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初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第一章

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第三話 天啓聖女の公開処刑

 オークの大群との戦闘以降、細々とした戦闘はあったが、やはり大した苦労もなく旅程は消化された。


 俺の魔法が初級魔法だっていうことには最後まで疑いを持たれていたが、頼りになるやつだとは思ってもらえたらしく、あの一戦以降は他の冒険者もそれまでよりも親しげに話しかけてくれた。やはり、集団の中で役割を果たすこと、役割を果たせる者だと思われることは大事だ。


 いくつもの都市や村を経由し、たどり着いた王都。

 リーシャたちともここでお別れだ。結構長いこと一緒だったから、なかなかに寂しい。


「クルトさん、今まで本当にありがとうね。みんな怪我もなく依頼を終えられたのはクルトさんのお陰だよー」


 依頼の達成報告を終え、みんな解散していく中、俺は"白竜の爪"のメンバーと挨拶を交わしていた。


「こちらこそありがとう」


 微笑んで語ってくれたリーシャに、こちらも笑みを返す。


「おっ、こりゃクルトさんもようやくリーシャに惚れちゃいましたかね? でもあげませんよー?」


「わかってるよ」


「それじゃ、クルトさんありがとうございました」


「またなークルトー」


「おう。リーシャもミルシーも、アリーネもキルスも、またな」


「うん! また!」


 手を振って別れる。

 あっさりしたものだが、冒険者の別れなんて言うのはそんなものだ。


 俺もしばらくはこの王都で活動するつもりだし、いずれまた会うこともあるだろう。

 ……彼女たちの実力は護衛参加者の中でも明確に頭一つ抜けていた。いやまぁ、俺を除いた参加者の中で、だが。

 どう考えても四級の実力じゃなかったが、それはまだ冒険者になったばかりだかららしい。なったばかりで本登録どころか四級昇格までいっている時点ですごい。この分ならすぐに三級に上がることだろう。三級に上がってしばらくすれば二級に上がっても不思議じゃない。……いずれは一級に上がることも夢ではないだろう。

 彼女たちは伸びる。きっとまた名前を聞く日が来る。


 特にリーシャは……彼女はおそらくギフト二つ持ちだ。そしておそらく二つ目は武器に関連するギフトだろう。……根拠のないただの勘だが。

 彼女なら、もしかすると、一級すら超える日が来るかもしれない。


 もしそうなれば……いずれ再開する日が楽しみだ。


 未来に思いを馳せつつ、宿を探す。

 今回の報酬ははいったが、贅沢するほど懐の余裕はない。

 ……最悪、野宿すればいいのだが、せっかくだから王都の宿も体験したい。


 そう思って良さげな宿を探していると、人々が一つの方向に向かっていることに気づいた。


 その中のひとりの男に声をかける。


「なぁ、あんた。どこに向かってんだ? 何がある?」


「あんた知らないのか? 聖女様が処刑されちまうんだよ。中央広場でな」


 男はそれだけ言って走り去っていく。

 ……どことなく必死な表情だった。


 周りの人達もなにか必死だったり悲痛な表情をしている人が多い気がする。


 ……地球の中世なんかでもそうだったと聞くが、この世界でも処刑は娯楽のように扱われる。

 二十一世紀の日本で生きていた自分からするとどうかと思うが、中世の時代には人の死に様に愉悦……していたのかは知らないが、処刑に集まる人相手に屋台が並んだりすることもあったらしい。そして、それはこの世界も同じだ。


 だが、今中央広場に向かっている人々の様子はそうじゃない。


 処刑されるという聖女は、民には慕われていたということだろうか?


