第二話(通算第三十二話) 立ち位置を知る
戦いの始まる直前まで、ベラルマは闘気を感じさせていなかった。
戦いの瞬間が近づいているのはわかるのに、一切の闘気を感じさせなかったのだ。
そして、戦いの開始と完全に同時に、ベラルマの脚は凄まじい量の闘気に包まれ、移動系の戦技を発動させていた。
闘気を扱う技術も、扱う闘気の量も、これまでに見たことがないレベル。異次元の闘気。
その力で、異常な速度で彼は迫ってきた。
だが、こちらも同時に迎撃を開始している。
得意の"弾丸型"。それも十二発同時。
撃ち出したそれらに対し、ベラルマは四発切り払い、六発回避し……最後の二発は無視して突っ込んできた。無視した分、剣を振り上げこちらの攻撃する姿勢。
……剣で切られた四発は、その場で炸裂することもなく消滅した。おそらく、単に切ってるのではなく魔法自体が無効化されている。あの漆黒の剣の効果だろうか?
命中した二発の《風》が炸裂し、ベラルマの突進が止まった。
ベラルマは驚きの表情。直撃してもそのまま突っ込めると思っていたのだろう。だが、俺の魔法のあまりの密度に、止められてしまったわけだ。
対する俺も驚愕していた。剣で切られたものと違い、直撃した二発はちゃんとその威力を発揮していた。……にも関わらず、ベラルマの鎧に傷一つ付けられていない。直撃する箇所に闘気を集中させてこそいるようだが……戦技すら使っていないのだ。鎧の性能も、闘気の密度も尋常じゃない。
……俺の"弾丸型"、脅威度Ⅹだろうと普通に殺せる性能なのだが? 直撃でノーダメっておかしくないか?
「なるほど。これは凄まじいな。正直、どこまでいっても所詮は初級魔法と侮っていた」
ベラルマは剣を構え直しながら、笑みを深めてそういった。
そして、すぐにまた動き出そうという気配がする。
なら、こっちから手を出そう。近づかれれば詰みだ。
「お褒めに預かり光栄……だ!」
通常より更に密度を上げた"弾丸型"。それを多方向から逃げ道を塞ぐように撃ち出す。
ベラルマはソレに、獰猛な笑みを浮かべ、対応してみせた。
何発かを剣で切り払うと、頭上へ回避したのだ。
「……そりゃ当然使えるよな!」
戦技〘天駆〙。空中を走る戦技だ。
頭上を取られるのはまずいと思ったので、俺も風の衝撃を蹴って跳ぶ。更に空中でも再び風を蹴って跳ぶ。
俺の《風》を使った跳躍走法は、空中機動も可能な上、かなり早い。ただし、メチャクチャ痛い。ずっと続けていると脚が壊れる。
……ホントは、俺の肉体の強度が高ければもっと早く動けるんだが、そこは諦め。
とりあえず、現状でもメチャクチャ早く動けているはずなのだ。
にも関わらず、どんどん間合いを詰められる。
こっちがかなりタイミングを測って、制御して跳ばないといけないのに対し、あちらの動きは普通に地上を進むのと変わらない。あの戦技はそういうものだと聞いたことはあるが、動きの自由度がかなり高い。
……自由度に関しては、もうちょっと違う魔法の使い方をすることで、俺もかなり自在に飛べるのだが……それをやると攻撃魔法に使える余裕が大幅に減る。集中力も今の空中機動の比じゃないぐらい使うし、戦闘中に使うものじゃない。
あっちの戦技は動くのに集中力なんて全くいらない。まぁ、飛行用の上級魔法ではなく、初級魔法を使って無理矢理空中戦しているんだから仕方ない。……この人相手に中級以上を詠唱する時間はないし。
……本当にどんどん間合いを詰められていくな。こっちが迎撃のために"弾丸型"連打しているから、あっちは対応しながら移動している。にも関わらずどんどん距離が縮んでいく。
単純な速度すら、どうやら向こうが上らしい。
本当に信じられない。こっち、爆発で吹っ飛びながら移動しているようなものなんだが?
