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初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第二章

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第五話(通算第二十話) 初級魔法の極め方

「下級以上の魔法の使用禁止ですか」


 セルマが疑問符を浮かべた。

 これについては説明が必要だ。なにせそうする理由、そうする利点は、おそらく世界で俺しか知らないからだ。


「ああ。だが、その理由を説明する前に、まず魔法の等級から教えよう。魔法には初級、下級、中級、上級、最上級、そして最上級を超えた超越級の六段階の等級がある。そして、等級が高い魔法ほど、術式が複雑になる」


「術式が複雑に……ですか?」


 セルマが投げた疑問に答えようとすると、アステミリスが声をかけてきた。


「その話、リルカにも聞かせてください。……リルカ、一旦クルトの話を聞きましょう」


「はーい」


 少し離れたところで別の訓練をしようとしていたアステミリスとリルカが、再びこちらに戻って来る。

 俺としても、そのほうが二度手間が少なくて良い。


「ああ。一番下の等級である初級魔法は一番単純な魔法だ。初級魔法の持つ効果は四つ。一つ目は属性を帯びた仮想質量弾を発生させること。二つ目は仮想質量弾の密度を変化させること。三つ目は仮想質量弾に速度を与えること。四つ目は仮想質量弾をその属性が表す物質や物理現象に変化させることだ。……まぁ、四つ目の効果はほとんど知られておらず、滅多に使われないから、ほとんどの場合一つ目から三つ目までの効果を使うことになる」


 初級魔法の効果はこの四つしかない。

 俺の場合、密度操作の制御を頑張って弾の形を変えたり、速度付加の制御を頑張って回転を与えたりしているが、それでもこの四つの効果をやりくりしているだけだ。


「例えば《(ヴェン)》なら風の属性、《(イグン)》なら火の属性を帯びた弾が形作られる。ただし、初級魔法の場合、扱う属性自体を制御することはできない」


「属性を制御する、というのはどういうことでしょう?」


 セルマは欲しい質問をくれるから助かるな。

 ……まぁ、そういう疑問を持つように話したわけだが。


「上位の魔法なら、単純な属性の性質を表すのではなく、その属性が内包する概念を扱う事もできるんだよ。わかりやすいものだと、例えば火属性の術式によって、火を扱うのではなく熱を扱ったりな。……わかりにくいもので言うと、水の属性なんかは癒やしの概念を内包していて、それで治癒魔法を使えたりもする。術式を制御すれば、そういう属性の内に含まれる概念を使うことができるんだ。……だが、初級魔法ではそれはできない」


「なるほど」


 ちなみに、これは研究所の結果、理論上不可能だと確定できた事実だ。

 対象属性の仮想質量弾を生成する効果で制御できるのは、その弾の規模……総質量だけなのだ。

 属性の一部分を抜き出したものだけで弾を作りたいなら、術式をより複雑なものにするしか無い。そうなると、既に初級ではなく下級や中級の魔法だ。ちなみに、弾を飛ばす形式以外の魔法も軒並み下級以上になる。


 余談だが、属性の一部の力のみを用いる術式であっても、実は処理の過程でほんの一瞬、一度属性を帯びた仮想質量体を生み出している。一度属性を帯びた仮想質量体を生み出して、そこから使用する概念のみを抽出するという処理をしているのだ。属性の一部だけを発現させることもできないし、仮想質量体を媒介とせずに属性の力のみを発生させることもできない。

 これは、原初の魔法法則には初級魔法しか存在しなかったからという事情があるらしい。下級以上の魔法及びその法則は後付けだ。……と言っても人類が誕生した少し後ぐらいの時代には作られていたそうだが。


「初級魔法の利点は術式の単純さだ。単純な術式というのは、つまり詠唱が短く、変換や転写が容易ということでもある。その代わり、高い破壊力を持たせるためには、かなり強い制御力を必要とする。俺がやっているみたいに、威力上限と言われる壁を超えないといけないからな」


「はいっ!」


「制御力には強さと精密性の二つの評価軸があり、初級魔法ではさっきも言った通り強さが重要だ。だが、一般には精密性が重要とされる。……そして、より等級の高い魔法を使えば使うほど、制御力は精密になる代わりに弱くなる。……正確に言うとそういう傾向がある」