 興味が湧いた。

 中央広場へ足を向ける。

 周りと同じ方向へ、けれど周りほどの必死さはなく、ゆっくりと歩く。


 中央広場には大勢の人々が集まっていた。


 中央広場には処刑台が用意されており、既に斬首用の剣を持った処刑人が立っている。

 処刑台に登る階段、その階段に続く道の両脇に兵が立ち並んでおり、中央広場へ続くいくつもの道のなかでその一つの道だけは空白地帯となっている。そちらから、今回処刑される聖女が来るのだろう。


 聞こえてくる声に耳を傾ける。


 周囲に集まっている人々曰く「聖女様が邪神の使徒であるはずがない」「自分たちの悪事を暴かれたくない神官達の陰謀だ」「いや、あの聖女のギフトなら邪神の使徒になる可能性はある」「聖女様が邪神の使徒なら平民にあんなに優しくしてくれるのはおかしい」等々。


 どうやら、聖女は邪神の使徒として処刑されるようだ。


 なんともおかしな話だ。

 聖女というのは、人類に崇められているいずれかの神の神託系ギフトを受けている女性に与えられる称号だ。

 邪神の神託を受けられるギフトも存在するが、それは魔族のみが獲得しうるギフトであり、人間が邪神のギフトを得ることはない。

 つまり、聖女認定されている以上、邪神の使徒であるなんておかしいはずなのだが……それにしてはこの聖女のギフトなら邪神の使徒になる可能性があるという話が存在している。どういうことだ?


 考えていると、周囲のざわめきが強くなった。

 周りからは「来たぞっ!」とか「嗚呼、なんとおいたわしい」という声が聞こえてくる。


 兵士に囲われて歩いて来ているのが見える。

 まだあまり良く見えないが、手枷をされていて、その手枷から繋がっている鎖を先導する兵士が持っているらしい。服は襤褸切れのような囚人用のもの。……靴も履いていないな。

 いくら罪人とはいえ、聖女に対する扱いではない。……いや、邪神の使徒だとするなら当然の扱いか?

 もしかすると、聖女としての全てを剥奪したいから邪神の使徒認定したのかもしれない。


 遠くに姿が見えてから、周りからは暴動が起こりそうな、不穏な気配が漂っていた。

 どうにも、聖女があのような扱いをされているのが許せないという者達が多くいるらしい。


 そして、そんな者達の中に暴発した者もいるようだ。


「聖女様を放せ!」


 棒切をもった民衆の一人が、道を警備する兵士の列を抜け、聖女を連行する兵士に殴りかかろうとし……一刀で斬り伏せられ──


「待ちなさい」


 いつの間にか、言葉とともに連行されていた聖女が割ってはいっていた。

 剣は彼女の目前で静止している。


 悲鳴が上がった。


「そこのあなた、気持ちは嬉しいですが、このような無謀なことをしてはなりません」


 聖女が斬られそうになった男にそう告げると、兵から警告が飛んだ。


「罪人よ、余計なことは慎むように」


「承知しました」


 聖女は兵の言葉に両目を瞑り、応じた。


 へたり込む乱入した男を置き去りに、再び聖女は処刑台へと導かれていく。

 まるでなんでもないことかのように、処刑は続行される。


 周囲の気配は不穏なままだ。

 男が斬り伏せられそうになったのをみて、同じような想いを持っていたであろう周囲の民衆の中に怖気付いた者もいるだろう。だが、それよりもずっと、聖女を救いたいと思っている者達のほうが多いらしい。あの場面をみてもなお、聖女のために動こうという者の気配がまだまだある。


 これは……本当に暴動が起こっても不思議じゃない。


 だが、一つの声が空気を変えた。


「おやめなさい」


 凛とした声。

 それは、たった今処刑台へと上がった罪人の口から放たれていた。


「私を助けたいというあなた達の想いを嬉しく思います。ですが、命を粗末にしてはなりません。あなた達はあなた達の明日のため、今を懸命に生き抜くこと。それこそが神々の望まれていることです。私を助けようと、この場で命を散らすのはおやめなさい」


