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初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第二章

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第十四話(通算第二十九話) 双華の芽吹き

 空気が変わった。


 剣を両手で構える騎士のオジサン。もう油断はしてくれないみたい。


 一応、油断している内に私の《(ヴェン)》を直撃させることは出来たけど、セルマちゃんの方は斬られちゃった。あっちが本命だったんだけど、流石に実力者だ。

 とはいえ、セルマちゃんの《(ヴェン)》はかなり圧縮されたもの。斬られたとはいえ無効化されたわけじゃなかったから、圧縮されていた風が解放され、そこそこダメージを与えられた。


 けれど、かなり痛みを感じているだろうに、そんな素振りもない。闘気を纏っても、直撃した《(ヴェン)》は結構痛いはずなのに。

 流石に格上だ。


 ここからは、相手も本気。

 アステ様の神秘式があるし、こっちは二人いる。他の敵はクルト先生が牽制してくれているから二対一。


 でも、はっきり言って勝ち目は薄い。

 能力差を神秘式で埋めても、そもそもの技量と戦闘経験が違いすぎる。


 ……なら、どうするの? 私。


 そりゃ「戦いながら解決策を見つける」でしょ。


 間合いを詰める。前へ、跳ぶ。


 オジサンが剣を構えた。隙がない。

 さっき見せた札も知られている。だったらもう、出し惜しまなくて良い。


 全力で闘気を脚に。

 全速力からの蹴り。飛び蹴り。

 防御させないつもりで速度特化で!


 けど、当然のようにカウンターで斬撃を合わせられた。


 ギリギリのところで無理矢理体を捻りながら躱す。もちろん攻撃は続行できないし、それどころか倒れて泥まみれになる。


 でもいい。こっちに剣を振ったなら──


──セルマちゃんはその隙を見逃さない。


 オジサンは剣を止め、セルマちゃんの方へ振り返った。

 直後、カカンッ! と、金属が何かを弾く音が二度響いた。


 かなりの闘気をまとわせた腕で、二発の《(ヴェン)》をガードしたらしい。

 そっちに意識を向けたなら、足元はどう?


 受け身から完全には起き上がりきらずに、そのまま低い姿勢で足払いに移る。


 だが、気付かれていたようで、軽く飛んで躱された。

 しかも、すぐさまこちらへの反撃。

 振られた剣を、ギリギリ飛び退いて躱す。いつも通り、飛び退きながらも魔法で牽制を忘れずに。


 剣が掠って、腕に傷が出来た。……危なかった。肩から先を切り落とされるところだった。


 セルマちゃんの方からかなりの魔力を感じる。

 セルマちゃんの実力だとまだ使えないはずの奥の手……それも、神秘式で上がった制御力なら使えるはず。たぶんそれを狙ってる。……当たったらこのオジサン死んじゃうんじゃないかな? いや、格下の私達が気にすることじゃないか。


 あれで決めるなら、私がセルマちゃんのために、隙を作らなきゃね。


 そう思っていると、眼の前のオジサンは何かわけのわからないことを言い出した。


「もうわかっただろう。貴様らでは私には勝てん」


「は?」


 何言ってるの?


「むこうの娘はかなりの魔力を込めているようだが、初級魔法には威力上限がある。どれだけ魔力を溜め込んだところで、私に対応できないような威力にはならない。……同時に、私が対応不能なほどの隙を作ることも、お前にはできん」


「へぇ……ならそう思っておけば?」


 何を言っているんだろう?

 このオジサンからは哀れみのような視線を感じる。

 聞こえた内容も、このくらいにしておいてやろうっていう上からの言葉だ。


 まぁ? 確かに格上だよ。私よりずっと強いし、ずっと頑張ってその強さを手に入れたんだと思う。

 そのプライドがあって、私達みたいな小娘に負けるはずがないって思っちゃったのかもしれない。


 でもさ……私達の勝ち筋、十分にあるんだよね。

 私達より強いのは認めるけどさ……ちょっと想定甘くない?


 うん、決めた。


 私達を嘗めたオジサンには、思い知らせてあげよう。


 方針、セルマちゃんを信じる。

 後先考えず、全力で闘気を脚に。私の脚が光を帯びる。


 戦技〘疾風跳び〙。


 超高速で直進するだけの戦技。

 同時に、手を前に突き出して、《(ヴェン)》を撃つ。風の弾丸のほうがほんの一瞬早く到達するタイミング。


 オジサンは《(ヴェン)》は無視。迎撃の構え。

 へぇ? それでいいの?


 私も直進してるんだから……この風の弾丸、ずっと私の魔力圏内だけど?


 私への迎撃に剣を振り下ろそうとしたところで、風の軌道を変化させ、顔面に直撃させる。


「!?」


 その隙に、剣の間合いの内側で、蹴り技を連打する。

 前蹴り、回し蹴り、足刀……間合いとタイミングによっては、蹴りだけでなく拳も繰り出す。


 だが、それらを全てこのオジサンは的確に捌く。

 すごいね、きれいな動き。

 でも、捌けはしても、反撃はできないでしょ? 完全にこっちの間合いだし。


 だから、このオジサンは間合いを開く機会を伺っているはず。


 私の攻撃のテンポ、測ってるんでしょ?

 タイミングを合わせて、一気に距離を離すつもりでしょ?

 わかるよ。……なにせ私は、尊敬するアステ様とクルト先生が言うには「戦闘の天才」だから。


 オジサンのほうが強くても、やりたいことに勘づくぐらいはできるからね。


 蹴りを逸らされ……まだ。

 次の蹴りを躱され……まだ。

 近づきすぎた距離での拳を止められ、まだ。

 回し蹴りを見切られ……次のタイミング!


 私の足刀が当たるタイミング……ここ!


