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初級魔法師の英雄譚  作者: 藤咲理久
第二章

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第二話(通算第十七話) 魔法とは②

「接続の次は変換だな。さっき詠唱後に魔力が送り込まれた場所、あそこがこの世界の物理空間とは別の次元にある魔法基盤だ。そして、魔法基盤には魔法の術式回路と、この世界に存在する人々……というか魔物なんかも含んだ全ての生物達それぞれの固有の魔力変換回路が存在する。その魔力変換回路のことを固有回路と呼ぶ。接続で繋がるのはこの固有回路だ。変換は、固有回路に魔力を流し込み、魔力を術式に応じた性質に変化させる工程だ」


 俺の説明を、リルカもセルマも頷きはしつつも黙って聞いている。


「……実際に試してみたいだろうが、次は一度に展開まで試して欲しいから、そこまでまとめて説明するな」


「「はい」」


「次は転写。変換した魔力に術式を写し取る工程だ。あ、いや、写し取るって言ったけど……村人だと版画とかも知らんだろうし、写し取るって言葉の意味もよくわからんか。んー……説明むずかしいな。まぁ、やってみればわかるか。とりあえず、転写っていうのは、変換した魔力を固有回路から術式回路に流し込んで、その術式の情報を魔力に写し取る工程って覚えておいて」


「うーん?」

「えっと、よくわかりませんが、頑張って覚えます」


 二人が首をかしげる。


「説明下手で悪いな……まぁ、やってみれば掴めるとは思う。……で、転写の次が展開。術式を転写した魔力を魔法基盤から物理空間に引き戻して、それを広げるイメージ。これは見た目でもわかりやすい。魔法を使う時に出てくる魔法陣が、魔法基盤の術式を転写し、物理空間に展開したものだ」


「ああ、あれか!」

「綺麗ですよね」


 二人が魔法陣を思い浮かべたのか、明るい反応をする。

 まぁ、魔法陣って模様は綺麗だし、光っているからな。


 ちなみに、魔法基盤上にある術式は魔法陣そのままの形をしているわけではない。そもそも、魔法基盤は物理的な空間の広がりを持つわけではないから当然だ。魔法陣はあくまで魔法基盤上の術式の物理空間的表現にすぎない。

 また、魔法基盤からの転写時に、魔力に魔法基盤側の様々な情報を写し取る必要があるため、単純に物理空間上に魔力で同じ形の魔法陣を描いたとしても魔法は使えない。ちゃんと転写したものを展開することが必須だ。

 ついでに言うと、魔力変換が下手だと、転写の工程で写し取るのがうまくいかない。……魔法の制御力が一番物を言うのは変換の工程と言っても過言ではない。術式に合った性質へと魔力を変換するのには、高位の魔法ほど精密な制御が求められるのだ。故に、変換工程が一番制御力を使うとされる。……少なくとも、一般的な認識及び高位の魔法を使う場合なら、そうだ。俺の初級魔法の場合、操作工程が一番制御力を酷使するが、これは俺が例外だ。


「まぁ、基本的に魔法の術式は物理空間上で綺麗な模様を描くな。……よし、それじゃあとりあえずやってみよう。説明だと正直わかりにくかったろ? 魔法に関する感覚や概念は、使ったこと無い人には説明しづらくてな。はっきり言って使ってみるのが一番早い。……それに、初級魔法の展開までは、最初の魔力を感じ取ったり魔力の制御を覚えたりすることより簡単なはずだから、早速やってみよう。……まずは、さっきと同じ用に接続までやってみてくれ」


「はーい」

「わかりました」


 二人は返事をした後、手を構え、魔力を集めて魔法名を唱える。


「「《(ヴェン)》」」


 唱えた言葉が世界に響くと、集まっていた魔力が空間に吸い込まれた。ちゃんと接続まではできているな。


「よし、そしたら、今基盤側に流れ込んだ魔力を、その基盤側で自分と繋がっていると感じる部分に注ぎ込んでくれ」


「えっと……こう?」

「こうですかね?」


 言いながら、二人が魔力を操る気配がする。

 魔力自体は物理空間上にないため、直接感知はできない。……だが、魔力を制御する気配的におそらく大丈夫だ。


「魔力を流し込みながら、本来はその自分と繋がっている回路を操作する。けど、今回は初級魔法だし、初心者だから、ひとまずそれは気にしなくて良い。詠唱した契約内容によって、術式回路と固有回路への接続の仕方や回路の形が変わってくれるんだ。初級魔法や比較的単純な術式の下級魔法ぐらいまでなら、何も考えずに感覚で魔力を流し込んでいるだけでもいい具合に変換してくれる。……流し込んだ魔力が回路を通ることで変わったことがわかるか?」


