第十話(通算第四十話) 山脈の異変
昨日に引き続き、今日も俺は魔法兵団と訓練していた。
弟子ーズはやっぱり"白竜の爪"と一緒だ。
「そういえば、基本四属性以外の初級魔法はどう使うんだ?」
「ああ、簡単ですが難しいですよ。あれは威力上限を超えられるぐらいの制御力がないと、そもそも弾丸を形成できないってだけなんです。基本四属性以外の属性は、魔法神様が後から追加した属性ですから。魔法基盤側の初級術式の作りからして違うんですよ。基本四属性と違って、始めから下級以上の魔法が存在する前提で作られていますから」
この世界に最初の基本四属性の初級魔法を生み出し、人々に与えたのは創造神だと言われている。
その後、創造神は魔法神様を生み出した。その魔法神様によって基本四属性以外の属性と……下級以上の魔法が作られた。魔法の制御術式が作りだされたのもその頃だ。
なお、後から追加された属性の初級魔法は存在するが、基本的に使用されない想定で作られている。単純な攻撃用途以外に使いづらい初級魔法は、基本四属性があれば十分だろうという考えだったらしい。
「なるほどな……我が兵団にも、一人、ギフト二つ持ちで、片方が【初級魔法制御力向上】の者がいる。そいつに練習させてみよう」
「ええ、試してみてください」
ラコニドゥムの魔法兵団は約百人。
魔法兵団に入るには中級や上級の魔法系ギフトが必要と聞いた。その条件を満たしたうえで【初級魔法制御力向上】を持っているなら、ギフト二つ持ちということだ。ギフト二つ持ちの少なさを考えれば、百人中一人しかいないのは当然だ。むしろ、良くピンポイントで【初級魔法制御力向上】持ちがいたものだ。
単純に、【初級魔法制御力向上】持ちを見つけたいなら、たぶん市井を探したほうが早いだろう。
そうして、時折質問に答えつつ、訓練を続けた。
だが、そろそろ昼という頃になって、予想外の人物が訓練場に現れた。
やってきたのはアステミリスとベラルマだった。
「これは……陛下、聖女殿、このようなところへ」
イストが跪き挨拶をしようとしたが、ベラルマがそれを止めた。
「挨拶はよい。イスト、西側の山脈からの魔獣の氾濫が予期された。すぐに魔法兵団を率いて王都の西へ。農地の更に外側へ部隊を展開せよ。既に第一第二歩兵団にも連絡済みだ。連携して防衛にあたれ」
驚いたイストが、アステミリスを見る。
「神託です」
「承知いたしました。ですが、農地の更に西側でよろしいのですか?」
「構わん。今回はアステミリスとクルト……それに、偶然さっきやってきたエルフ二人もいる。農地を荒らされることなく対処可能だ。最悪、レイの力も借りられる。それに、どちらにせよ農民が王都まで避難する時間は稼ぐ必要がある。……もし仮に、厳しいようなら農民達が避難できるまで遅滞戦闘を展開しつつ粘れ。そして、避難完了後にお前たちも王都へ入り、城壁からの防衛に移れ」
ラコニドゥムの農地は基本的に王都の壁の外にある。農民が住んでいるのも大体壁の外だ。余裕がなければ、当然壁を利用して防衛するだろうが、今回は余裕がある。だから、農民はもちろん農地も守りたいというわけだ。
それにしても……エルフ二人? ……アステミリスや俺に並んで語られるということは、人類側の到達者だろうか? 心強い。
「承知しました。すぐに向かいます」
イストはそう言って、すぐに魔法兵団をまとめて指示を飛ばした。
その様子を横目に、ベラルマは俺に対して口を開いた。
「すまんが、クルト。お前には西側の山脈にいる冒険者たちに帰還指示を出して欲しい。ついでに、途中で遭遇した魔獣を蹴散らしてもらえると助かる」
「承知しました」
確かに、今一番危険なのは、都市外に出ている冒険者達だろう。
そう思っている問、アステミリスが衝撃的なことを言った。
「クルト……今日は"白竜の爪"とリルカ達も……西側での依頼を受けています」
自分の表情がこわばったのがわかる。
「……わかった。ミリス、すまないが、高速飛翔用の神秘式を頼む」
頷いたアステミリスから自然神様の神秘式を受け、俺は西へ飛んだ。
※※※
「みんな、依頼は諦めよう。明らかに異常だよ。すぐに退避開始で」
