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初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第二章

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第十話(通算第二十五話) 少女達のギフト

 私の儀式が黒い塊に介入され、強制的に中断されたときの感覚。

 同じ感覚を私は知っていた。


 あれは、私が【全神格神託】のギフトを授かったときだ。

 何の儀式もなく、突然神々より祝福を授かった。

 天より神々しい光が舞い降り……私に吸収される瞬間に、邪神達に介入された。

 結果として、私は【全神格神託】により、邪神の神託も受けることが可能になり……同時に邪神の影響を受ける様になった。


 それと同時に到達者となったという事もあって、私は何日も寝込み……起きた頃には聖女として迎えるため、神殿からの使者がやってきた。

 聖女の修行を初めてすぐに、私は聖光神様の神秘式を習得し……その力を使うことで、邪神の影響を防げるようになった。

 だが、その聖光神様の神秘式を習得するまでの僅かな期間……一ヶ月程度の時間で、私は発狂しかねないほどの苦痛に耐え続けた。

 毎日のように邪神達の呪いの声、あるいは誘惑の声……それを強制的に聞かされた。

 それはつまり、儀式無しでの神託を強制的に与えられ続けていたようなもの。子供だった当時の私の肉体と魂魄と精神は、儀式なしの神託には一度だって耐えられないものだった。

 声が聞こえ始めた時点で、意識が遠くなり……そのまま気絶する。

 毎日のように……酷いときには日に数回も気絶して、死にかける日々。

 圧倒的な気配を帯びた声を聞かされ、気が狂いそうになる日々。


 昨晩の黒い塊の介入は、その当時を思い出させた。


 つまり……あれは、邪神による介入だ。

 儀式の負荷が強く、その介入を防ぎ切れなかった。


 その邪神による介入を……今、私の横で眠るリルカは、その身に宿してしまったのだ。


※※※


「……お疲れ様でした、師匠」


「ああ……。二人の様子はどうだ?」


「ミリス様は目を覚まされました。……まだ、体を起こすのも辛いそうですが」


 語り合う俺とセルマの周囲には、無数の死骸があった。

 当たり一面、血の海である。


 結局、このあたり一帯の全ての魔獣がやってきたのでは無いかと思えるほど、大量の魔獣が襲いかかってきたのだった。


 無論、強さで言えば俺の敵ではない。ここは魔境でもないし、到達者に至っている俺の敵ではない。

 焚き火を消されることがなかった程度には、近寄らせることなく殲滅してみせた。


 それでも、倒れているリルカやアステミリスが狙われているだろうことはわかって、かなり腹がたった。

 ……本来その怒りを向けるべきは、あの黒い塊とその原因であって、この魔獣たちではないのだろうが。……いや、魔獣とは何か、という本質を考えれば、やはり同罪だろう。


「セルマ、二人のところへ行こう」


「わかりました」


 俺は、セルマと一緒に、リルカとアステミリスのいるテントに入った。


※※※


「介入してきた黒い塊……あれは、邪神の力でしょう。【全神格神託】のギフトを持つ私には覚えがあります」


「……呪いに近いものだというのはわかっていたし、予想も付いていたが……やはりそうか」


 横になったまま苦々しげに告げるアステミリスの言葉に、俺は溜息を付いた。

 セルマが心配そうにリルカを見つめる。


「リルカちゃん……私をかばってそれを……」


「いえ、違いますよセルマ。確かにあのとき、リルカはとっさにあなたを庇いました。ですが、おそらくあの黒い塊の目的は元からリルカだったはずです。庇わなかったとしても、リルカを目掛けて飛んでいっていたことでしょう」


「そうなのか?」


 俺の疑問に、アステミリスは横になったまま頷いた。


「邪神の力は基本的に魔族や魔獣以外には介入できません。例外は、私のような神に近すぎる存在か……呪いを生み出す力を内に宿してしまっている者ぐらいでしょう。そして、呪いを生み出す力の場合、宿しているのがかなり強力な力でないと無理です。……リルカもセルマも、敵の力によって呪いを生み出す状態になっていますが、その力はセルマよりもリルカのほうが大幅に上。そのリルカを放っておいて、セルマに宿るようなことは無いでしょう。……仮に、セルマに宿る場合には、塊が二つ現れ、同時に二人を狙ってきたはずです」


「なるほど」


 敵。魔族の到達者によって埋め込まれたという呪いの力。それが今回の原因らしい。いつまでも厄介なことだ。


「……リルカちゃんは、どうなっちゃうんですか?」


「わかりません。……私も似たような経験がありますが、私の場合、神々から与えられたギフト自体に……つまり、光の塊に対して邪神が介入しました。その結果、私は【全神格神託】で邪神の声も聞けるようになったのです」


 邪神の声を聞ける。……それは、どう考えても良いことではないだろう。それこそ、着せられた濡れ衣通りのことになってもおかしくない。

 よく今まで大丈夫だったな。……いや、おそらく何らかの対処をしていたのだろう。今回の介入のときも、聖光神様の神威で何かをしようとしていた。その後にテントの中で使ったのも聖光神様の神秘式だ。聖光神様の神威や神秘式を使えば、対抗できたりするのかもしれない。


