表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/32

第六話(通算第二十一話) 戦い学ぶ少女達

「やっぱりクルトさんのご飯おいしい!」

「あんな気持ち悪い魔獣がこんなにおいしいなんて、驚きました」


「確かにおいしいですが、最初は正気を疑いました。よくあんなものを食べようと思いましたね」


 味を大絶賛されながら、見た目に拒否感を持たれている魔獣はテンタクルス。触手の塊のような魔獣だ。頭がなくて全方向に触手の生えたタコの様な魔獣である。


「似た魔獣をよく食べてたからな。……俺が食ってたのは魔境に住むもっとずっと強い種だった。そっちの方が味が濃くて美味いが、これも中々だ」


「いやー、魔獣自体の味と歯ごたえもいいけど……それ以上にクルトさんのソースが美味しいんだと思う!」

「師匠のソースは絶品ですね!」


 今食べているのはお好み焼きのようなものだ。

 本当はたこ焼きを作りたかったが、流石に平たい鉄板でそれは無理だった。


 ……この鉄板、どうやってあの荷物に入れてたんだ? アステミリスの荷物は不思議だ。大量の小麦も入っていたし。

 以前の毛布や服にも疑問を持ったが、今回は明らかにおかしかった。やっぱり何らかの神秘式で実際の容量以上の荷物を詰め込んでいるのだろう。ずるい。


 羨ましいという感情をのせてアステミリスを見る。視線の先の彼女は、がっついている様子など微塵もないのに、既にとんでもない量のお好み焼きを平らげていた。優雅さを失わない系食いしん坊娘である。


「……あげませんよ?」


「いらんわ」


 俺の視線に気づいたアステミリスが強い視線で牽制してきた。

 ……俺が羨んでいるのはそっちじゃない。


 アステミリスから視線を逸らし、少女二人に目を向ける。

 テンタクルスの肉を示しつつ、二人に声をかける。


「こいつとの戦いでは、二人共上手くやれていたな」


「がんばった!」

「結構難しかったです」


 二人の明るい表情からは、今日の戦いでの手応えが感じられる。

 実際、二人の戦いぶりは大したものだった。


※※※


「注意しろ、敵が来る」


 ラコニドゥム竜砦王国を目指す道中。

 森より気配を感じ、俺は皆に警告を発した。


「この程度なら……二人にやらせてみましょうか」


「は? いや、流石にそれは無理だろ?」


「焦らないでください。……私の補助込みの話です。武勇神ヴァロヴィクトル、魔法神ラツィオヴェリタス、二柱の神威を以て、この二人の戦いを助け給え」


 神秘式により、リルカとセルマの体が神秘式の力を帯びる。

 二人の身体能力と魔法を強化するものだろう。


「リルカ、昨日も教えましたが、改めて。武勇神様の神威と闘気は非常に近いものです。そのため、武勇神様の神威はそのままだと闘気と同時に身体を強化することは出来ません。しかし、神威そのものではなく神秘式ならば闘気と同時強化可能です。今、私はあなたの身体能力を向上させる神秘式をかけました。闘気による身体強化ができることを確認してください」


 アステミリスの説明だが……普通、人間は武勇神様の神威を神秘式を通さずに扱うなんてできない。仮に無理矢理それをやっても効率が極めて悪いはずだ。そのため……まともに神威をそのまま運用できる人間は、おそらく最も神に近い人間であるアステミリスぐらいだろう。

 そのため、今の説明の大部分は余計な補足だ。……本人ができることだからこそ、認識がズレているのかもしれないが。


「はーいアステ様! ……うん、できる! できます!」


 リルカが神秘式で強化された体に闘気を纏い、更に強化する。

 強化具合を確かめるため、軽くジャンプしたり、蹴りを繰り出してみたりしている。


 ……それにしても、なんとも鋭い蹴りだ。


「リルカは武術でも習っていたのか? 蹴りが随分と堂に入っているが」


「習ってないですよー? ただ、私が魔獣になってたときに、蹴り技が強い人と戦ったんですよ。それで見てたので、何となく覚えてました」


 うーん……見ただけでこれ、か。しかも、魔獣だったときに見たなら、見てすぐに試せたわけでもなかろうに。

 やはりリルカのセンスはずば抜けているようだ。天才と言って良い。


「《(ヴェン)》」


 セルマは冷静に唱える。


「セルマ、まずは工程毎にちゃんと制御できるように訓練しよう。……魔法は、同じ魔法を使いつ付ける場合は、終始工程に移らずに、接続工程や変換工程から続けてもう一度魔法を構築できる。一度うまくいかなったとしても、止めることなく次々試してくれ」


