帰還
-Main story- 10-1
by Sigure
レインに別れを告げ魔族の地を発ってから、里に帰ってきたのは日が翳り空も暗くなりかけた頃だった。
なので、想輝様達は一晩里で泊まることになった。
年の瀬も近くなってきていて、寒さが身に染みる時期になってきていた。
「ただいま!」
そんな中、私達の帰宅を里に残っていた空が玄関前で出迎えてくれた。
「じぃぐれさま、おっおかえりなさいませ。」
空は鼻水を垂らし嗚咽を漏らしていた。
「おかえりなさい。時雨さん。」
「おかえりー♪」
暁翔と海も出迎えに出てきてくれた。
「お風呂沸かしてあるんで、みなさん入ってきてください。」
そう告げる暁翔の様子が出かける前と変わっていた。
「あれ?暁翔、どことなく雰囲気が変わったような⁇」
「さすが時雨さん!気がつきましたか?わかりますよね、やっぱり‼︎留守を預かっている間に色々頑張ったんですよ!聞いてください‼︎」
前のめりに主張してくる暁翔にタジタジとなっていると、
「おほん‼︎」
っと、空のわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
すると、暁翔の顔がにこやかな表情から、こわばった表情へと一変した。
「そっ、そのですね。空斗さんから、しっかり、しごかれ…。違う、あっとそのぉ…そうだ!導神族はなんたるかの心構えなど教わりました。もう、南の村の事はドーンと僕にお任せください。では、私はまだやることがありますので。」
暁翔は目を白黒させながらそう告げると、逃げるようにそそくさと行ってしまった。
「あらあら、あんなに急いで。早急に済ます用事なんて残っていましたかね。」
さっきまでの泣顔はどこへいったのか、空は不適な笑みを浮かべていた。
「ゴウちゃんもおかえりー。こうなるのわかってて空を残していったんだね。」
空は閤央に抱きつき、久しぶりのもふもふを堪能していた。
「ぐるぅー」 『なんのことだ?』
急に海に話をふられ、閤央は一瞬困惑した表情を見せたが、撫でられて気持ちが良いのか徐々に目が細くなっていく。
「人聞きの悪いことを言わないでください、海。私はただ、未熟な若者に指導をしただけですよ。」
っと、妖艶な笑みを浮かべていた。
「うわぁ、暁翔、空に絞られたか。ご愁傷様だな。時雨、気にするな。風呂入ってゆっくりしてこい。」
仕斗として同じ時を過ごしてきた陸は、この状況から色々と察しがついたようだった。
きっと深く追求しない方がいいのだろうと、私はあえて深追いせず流すことにした。
「想輝、越志。先に風呂入れよ。ここでは、一応お前達は客人だしな。」
陸が荷物を家に運びこみながら二人に声をかけていた。
「ありがとう。なら遠慮なく先に湯をいただこう。あぁ、そうだ空。後で話がある。時間をもらえるか?」
想輝様がチラリと私の方をみる。
きっと私達の関係について空に話をするつもりなのだろう。
「それは大丈夫ですが。私に話ですか?魔族の地で何か深刻な事でもありましたか?」
空は想輝様から自分に話があると言われキョトンとした表情を見せていた。
「色々とあった。だが、そこまで大した話ではない。…っと思うが。」
少し気まずそうな想輝様をみながら、私はこの後おこりうるであろう状況を想像できてしまい苦笑するしかなかった。
そして数時間後、私の予想通り、空の声が屋敷に響き渡っていた。
「何ですってー‼︎おっお二人が、こっ恋人同士に!ですがあなたは皇子で…。」
「やっぱり問題があるか?」
動揺している空とは違い、落ち着いた様子の想輝様は出されたお茶を啜っていた。
「問題ですとも!あなたも知っているでしょう!我々にとって長子はとても大事なのですよ‼︎あぁ、勘違いしないでくださいよ。別に好きあうことをダメだと言っているわけではないですよ。このまま婚姻となって、お子が男子でしたらどうするのですか。あなた方だって長子という存在は大切なのでしょう?お世継ぎ問題になるではないですか‼︎」
「まぁな。やはりそういった問題になってくるか。」
想輝様はいたって冷静だった。
「えぇ、そうですとも!女子であったら、そう大事にはならずに済むのかもしれませんが、どちらが産まれてくるかもわからないですし。産み分け。…いやっ、その情報も眉唾物ですし。」
空はブツブツと小声で考えこんでしまった。
話が逸れてしまいそうだったので、私は控えめに空に声をかける。
「そ、空?」
私の呼びかけに空の意識が戻ってきた。
「はっ!と、とにかく、お子の事が問題ですが、我々にとってお二人が仲睦まじくしておられるのは何も反対はございません。個人的には非常に複雑ですよ。時雨様がお相手を見つけられたなんて…。あぁ、私の時雨様が。時雨さまがぁー。」
っと床に突っ伏して泣き出してしまった。
「すまないな。空。お前達が仕える大事な長様を私に任せてもらえるか?」
想輝様は空の肩に手を添え丁寧な口ぶりだったが、所々語尾を強調し、立場の違いをアピールするような話し方をしていた。
「ぐぅ!時雨様が選んだお相手です。私に異論はございません。ですが、もし婚姻を結ぶのでしたらお世継ぎ問題はしっかりと対処してください。導神族にとって時雨様の長子は大切な、大切な!お子なのですよ‼︎」
「わかっている。私の長子じゃなければ問題ないという話なのだろう?」
空は想輝様の返しに意表をつかれ、ポカンとした表情を浮かべていた。
「は?まぁ、そういう事ですが。」
「では、問題ない。そちらはなんとかするとしよう。という事だ、時雨。これで、正式にお前を俺の恋人にできたというわけだ。」
想輝様は私の方を向き顔を綻ばせると、私を引き寄せギュッと抱きしめてきた。
「なっななな…。」
そんな光景を見せられた空が口をぱくぱくとさせ、
「し、しぐれさまがぁ…取られたー‼︎」
と、屋敷内に泣き叫ぶ空の声が響き渡っていった。
こうして、仕斗の許可も得られた(?)私達は恋人同士となったのだった。
〔おまけの話〕
屋敷の中に空斗の叫び声が響いていた。
「あぁ、空のやつしばらく使い物にならないんじゃないか?」
別室で待機していた陸斗が、面倒くさいというように呟いていた。
「時雨、相手が見つかったんだね。よかったじゃん♪」
と、何も考えていない呑気な海斗が話をしていた。
それに混じって、想輝のお供をしていた越志が口を開いた。
「想輝もやっと腹を括ったか。もう、ウジウジ悩んでる姿を見なくて済むのか。」
越志の口から面白そうなワードが出てきて、海斗の野次馬精神が疼いていた。
「なーに?想輝が時雨のことでウジウジしてたの⁉︎それーもっと詳しく聞かせてよ♪」
「ふふっ。気が合いそうだね、海斗くん。酒を飲みながら今宵は楽しい話をしようではないか。」
さりげなく酒をねだる越志。
「ちょっと待ってて、今準備してくるから♪」
と、ウキウキと楽しそうに酒の準備をしに行く海斗。
そんな二人を、更に面倒ごとが増えそうだと陸斗が諦めたようにため息をついて眺めていた。
案の定、その晩はにぎやかなものとなり、時雨と想輝、陸斗は疲れているのにも関わらず、泣きじゃくる空斗と酔っ払っている越志と海斗の相手をするはめになったのだった。




