第四話(通算第三十四話) 再会
ラコニドゥムに到着して十日目。弟子ーズの冒険者登録から七日後。
弟子ーズ二人は順調に依頼をこなしていた。トラブルもなく……弟子ーズ二人に瞬殺されてしまった二級冒険者の男エッボが毎回毎回睨んでくること以外は、特にトラブルもなく過ごしていた。
だが、この日、大きな出来事があった。
「あれ? クルトさん!?」
「リーシャじゃないか。ラコニドゥムに来てたのか?」
俺は冒険者パーティ"白竜の爪"と再会した。
※※※
「クルトさんのせいで大変だったんですよー? 指名手配されたクルトさんと親しくしてたってことで、連行されそうになったんですから」
怒り顔のミルシーにそう言われて、申し訳ないと頭を下げる。
今俺達はギルド併設の酒場。"白竜の爪"の四人と、俺、弟子ーズ二人の合計七人で大きなテーブルを囲んでいる。
俺の奢りで、大皿の肉料理とサラダ、麺料理がテーブル上に並んでいた。
「迷惑をかけたな」
「いえ、大丈夫ですよ。元々私達もできればあの国を出たいと思っていたので。クルトさんのおかげで踏ん切りがつきました」
アリーネの言葉に、俺は疑問を抱く。
国を出たいと思っていたというのは予想外だった。護衛依頼で一緒にいるときも、そんな話は一切していなかったし。
「……元から出たいと思っていた?」
「そうなんよなー。あのとき王都への護衛依頼を受けたのも、王都の神殿の様子を探って、怪しければ国を出るためだったんよなー」
キルスの発言は不穏だった。
王都の神殿を探る? なぜ?
……もしかして、この四人は敵……つまり、魔族の到達者に関して何か知っているのだろうか?
なんにせよ、おそらくここで話すことじゃない。
「四人はアステミリスのことは知っているか?」
「もちろん! クルトさんが連れて行っちゃった聖女様だよね! ……もしかして、その聖女様もラコニドゥムにいるの?」
リーシャとしては、アステミリスは罪人ではなく聖女様らしい。……まぁ、あの処刑のときに集まっていた人もそういう感じだったし、セファイルート国民の大半はそうなのだろう。
「ああ。俺もアステミリスもこの国で客人として扱われている」
「流石クルトさんですね! この国で客人扱いなんて何やったんですか?」
「まぁ、いろいろあってな。……アステミリスも、セファイルートのことは知っておきたいだろうし、今度俺の家で情報共有しないか?」
「いいですよ。私達もクルトさん達に伝えられるものなら、伝えたほうが良いかもなーとは思っていたんで。……それにしても、家なんて持ってるんですね?」
「国王陛下がくれたんだよ」
「うわー……この国の国王ってことは、邪竜殺しの大英雄ですよね? 太っ腹だなぁ」
そういったミルシーは目をキラキラさせている。
邪竜殺しの大英雄に憧れているのか、それとも一軒家に憧れているのか。……いや、元貴族なら一軒家ぐらいには憧れんか? ……わからんな、冒険者やって憧れを持った可能性もある。
「では、情報共有は後日ということで。せっかくですし、今日はこの後、一緒に依頼を受けませんか?」
「んー……そうだな。元々、こっちの二人のために初心者向けの依頼を受けるつもりだったんだが……実力的には問題ないか。ちょっと受付にここのギルドのルールを確認してくる。"白竜の爪"が受ける依頼にこっちの二人も同行できるなら、一緒に行かせてくれ」
「そちらの二人は、クルトさんのお弟子さんということでしたっけ?」
「ああ、俺の弟子……リルカに関しては俺とアステミリスの弟子だな。で、セルマは俺の弟子だ」
「それは、強そうですね。二人共、よろしくおねがいしますね」
「「よろしくおねがいします!」」