「はいっ!」


 力強く返事をしたセルマが、必死で制御して風の弾丸を構築する。

 詠唱と接続はまだ勝手に行われるままだが、変換と転写は少しだけ制御出来ていた。展開はまだまだだな。

 だが、素晴らしいのは構築した風の弾丸を手元に待機させていること。これは操作工程で弾丸を制御できているということだ。


 セルマの様子に関心していると、森から触手の塊が現れた。


「テンタクルスか」


「きも……」

「気持ち悪い」


「……頑張りなさい」


 アステミリスは二人に憐れみの視線を向けたあと、一歩引いた。

 俺は念の為いつでもテンタクルスを撃ち抜けるように準備する。


「キモイいけど頑張る! 速攻で倒す!」


 言葉と共に、リルカが触手に走り寄る。


 迎撃する触手をひらりひらりと躱し、触手の内一本の根本を鋭く蹴る。

 闘気に包まれた脚は、凄まじい速度で触手を蹴り裂いた。斬撃かと思えるほどの蹴撃。


 リルカに対して、嫌がるように触手を振るうテンタクルス。

 その振るわれた触手に、風の塊がぶつかった。

 触手がちぎれたりするようなことはなかったが、軌道が逸れて、リルカは直撃を免れた。

 そして、あたかもそうなるのがわかっていたとでもいうように、リルカは既に次の攻撃に移っている。


「ナイス、セルマちゃん!」


 再びのリルカの攻撃は、ズドンという音と共に触手を蹴り上げた。

 そこに、次弾を構築したセルマの《(ヴェン)》が叩き込まれる。世界最高の神秘式の補助もあって、初心者のものとは思えない威力だ。触手の中心をえぐり、青い血が噴き出る。

 ……いや、アステミリスの補助込みだとしても火力が高い。少しずつ、制御に慣れつつあるらしい。ちゃんと一発一発考え、試し、構築し、撃ち込んでいる証拠だ。


 ダメージでのたうち回る触手。それを隙とみたリルカが、最初と同じ要領で二本の触手を蹴り千切った。


 その先は一方的だった。

 近くの触手が千切れたことで、リルカは戦いやすいスペースを確保できた。そのリルカを狙う触手も、セルマから狙いやすくなった。

 リルカは触手の解体を、セルマはリルカを狙う触手の迎撃を、作業のように進めていく。


 さほど時間が経たないうちに、丸裸になった触手の中心をリルカの蹴りが粉砕した。


※※※


「リルカはかなり天才的だな、格闘センスが素晴らしい。闘気も既に、そこらの兵士より上手く扱えている。もう戦技の習得を目指してもよさそうだ」


「セルマも全く焦らず魔法を扱えていたところが素晴らしかったですよ。魔法の才能自体は並ですが、戦闘者としての適性はかなり高いでしょう」


「やったー!」

「ありがとうございます!」


 俺達に褒められた、二人は喜びハイタッチする。


「今後、リルカは戦技の練習をしていきましょう。あなたの才能を活かすなら、いずれ魔法を使いながら戦技が使えるように訓練すべきですが……まずは戦技だけを扱うところからですね」


「はーい!」


「セルマは一発ごとに自分の手応えを分析出来ていたな。かなりよかったぞ。特に操作工程は一発ごとに成長が見て取れた。この調子で他の工程も、分析と改善をしていこう」


「はい! 師匠!」


 嬉しそうに明るく反応する二人。

 だが、俺とアステミリスは知っている。


 二人は毎晩、テントでうなされているのだ。ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返しているのだ。

 毎晩毎晩、夢の中で謝り続けている。


 二人とも、戦闘時に焦ることなく、やるべきことをやる。

 それもまた、二人が望むことなく強いられた戦いの痕跡だ。


 二人が強くなることに喜ぶのは、弱さ故に全てを奪われたトラウマがあるためなのだ。


 明るい二人の抱える悲しみを想い、俺とアステミリスは視線を交わす。

 いつかこの二人が本当に、心の底からの喜びで明るく振る舞えるように……二人を教え導こうと、俺達は心に誓った。

5/2~5/6は一日2話、12:00と20:00に投稿予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