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初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第三章

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第九話(通算第三十九話) 壁を超える方法

 二級昇格の翌日。

 今日も弟子ーズを"白竜の爪"に預け、俺はラコニドゥムの魔法兵団のところへやってきていた。


「はじめまして、クルト殿。私は魔法兵団長を務めているイストという。この前の陛下との模擬戦見せてもらった。あの技術の一端を教えて貰えるのかとわくわくしていた。今日はよろしく頼む」


「丁寧にありがとうございます。クルトです。イスト殿、こちらこそよろしくおねがいします」


 魔法兵団長と挨拶を交わし、魔法兵団の人達を見回した。

 気配からしてなかなかにやる。冒険者でいうと、全員が二級以上の実力があるだろう。流石は精強で知られるラコニドゥム竜砦王国の兵士だ。


 これは、気合を入れて教えなければならないな。


「では、早速私から教えられることを伝えていこうと思います。……まず、皆さんがおそらく一番気になっているであろう点から。……ズバリ、初級魔法の威力上限はどうやったら突破できるのか、です」


「おお、早速それか。それについては本当に気になっていた」


 そりゃそうだろうな、彼らは魔法の専門家だ。初級魔法に威力上限があるというのは常識だし、それを実感してきたはずだ。その常識がひっくり返ったのだから、気になって当然だろう。


「でしょうね。常識とはかなり乖離したことですから。……そういうわけで、どうやって初級魔法の威力上限を超えるのか、ですが。実はアプローチが二つあります。……一つは、本当に威力上限を超える方法。もう一つは、実際には威力上限を超えていないが、工夫でこれまで威力上限のせいで出来ないと思われていたことをやる方法です」


「ほう? 二つも方法があるのか」


「ええ。ちなみに、一つ目の方法に二つ目の方法を組み合わせると更に威力が上がります。……で、その方法ですが……まずは説明の簡単な一つ目、実際に威力上限を超える方法の話から。……皆さんは下級以上の魔法が威力上限に囚われない理由はご存知ですね?」


 言って、再び魔法兵団の人々を見渡す。

 みんな、そのぐらい当然だ、という顔だ。


「下級以上かつ高出力が求められる魔法は、いずれも術式に上限突破の制御が加わっている。それ故に威力上限囚われない」


 代表してイストが答えてくれた。当然正解。この世界で魔法をある程度知っている者なら、知っていて当然の話しだ。

 ただ、本題はここからだ。


「その通り。……ではその上限突破の制御が何をやっているかはご存知ですか?」


「魔法の操作工程において、魔力を消費することによって超高圧の制御を可能にしているはずだ。それに、操作工程以降での追加の魔力充填時に、高圧で魔力を術式に流し込んでくれる効果もある」


「正解。で、それなら、初級魔法でも自身の制御で同じことができればいいと思いませんか?」


「なに?」


「……つまり、一つ目の方法は単純に、その上限突破の制御と同等以上の圧力で制御できるようになればいいんですよ」


 魔法兵団の人達は絶句していた。そりゃそうだ。

 俺が言っていることは「それができれば苦労しない」と返されるのが当然のことなのだから。


「いや、馬鹿な……それは不可能だ。上限突破の制御でかけられる魔力圧は、ギフトによる制御力向上すら及ばない超高圧。そんな制御できるはずがない」


「今までの人達はそう言って、努力と研究を放棄してきました。だから、出来なかったんです。……人々はギフトを過大評価……いえ、違いますね。人間の能力を過小評価しているんですよ」


 魔法兵団の人々は再び絶句した。

 だが、仕方ない。俺の言っていることはあまりに常識から外れている。


「これまでの魔法の常識では、操作工程の重要度は高くありません。なぜなら、必要な制御は術式に追加すればいい。……まぁ、追加している制御が増えれば術式の規模が大きくなり、等級も高くなってしまいますが、そこは要調整、取捨選択。等級が高くなっても構わないのなら、必要とする制御が含まれた魔法を使えば良い。だからこそ、制御力を鍛えるというのは、大抵が変換工程等の正確性をあげるためのもの。そのための精密性を鍛えるものだった。……ですが、私の魔法の使い方において重要なのは、制御の精密性ではなく、制御力の強さです。これを鍛えることで……【初級魔法制御力向上】持ちなら、初級魔法の威力上限を超えることができます。残念ながら、【初級魔法制御力向上】なしでは、訓練しても超えるのはほぼ不可能ですが」


「なる……ほどな。つまり、お前は事実上、上限突破の制御無しに上限突破の制御と同じことをしているわけだ」


「その通りです」


 イストは驚愕と引きつった笑みが混ざったような表情だ。

 だが、そこに落胆の色はない。【初級魔法制御力向上】なしでは威力上限を超えられないと言ったにも関わらず、だ。

 それはつまり──


「……それはつまり、一般に知られる術式であっても、制御力を鍛えればより低い等級で同等の効果を出せるものがあるということだな? 初級魔法に限らず、そして上限突破に限らず」