「了解」
ミルシーお姉ちゃんの言葉に、皆頷いた。
確かに、どう考えてもおかしい。昨日も魔獣が凶暴化している感じがしたけれど、今日はもっとヤバい。
魔獣が次から次に湧いて出てくる。しかも、怖がる様子もなく襲いかかってくる。
今も、襲いかかってきた雑魚の頭を、〘破砕脚〙で蹴り砕いたところだ。にも関わらず、周りの魔獣は一心不乱に突っ込んでくる。
尋常じゃない。
先頭を行くのはキルスお姉ちゃんとリーシャお姉ちゃんの二人。
キルスお姉ちゃんができるだけ敵の少ない方向へ誘導し、リーシャお姉ちゃんが超火力で切り拓く。セルマちゃんとアリーネお姉ちゃんが真ん中、私とミルシーお姉ちゃんが殿だ。
リーシャお姉ちゃんの攻撃力はすごい。
めっちゃ大きい斧の一振りで、魔獣の巨体が一刀両断されていく。
すごい勢いで瞬殺しまくっている。素材を気にしなくていい、その上で速攻で倒すことが求められる状況だと、リーシャお姉ちゃんはいつも以上に頼もしい。
セルマちゃんは走りながら、弾を二つ待機させている。既にクルト先生の言う弾丸の形に整形したものだ。いざという時は、セルマちゃんの高火力初級魔法を期待できる。
うん、大丈夫。少しずつ山を降りて、王都に近づいている。
このまま行けば、辿り着けるはず。
そう思っていた私達に、不愉快な声が降ってきた。
「おうおう、余所者達。必死なことだなぁ?」
後ろからの声に振り返ると……この間難癖つけてきた二級冒険者、エッボが立っていた。
……不穏な気配を漂わせて。
※※※
挑発的な態度のエッボを見て、すぐに分かった。
彼は、既に別のなにかになっている。
「ミルシー!」
「うん。あいつよりはずっと弱いけど……気配の性質が近い」
あいつ。……私達を連れ去った吸血鬼。あれより弱いが、同種の気配がする。
ミルシーもアリーネもキルスも警戒を上げている。
「リルカちゃん、セルマちゃん、気を付けて。あいつ、前にあったときと別物になってる」
「ははっ! よくわかってるじゃねぇか! そうだ、俺は今までとは違う! 誰にも邪魔されない最強の存在に……成ったんだ!」
気づくとエッボはミルシーの真横にいた。
振り抜かれた剣を、ミルシーもギリギリ剣でガードした。……けれど、そのまま圧倒的な膂力によってミルシーが吹き飛ばされる。おかしいでしょ。剣と剣がぶつかった結果とは思えない。
驚く私とアリーネ。吹っ飛んだミルシー。
普通なら、状況は一気にエッボへと天秤が傾いていただろう。
だけど、私の仲間は思った以上に普通じゃなかった。
キルスとリルカちゃんが既にエッボの急所を狙った攻撃態勢に入っている。
更に、セルマちゃんはその攻撃に合わせ、援護射撃の準備。
私も半瞬遅れて走り寄る。直後にアリーネも手をエッボへ向けて突き出した。
エッボは一度油断を突かれてリルカちゃんとセルマちゃんに敗北しているらしい。そのためか、警戒心はリルカちゃんとセルマちゃんに向いていた。
ミルシーが吹き飛ばされた直後、即座に迎撃に移ったリルカちゃんの蹴りを、難なく躱す。
だが、そうやってリルカちゃんへと意識を向けているなら、キルスに取っては攻撃のチャンスだ。
気配を消すことが得意なキルスは、リルカちゃんの攻撃を避けたエッボの背後に近づき、音もなく後ろから心臓を突き刺した。
「まだ!」
リルカちゃんの声が飛んだ。
攻撃が決まったキルスは、一瞬油断してしまった。
エッボがニヤリと笑い、背後へと腕を振るう。
キルスの顔に裏拳が直撃した。
信じられない勢いで吹き飛ぶキルス。ギリギリのところで、アリーネが【中級魔法詠唱不要】の効果で《緩衝風》を発動し、キルスは助かった。
ほぼ同時、セルマちゃんの方から凄まじ破裂音が鳴り響き、エッボの胸部に風穴が開いた。
キルスの状況も見ていた。私は油断しない。こいつはあの吸血鬼と同じ気配がするのだから。
近づいた私は、相棒の最も好むやり方で、エッボの体を破壊する。
……そう、即ち、エッボの頭から股下までを一刀両断にした。
ちょっと投稿ペース落とします来週からは週2、水曜と土曜に投稿していきます




