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初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第二章

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第十五話(通算第三十話) 山脈を越えて

「団長!」


「動くな!」


 吹き飛んだニコラオを心配し、動こうとするメディー王国騎士団。それを、破裂音とともに掣肘する。


「動くなって言っているだろう」


 流石に状況が状況だったため、こちらの牽制を無視して突っ込む者がいたため、やむなく威力を抑えた《(ヴェン)》を叩き込んで吹き飛ばした。


「生命神ヴィタサニータよ、傷つきし二人を助け給え」


 輝きが、リルカとニコラオに降り注ぐ。

 二人共直撃ではなかったため、致命傷を受けたわけでもなかった。問題なく癒やせるだろう。


 ……だが、


「お前たちはそう動くよな……!」


 破裂音が連続した。

 アステミリスに投げられたナイフ、投げた男、アステミリスに向かっていた奴……その他、セファイルート真王国の刺客の腕やら脚やらを破壊する。


「があああああ!」


 男たちの太い悲鳴。

 そんな悲鳴の中で、魔力の動きを感じた。


 セファイルートの刺客の一人が、中級魔法の魔法陣を構築する。【中級魔法詠唱不要】か、良いギフトを持っている。

 だが、残念。俺との距離が近かったな……その魔法陣、俺の魔力圏内だ。対魔法使いにおける奥の手を使わせてもらおう。


 バチッ!


「ぐぅ!?」


 構築されようとしていた中級魔法が弾けて消えた。久しぶりにやったが、やっぱり魔法相手には強いなこれ。ある程度間合いを詰めたら、魔法相手には最強と言って良い……と、自負している。


 セファイルートの刺客の意識を刈り取るため、死なない程度の魔法を頭にぶつけていく。こいつらは危険だ。


「リルカ、セルマ、二人は騎士たちと戦ってみろ」


「おっけー!」

「はい!」


 返事をした二人が、騎士たちに突撃していく。神秘式が効いているし、何かあれば俺が動ける。問題ないだろう。

 二人の後ろ姿から視線を外し、今度はアステミリスにアイコンタクトを送る。頷いたアステミリスが、荷物から縄を取り出した。長い縄を何本も。相変わらずよく色々入っている。


 リルカとセルマが戦っている間、セファイルートの刺客たちを拘束していく。

 ……殺さないようにしているため、セルマは"穿弾型(ライフルタイプ)"を使えない。それでも、少しずつ調整できてきている。


 神秘式で大幅に能力値を底上げされている今の二人は、並の兵士が相手なら負けない。一対一でも余裕を持って勝てるだろう。

 が、対集団というのはまた別だ。誰かを攻撃すると、その隙を突いて別の誰かに攻撃される。

 需要なのは空間把握。位置取り。

 リルカのソレは完璧だ。リルカの戦闘に関する才能は、個人の戦いだけでなく、戦場での生き残り方にまで及んでいるらしい。

 セルマはそのリルカの位置取りから、自分の最適な位置を読み取っているらしい。リルカに一瞬遅れるものの、適した位置で魔法を使っている。武勇神様の神秘式のお陰で、移動速度も問題ない。


 この調子なら、問題なく勝てるだろう。


 さて、それより……。


「なぁ、ミリス……仲間に長時間空を飛べて、俺達の様子を気配を消して窺うようなやつっているか? それも、結構粘っこい視線向けてくるようなやつ」


「……いないと思いますよ。飛べる人は多いですが、わざわざ私達の様子を気付かれないように窺ったりはしないかと」


「じゃあ敵には?」


「……心当たりがありますね」


「了解……撃発(ファイヤ)


