葛藤
-Main story- 9-10
by Souki
時雨がロイールに連れて行かれた。
(早く時雨の後を追わねば。)
だが、目の前に現れる魔物を相手するのに一杯一杯で、時雨の後を追うことができなかった。
「くっそ!」
一匹また一匹と仕留めていくが、魔物は次から次へと湧いて出てくる。
時雨のおかげで、魔物がやってくるのが見えるのだけが救いだった。
「想輝、後ろからくるぞ!」
越志の声に反応し、くるりと身を翻し、向かってくる魔物を仕留める。
「ほーら、みなさん頑張って。早く魔物達を片付けないとシグレが死んじゃうわよ。」
イロハがケラケラと笑っていた。
「ふざけんなよ。早くシグレを追っかけないと。」
陸も、必死になって魔物をやっつけていく。
誰か一人でも後を追えればいいのだが四方をぐるりと囲まれていて身動きが取れなかった。
「想輝、どう動く。」
越志が魔物を捌きながら尋ねる。
「一歩づつでも戻っていくしかないだろう。3人背を預けてきた道を戻っていくぞ。」
無闇やたらに剣を振り回していてもダメだ。
フォーメーションを組み直し、少しづづきた道を魔物を倒しながら戻っていく。
進んでも進んでも出てくる魔物達。
いったいどこから湧いて出てくるのか。
「越志、横からまだくるぞ。」
「は‼︎くっ…。」
越志が魔物に手をかまれていた。
疲れが出てきたのか判断力が鈍っているようだった。
「越志。大丈夫か!」
「なんのこれしき。どってことないさ。人の心配より自分の心配しなよ皇子様!っと。」
越志は、噛みついてきた魔物を薙ぎ払っていた。
「まだ軽口を叩けるようなら安心だな‼︎ はっ!」
俺たちは次から次へと現れる魔物達をひたすら倒しつづけていた。
時雨が連れて行かれてどれだけ時間が経っただろう。
(時雨は無事だろうか?ロイールに何か酷いことをされてはいないだろうか。)
すでに剣は血と肉に塗れ、切れ味も悪くなってきていた。
「想輝、そろそろ限界だ。もう剣が使い物にならん。」
「どうします。俺は素手でもいけますけど、お二人は無理でしょ。」
陸が俺達を鼓舞するように軽口を叩く。
「あぁ、俺たちには剣術以外の取り柄は何もないしな。」
(どうしたらいい。どうすればこの局面を抜けられる。)
俺の考えを遮るようにイロハの声が聞こえてくる。
「もう観念なさいな。あなた達は勝つことはできない。大人しく魔物の餌食となりなさい。
今頃ロイ様がレインを魔王の座から引きずり下ろしている頃よ。」
(くっ!こんなところでやられてたまるものか。)
しかし、そんな思いも虚しく、越志と同じくこの剣も使い物にならなくなってきている。
「くっそ、また噛まれた。」
越志の手から剣がこぼれ落ち、その腕からは血が滴り落ちていた。
「大丈夫か、越志!」
俺は、目の前の魔物を相手するのに手一杯で助けに入ることもできなかった。
気がつくと俺達は魔物に詰め寄られ、もう身動きできる状態ではなくなっていた。
(くっそ、ここまでなのか。)
そう諦めかけた瞬間、眩しい光があたり一面に放たれていた。
(なんだ。何が起こった。)
眩しさに思わず目を閉じる。
だが、光が放たれていたのは一瞬で再び目を開けると、周りにいた魔物やイロハまでが気を失い、倒れ動かなくなっていた。
「何がどうなってるのかわからないが助かったか。とりあえず俺はシグレを追う。陸、越志を連れて安全な場所まで移動しろ。手当てを頼んだ。」
「あいよ。時雨のこと頼んだぞ。」
俺は陸と拳を交わし、
「まかせろ。」
っと、魔王城を目指しひたすら走った。
魔王城へ向かう道中に見かけた魔物は、そこら中に倒れており、動き回っているものは一匹もいなかった。
そして城内外では、道を塞ぐように人々が倒れていた。
短に倒れている兵の口元に手をかざし、息があるか確認する。
どうやら死んでいるわけではなく、気絶しているだけのようだった。
しんと静まりかえった城内は異様で、どうしてこのような状況になってしまったのか俺には全くわからなかった。
だが、周りの状況などどうでもいい。
(時雨は無事なのか。)
俺はただ、そればかりを考えていた。
「時雨どこにいる。時雨!無事なのか‼︎」
城内に俺の声がこだまするだけで、他の音は聞こえてこなかった。
俺は時雨を探し城内をかけていく。
そして、魔王と謁見した部屋の前の廊下にさしかかった時、ついに時雨を見つけることができた。
こちらへ向かってくる彼女の服はボロボロで、気力だけで歩いている様子だった。
俺は急いで彼女に駆け寄り抱きしめた。
「時雨、大丈夫だったか。」
俺の問いかけに、時雨の返答はなかった。
ただ無言で俺の背に手を回し、安心したようにそっと目を閉じた。
(生きてくれていてよかった。)
俺は時雨が生きていた事に安堵し、抱きしめていた腕に力を込めた。
しかし、安心したのは束の間で、ふっと時雨の体から力が抜けた。
「⁉︎ 時雨‼︎」
腕にかかる重みにドキリとし、俺は慌てて時雨の息を確認する。
(息はある‼︎)
どうやら時雨まで気を失ってしまったらしい。
時雨を抱え直し横にできる場所を探していると、床に座り込んでいたレインを見つけた。
俺はレインを問いただしことの顛末を聞きいた。
そして、レインは時雨の生い立ちについても語ってくれた。
ロイはいなくなり、時雨の母親はレインの娘だということを…。
全ての話を聞き、レインが時雨へと向ける眼差しや態度、諸々のことが腑に落ちていく。
時雨は、魔王の孫娘であり、導神族の長でもあった。
俺はそんな娘を愛してしまった。
きっと俺が時雨を愛していても、皇子である俺が彼女と結婚することはできないだろう。
でも俺は彼女を諦めたくはなかった。
(生涯を共に暮らしたい。)
愛おしい娘が今腕の中にいる。
守りたい、大切にしたい。
こんなに強く誰かを思う感情を自分が抱くとは思っていなかった。
(俺はどう立ち振る舞うのが正解なのだろうな。)
そんなことを考えながら、俺は眠っている彼女を見つめていたのだった。




