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初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第二章

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第四話(通算第十九話) 二人の目指す戦い方

 二人が初めて魔法を発動させた夜が明けた。

 朝からアステミリスが二人に神秘式をかけている。

 最初に二人が魔獣化していたのを解除したとき、強い神秘式の力が二人の体には宿っていた。その御蔭で、昨日まではその残留する力だけで呪いの発生を抑えきれていたのだ。しかし、とうとうその効果が切れ、二人の内から呪いが湧き出てきた。

 なので、今日がクラーデ王国を旅立って最初の浄化である。


「聖光神ルクスレスティアよ、その光輝を以て、この二人に巣食う呪いを清め給え」


 黙って光を受け入れる二人。

 少しだけ内から滲み出て来ていた呪いが、その神秘式で祓われた。

 今は二人の体に光が宿り、むしろ呪いを弾くような状態になっている。


 二人は今後も、この神秘式による浄化を定期的に受けなければならない。


「では行きましょう」


 二人の浄化が終わると、アステミリスは軽い口調で言った。


 今日もまた、歩き詰めの一日が始まった。


※※※


 クラーデ王国とセファイルート真王国に隣接する国、メディー王国。今では歴史だけは古い小国とされているが、かつては大国だったらしい。百年ほど前にセファイルート真王国との戦争に敗れて落ちぶれたのだ。


 メディー王国は俺達の目的地であるラコニドゥム竜砦王国とも隣接している。

 メディー王国を南西から北東方向に通過し、そのままラコニドゥム竜砦王国を目指す予定だ。


 そんなメディー王国を横切る道中。

 俺達はゴブリンの群れに襲われた。


 もちろん敵ではない。

 ……敵ではないが、いい的ではあった。


「二人共、そこの一体フリーにするから魔法を試してみろ!」


「《(ヴェン)》!」

「《(イグン)》!」


 俺が指示を出したときには、二人共魔力を集めて魔法の準備を始めていた。聡い子達だ。

 リルカが《(ヴェン)》、セルマが《(イグン)》を詠唱する。


 攻撃せずに見逃しているゴブリンが、二人に走り寄ってくる。


 普通の子供なら、焦って魔力操作が覚束ず、魔法の発動に手間取るだろう。

 が、この二人の肝の座り方は異常だった。


 昨日の夜数回使った魔法。それと変わらない……いや、むしろもう少しだけスムーズに魔法を発動してみせた。

 焦りなんて欠片もない。


 今にも飛びかからんとしていたゴブリンの顔に風の塊が、腹に炎の塊がぶつかる。

 顔と腹に痛みを受けたゴブリンがうずくまる。


「《終了(フィーニ)》《(ヴェン)》」


 セルマが《(イグン)》の契約を終了させ、続けて《(ヴェン)》を詠唱する。

 セルマが《(ヴェン)》に切り替えたのは、おそらく二つ理由がある。一つ目は、終止工程に移らずそのまま魔法を連打できるということをまだ教えていないから。そして二つ目は……リルカだ。


 リルカは一発目の魔法がゴブリンに命中すると同時に、終止工程も行わずにゴブリンに向かって走り出していた。

 リルカの戦闘センスが飛び抜けて優れているのかもしれない。命中した直後の一瞬で、ゴブリンが怯んだことを見極め、近接攻撃を打ち込む隙があると判断したのだろう。……おそらく、直感的に。

 そして、セルマはそんなリルカが前に出たのを見て、仮に誤射してしまった場合のリスクが小さい《(ヴェン)》に切り替えたのだと思う。


 そこからの展開は驚きの連続だった。

 まず、驚いたのはゴブリンに近づいたリルカが、その脚に闘気を纏ってゴブリンを蹴りつけたこと。これには心底驚いた。リルカのような子供が闘気を纏える事自体驚くべきことだが、それ以上に驚いたのは終止工程を終えていない……つまり世界との契約をしたままの状態で闘気を纏ったことだった。これは非常に稀な才能の表れである。

 次に驚いたのは、二人の連携が、初めての戦闘とは思えないほど優れていたこと。ゴブリンを蹴ったリルカは、すぐにセルマの魔法の射線から退いた。そして、リルカが退いてすぐに、ゴブリンの脚にセルマの《(ヴェン)》が飛来し、見事直撃した。合図の一つも送ることなく、だ。

 そして最後に躊躇いのなさ。《(ヴェン)》の直撃でバランスを崩して転んだゴブリンの頭を、リルカが闘気を纏った脚で踏み潰したのだ。普通、生き物を殺すことにもっと抵抗を覚えるだろう。だが、リルカにはそんな様子は欠片もなかった。……もしかすると、魔獣として多くの人を殺してしまったことで、慣れてしまったのかもしれないが。


 そうして、淀みのない連携で、二人は躊躇いもなくゴブリンの命を奪った。


 セルマがリルカに近づき、二人でハイタッチしている。……ハイタッチ。子どもの感情表現はどの世界でも似たようなものなのか?