仕方ない。
戦い方を変えよう。
俺は、"弾丸型"を撃ち出すのをやめた。
かわりに、"弾丸型"並みの密度の弾丸を待機させつつ、可能な限り魔力を広げる。それと、もう一個準備だな。
踏み込んできたベラルマに、用意していた弾丸を高速で、ランダム性の高い動きをさせながらぶつける。
同時に、ベラルマの周囲全方向で魔法基盤へ接続。そこから再び"弾丸型"を発射。今回撃つのは《氷》。これで動きを止めてやる。
撃ち出した大量の《氷》の弾丸を、ベラルマは無視することに決めたらしい。
ベラルマの全身が煌めき、戦技を発動した。
突進系戦技〘覇王の進撃〙。
凄まじい速度の突進。威圧感が半端じゃない。間に合うか?
正面の弾丸は全てベラルマに直撃しても、弾き飛ばされた。ほんの一瞬凍りつかせることすら出来ず、弾き飛ばされた。そして、密度的にメチャクチャ重いはずなのに、ほぼスピードが落ちていない。
後ろからの弾丸が命中し、即座に氷が全身を覆い尽くそうとするが、その前に端から砕けていってしまう。
氷による拘束すら、戦技のゴリ押しで無効化されている状況だ。凍ることすらなく弾けるなんて、突進系戦技の威力じゃない。
魔力を広げたと言っても、この相手を魔力圏内に収めつつ、そのうえで十分な距離を取れるほどに広げられたわけじゃない。俺の魔力量であってもそこまで広げられはしない。……いや、並の相手なら十二分な距離なのだが……この相手には一瞬で詰められる距離でしかない。いくらなんでもベラルマが速すぎる。
ベラルマは一瞬で俺の眼前に到達し、剣を振り下ろしてくる。
円盤状に密度制御した高密度《土》の盾を三枚防御に充てるが、全て即座に消滅。やはり魔法をキャンセルされている。
そして、剣は俺の眼の前、当たる直前で止まった。俺をいつでも殺せる位置で。
止まった。俺も、ベラルマも。
俺は、《土》の足場を作り、それに乗って浮いている。〘天駆〙はそもそも普通に空中で停止もできるらしい。
空中で静止したまま、向かい合う。
「上のあれは、俺を殺せる威力があるのか?」
「一応そのつもりではありますよ」
頭上。ベラルマに先端を向けた弾丸が、回転しつつ待機していた。
ベラルマに対し準備した、"穿弾型"の雷属性初級魔法《雷》。
……流石に"穿弾型"ならベラルマも殺せるとは思うが……防御系戦技を使われるとちょっと怪しいかもしれない。流石に殺せるよな?
