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初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第三章

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第八話(通算第三十八話) 二級昇格

 情報共有の二日後、俺は一人で依頼を受けていた。

 二級昇格のための指定依頼だ。

 リルカとセルマは"白竜の爪"が面倒を見てくれるということだったので、お言葉に甘えさせてもらった。


「で、こいつか」


 眼の前には危険度Ⅶ相当の魔獣。

 タイラントベア、熊型の魔獣だ。

 ラコニドゥムを囲う山脈ではしばしば見られる魔獣らしく、定期的に討伐依頼が出るらしい。大抵は三級の上位パーティか二級が対応するとのこと。

 今回は、三級冒険者パーティが遭遇し、逃げ帰ったらしい。

 なお、逃げ帰ったそのパーティも、タイラントベアの討伐実績はあった。しかし、討伐には毎回専用の準備をしていくそうで、他の依頼の途中で遭遇した今回は逃げ帰るしかなかったそうだ。

 その逃げる途中で、パーティメンバーの一人が負傷。すぐには討伐に行けなかったらしい。

 他の三級パーティも二級冒険者も仕事があり、受けられる者がいなかったところで、今日丁度俺が二級昇格の指定依頼を受けに来たという流れらしい。

 ……なお、二級と言えば俺達に絡んできたエッボだが……彼はここ数日姿を見かけないらしい。不穏だ。


 さて、危険度Ⅶというのは二級昇格試験として見た場合、妥当……とは若干言い難い。二級になるパーティなら簡単すぎるが、二級になる個人なら難しすぎるレベルだ。パーティで討伐しつつ、討伐までの時間や倒し方、剥ぎ取った素材の品質など含めて審査するレベルだろう。

 が、俺にとっては簡単すぎる。


 襲いかかってきたタイラントベア。

 俺の魔力範囲に入ったタイミングで、《(ソゥロ)》の針を作り出し、高速でタイラントベアの心臓に撃ち込んだ。俺の魔力範囲内でなら、炸裂させずに済ませることができる。


 その一撃で、タイラントベアは倒れ、動かなくなった。


 はい、終わり。……まぁ、素材を剥ぎ取ることに気を使わないといけない分、ただ倒すよりは面倒だった。それでも、俺からすると雑魚でしか無い。


 その後の剥ぎ取りには流石にそれなりの時間がかかったが、問題なく素材を回収。ギルドへと帰還した。


※※※


「二人共ほんと強いねー、ちょっと自信なくすかも」


「リーシャお姉ちゃん達もすごかったよ!」

「はい、パーティでの戦い方、参考になりました」


 今日は師匠ではなく"白竜の爪"の皆様と依頼を受けた。

 師匠は二級昇格試験を受けている。

 エッボさんには悪いが、師匠が二級昇格ごときで躓くことはありえない。

 なにせ師匠は到達者だ。強さのスケールが違う。しかも、ギフトや魔法とは別に、何故か気配を読む能力に長けているので、標的を発見できずに終わるということも無いだろう。


 なので、私達はサクッと依頼を終わらせてからは、帰りながらどんなふうに師匠をお祝いしようか考えていた。


「やっぱりまずはお酒だよね!」


「えー、お酒私達飲めなーい」

「リルカちゃん、師匠たちがお酒飲むのは当然でしょ」


「そう言えば、クルトさんの好きなお酒とか知らない?」


 アリーネさんに訊かれ、考えてみたが……そう言えば、師匠がお酒を飲んでいるのはあまり見た覚えがない。


「ごめんなさい、わかりません」


「そっかー……クルトさんのこと、もっと知りたいね」


「そうですね」


 リーシャさんのその言葉には同意しかなかった。

 師匠のことをもっと知りたい。師匠に喜んでもらえることをしたい。


「あれあれー? リーシャもしかしてクルトさんに惚れちゃったのー? ダメだよ? うちのパーティ出ていったりしたら」


「いやいや、無いから。確かにクルトさんは強くて料理もできてすごい人だと思うけど、そんな惚れたりするようなやり取りしてないし」


「えー? そうかなー? 前の護衛依頼のときとか結構絡んでたじゃん。……それに、惚れるときって、別に時間や関わった回数関係無かったりしない? 一目惚れとかだって世の中にはあるんだし」


「それはそうかもだけど……私は違うから! もお! からかわないでね、ミルシー」


 そんなことを言っているが、リーシャさんの顔は少し赤い。

 ……もしリーシャさんが師匠に惚れているなら、ちょっとかわいそうだ。

 だって、師匠のお相手はミリス様に決まっているし。


 ……決まっているよね? あれ? 二人の関係って何なんだろ? 私は勝手に恋人同士だって思っていたけれど、何も確認してなかった。


 今度訊いてみよう。


※※※


 ギルドに戻ってみると、酒場には"屠竜の刃"の方々とアステミリスが居た。

 こちらに手で挨拶してくれたフリオさんに、軽く会釈する。


 まずは受付だ。報告しよう。


「はい、確かにいずれもタイラントベアの素材ですね。確認いたしました。状態も良好です。文句なしですね。……では、こちらをどうぞ」


 そう言って、受付嬢は二級の冒険者証を渡してくれた。前世のフィクションのようなカード型ではなく、ドッグタグに近いものだ。二級のそれは、名前が彫り込まれているところに赤い塗料が塗られ、更に淵が金色になっている。この赤い塗料はかなり希少なもので、魔力や闘気、神威などを込めると光る特性があったはずだ。