アリーネの挨拶に、二人も元気に返す。
そのあと、アリーネ以外のメンバーとも弟子ーズは挨拶を交わした。
そうして、ワイワイと食事をした後、依頼へ行こうと立ち上がった。そのときだ。
デジャヴを感じた。
「こんだけ女をつれて、いいご身分だなぁ、余所者」
声の方を見ると、苛立たしげな様子で、毎度俺達に絡んでくるニ級冒険者エッボが立っていた。
「なに、オジサン。まだ恥をかきたいの?」
「……クソガキ、てめぇ、今度こそ殺されてぇのか?」
「えー、こわーい。一度負けたのにみっともなく脅してくるオジサンこわーい」
「リルカちゃん、やめなよ」
リルカの挑発に怒ったのか、エッボは剣を抜こうとした。短気過ぎるだろ。
柄の部分に、極めて小さい、けれど高密度な《風》を構築。それで柄を抑え込む。抑え込む方向に速度を与え続ける。……初級魔法への速度負荷はつまり、力を加えることができるということに他ならない。
「ん? ぐっ! なんだ!?」
「悪いが、剣は抜けない様に抑え込ませてもらっている。そう何度も相手にするのは面倒だからな」
柄の位置に一瞬で構築したので、どうやら魔法陣にすら気付かなったらしい。
エッボは怒りながらも困惑した様子だ。
「クルトさん、その人だれ?」
「んー……この国の二級冒険者のエッボって人。どうも、余所者が気に入らんらしい」
「えぇ……なにそれ。エッボさんだっけ? 二級にもなってなんでそんな馬鹿馬鹿しいことやってるの?」
リーシャが辛辣だ。
まぁ、確かに馬鹿馬鹿しいと言いたくなる。
「てめぇらみてぇな余所者にでかい顔をさせねぇためだよ。ここは俺達のギルドだ」
「そんな自分たちのギルドだって言うならさ、他人の足を引っ張るより自分を高めればいいじゃん。例えばあんたが一級になったりしてさ。この国の出身者が頑張って、このギルドを代表する冒険者だって状態を維持しておけば、他国出身者にでかい顔されたりしないでしょ?」
リーシャの言葉に、エッボは怒りの表情を浮かべ……すぐに諦めの表情に変わった。
「お前ら、ここに来た時受付してた声を聞いたが、四級だろ」
「そうだけど、だからなに?」
「四級ごときにはわからねぇよ。……一級ってのは別格だ。そして、幅が広い。仮に俺が一級になったところで、このギルドの代表とはなれねぇ」
四級ごときにはわからない、か。正直、"白竜の爪"の実力は既に四級の範疇にはない。三級の上位……なんならもう二級でも通用するぐらいの実力がある。
まぁ、今日到着したばかりの彼女たちについて、エッボが知らないのは仕方ないか。
それはそれとして、俺は今のエッボの発言に一つ引っかかった。
「ん? このギルドに所属している一級なんていたのか?」
このギルドで一級冒険者なんて見たことがない。
「いるんだよ。……余所者の、一級冒険者パーティがな。……ちょうど今日、長期依頼から戻って来るって話だ」
顔を逸らし、吐き捨てるように答えた。
その直後だった。
冒険者ギルドの入口が開く。
「あぁ、丁度戻ってきたみてぇだな」
「……え?」
つい、口から声が漏れた。
あまりに予想外な人々がそこにいたのだ。
「……お前、まさかクルトか?」
「……お久しぶりです、フリオさん。それに、”屠龍の刃”の皆さん。……七年ぶり、でしょうか?」
そこにいたのは”屠龍の刃”という一級冒険者パーティだった。
歴戦の空気を纏う男性四人の冒険者パーティ。フリオさんはそのリーダーだ。
「師匠、お知り合いなのですか?」
セルマの問いに、一つ唾を飲み込んで答える。
「八年前、俺が冒険者に成ったばかりの駆け出しの頃に、俺に冒険者のいろはを叩き込んでくれた人達だ。……つまり、俺にとっての、冒険者としての師匠だよ」