心配が必要なぐらい、この人硬すぎるんだよ。ありえないだろ。
……相手が魔力圏内にいる分、"穿弾型"が完全には加速しきれない可能性も、俺を不安にさせる。"穿弾型"にとって魔力はただの銃身ではなく、加速機構でもあるのだ。
まぁ、それでも"穿弾型"の威力には自信がある。今回は加速が不十分になる懸念もあって、かなり密度を上げているし。
とりあえずはこれで、一応、相打ちの形にはなっているはず。
「ふっ……いいだろう。なかなかに楽しい戦いだったぞ。威力も桁外れだったが、氷属性の初級魔法などという常識外の物を見られたのはよかった。今後ともよろしく頼む」
「……ええ、こちらこそ」
俺の実力に納得したらしいベラルマは構えを解き、握手を求めてきた。
一国の王が気安いなとも思いつつ、俺もその握手に応じた。
周囲の観客からは歓声が上がった。
どうやら俺は、王からも兵士たちからも客人として認められたらしい。
※※※
「まだお前の到達権能がどういうものかは知らんが、おそらく純粋な戦闘能力でいくと……敵も含めた全到達者の中でも十二番目ぐらいだろうな。到達権能は戦闘向きか?」
「……一応、戦闘時の切り札として運用はできますよ」
十二番目。マジか。俺より強いの十一人もいるの? この世界。
いやまぁ、そのうち一人は間違いなくアステミリスなんだろうけどな。アステミリスは消耗が一日で回復しきらないという問題こそあるものの、全力戦闘のスペックは桁外れだろう。
それに、ベラルマも俺より上だろう。さっきの模擬戦では一応相打ちの形に出来たが……一度も剣技系の絶技を使っていなかった。互いに到達権能無しという条件は同じだったが、その上で加減されていたのだろう。
「なら、その到達権能の性能次第でもっと上の順位にもなりうる。……言っておくが、これはかなり高評価だからな? 到達権能無しでの評価が十二位なのだから。普通、到達者の戦闘は到達権能ありきだからな」
「なるほど、ありがとうございます」
つまり、この男もそうだということだろう。
さっきの異常と言える戦闘能力で、まだまだ本気じゃないというわけだ。
到達者はやっぱり人外だな。
「陛下」
「おお、できたか」
女性が一人やってきて、ベラルマに何かを差し出した。……なんか、如何にも仕事が出来ますって雰囲気の女性だ。
ベラルマは板状のそれの両面を見たあと、俺に向かって投げ渡した。……いや、雑だな。王様がそれでいいのか?
「クルト、それがお前の身分証だ」
「……ありがとうございます」
そんな大事なものを投げて渡すな。
回転しつつ、コントロールよく手元に飛んできた身分証をキャッチする。
「このあとお前の家に案内させる。家の位置を把握して、荷物を運び込んだら、また王城へ来い。今夜はお前たちを歓迎するためのパーティーを行う。ま、王城でのパーティーとは言っても、ほぼ俺個人がお前たちを歓迎するためのもんだから、あまり大仰なもんでもない。国の客人への歓迎というより、俺の仲間への歓迎だな。肩肘も張らなくて良い。……残念ながら、今は俺達以外の仲間はいないから、少人数で飯を食うだけだが、その分美味い飯も出すから、楽しみにしていろ」
王城で個人パーティーってそれいいのか?
……まぁ、王である彼が言うのなら言いのか? 良いんだろうなぁ。横に控えている、身分証を持ってきた女性も何も言わないし。……まぁ、この国が到達者達の拠点と考えると、国と無関係なことで王城の設備を使うことも多かろうしなぁ。
「……ああそれと、今後、王の俺ではなく、到達者の仲間の俺に対する場合については、敬語を使わなくていいぞ」
「……いいんですか? それ」
「俺が良いって言ってるんだからいいんだよ。名前もベラルマと呼び捨てにしてくれて構わん」
ベラルマはそう言って笑った。
「……承知しました」
「おうっ」
何となく嬉しくなって、俺も笑い返す。
王城警護兵の兵士長だという人に家まで案内してもらい、アステミリスの家から荷物を運ぶ。とは言え、そもそも旅をしていたので運ぶものも少ない。
その後は王城に戻り、アステミリス、リルカ、セルマと共に、歓迎のパーティーを堪能した。
王が美味い飯と言うだけのことはある。独特の味付けではあったが、スパイスの聞いた美味い料理がたくさんあった。特に気に入ったのは魔物肉を使った……炊き込みご飯的な料理? なんか魚介の代わりに肉を使ったパエリアというか、ビリヤニ? というか、そんなやつ。あれは美味しかった。炊き込みご飯系の料理ってホント美味いよなぁ。
……そういえば、王都の周りの農地は小麦畑だったと思うが、別の場所……俺達が来るときに通ったところ以外のどこかで稲作もしているのだろうか? それとも他国から買ってるのか?
下手したら高級品だったのだろうか? アステミリスも米を持っていたが……うん、今度確認しよう。
こうして、ラコニドゥム王国での俺達の生活は、過激な挨拶と賑やかな歓待で幕を開けたのだった。