「うん……なんというか、風って感じ」

「なぜかわからないですが、私もそう感じます。……風が吹いてるわけでもないのに」


「それで正解だ。変換された魔力は契約した術式に応じた性質になる。そうすると、例えば風属性魔法の場合、別に物理的に風を感じているわけでなくても、何となく変換後の魔力からは風のような気配を感じるものだ。同様に火属性であれば物理的に熱さを感じなくとも、変換後の魔力は何となく火のような気配を感じるようになる」


 これは、正直魔力知覚を持っていないとわからない感覚だ。前世の自分に言っても何を言っているんだろうとなる気がする。


「ちなみに、術式が複雑になればなるほど、魔力の変換内容も複雑になる。回路は接続時の契約に合わせた形となるが……上位の魔法になるほど、回路にただ魔力を注ぐだけじゃダメになる。そうなると、その回路自体をうまく制御しないといけない。……回路を制御する感覚は、初級魔法を使う内に、その回路を流れる魔力の変化の仕方と、それに応じた回路の手応えから、何となくわかってくるはずだ」


 この辺、根性論ぽいかもしれないが、どうしても感覚的な部分なので説明が難しい。


「なるほど」

「わかりました」


「よし、それじゃあ次。変換された魔力を、自分の固有回路から繋がっている術式回路に流していく。そして、流し込んだ魔力を術式回路に押し付けるようなイメージで制御してみてくれ」


「「はい」」


 再びの制御の気配。

 これもいい感じだ。


「流し込んだ魔力に術式回路から何かが染み込んでいくのがわかるか?」


「うーん? なんか変な感覚」

「染み込むっていうと確かにそんな感じかもしれません」


 二人ともなんだか疑問符を浮かべたような表情をしていた。

 そうだよなあ、その感覚も表現が難しいよな。わかるぞ。


「それが転写だ。転写は最低でも術式回路を満たす量の変換済み魔力が必須だ。まぁ、初級の回路は小さいから余裕だろうけどな。上位の魔法を使うときは注意してくれ」


「りょうかーい」

「気をつけます」


「それじゃ、転写が終わった魔力を手元まで引き戻してくれ」


「「はいっ!」」


 返事をした直後、二人は魔力を動かした。

 すると、魔法基盤側から物理空間側に戻ってきた魔力が、即座に魔法陣を展開する。


 二人それぞれのかざす手の前に、風属性初級魔法《(ヴェン)》の魔法陣が展開された。

 美しい紋様を描く魔法陣が、淡い魔力光を放っている。


「「おー!!」」


 二人は歓声を上げた。


「それが展開だ。……今みたいに、慣れていないうちは転写した魔力を物理空間に引き戻した時点で勝手に魔法陣が展開される。いずれはその展開も自分の意志で制御してやれるようになったほうがいいだろうな」


「なんかそういうの多いね」

「勝手にやってくれるのに任せるだけじゃダメなんですか?」


 二人の疑問は当然だ。

 それが本能によるものなのか、それとも神々が設定した法則が誘導してくれているのかはわからない。わからないが、意識せずとも条件を満たせば工程が進んでしまうという部分は多かった。

 これを、自分の意思で制御できるようになるのは、魔法使いとしては基礎の基礎だ。


「まぁ、今までの説明通り、慣れないうちは勝手に進んでしまう工程は多いな。だが……どの工程かにもよるが、自分で制御できないと魔法の発動が遅かったり、発動しても魔法の効果が弱かったりする。初級魔法ならそこまで大きな影響はないが、中級以上だとそれぞれの工程を自力制御でできないとそもそも魔法を使うことすらままならないぞ」


「大変そう」

「でも、重要なことなのですね」


「ああ、そうだ。……あとは、自力制御じゃないと、気づいたらメチャクチャ疲れていたということも頻発する。意識せずに精神や魂、魔力を酷使してしまっているんだ。……自力制御の練習をまともにしないまま魔法を使い続け、気付かぬ内に限界を超えて倒れていたなんて話はよく聞くな」


「え、こわ」

「それは……確かにまずいですね」


 俺の説明で納得してくれたのか、二人の表情にやる気が浮かんでいる。

 いい傾向だ。


「よし、それじゃ、一度魔法を止めてくれるか? ここまでで説明した工程の理解を深めるために、別属性の初級魔法を詠唱して、そのときの感覚の違いを感じ取ってもらいたい」


「はーい。《終了(フィーニ)》」

「《終了(フィーニ)》。別の種類の魔法というのも楽しみです」


 二人の前から魔法陣が消える。

 よしよし。それじゃ、残る工程の説明の前に、今まで説明した工程について、属性や術式の違いによる感覚の変化を勉強してもらおう。

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