母の歩んだ道
-Main story- 9-12
私達は、レイン主催の食事会に招待されていた。
立食形式で、テーブルの上には豪華な食事が並べられていた。
レインはみんなの前に立つと、咳払いをし、かしこまった口調で話し出す。
「導神族の長シグレ殿、人間族代表のソウキ殿。この度、我が国の為に力を貸してくれたこと感謝する。礼としてこの食事会を開くことにした。今夜は存分に食べくつろいでくれ。っと、ここで乾杯の音頭を取りたいところなのだが私から少し提案があってな。ソウキ殿とは少し話をしたのだがシグレ殿の意見を聞きたい。」
レインは魔王という立場で、導神族の長である私に意見を求めていた。
「今回のをきっかけにして、魔人と人間の交流を図りたいのだ。まずは、導神族の里で、魔族から一人、人間族から一人一緒に住み交流を通じて互いの違いを知っていく。その輪を徐々に広げていき互いの地を自由に行き来できるようになるまで親交を深めていきたいと考えている。数年の間でどうこうなることはないだろう。次の世代、いや、もっと時間はかかるかもしれないが、種族間の壁をなくし、真の共存を目指さしていきたい。それが娘・雨音への贖罪であり、ロイへの償いになるのではないかと思っているのだ。」
素敵な提案だった。
今のままでも確かに共存はできていた。
だが、それは共に手を取り合っての共存かと問われればそうではない。
きっと始祖様の願う平和な世というのは、魔族と人間族の壁を取り去り、共に手を取り合って生きていくということなのだろう。
「いい考えだと思います。我々の里が架け橋となるのなら喜んでその役目引き受けさせていただきます。」
そう私が微笑むと、レインは表情が穏やかなものへと変わっていった。
「では、改めてこの話をする機会を設けるとしよう。さぁ、堅苦しい話はここまでにして、食事を始めよう。我々に力を貸してくれた人間に感謝を。これからの魔族と人間族の真の共存を目指して乾杯!」
「「「かんぱーい。」」」
乾杯の音頭と共に皆がグラスを掲げていた。
グラスに口をつけると、葡萄の豊満な香りが口の中に広がっていく。
(色々とあったけど、無事に解決できてよかった。)
改めてそう実感していると、隣にいた想輝様に声をかけられた。
「時雨、そのドレス似合っているな。」
「ありがとうございます。昔、母がきてた服みたいなんです。」
想輝様に褒められ嬉しくなる。
だが、この衣装を決めるのに、とても時間がかかっていたのだ。
数時間前、昔母様が使っていたという部屋で私は祖母に着せ替え人形にされていた。
「お祖母様これは流石に派手すぎないかしら。」
「全然派手じゃないわ。アマネもあなたぐらいの歳の時に来ていた服よ。そうだ、こっちのもきてみてちょうだい。」
夕方から始まる食事会に着るドレスを祖母が見立ててくれているのだが…。
祖母は私と会えたことが嬉しかったのか、母が昔使っていた服をあれもこれもと私へと着せ、私を着飾ることを楽しんでいた。
「アクア、嬉しい気持ちはわかるがもうすぐ時間だ。そろそろ決めてあげなさい。」
祖父であるレインの声が扉の向こうから聞こえてきた。
「あら、ごめんなさい。もう少し待って。どれ着せても可愛くてなかなか決められないのよ。」
と、様々な衣装を着せられやっと決まったドレスだった。
不意にドレスが引っ張られるのを感じ足元を見ると閤央がいた。
「ぐるぅー。」 『時雨私にも食事をとってくれ。』
閤央の要望に答え、肉系の料理を皿によそっていると、レインとアクアがやってきた。
「シグレ。その狼は、聖獣なのか。」
レインは、私の足元で食事を待っている閤央を見ていた。
「えぇ閤央というの。我々の始祖様に仕えている聖獣よ。」
〝そうか。“っと呟くと、レインは閤央と視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「閤央よ、私の娘が導神族の里でどのように過ごしていたか知っているか?」
レインの問いかけに閤央が答えていた。
「ぐるぅー。」 『知っているぞ。いい機会だこの場で話をしようか。シグレ、皆に聖獣の耳をつけてやれ。』
私は事情を説明してから、呪札を取り出し念じた。
呪札は四方に飛んでいき、それぞれの耳に張り付いく。
『どうだ。私の声が聞こえるか。』
「まぁ、すごい。聖獣さんとお話ができるなんて。まだまだ世の中には私の知らないことがあるのね。」
アクアが感嘆の声を上げていた。
『さて、どこから話すか。獺亀から聞いた話から始めるか。
ある日、雨音が泣きながら山頂の湖に姿を現した。
〝私はただ皆が幸せに暮らして欲しいだけなのに。お父様にもわかってもらえなかった。“っと呟いていたそうだ。』
閤央は、何やら思案すると、
『そうだな、記憶のかけらを見せながら話そう。』
と、宙に映像を映し出した。
そこに写っていたのは、川を前に立ち尽くしている母様だった。
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私を探す声がする。
