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初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第二章

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第十一話(通算第二十六話) アステミリスの状態

 翌朝からは、再び旅を再開した。


 道中も修行だ。

 リルカは脚に闘気を纏いつつ、少量の魔力で魔法の制御の練習をしている。

 セルマの方は、歩きながら俺の講義を聞いていた。


「俺が使っている初級魔法の攻撃手段の中で、特に威力の高い使い方。あのすごい音がするやつな……俺はアレのことを"穿弾型(ライフルタイプ)"って呼んでる」


 俺が使う"穿弾型(ライフルタイプ)"についての説明だ。……ライフルに相当する言葉がこの世界にはないから、実際には貫通弾型みたいな意味の言葉で説明しているけれど。


「"穿弾型(ライフルタイプ)"、ですか」


「ああ。これには、魔法の知識とは別の知識も色々使っているんだ。……例えば、空気の抵抗。例えば、武勇神様の神秘式とかを受けて、すごい速度で走ったり跳んだりすると、空気の壁に邪魔される感覚があったりするだろ?」


「ありますね。自分に風が向かってくるようなそんな感じです」


「ああいう空気からの抵抗は、飛ばした矢とか投げた石……そして初級魔法で撃ち出した仮想質量体にもかかるんだ。そこで、俺が"穿弾型"で撃ち出すときの……この形状だ。これは空気からの抵抗をできるだけ受けないようにした形なんだよ」


 言いながら、いつも"穿弾型(ライフルタイプ)"を撃つときと同じ形状に調整した、《(ソゥロ)》の弾丸をセルマに見せる。


「……えっと、師匠。初級魔法に弾丸の形状を調整する効果はありませんよね?」


「そうだ。だから、この形状の調整は密度調整を応用している。やってみせるな」


 歩きながら、一度《(ソゥロ)》の弾を密度が均一な球体状に戻し、わかりやすく密度調整を見せていく。


「魔法の密度調整は、何も魔法の中心座標にしかかけられないわけじゃない。魔法の弾丸のどの辺りの密度を上げるか、というような調整ができる。例えば、その調整を円形に施せば……こんな円盤状にすることもできる」


 言いながら、魔法の弾丸内で円形に密度調整地点を配置。土を円盤状に整形する。


「俺の"穿弾型(ライフルタイプ)"の場合、直線上に密度調整を行い……その上で先端が少し尖るように、その部分の密度を上げていくんだ。……あとは密度差の影響を考慮した微調整とかもやるけど……まぁ、それは今は気にしなくて良い」


 再び弾を球形に戻し、説明した弾の形を作る。

 イメージするのは直線。弾丸の芯となる棒があるイメージ。

 その棒の各所の密度を調整する。

 その調整で、再び弾丸が作られるところを、セルマは食い入るように見つめていた。


「なるほど……」


 既に充填を終えていたセルマが《(ソゥロ)》を発動し、俺の作っている弾丸と同じ形状を目指して調整を始める。


 うーん、とりあえず魔法の中心座標以外の密度調整も出来ていはいるようだが……まだそれをイメージ通りの座標で調整するまでには至っていない。なんとか円柱形に近い形にしようと頑張っているが、ぐにゃぐにゃだ。


「とりあえず、俺と同じ戦い方を目指すなら、それができるようになることだな」


「はい、師匠!」


 俺の弟子として本格的に学ぶ以上、"穿弾型(ライフルタイプ)"は習得必須だ。制御が面倒な分使い勝手は悪いが、威力は高い。……それに、単純に魔力と制御力が足りないと使えない"弾丸型(バレットタイプ)"と違い、仕組み的には"穿弾型(ライフルタイプ)"なら今のセルマでも習得可能だ。……魔法そのものの効果以外のところで威力を上げているので、実は"穿弾型(ライフルタイプ)"は初級魔法の威力上限に引っかからない。抜け道なのだ。

 ……セルマの魔力は少ないし、制御力も発展途上だ。"穿弾型(ライフルタイプ)"を使ったところで、現状だと俺の"弾丸型(バレットタイプ)"にも届かない程度の威力になるだろう。逆に言うと、俺の"弾丸型(バレットタイプ)"と比較できるぐらいの威力は、現状のセルマでも出せるはずだ。……魔力がもう少し成長すれば、俺の"弾丸型(バレットタイプ)"を超える威力を期待できるんだが。

 まぁ、平民生まれのセルマの魔力が少ないのは仕方ない。限界まで成長しても、十五歳時点の俺にすら追いつけないだろう。セルマは将来、お高い魔力結晶を大量に持ち運ぶことになりそうだ。


※※※


 その日、特に襲撃を受けることなく歩き続け、メリニド山脈を形成する山の一つカウレク山の中腹……下り始める地点に到着した。ここを下った先でもう一つの山を超える必要があるが、その山はすでにラコニドゥム竜砦王国の領土だ。

 今まで登ってきた成果を見ておこうと思い、振り返る。


「壮観ですね」


「だな」


 メディー王国を見下ろし、感嘆する俺とアステミリス。


 リルカとセルマも楽しげだ。


「……今日はここで休もう。ミリスもまだ本調子じゃないだろう?」


 この辺りは、比較的なだらかで、野営もしやすそうだ。ちょうどいいだろう。


「そうですね……わかりました。そうしましょう」


「はーい! 薪とってきまーす!」


「私も焚き火の準備しますね! 今日こそ物理変換を成功させます! 今はギフトもありますし!」


 アステミリスが俺の提案を受け入れると、リルカとセルマも焚き火の準備を始める。

 アステミリスの取り出したテントを準備するのは俺の役目だ。まぁ、慣れたものである。


「今日は……食材は私が出しましょう」


「いや、いい。お前、また神秘式で食材出そうとしてるだろ。今は神秘式使わずに体を休めろ」


 アステミリスはたまに、享楽神様と自然神様や生命神様の力を組み合わせた神秘式で、食材を生み出す。神威を使って、美味しい食材を生み出すのだ。あと、調味料とかも生み出すことがある。