 私とオジサンは、完全に同じタイミングで戦技を使った。

 オジサンはおそらく〘衝撃反射〙。受けた衝撃を反射する戦技。それを使って、私の蹴りの威力で私を弾き飛ばそうとしたのだろう。

 対する私は〘破砕脚〙蹴り技を強化する基本的な戦技。モーションを問わない使いやすい技だ。


 果たして……私は確かに弾き飛ばされた。

 だが、同時にオジサンの〘衝撃反射〙でも反射しきれなかった分の衝撃が、オジサンの身体にめり込んだ。


「グッ……!!!!」


 だが、受けきれなかったとは言え、そのぐらいの痛みには慣れているらしい。

 私の蹴りは確かにダメージを与えた。骨の何本かは折れたと思う。

 けれど、それでもオジサンを怯ませることすらできなかったらしい。

 吹っ飛ばされた私が着地したときには、既に剣が迫っていた。

 私は躱せないタイミング。

 悔しいな。負けだ。

 そして、この剣、この軌道だ。

 闘気も十分。今発動した〘剛体〙でも防ぎきれはしない。


 私は死ぬ。間違いなく。


──そう、ここに……セルマちゃんがいないなら、ね。


 私に剣が到達する前に、破裂音が鳴り響いた。


※※※


 密度操作。弾丸の形成。

 初速付与。回転開始。


 魔力操作。砲身形成。


 風よ、回って。

 今の私に扱える、最大限の攻撃力を。


 師匠の魔法を思い出す。


 師匠の弾丸はもっと滑らかだった。

 師匠の弾丸はもっと速く回っていた。

 師匠の砲身はもっと長かった。

 師匠の弾丸にはもっと多くの魔力が込められていた。

 ……そして、師匠の魔法の準備は、ずっとずっと早かった。


 師匠の初級魔法、"穿弾型(ライフルタイプ)"は、ミリス様の神秘式の力を借りてなお、再現に時間がかかる。


 師匠が言うには、私ならいつか師匠を越える初級魔法の使い手になれる可能性があるらしい。

 嘘みたいな話だが、そうらしい。


 でも、「いつか」では、この瞬間の勝利は掴めない。

 今この瞬間の勝ちには、できることをやるしか無いんだ。


 幸い、相手は私達を侮っている。

 本気の雰囲気を出したけれど、それでも私達を見くびっている。

 それに……師匠の初級魔法がどんなものかわかっていないようだ。


 リルカちゃんは天才だ。だけど、たぶんリルカちゃんじゃあの騎士さんの想定を完全に超えることはできない。

 だから、決め手になるのは私だ。

 あの騎士さんの想定していない初級魔法……師匠の初級魔法を部分的にはであれども、一応扱える私こそが、あの騎士さんに勝つための決め手になる。


 焦らない。まずは魔法の準備を終わらせる。

 まだ少し荒いが、それでもかなり滑らかな形状になった弾丸。それが、すごいスピードで回っている。

 だが、難しい。

 撃つべき座標に迷う。二人の動きが目まぐるしい。

 回転する弾丸は指の前に構築されている。突き出した右手の、人差し指の前に。

 その人差し指が、狙いに迷ってふらふらと動いている。


 だめだ、落ち着いて。


 リルカちゃんに当ててはいけない。……いや、それどころか、リルカちゃんが近くにいる状態で直撃させてはいけない。

 相手が剣を使うには、一度間合いを広げる必要がある。

 そしてそれは……間違いなくリルカちゃんもわかっている。そして、相手の思惑に乗って距離を取るはずだ。私を信じて。


 決まった。撃つべきはそのタイミングだ。剣を振るう瞬間を見極める。


 リルカちゃんの癖もテンポもよく知っている。

 まだ、大丈夫。

 指先と魔力の砲身の動きの連動をイメージする。

 タイミングは一瞬だ。その瞬間に指差した方向に、瞬時に砲身を向ける。そのためには、指の動きと砲身の動きが完全に連動すればいい。

 二人の動きに追随する指。砲身の追随はまだ遅い。

 だめ、もっと速く。同時に動かす。

 ……普段の私にできずとも、今の私には魔法神様の神秘の一端が宿っている。できないなんてあるはずない。だって、この神秘式をかけたのはミリス様だもの。


 私達を救ってくれた、到達者たるミリス様。

 あの方から借りた力なら、この程度出来ないはずがない。


 意識を、繋ぐ。

 何かがカチリとハマったような感覚だ。

 魔力と私の意思が完全に接続した、そんな気がした。

 今ならやれる。

 動かす指に対する魔法の動きも魔力の動きも、完全にイメージに一致した。


 タイミングも……もう、来る。

 戦いの音を聞きながら、一瞬だけ目を閉じ、すぐに開く。


 リルカちゃんが吹っ飛び、そこに騎士さんが剣を振り下ろした。


「穿て」


 パァン!


 小さな私の声。

 その声をかき消す破裂音。それが、手元で撃ち出してすぐではなく、魔力の角から飛び出す直前で響いた。……初速で"穿弾型(ライフルタイプ)"に相応しい速度を出せない私は、まだまだだ。


 師匠曰く、私は魔法そのものの才能はイマイチだけれど、魔法を当てる才能は優れているらしい。

 意識と繋がった魔力は、その才を遺憾なく発揮してくれた。


 騎士さんの想定する弾速を遥かに超えた私の魔法は、振り下ろされていた剣を粉々に粉砕し……爆風を巻き起こして、騎士さん……と、リルカちゃんを吹き飛ばした。


 ……リルカちゃんは防御用の戦技を一応使っていたみたいだけれど、大丈夫かな?

5/2~5/6は一日2話、12:00と20:00に投稿予定

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