが私に流れ込んだ。


 そして、全てが書き換わった。


 私と相棒は共鳴した。

 私の思考と、相棒の思考が響き合う。


 相棒はどう振るわれたいのか、私はどう振るいたいのか。それが完全に一致している。私の【過重武器運用】込みで。

 闘気の動きが滑らか。どこに込めるべきか、それを瞬時に理解し一瞬ごとに切り替えることができる。

 どの程度の力で、どれだけの威力が出るか。どの様にすれば最適に動かせるのか。


 相棒を使った全ての動作が、自分の体だけを動かすときの感覚すら越えて、完全に把握できる。


『ようやく、現れたか。武具と共鳴する者が』


 突然、静止した世界で声がした。


『我が名はテルムトゥール。人間よ……我は、お前たちが言うところの、器具神である』


「器具神……様?」


『そうだ。お前は私が定めた到達点の一つに、世界で初めて到達した。……故に、お前を到達者と認めよう』


「到達者? それは……」


『お前たち人類が、物語等で語り継ぐ、神の使いのようなものだ。……お前には、到達者として、力と使命を与える。……そして、同時に、この世界の真実を教えよう』


「真実……それは──」


 そこまで言ったところで、私の意識は凄まじい情報の濁流に飲まれた。


 再びの絶叫。

 あまりの情報量に、脳が完全に、その情報に染められた。

 凄まじ密度の情報が、ほんの一瞬の内に流し込まれ。その全てを、強制的に理解させられた。


 神々が為したことを知った。

 邪神が邪神となった理由を知った。

 この世界の在り方を知った。

 魔族の目的を知った。

 私の使命を知った。


 一瞬だけ、悩む。

 だがすぐに、答えを出した。

 過去がどうであれ、私は世界の未来を存続させたい。


 だから、使命を受け入れた。


『元来、君が使命を受け入れようが受け入れまいが、力は与えるし、君の行動を制限もしない。それが我々の責任だからだ。……だが、それでも君が使命を受け入れてくれたことは、大変喜ばしい。……さぁ、それでは、その使命のためにも、与えた力を……そして、君が共鳴で手にした力を振るうと良い』


「ありがとうございます」


『ああ、それと……君の知り合いである、クルトとアステミリス。あの二人も到達者だ。……今後のことは、二人に相談するといい』


 その器具神様の声を聞き終えた直後、世界の速度が戻った。


 眼の前にはニヤついたエッボの顔。

 こちらを格下と見下している。


 そうだろう。吸血鬼(ヴァンパイア)の力を得たエッボにとって、私は格下だった。

 私は実力自体及んでおらず、その上、武器は超重量級。巨大な魔獣を倒すのには向いていても、対人戦には極めて不向きだ。

 エッボが負ける要素はなかった。


 ……私が、世界で初めて【共に歩む相棒器】による「共鳴」をしなければ。


 武器は、思い通りに動いた。

 共鳴の影響は、相棒に「私の全て」を理解させた。その「私の全て」には、もう一つのギフト【過重武器運用】も含まれる。

 相棒が理解した私は、私にとっても手に取るようにわかる。「共鳴」の副次効果。それは、間接的に己の全てを知れるということ。

 結果的に、私は共鳴によって、【過重武器運用】の力すら、ほんの欠片も意識を割くことなく、自在に運用できるようになった。


 武器の重さからは考えられないほど、滑らかな、全く無理のない動きで、私は眼の前のエッボの分体を切り裂いた。エッボは私の動きが見えていただろうが、反応できなかった。

 振り抜いた相棒の勢いは殺さない。そのまま、慣性を利用する。

 回転軸をずらしながら移動し、次の一手で、アリーネを切り裂く直前だったエッボを両断した。


 到達者となった私の体には、力が溢れている。そして、武器の扱いに関しても、共鳴前の私とは一線を画す領域に立っている。これまでの私と、今の私は、もはや存在のスケールが違っていた。


 吸血鬼(ヴァンパイア)の力を得た二級冒険者ごとき、敵ではない。


 超重量武器である相棒を振り回し、仲間たちを襲う堕ちた冒険者(エッボ)を処理する。

 今の私は、相棒は、全てを薙ぎ払う暴風だ。


 一瞬ごとに状況が変化した。

 その暴風が一度振るわれる事に、一体の敵が切断されていく。


 分体が最後の一体になってようやく、エッボは状況を理解したらしい。


 だが、その最後の一体の防御も、私の相棒の前には全くの無力だった。

 相棒とエッボの体の間に差し込まれた剣は、何の抵抗もなく折れ、断ち切れ、そのままエッボの分体は切り裂かれた。


 自分でも驚くほど、圧倒的な蹂躙だった。


「で? 分体は倒したけど、本体がでてくるの?」


 仲間たちからも驚かれる中、私は周囲に呼びかけた。


「てめぇなにもんだ? その実力……どういうことだ?」


 予想外なことに、エッボは姿を現した。

 だが、同時に、更に予想外なことがあった。

 姿を現したエッボの横には、もう一人の人物がいたのだ。

 その人物が、今まで隠していた気配を開放する。

 あまりのおぞましさに、私の仲間たちは気圧される。……いや、リルカちゃんは気圧されていない。驚くべきことだ。これほどまでにおぞましいの気配を受けていながら、戦意を喪失していない。

 だが、後はダメだ。セルマちゃんはそもそも斬られて気絶している。ミルシーとアリーネとキルスは、気配に当てられ、動けなくなってしまっている。……仕方ない。この気配にはトラウマがあるのだから。


「はははっ! 我にはわかるぞ、我が眷属よ。あれは到達したのだ! 我と同じ領域になぁ! 無論、我に比べれば遥かに未熟ではあるがな」


 エッボの横には……かつて私達を攫った吸血鬼(ヴァンパイア)、ニーグルイスが立っていた。

ちょっと投稿ペース落とします来週からは週2、水曜と土曜に投稿していきます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