想輝の覚悟
-Main story- 10-2
by Souki
魔族の地から帰る道中、俺は時雨との今後のことを考えていた。
二人の関係を知れば、父上は確実に反対するだろう。
“長の長子“
それは、巡地守の使いである聖獣を呼び出す力を受け継ぐ唯一無二の存在。
一族にとってその存在がどれほど大切なものなのかはわかっているつもりだ。
その役目を負った時雨が今まで苦悩してきたことを俺は知っている。
そしてもう一つの問題は、俺が皇子だということ。
俺もまた世継ぎを残さねばならぬという役目を背負っていた。
諍いの種になるような事柄を持ち込むべきじゃないと、時雨への想いを押し殺そうとしようとした時期もあった。
だがその状況も変わり、今は時雨も俺のことを好いていると言ってくれている。
ならば今の俺ができることは、民達を導きながら時雨を守っていくことだ。
それが、どれだけ重荷であろうとも二人の関係を続けることができる絶対条件。
導神族の里で世話になった晩に、俺はついに腹を据えた。
そしてその覚悟と、魔王と対談したことの報告するために、宮中に戻るやいなや俺は陛下の元へと赴いていた。
「以上が、今回魔族の地で起きた事となります。そして、共存協定にあたりいくつかの資料をまとめましたので、こちらにお目通しをお願いします。」
陛下は、ペラペラと紙をめくりザッと目を通していた。
「うむ。後でゆっくり目を通すとしよう。想輝、ご苦労だったな。今日は一日ゆっく
り休むといい。」
そう告げた陛下は、すでに上に立つ者の顔ではなく子を労う父親の顔になっていた。
「父上、もう一つお話があるのですが…。以前、話に上がった婚約者についてです。」
俺は婚約者についての話を切り出した。
「おぉ、やっとその気になってくれたか。」
「えぇ、ですが、世継ぎを残すためだけの婚姻。私には心に決めた人がいますので、彼女以外を愛するということはございません。」
「おぉ、そんな女性がいるのならばその娘を妃にすれば良いだろう。その娘とは誰なのだ。」
父の顔が綻んでいた。
だが、次にこの口を開けばその笑みが崩れることは間違い無いだろう。
「…時雨です。」
案の定、さぁっと父上の顔が青ざめた。
「ならん、時雨だけは絶対にダメだ。お前も知っているだろう、導神族にとって長子というのは特別なものなのだ。それはこの皇政でも一緒だ。長男が後を継ぐのだぞ。万一、長子に女子が生まれればいいかもしれないが、もし男児が生まれれば大問題だ。導神族にとっても、この国の政事も、全てのことがひっくりかえる出来事となるぞ。それに時雨は魔王の孫娘だと言っていたではないか。そんなことはただの火種にしかならん。」
やはり、仕斗が示した態度と同じ様な反応が返ってきた。
「ですから私は、世継ぎは別の女性と残すと言っているのです。問題なのは後継者問題だけなのでしょう?父上がぜひにと思う方と婚儀を行います。ただ、先ほども言いましたが、私が好いた女性は時雨です。ですから、妃となったものと馴れ合う気はありません。」
俺は、毅然とした態度で父上と向き合っていた。
「世継ぎ問題だけではないぞ。想輝。やはり、政というのは、パートナーの支えというものが必要だ。」
「えぇ、問題ありません。時雨がいますから。」
父上は頭を抱えていた。
「いや、そういう問題ではないだろう。諍いの種にしかならんことをお前は言っているのだぞ。お前もわかっているのだろう?」
「ならば、婚約の話はなしということで。私は独身を貫きます。」
「いや、それでは世継ぎはどうする。」
「ですから、その問題についての打開策として今回の件をお話ししたのです。」
父上は頭が痛いというようにこめかみに手を添えていた。
「想輝、お前は頑固だ。そこまでいうのなら、もうその意思を変えることはないのだろうな。」
「はい、ありません。父上に似ましたので。」
俺は、ささやかな皮肉を込めた返答をする。
「はぁ、わかった。ならば妃候補を何人か考えておく。」
「父上が納得する女性に決めてもらって構いません。私は世継ぎを残すために婚姻を結ぶだけですので。」
俺の覚悟を探るように、父上が俺の目をじっと見ていた
「想輝…本当にそれで良いのか?」
「構いません。」
父上は、諦めたように深く息を吐いていた。
「わかった。ならばこちらで手筈を整えよう。」
「よろしくお願いします。では、私はこれで。」
「あぁ、ご苦労だった。ゆっくり休むといい。」
父上の元を後にした俺は、自室で一息ついていた。
(これで時雨との間の問題は無くなったか。)
長子が問題というのなら、先にこちらで子供を作ってしまえばいい。
その他の問題ごとなら都度都度自分で対処していけばいいだけだ。
ただそれだけのことで問題は全て解決だと、そう俺は安易に考えていた。
のちにこの浅はかな判断が自分の首を絞めることになるとは、この時の俺には、微塵も想像することができなかった。