 光があった。


 処刑台の上で、手枷をされ、襤褸を纏っていようとも。

 背筋を伸ばし、信念を瞳に宿したその姿。


 それは、この場に集まった者達全てに光を感じさせていることだろう。


「罪人よ。許可なく口を開くことは許されておらぬ」


「失礼しました」


 聖女を連行してきた兵がそう告げた。だが、その兵も聖女の言葉を遮らずに全て聞き終えてから注意したことから、聖女に悪い感情を持っていないのではないかと感じる。


 処刑台に立った聖女の前に兵が歩み出て、懐から出した紙の内容を読み上げ始める。


「罪状を読み上げる。この者、罪人アステミリスは天啓の聖女としての役目も忘れ、邪神の甘言に乗り、多くの罪なき神官を謂れなき罪で断罪し、大いに民衆を惑わせた。よって、斬首に処す」


 周囲が再び殺気立つ。


「最後に、罪人アステミリスに発言を許す」


 兵はその言葉と共に一歩引き、代わりに聖女アステミリスが歩み出た。

 処刑台の上、最も見えやすい場所へ。

 そこで俯くことなく、目をそらすことなく、人々を見据える。


 美しかった。


 牢獄でついたのか、頬には土汚れ。

 長い銀髪もここ数日は手入れできていなかったであろうことがうかがえる。

 そんな、罪人らしい様でありながら……彼女は美しかった。


 容姿が秀でているという意味ではない。……いや、この薄汚れた状態でなお隠しきれない程には容姿も秀でているが、そういうことではない。


 彼女の目が、彼女の生き方を語っている。

 その生き方が、眩しく美しいのだ。


「皆さん。神々はあなた方が健康に、良き心を持って、未来のために生きることを望まれておいでです。……世界にはもうすぐ暗い時代が訪れます。けれど、もし皆さんがまだ私を信じてくれるのなら、必ずやその闇が晴れ、再び光が訪れることを信じ、前に歩み続けてください」


 聖女はそう言うと、今度は自分たちを連行してきた兵士たち、そして処刑人に向き直る。


「あなた達にも辛い役目を負わせましたね。あなた達の未来にも幸多からんことを願っています」


「……聖女様」


 兵士の一人が、つい漏れてしまったというようにそう口にした。

 他の兵たちもつらそうに目を逸らし、先ほど罪状を読み上げた、おそらく立場が高いであろう兵も瞑目する。

 しかし、それは束の間のこと。


「死刑を、執行する」


 その言葉に従い、粛々と準備が進められていく。

 聖女も抵抗しない。


 人々の中で絶望の声が漏れ聞こえる。


 跪いた聖女が、台座に頭を据え、首を差し出す。


 エクスキューショナーズソードを手にした処刑人が位置に着く。


 ……これでいいのか?

 あの美しい人が、明らかに存在しない罪で裁かれ、殺される。


 見ず知らずの相手ではある。

 だが、前世を含め、これほど美しいと思える人を見たことはなかった。


 ……嫌だ。

 この人が殺されることを、俺は嫌だと思っている。


 そんな自分に驚いた。

 自分は、この場で初めてみたこの女性に惹かれているらしい。


 驚いている間にも、処刑の時は迫る。


 準備は進み、あとは執行の瞬間を残すのみ。

 振り上げられた処刑人の剣が、号令を待っている。


 そして、その瞬間もすぐに訪れた。


「執行せよ!」


 処刑人は言葉とともに腕を振るう。


 パァン!


 音が響いた。

 明らかに、剣の物ではない音が。


 処刑人の剣は弾け飛び、処刑人は剣を握っていた手を押さえうめき始める。


 俺はいつの間にか、処刑台の上に立っていた。


「……あなたは?」


 いつの間にか、聖女を抱きかかえていた。

 ……やってしまった。


「失礼、離脱します」


「そ、その男を捕らえろ!」


 周りの兵がやっと動き出そうとしたところで、俺は詠唱無しで魔法を使い、足元に作り出した風を作り出す。そして、その風を足場に、その風で自分の体を撃ち出す様に、魔法と脚力両方を用いて跳躍する。

 魔法を使った大跳躍で、処刑台から離脱した。


 遠くで怒号と歓声が上がった。

読んでくださり、ありがとうございます


以下投稿予定です。


4/17 20時投稿開始。5話同時投稿。

4/18、19は12時と20時に投稿予定。

4/20以降は1日1話、20時投稿予定。

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