第三話(通算第三十三話) 弟子たちの冒険者登録
ベラルマたちから歓待を受けた翌日。
俺はリルカとセルマの二人と共に冒険者ギルドへとやってきていた。
ちなみに、アステミリスはラコニドゥムにいる間、主に神殿で聖女としての務めを果たすらしい。
この国は義務教育もあり、雰囲気が他国と全く違う。
しかし、冒険者ギルドの中の雰囲気は案外他国と変わらなかった。
ただ、明らかに弱そうって人は少ない。
まぁ、かつて竜の巣だった場所にあるこの国は、周辺の魔獣も凶暴なものが多い。戦うための教育を施されているだけでなく、そういった相手と戦っていることが、彼らを強くしているのだろう。
受付に足を運ぶ。
受付嬢に、このギルドでの俺達の冒険者登録を頼んだ。俺に関しては、情報を提供し、これまでの等級の引き継ぎも頼む。
「ああ、あなたがクルトさんですね。そちらのお二人の新規登録とクルトさんの昇格については指示が来ております。クルトさんは国王陛下の推薦により、即時二級への昇格試験実施に加え、一級昇格についても各種条件の緩和が可能です」
受付嬢の言葉に、ギルド内がざわついた。そりゃそうだ、こんな特別待遇、滅多にあることじゃないだろう。
「へぇ、昇格試験をすぐに受けられるんですか」
「はい。二級への昇格ですと、指定した依頼を達成していただければ結構です」
「なるほど? ……どうするかな、リルカとセルマに冒険者としてのいろはを教えるつもりだったからな」
「今は保留にして、今度改めて受けていただいても問題ございませんよ」
「では、それでよろしくお願いします」
二級昇格の話は一旦保留してもらい、今日はとりあえず二人の新規登録を済ませ、そして新人向けの依頼を受けることにした。
依頼を選び、手続きをして、外へと出ようとしたところで、ギルド併設の酒場で酒を飲んでいた男に話しかけられた。
「待ちな」
「なんですか?」
面倒そうな雰囲気だ。穏便に済めばいいが。
……二人も警戒しているな。
「あんた、見ない顔だ。余所者か?」
「ええ。最近この国に着きました」
「なら、三級ってのはどっか他の国での三級だろ? うちのような過酷な土地で三級になったやつと、同じレベルで働けるのか、怪しいもんだなぁ?」
……こいつ、座っていた位置的に、さっきの俺と受付嬢のやり取り聞こえていたはずだよな?
なぜこんなことが言える?
「私は国王陛下から推薦を受けている冒険者ですが?」
「は! 確かに国王陛下はつええ。あんなすげぇ人は他に見たことがねぇ。……だが、国王って立場ならなんかしがらみがあったりすんだろ? お前さん、何かしら国王陛下が断れねぇような提案したり、騙したりして、無理矢理国王陛下に推薦させてんじゃねぇのか?」
なんだ、その無茶苦茶な理論は。
酒のせいか?
もういい、これ以上こいつに敬語を使う気は失せた。
「……そんなのありえないって、考えないとわからないか?」
「いやいや、俺みたいなやつには政治だのなんだのはわからんからなぁ……どんなことがあっても不思議じゃないって思っちまうんだよ」
「……つまり、何が言いたい?」
まぁ、聞かなくても大体わかるがな。
「俺がいいてぇのは、てめぇが陛下の推薦を受けたってんなら、それ相応の実力を俺等に示すのが筋だろってことだよ」
「はぁ? なぜそんなことをしなくちゃならん」
「断るようならお前は信用に値しねぇ。信用に値しねぇやつがでかい顔をするのも許さねぇ。お前も、お前の連れてるそっちのガキ二人もな」
……まぁ、わかっていたさ。こいつが喧嘩を売りに来てることぐらいな。
「何を見せれば満足する?」
「へっ、やる気になったってんなら結構。……おい! 訓練場借りるぞ!」
眼の前の男は受付嬢にそう言葉を投げると、そのままギルド併設の訓練場へ足を向けた。
「ついてこい」
無言で従う。
男を観察するが……だいぶ酔っているな。動きがだいぶ悪い。おそらく素の実力は二級冒険者程度。
だが、酔いのせいで、今の実力は三級相当だろう。
……このザマで何を測るというんだ?