 それにしても、ちょっと予想外だった。初戦闘で、しかもこんな子供二人だ。普通、ゴブリン相手でももっと苦戦するものなのだ。


「二人共よくやりました」


 アステミリスが二人に近寄り、その頭を撫でる。

 二人が嬉しそうに輝く笑顔をアステミリスに向ける。

 ……リルカの脚が返り血に染まってなくて、なおかつ足元にゴブリンの死体がなければ、画になるんだがなぁ。


※※※


 その日、それ以降は特に面倒事もなく進んだ。

 そして、いつもどおりに野営。基本的に俺が準備するが、リルカとセルマにも手伝わせている。旅の仕方を覚えさせるためだ。

 一応アステミリスにも適宜教えてはいるが、それ以上に重要な役目を任せていた。……神秘式による警戒網の構築だ。

 アステミリスほどの才能があると、日に数回程度の神秘式の行使なら、一日で回復し切る程度の消耗に収まるらしい。……回復力が高いのか、消耗が少ないのか、あるいはその両方なのかは知らないが。


 ちなみに料理は俺の仕事。前世の知識があるためか、俺の料理は評判がいい。……調味料代は馬鹿にならないはずだが……俺の料理の味を知ったアステミリスが提供してくれている。

 ほんと、よくセーフハウスにそれだけの調味料を隠せていたものだ。


 で、夕飯を食べてからは訓練の時間だが……魔法の授業の続きの前に、確認すべきことがある。


「二人はどんな戦い方をしたい?」


 焚き火を眺めつつ、おもむろに訊いた俺の言葉を受け、二人は一瞬キョトンとした表情を浮かべた。

 そして、一度考える様子を見せた後、それぞれに答える。


「私は蹴り技と魔法を使いたい!」

「私は……クルト先生のような戦い方ができるようになりたいです」


 わかっていたが、二人の目指す戦い方は違う。

 今日の戦闘の様子から、明らかに向いている方向性が違っていた。


「ミリス」


「わかっています。……リルカはこちらに」


「? はい」


 アステミリスに呼ばれたリルカがそちらへ向かう。


「リルカ、あなたは極めて特異な才能を持っています。その才能ゆえに、あなたならば近接戦闘と魔法の両立が可能でしょう」


「……普通はできないんですか?」


「ええ。魔法を詠唱し、世界と契約している間、闘気を纏うことは非常に難しくなります。ですが、あなたは今日、初級魔法とはいえ魔法の契約を終了しないまま闘気を纏った。これは大変優れた才能がないとできない芸当なのですよ」


 アステミリスの言葉にリルカは目を輝かせる。


「闘気? っていうのはよくわからないけど、それなら頑張れば強く成れるんだね!」


 どうやらリルカは闘気のことを知らないまま使っていたらしい。


「闘気は、生命力を戦闘用に加工した力です。その性質は武勇神様の神威に近い……というより、そのまま武勇神様の神威を人間に使いやすい形にダウングレードさせたものですね。この力を纏うことで、攻撃の威力を上げることができます。また、闘気を消費して扱う、戦技という特殊な技もあったりします」


「すごい! 私もそれ覚えられる?」


「戦技はそうですね。闘気については……さっきも言った通り、今日の戦闘であなたは既に使っていましたよ」


「そうなの? あ、でも確かに最近キックの威力が高いかも!」


 リルカは本当に無自覚で使っていたようだ。本当に才能に恵まれている。


 とりあえず、アステミリスは武勇神様と魔法神様の神秘式を同時に使える。それを使えば、リルカの目指す戦闘スタイルの……ほぼ到達点と言って良いあり方を示すことができるはずだ。

 リルカはアステミリスに任せよう。


 俺はセルマの方に向き直る。


「セルマは、俺のように戦いたいのか?」


「はい」


「俺の戦い方は、高出力の初級魔法で敵を屠るものだ。お前がやりたいのはそれか? あるいは、魔法を使って戦いたいというだけか?」


 普通なら後者だ。初級魔法にこだわる理由なんてあんまりない。


「初級魔法で戦いたいです」


「……なぜ?」


「……クルト先生の戦い方に憧れたからです」


 ……まじか。

 潤んだ目に憧れの色を浮かべてそう言われた。

 正直、嬉しくはある。

 だが、ハードルは高い。セルマぐらいの才能でやれるだろうか?

 運も必要だ。……俺と同じような戦い方をするなら、最低でも【初級魔法制御力向上】は欲しいしな。


 少し考えて、俺はセルマのやりたいようにやらせようと思った。

 自分の生きる道だ、自分で選んだ道に進ませてやるべきだろう。


 俺の戦い方は、俺以外には教えられない。同時に、俺ならば、かつての俺がこの戦い方を身に付けたときよりも、効率的な鍛え方を教えられる。


 だから、俺は彼女に、彼女の望む道を示そう。


「わかった。それじゃあセルマ……お前は今後、初級以外の魔法……つまり下級以上の全魔法の使用を禁止とする」

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