「ですが、リルカは神々からのギフトである光の塊を吸収した後、別に黒い塊をその身に受けた」


「では、リルカちゃんは、ギフトを書き換えられたのではなく、呪いを受けたのでしょうか?」


「……その可能性もあるかもしれないが、もう一つ可能性がある。そうだろ? ミリス」


「ええ……リルカは、邪神のギフトを受け取った可能性があります」


 通常、人間が邪神からギフトを受け取るなんていうことは無い。だが、邪神が介入できるということは、ギフトを与えることができるということと同義なのだろう。


 そんな話をしていると、リルカのまぶたが動いた。


「ん、う? ……セルマちゃん! 大丈夫!?」


 目を覚ましたリルカは、いの一番にセルマの心配をした。


「うん、大丈夫。リルカちゃんが庇ってくれたから……それで、リルカちゃんの方こそ、大丈夫?」


 セルマの返答を聞き、リルカは自分の身体を眺める。

 そして、暫くの間思考を巡らせ、神妙な面持ちで言った。


「私、武勇神様と……暴虐神のギフトを手に入れちゃったみたい」


「そんな……」


 セルマが絶句する。

 無理もない。暴虐神……それは、呪詛神などと並ぶ、代表的な邪神の一柱なのだ。


※※※


 この日は当然移動はせず、一日を休息と……周囲の片付けに費やした。

 セルマには二人についてもらい……俺は周囲の魔獣から食えるもの選別し、料理をする。


 朝も昼も、皆よく食べた。アステミリスは横になったままだったが、その体勢とは思えないほど食べた。アステミリスに食べさせるセルマのほうがつかれていたぐらいだ。……そんなに美味かったか? 俺のおじやは。


 ……というか、アステミリスの荷物に米が入っていたのは驚いた。どうにも主食とする国があるらしく、アステミリスも結構好きで持っていたそうだ。

 それと、やっぱりアステミリスの荷物の容量はおかしかった。自分で手を突っ込んでみたら、明らかにサイズがおかしかったし。


 そんなこんなで、夜。

 ようやく歩けるようになったアステミリスとリルカ、そして今日色々と手伝ってくれたセルマと一緒に、おじやの器を持って焚き火を囲む。


 今はとりあえず情報共有だ。


「まずは私! 今日一日、特に邪神から何かされることはなかったよ。獲得したギフトは【脚部闘気強化率向上】と【嗜虐増長】。脚を闘気で強化するときの強化効率が上がるギフトと……嗜虐心? なんか誰かをいたぶったりするのを楽しむ気持ち? が強くなるほど、そのいたぶる対象に与える攻撃の威力や私の身体能力が強くなるみたい」


「【脚部闘気強化率向上】は良いですが……邪神に無理矢理付加された【嗜虐増長】はたちが悪そうですね。それは使いすぎれば、リルカの呪いの温床としての強度が上がってしまうことでしょう」


 邪神の力によるギフト。しかも、心の在りようと関係するギフトだ。

 呪いの根源は負の感情だ。嗜虐心も呪いの素になりうる。……嗜虐心だって、創造神が定義した、人間の本能に根ざした負の感情なのだ。


「軽率に使わないように。……また、おそらく使うつもりがなくても、嗜虐心を持って攻撃すれば勝手に効果が適用されるはずです。気を付けてください。……そのギフトの存在を知られれば、それだけで処刑対象です。誰にも教えないようにしてください」


「はい」


 リルカは珍しく真剣に返事をした。

 自分のことだし、邪神が関わる話だ。生返事ではいけないと思ったのだろう。


「セルマはどうでしたか?」


 続いて、アステミリスはセルマに訊いた。

 対するセルマは、何か微妙な表情を浮かべている。


「えっと、ミリス様。……リルカちゃんやミリス様が大変なときにとても申し訳ないのですが」


 セルマから感じられるのは躊躇いだ。そして、何となく嬉しさが滲んでいるのも感じる。


「その言い方だと、良いギフトだったのですね? なら、喜んでいいのですよ。ここに、あなたが喜ぶことを咎める者はいません」


「そうだよそうだよ! 良いギフトだったなら良かったじゃん! セルマちゃん!」


 申し訳無さそうなセルマに、アステミリスとリルカが笑いかけた。

 それを見たセルマは、驚いた後、一度二人に頷き……そして嬉しそうな顔を俺に向けた。


「……師匠! 私のギフトは【初級魔法制御力向上】でした! これで師匠の求める最低限必要な要素をクリアできました!」


「! そうか……なるほど、それはたしかによかったな」


 ギフト【初級魔法制御力向上】。それは、極めてありふれたギフトであり、就職の役にもたたない。世間一般の価値観でいうなら、外れギフトだ。


 だが、俺の弟子であるリルカにとって、何よりも欲していたギフトだった。


「師匠! 改めて、これからよろしくお願いします!」


 俺の弟子として、最低限の条件をクリアした。

 つまり、今後セルマのことは、本気で俺の弟子として指導していくことになるだろう。


 頭を下げたセルマに、俺は頷いた。


「ああ、こちらこそよろしく頼む。……リルカ、お前が本当の意味で初級魔法を極められることを願っているよ」


 俺は、極めることが出来ない。

 だが、リルカなら……まだ、初級魔法以外の魔法を使ったことがないリルカなら、極められるかもしれない。

 いや、初級魔法の全てを理解している俺が本気で指導すれば、きっとリルカは初級魔法を極めることができるはずだ。

 極めさせてみせる。

5/2~5/6は一日2話、12:00と20:00に投稿予定

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