 試しに軽く魔力を流すと、やはり名前がぼんやりと赤く光る。


「ありがとう」


 二級の冒険者証を受け取ったので、三級の物を返還した。

 その後、報酬を受け取って、アステミリス達の待つ席に向かった。


「お疲れ様です皆さん」


「クルト。無事、二級に上がれたみたいだな」


「ええ、おかげさまで」


「余裕だろうから心配はしてなかったがな」


 フリオさんも、他の"屠竜の刃"の皆さんも、口々に俺を褒めてくれた。

 ここまで褒められると気恥ずかしい。

 八年前は、本当にただのガキだったからな、俺。一年間ガッツリ冒険者としてのいろはを叩き込んで貰った。つまりこの人達は、ほぼ素人だった俺を知っている相手なのだ。

 そんな人達に、今の自分の実力の一端を示せたのは、なかなかに感慨深い。


 話しながら、フリオさんが注いでくれた酒を一気に飲み干す。


「結構良いお酒じゃないですか、これ。もったいない飲み方しちゃったな」


「別に良いだろう。そのぐらい……そんなこと気にせず楽しめ」


 嬉しそうにそう言ってくれるフリオさんに、こちらも嬉しくなる。


「というか、昔別れた時、今度奢るって言ったのに……これじゃ逆じゃないですか」


「今日はお前の二級昇格祝いだからな。それなのにお前に奢らせたらおかしいだろ」


 そんな話をしていると、再びギルドの入口が開いた。

 リーシャたちが帰ってきたらしい。


「あ、もうクルトさん帰ってきてるじゃん! 急いで報告しよ!」


 急ぐリーシャ達を眺めていると、フリオさんたちが更に料理を注文した。


「お前の友人達と弟子も帰ってきたか。クルトの知り合いはこれで全員揃ったな? よし、ここからは本格的に祝いといこう」


 フリオさんは言いながら、再び酒を注いでくれた。


 ちなみに、俺がギルドに戻ってきてからずっと、アステミリスは黙々と食事をしている。

 それ以外は一瞬俺に目で挨拶しただけ。


「それにしても、この聖女、本当によく食うな」


 何事にも動じないフリオさんが引いていた。そのことにちょっと驚く。


「ええ、いつも俺が作る料理もガッツリ食べてくれますよ」


「お前の料理は美味いからな」


 笑いかけてくれるフリオさんに、俺も笑い返した。

 そんなやり取りをしていると、アステミリスからは抗議の声が飛んできた。


「……このぐらい普通では?」


「普通ではないな、少なくとも」


 料理をしっかりと飲み込んでから、如何にも不服という感じで言ってきたアステミリスに、常識を教える。


 そんなやり取りをしていると、リーシャやセルマ達もやってきて、そのまま宴会となった。

 祝ってくれてありがとう、みたいな軽い挨拶をして、乾杯。

 その後は、この酒場の料理に舌鼓をうった。


 そうして、楽しい宴会は夜まで続いた。


 ……リーシャとセルマから恋バナを振られたときは、どうしようかと思った。アステミリスにもじっと見られていたし、フリオさんはこちらを見て愉快そうに笑っていたし。


 ……まぁ、それでも、間違いなく楽しい時間だった。


※※※


「クソ! なんでだ! 余所者ばかりがでかい顔をしやがって! あのギルドは、俺達のギルドだったんだ! それを、なんで!」


 山中にはいくつもの魔獣の死体が転々としていた。

 自分の強さを誇示するように……あるいは、自らの強さを確認するように、節操なく殺し回った跡だ。


 魔獣を殺し回っていた男は、二級冒険者エッボである。

 彼は依頼も受けず、ただの憂さ晴らしのために山へと分け入っていた。


「クフフッ……面白そうだな。……容姿は残念ながら好みではないが、こういう者を眷属にするのも一興だ」


「誰だ!?」


 突然の声に、エッボは驚いた。

 油断なく、声の方を警戒して構える。


「そう警戒するな。……お前の気持ちはわかるとも。お前の領域に、余所者が土足で踏み込んできて、目障りなのだろう? どうだ? 我と組まないか? 我と組めば、そんな余所者など、軽く捻り潰せるだけの力を分け与えてやるぞ?」


 男の言葉には、何か力が宿っていた。

 その言葉が、エッボの心を絡め取っていく。


 もしも"屠竜の刃"に出会う前……せめて、クルト達に出会う前のエッボだったならば、あるいは抵抗出来ていたかもしれない。

 だが、今のエッボは、心に大きな怒りを飼っていた。

 その怒りは、男の言葉に宿っていた力を増幅させてしまった。


 そう、怒りは……呪いと極めて相性の良い感情だった。


 ラコニドゥム竜砦王国の西、山脈の麓付近。そこから、暗雲がやって来ようとしていた。


「ふふふっ……本当に容姿は好みではないが、こういう性質ならむしろそのほうが良いな。下らなく、愚かで、だからこそ使い捨ての玩具として丁度いい」

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