「そうなのですか!?」


「私も初耳ですね。本当なのですか? クルト」


 セルマだけでなくアステミリスを俺の言葉に食いついた。

 まぁ、これは俺の研究結果の核心の一つでもあるからな、当然だろう。


「本当だ。高位の魔法を使うとな……使えば使うほど固有回路の規模が大きくなるんだ。そして、固有回路が大きくなると、その分魔力に対して多くの変換を加えることができるようになる。それにより複雑な変換ができるようになる。……ただ、同時に回路が大きくなると、魔力が回路内を通る距離が伸びる。そうすると、魔力が()()なるんだよ。……そして、鈍くなった魔力は制御力によって動かしづらくなる。感覚的には魔力が重くなったように感じる。だが、魔力自体は実際には重くなっていない。変換前と同じ量。性質が変わっただけだ。正しい表現をするなら、魔力に制御力が伝わりにくくなると言うべきかな? ……そのため、結果的に回路が大きいほど、見かけ上の制御力が低下するという結果になる」


「つまり……初級魔法だけしか使わないなら、固有回路は小さいほうがいい?」


「そうだ。……ちなみに、固有回路は一度大きくなると、小さくはならない」


「だから下級以上は使ってはならないのですね」


「そういうことだ」


 これが、俺が初級魔法を極められない理由だ。

 俺はギフトを得る前までは、神童ともてはやされ、普通に中級や上級の魔法も使っていたのだ。それが今、初級魔法を扱う上で俺の足を引っ張っていた。


「後はまぁ、初級魔法を極めるなら【初級魔法制御力向上】も必須だな。セルマは今何歳だ? 祝福を受ける十五歳まであと何年だろう?」


「クルト、そんなに何年も時間はいりませんよ。あと三日で準備を終えますから」


「はい?」


 セルマがギフトを得られる時期を知りたかったが、アステミリスから予想外の答えが来た。

 あと三日で準備ができるってどういうことだ?


「クルトも知らないでしょうが、そもそも祝福を受けるのは十五歳である必要はありません。ただ単に、成人の儀で一括でやってしまったほうが楽だ、という神殿側の都合です。七歳以下で祝福を受けると体に悪影響があると言われていますが、八歳以上なら実はいつ祝福を受けても問題ありません。ですので、後三日で私が準備を整え、二人に祝福を授けます」


「マジか」


「マジです」


 全く予想もしていない話だった。

 十五歳というのが何か重要なタイミングだとばかり思っていたのに……まさか神殿の都合とは。


「私達もギフト貰えるの!?」

「楽しみです! 絶対【初級魔法制御力向上】を引き当てます!」

「私は格闘系のギフトがいいな!」


 アステミリスの言葉に、まるでプレゼントを楽しみにする子どものように、二人は目を輝かせた。

 ……いや、プレゼントを楽しみにする子供そのものか。


「よし、それじゃ二人共実践に移ろう。リルカはミリスに闘気関連を習うんだろ? セルマはこっちで魔法の練習だ」


「その前にクルト先生……いえ、師匠! もう一つ質問があります!」


「師匠って……まぁいいか。それで、なんだ?」


「初級魔法の四つ目の効果ってどういうことなんですか?」


 四つ目……属性の力を物理的なものに変換する効果か。


「ああそれか……あまり気にしなくてはいいことだが、一応説明をしておこう。見せながら説明するのが一番早いな」


 言いながら、俺は手元に水属性初級魔法で水の塊を作り出した。


「これは水の初級魔法《(アクエ)》だ。今は四つ目の効果を使っていない。このまま魔法を解除するとどうなると思う?」


「……下に水が落ちるのではないのですか?」


「残念。この水はそのまま消えてしまう」


 俺が《(アクエ)》を解除すると、俺の言葉通り水が消えた。


「では、四つ目の効果を使うとどうなるか」


 言いながら、再び俺は《(アクエ)》で水の塊を作る。


「こうなる」


 その水の塊を物理的なものへ変換すると、浮いていた水の塊が落下し、足元に飛び散った。

 その後、俺は《(アクエ)》解除したが、足元はまだ濡れたままだ。


「ほい、これでまた魔法を解除したが……俺の足元はまだ濡れたままだな? つまり、解除した後も水が消えていない。これが初級魔法の四つ目で、魔法で作られた仮想質量体を物理的なものに変換した結果だ」


 なお、落下した水の質量は、仮想質量体だったときより減少している。仮想から実体に変化するのにエネルギーを消費するためだ。


「なるほど、ありがとうございます!」


「よし、疑問が解けたなら、今度こそ訓練に移ろう。……ギフトを貰うまでは、とりあえず制御関連の基礎訓練だな。特に最初は変換。自分の意思で最適の変換ができるように目指そう」


「はい!」


 俺の言葉に頷いたセルマは、魔法を詠唱し、練習を始めた。


 少し離れたところでは、アステミリスが闘気について説明をしていた。……武勇神の神秘式と闘気は両立可能って……必要な話ではあるけど、まだ今する話じゃなくないか?

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