何度も試してみたが、結界を越えることはできなかった。
(私はどうしたらいいの。このまま連れ戻されては、ロイの思う通りになってしまう。
ならば私がいなくなってしまった方が、平和が続くのかもしれない。)
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っと、意を決した母様が川へと飛び込む姿が映し出されていた。
その姿を見て、レインが胸を痛めていた。
「あぁ、アマネ。お前をそこまで追い詰めていたとは…。」
閤央は話を続けていく。
『潤清は、その様子をずっと見ていた。
そして、自分の犯した過去の過ちを思い出していた。
自分が魔族というものを産み出してしまった。
そして、そのせいでなんの罪もない人々が死んでいくのをみて、自分の愚かさを深く悔いていた。
今もなお時を越えて、この様に苦しむ娘まで現れてしまった。っと。
だから、潤清なりの罪滅ぼしのつもりだったのだろうな。
結界を解き、雨音を人間へ地へと通したのだ。
そして主に助けを求めた。』
新たな映像が流れだし、そこには川岸で気を失っている母様の姿があった。
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『巡地守よ。この娘を助けておくれ。お前の元で保護してはくれぬか。』
『…いいだろう。だが条件がある。』
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『主は彼女を受け入れた。
ただ条件があった。魔族の力を悪用してはならない。そして、魔族特有の見た目を失い人間の様になること。導神族としていき、人を導き平和をもたらすように尽力すること。
雨音はそれらを受け入れ、導神族の一員として里で暮らすようになったのだ。』
また、映像は変わり今度は母様が里で暮らす姿や、街で孤児たちに手を差し伸べている姿が流れていた。
『雨音はこの平和な世が少しでも長く続く為ならなんでもすると、毎日のように主に祈りを捧げ、己の最善をつくし生きていた。
そんな雨音の様子を当時の長であった時義が見ていた。時義は実直に生きている雨音に惚れてな。それはもうすごいアプローチだったぞ。』
今度は、父様と母様の婚儀の映像が写し出されていた。
『雨音は最初求婚を断っていた。私は長の家に嫁ぐような娘ではないと。
でも時義は諦めなかった。雨音は時義を諦めさせるため、自らの素性を明かした。
しかし、時義はそれを聞き諦めるどころか、ますます雨音に惚れ込んでしまってな。
結局時義の推しに負けて、雨音は結婚を承諾した。』
互いに酒を酌み交わし、誓いを立てている二人はとても幸せそうだった。
『時義は雨音が魔族であることを村のみんなに隠すことはしなかった。
里のものたちも、雨音が魔族だと知っても、今までの彼女の善行を見ていたから、特に反対もせず受け入れていた。雨音は時義に語っていた。
〝生まれてきた子供には、魔族と人間族の橋渡しになってもらいたいと。“
レイン、お前が先ほど言っていたように、手を取り合って暮らしていくことこそが真の共存だと雨音は言っていたよ。
ロイールの企みによって、さまざまな妨害はあったがな。無事こうして、元凶を取り除き、魔族と人間族の共存への第一歩が踏み出せたというわけだな。』
ここで、レインがボソリと呟いた。
「アマネは幸せだったんだな?」
『あぁ、幸せそうだった。』
次に、黙って成り行きを見守っていた陸が口を開いた。
「幸せってだっていってたぜ。雨音は時志が何かよからぬことを考えてるのをわかっていたんだろうな。俺に、精霊の知識を叩き込んでよ。私に何かあったら、時雨に教えてやって欲しいって託されてた。
〝この子は私達の大切で愛おしい娘。魔族と人間族の橋渡しをするという重圧を背負わせてしまうのは申し訳ないと思ってる。でも、この子なら、私達の望みを、願いをわかってくれると思う。とても心根の優しい子だから。きっと魔王の気持ちも動かせるような子になる。だから私たちに何かあったらこの子のことお願い。“ってそう言われてた。俺は雨音が魔王の娘だなんて知らなかったからな。なんでそんなこと言うのか不思議だったが、こういうことだったんだな。」
「そうか。アマネがそんなことを…。改めて礼を言わせてくれ。娘を助けてくれてありがとう。孫娘をこんなに立派に導いてくれて本当にありがとう。」
レインは唇を噛み締め、涙を堪えているようだった。
そんなレインを慰めるように、アクアがレインの背にそっと手を添えていた。
そんな様子を眺めていると、想輝様がふっと私の手を取った。
事の一部始終を私の隣でみていた彼は、
「素敵な母上だったのだな。」
っと、小さな声でそっと囁き微笑んでくれていた。
それに応えるよう私もそっと彼の手を握り、微笑み返した。
皆の想いが私の心を包み込んでいた。
私はその温もりを取りこぼさぬように、大切にじっくりと味わっていた。
その後、食事会は夜遅くまで続き、私達は離れていた時間を埋めるように、互いのことを語り合い続けたのだった。