 言葉の直後、セルマのソレとは比にならない轟音。

 制御力全開、最高速度で構築した"穿弾型(ライフルタイプ)"を、頭上に撃ち放った。


※※※


「ふむ、なかなかおもしろい見世物ではあったが……流石にあの程度で、男の方の実力は測れんか」


 その男は、クルト達の遥か頭上を浮遊していた。

 普通ならクルトたちの様子など、豆粒程度にしか見えない距離だが、どうやら彼は戦闘の様子が見えているらしい。


「それに、使っている魔法は初級魔法のようには見えたが、威力がおかしい。やはり、我が直接戦ってみるべきか?」


 男がそう考えている時、彼は突如クルトの魔力が自身に向いたことに気付いた。


「まさか、我にきづ──」


 驚いてた男の体に、"穿弾型(ライフルタイプ)"の弾丸が突き刺さり、炸裂する。

 到達者の一人である男ですら反応出来ない速度で飛来した弾丸は、一瞬にして彼の体を消し飛ばした。


 ……人間一人の体積に相当する量の、血によって作られたその体を。


※※※


 あれだけ遠いところにいる相手の気配すら感じ取れるようになっているとは、自分でも驚きだ。

 五年もの間、死の淵に身を置き続けた甲斐があった。


「いたのですか?」


「ああ、少なくとも上にいたやつは消し飛ばせたみたいだが……心当たりの相手って、その程度で倒せるやつか?」


「いえ、おそらくは無理でしょう。仮に本当に来ていたのなら、それは本体ではなく分身体のはずです」


「そらまたやっかいだな」


 言いながら、縛り終えたセファイルートの刺客たちを一箇所にまとめた。


「クルト先生ー、すごい音だったねーどうしたの? あ、《終了(フィーニ)》」

「《終了(フィーニ)》。師匠、別の敵ですか?」


「敵だが、もう倒した。気にするな」


 騎士団を全員昏倒させた二人が戻ってきた。

 流石にセルマもリルカも怪我をしているな。


「あ、アステ様、このぐらいの怪我は治さなくていいからね!」

「そうですよ! このぐらいはかすり傷です!」


「……そうですか」


 二人の言うことはもっともだ。だが、そう言われたアステミリスはどこかちょっと悲しそう……というか寂しそうだった。


 この聖女、頼られたいという気持ちが強いのだろう。


「まぁ、これから先、まだまだミリスの力には頼らないといけないからな。今は温存してくれ」


「……そうですね。今は温存しておきましょう」


 アステミリスは少しだけ微笑んでそういった。

 なんというか、可愛いな、うん。


 その後、俺達は倒れた騎士団達もセファイルートの刺客たちの近くに集め……そして、拘束したニコラオを起こした。


「……? くっ、この状況は……そうか、敗北したのか」


「おはよう。さて、あんたにはこの連中の後処理を頼みたいんだが、どうだ? 引き受けてくれるか? それとも、まだ俺達とやりあうか? やり合うと言うなら、もう一度あんたを打ちのめして、その後はもう完全に放置することになるが」


「……いや、そちらの娘二人に敗北した私が、君たち四人を同時に相手にして勝つことは不可能だろう。君たちの要求通りにしよう」


「良かった。……それじゃ、拘束は解くから、あとはよろしく」


 そう言って、俺は彼の縄を切った。

 立ち上がった彼は、手首を回したりして、体を確認する。

 その後、こちらに頭を下げて、礼を言ってきた。


「私の配下たちを殺さないでくれたこと、感謝する」


「感謝されるようなことじゃないけどねー」


「リルカの言う通りだ。自分たちを倒した相手に感謝することじゃないだろ。……それじゃあな」


 簡単なやり取りだけで、皆を促し、俺達はその場を去った。

 俺達が去る間も、ニコラオはこちらに頭を下げ続けていた。


※※※


 ニコラオ達との戦いから更に数日。

 ラコニドゥム竜砦王国の領土にある山を更に一つ越え、更に二つの山脈に囲まれた盆地の中を歩き、ようやくラコニドゥム竜砦王国の王都へと到着した。……まぁ、そもそもラコニドゥム竜砦王国にある都市は、この王都だけらしいが。


 ラコニドゥム竜砦王国は山脈に囲まれた国だ。この山脈に囲まれた盆地と、その囲う山々が領土であり、盆地の中にある都市はここだけなのだ。


 かつてこの盆地は邪竜の住処であり、その邪竜を倒した英雄が、ここに王国を築いたのだという。


 その建国の王が、今なお現役で玉座についているらしい。


「ひとまず、私の家があるので、そこに行きましょう」


「……セファイルートの聖女だったのに、ここに家があるのか」


「仲間だからということで、国王がくれました」


「すごいな」


 王都の門番は、アステミリスが荷物から取り出した身分証のような物を見ると、恭しく一礼し、通してくれた。

 活気のある街が俺達を出迎えた。

 ……だが、残念ながら今はその活気を楽しむ余裕はない。俺以外の三人には。


 何日も山の中を歩き続け、アステミリスもリルカもセルマも限界が近かった。

 俺達はアステミリスの家へと直行。体の汚れを落として、俺以外の三人はすぐにベッドへ飛び込んだ。

 ……俺はそこまで疲れてはいなかったし、流石にベッドの数が足りなかったので、料理を作ることにした。アステミリスの許可は取っている。

 起きたときに、温かいスープを飲めるようにしておいてやろう。


 ……というか、よくリルカとセルマの分のベッドはあったな。来客用らしいけど。

5/2~5/6は一日2話、12:00と20:00に投稿予定

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