 だが、今の消耗したアステミリスにそんなことはさせられない。


 ……ちなみに、享楽神様は邪神っぽく思われそうだが、邪神ではない。食材を出すのに享楽神様の神威を借りるのは、食道楽も享楽神様の分野だからだそうだ。なお、あくまで「享楽神」という立場のため、生み出される食材は大体高級品だったりする。


「……そうですね、私は休むことにします。手間をかけますね、クルト」


 アステミリスは無表情ながらに、何処かしょんぼりとした雰囲気を漂わせてそう言った。


 ここは、彼女のためにも、美味い料理を作ってやろう。


「任せろ。高級な食材がなくてもうまいものは作れると証明してやる」


 アステミリスの荷物内にある食材を思い浮かべつつ、俺は自信を押し出した表情で告げた。


※※※


「麺というのは美味しいですね」


「めっちゃ美味しい! ほんとクルト先生の料理最高!」


「師匠、美味しいです」


 俺が作ったパスタはなかなかに好評だった。食感にこだわった甲斐があったというものだ。

 ちなみにソースはホワイトソースのような何かだ。アステミリスの持っていたなにかの生物の乳を使った。その乳が、メチャクチャ美味しかったので、正直素材が良かっただけな気もする。……高級な食材がなくてもうまいものは作れると大見得を切ったのにこれなので、少し恥ずかしい。


 アステミリスは今回もかなりの量を食べた。何人前だ?


「大変美味でした。ありがとうございます、クルト」


「いや、俺もミリスたちが美味そうに食ってくれるから、作り甲斐があるよ」


 食器を下げ、焚き火を囲う。

 今日はアステミリスから重要な話があるらしい。


「さて、三人とも。私の話ですが……一昨日の夜、私の儀式が強制中断されたことによる、私自身への影響を話しておこうとおもいます」


「……吐血していたからな、何か悪い影響があってもおかしくないとは思っていた」


 アステミリスは吐血した。祝福の儀式を無理矢理中断されて。その原因が邪神である以上、アステミリスの状態には気を配る必要があった。


「ええ。……それで、影響ですが……邪神からの干渉を受けやすくなりました。対処には、毎日かなり強度の高い聖光神様の神秘式を使って、対策しなければならないでしょう。その結果、他に回せるリソースが減ります。ある程度は大丈夫ですが、五柱以上の力を借りての神秘式は、日に一回が限度になるでしょうね。全体の使用可能回数も減るでしょう」


「……なるほど? 他には?」


「いえ、それだけですよ。他になにか問題があったりはしません。一切対策をしなければ、後々もっと深刻な影響を受ける可能性がありますが……それは対策するので気にしなくて構いません」


 ……? それは、あまり対した問題では無いのでは?

 確かに今までよりは大変だろうが、それはむしろ今までが楽すぎたというか、アステミリスが万能すぎたというか……。


「ちなみに、今まで使っていたような、自然神様や彷徨神様の力で旅を楽にしたりはできる?」


「できますね」


「戦闘も、クラーデ王国のときみたいに、装備を生み出す形の神秘式も使える?」


「ええ」


「なら、問題なんてなにもないだろう?」


 俺がそう言うと、アステミリスは申し訳無さそうに目を伏せた。


「……これでは皆のサポートに使う神秘式を絞らなければなりません。それに、何か失敗した場合の保険もなくなります」


「いいさ。そもそもミリスにばかり負担を負わせていたような今までが悪かった。そんなサポートや保険に頼り切りにならないよう、俺も頑張らないとな」


「そうだよアステ様! 私も頑張るから大丈夫!」


「師匠の言うとおりです! 私も頑張りますから!」


 リルカとセルマも、俺の言葉に追従する。

 アステミリスはその言葉に、少し驚いたような反応を見せた。


「……三人とも……良いのですか? 私の使える神秘式の回数が、今までより制限されるのですよ?」


「問題ない。気にしすぎだ。そもそも神秘式を使える仲間がいるだけでありがたい。そんな仲間がいる旅で文句を言えば、罰が当たるだろうよ。無い方が普通なんだからな。気にしなくてもいい。いつも十分に……いや十分以上に助けられている」


 俺の言葉に頷く少女二人。

 そんな俺達を見て……しばらくして、アステミリスが微笑んだ。


「そうですか。……それなら良かったです。とりあえず、この状態が解消できるまで……邪神の力ですので、下手したら一生解消できない可能性もありますが……解消できるまでは、あなた達に頼らせてもらいますね」


「ああ、存分に頼ってくれ」


 俺の返しにアステミリスはやはり微笑んだ。

 そして、小さく言った。


「ありがとう」


 ……アステミリスの表情は、なんだかとても嬉しげに見えた。

5/2~5/6は一日2話、12:00と20:00に投稿予定


5/4 13:25 本文微修正(ラコニドゥム王国→ラコニドゥム竜砦王国)

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