「ご明察」


 想像通りだ。イストは俺の言葉の本質を掴んでいる。流石は魔法兵団長。

 彼の言う通り。……実のところ、世の中には無駄な制御を書き加えたことで、無駄に等級が上がっている魔法がいくつもある。制御力を鍛えさえすれば、より下位の魔法で十分な場合が多くあるのだ。


「……ははっ! ははははっ! これはいい! 初級魔法について学ぶだけだと思っていたが、他にもいくらでも応用が効きそうだ!」


「術式にない制御によって威力を上げる方法は、上限突破の二つ目の方法にも関わります。その二つ目の方法というのは、物理的に合理的な状態に操作して撃ち出すことです」


 そう言って、かつてセルマにもしたのと同じ"穿弾型"の説明をした。


「こういった、細かい操作をすると、操作しないといけない内容が多く、制御力が分散してしまいます。……ですが、そうであっても」


 言葉を止めて、本来なら威力上限を超えられない範囲の制御力しか使わず"穿弾型(ライフルタイプ)"を撃ち出した。

 明らかに威力上限の範疇に収まらない攻撃が、破裂音とともに飛ぶ。無論、いつの俺の"穿弾型(ライフルタイプ)"よりは威力が低い。制御力を抑えているせいで、初速など信じられない程遅かったが、それでも"穿弾型(ライフルタイプ)"使用時特有の魔力の銃身の中で十分に加速し、最後には音速を超えた。


「この通り。威力上限を超えられない程度の魔力、制御力しか使っていないにも関わらず、明らかに従来の威力上限を超えた威力を発揮できます」


「ふふふっ! ははははははっ! すごい! すばらしい! いまのを制御用の術式無しで? 信じられない! あんな制御、並みの魔法使いなら中級以上の魔法でやることだ! ははははっ! あれを初級でやれるのか! 素晴らしいな! ……今のは【初級魔法制御力向上】無しでもやれるのか?」


「そうですね……下級以下の魔法しか使ったことがない人なら、数年の訓練でできるようになるでしょう。ですが、中級以上を使ったことがある場合、【初級魔法制御力向上】が無いとかなりの才能が要求されますね。絶対に不可能とまでは言いませんが」


「……中級以上を使ったことがあるか否かが影響するのか? それはどういう……いや、そうか」


 俺の説明を聞いて、イストが疑問を浮かべる。

 だが、途中で思い至ったらしい。


「……固有回路の規模と、それによる魔力の鈍さが原因か」


「正解です」


「なるほど、君が初級魔法しか使わない理由はそれか。可能な限り、固有回路の規模を留めたいんだな」


「その通り。とはいえ、俺は祝福を受けるまでの人生で中級も上級も使ったことがありましたから、完全に初級魔法を極めることは不可能なんですよね」


 今でも、非常に歯がゆい事実だ。

 その分、セルマへの期待は膨らむ。


「この実力でも極めていないというのか……。いや、だがしかし、それは夢が広がるな。……逆に言うなら、【初級魔法制御力向上】持ちかつ、下級以上の魔法を一度も使ったことのない者なら、君すら超えられる初級魔法師に成れる可能性があるということだろう?」


 それはそう。セルマはそうなれる可能性がある。

 ただ、俺が軽んじられるのはそれはそれで癪だ。


「まぁ、初級魔法そのものの扱いについてはそうですね。……俺の場合、それに加えて詠唱不要と焦点自在があるので、初級魔法を使った実戦闘で負ける気はありませんが」


「……ギフト三つ持ちかつ全て初級魔法関連。ここまで知ってからなら本当に恐ろしいと思えるな。流石は陛下と同格の存在ということか」


 俺の子供じみた反応にも、イストは笑って俺を認める言葉を返してくれた。

 良い人だな、この人。


 その後は、魔法兵団が実際に俺の言ったことを実践していくための訓練に付き合った。

 かなり上手く交流できたと思う。

 その後は、夜は皆で宴となった。思った以上に良い刺激となったらしく、兵団の人達からはかなり気に入られたようだ。


※※※


 クルト達がそうして訓練に費やした一日の間に、少しずつラコニドゥム竜砦王国に不穏な影が近づいていた。

 その影の一端は既に、魔獣の凶暴化という形で、冒険者達の目に触れていた。

 リルカやセルマ、"白竜の爪"、"屠竜の刃"といったクルトの仲間に被害はなかった。しかしこの日、多数の冒険者が負傷して帰還。……中には行方不明となる者達もいたのだった。

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