「よーし……じゃ、俺と模擬戦をしろ。今の酔った俺にぐらい勝てるよな? 勝てなかったなら、悪いことは言わねぇから、四級向けの依頼からやっていくんだな」
訓練場に着くと、男はこちらを向いてそういった。
俺がその男の言葉に応えようとすると……。
「ねぇ、クルト先生、あの男、私達にやらせてくれない?」
突然のリルカの提案。
「は? どうして?」
「師匠のことを下に見たような発言をしているからです。私、怒りました」
今度はセルマ。
セルマの言葉に、リルカも頷いている。
「いや、だが……あの男、おそらく二級冒険者だぞ? 今はアステミリスもいないし」
「そうだぞガキども。お前らは後ろで大人しく見学してるんだな。そいつの言う通り、俺は二級冒険者だ。お前らみたいなガキが、二人がかりだとしても勝てるわけないだろ」
リルカもセルマも声を抑えていないため、男にも聞こえていたようだ。
だが、男の言葉に、リルカは挑発的に返す。
「あれれ? オジサン、もしかして小娘二人に負けるのが怖いの? そりゃそうだよねぇ……二人がかりとはいえ、こんな小さなルーキーに負けちゃったら、二級冒険者としてのメンツが丸潰れだもんねぇ。クルト先生……先生なら瞬殺しちゃうだろうけど、小娘に負けたりしたら可哀想だから、やっぱり先生が身の程教えてあげてください」
ニヤニヤとそんなことを言うリルカ。
男はその言葉に頭に血が登ってしまったらしい。酔っているとはいえ、沸点低いなぁ。
いつの間にかギルドの酒場からやってきていたらしいギャラリー達も、男に言葉を飛ばしている。「ここで逃げたらダサいぞ」みたいな声が聞こえるな。
「上等だ、ガキ。お前たち二人、まずは身の程を教えてやる。かかってこい」
「あはっ、やる気になったんだ。恥かくことになるけど大丈夫~?」
「リルカちゃん、もう挑発はいいよ。……では、師匠。行ってきます」
「……はぁ、怪我するなよ」
二人と男が対峙する。
「おい、開始の合図しろ」
「……良いだろう。三からカウントダウンで、一の後に「始め」といったら開始でどうだ?」
「それでいい」
男に指示されて、仕方なく引き受ける。
ほんと、偉そうだなこの男。
俺は両者の間……から、壁際に下がった位置に立ち、手を上げた。
「三、二、一、始め!」
言葉と共に手を振り下ろす。
「《土》」
セルマが詠唱と共に、超低密度の大きな土の塊を作った。そして、それを物理変換する。
駆け寄ってくる男。二人を嘗めているのか、移動用戦技は使っていない。闘気は幅広の片手剣に集中している。
対して、セルマは大きく後ろへ下がる。そしてリルカは……〘破砕脚〙を使って、セルマが物理変換した低密度の土の塊を蹴り飛ばした。男の方へ向かって。
密度が低いこともあり、粉々に粉砕された塊が、土埃となって男を覆う。
「クソッ! なんだ! ゲホッゲホッゴホッ!」
その様子を冷静に見つめながら、セルマは高密度の土の塊を複数作っている。とはいえ、それは"穿弾型"ではなく、普通の、強めの《土》だ。それでも、一般人なら普通に死ぬぐらいの威力はある。これらが当たればかなり大きなダメージになるだろう。
男は必死で土煙から走り出てきた。
そして、その位置には予測していたというように、リルカが待ち構えている。……おそらく咳き込んでいる音から位置を予測したのだろう。
「はーい、飛び込んできてくれて、ありがと……ね!」
咳き込んで、少しばかり前かがみになっていた男。その低くなっていた顔面に、リルカが容赦なく膝蹴りを叩き込んだ。当然、闘気で強化された膝蹴りだ。
「ガッ……!」
男の身体が浮く。
そしてそこに、三発の《土》が激突した。
「ぐげっ……」
男の体が、訓練場の端まで吹っ飛ぶ。
そして、そのまま男は起き上がらなかった。
どうやら気絶しているらしい。
静まり返る訓練場。
……開始の合図をしたのは俺だし、終了の合図もするか。
「勝者、リルカとセルマ」
「わーい勝ったー! いぇーい!」
「《終了》……リルカちゃん、今日は相手が酔っていたから勝てただけ。調子に乗ったらだめだよ」
「わかってるわかってる。でもほら、今回は初めてアステ様の力無しで格上に勝ったんだし、ちょっとぐらいいいでしょ?」
二人はハイタッチしながら、そんなやり取りをしている。顔には勝利の喜びが浮かんでいた。
俺は吹っ飛んだ男の方へ近寄る。
やはり気絶しているらしい。……運んでやるか。
男を抱え、俺は訓練場の出口へと向かった。
俺に気づいた弟子ーズが寄ってきて、抱えている男のほっぺたを突っついたり……その時気付いたヒゲを触ってみたりして遊んでいる。
ギャラリーたちの唖然とした表情に見送られながら、俺達は訓練場を後にした。
その後は、ギルド併設の医務室に男を寝かせ、ギルドも出る。
そうして、俺達は何事もなかったかのように、いざこざ前に受けていた初心者用の依頼へと向かった。




