反逆
-Main story-9-6
by Rain
城内でクーデターが起きていた。
(やはりそうきたか。)
とうとうロイが動き出した。
シグレをこちらに呼び寄せると言い出したときは、こうなるであろうと予想はしていた。
私の娘、雨音の婚約者ロイール。
彼の近親者は彼の事を親しみを込めて〝ロイ“と呼んでいた。
私は、彼に悪い事をしてしまったっと思っている。
ロイがクーデターを起こすことになった根本的な原因は私だった。
娘の思いを受け止める事ができなかった私が、ロイを狂わせてしまった。
20年前、アマネが突然私の部屋を訪ねてきた。
「お父様、私はロイとは結婚したくありません。私はあの人が怖いのです。」
突然の訴えに私は呆然としていた。
「なぜだ、アマネ。お前とロイはこの地をよりよくしようと、仲睦まじくしていたではないか。」
何年も前から、ロイはアマネに寄り添ってくれていた。
「それは…そうですが…。」
アマネは下を向き、悲しそうな顔をしていた。
「私と彼とでは、考え方が違うのです。彼はこの地を拡大させ、人間の土地を侵略しようとしているのです。」
「ほほう。流石ロイではないか。心意気は立派。だが導神族がいる限り無理だぞ。」
何が問題だと言うのだ。
野心を持つということは、動く原動力となる。
「それもどうにかする算段はついている様なのです。」
「ははは、立派だ。それでこそ次期魔王だな。」
それこそ何も懸念することなどない。
「お父様!笑い事ではありません。私はそんな事でこの地が良くなるとは思っていません。戦争は恨みを産みます。一時は、人間の地は我々のものになるかもしれません。でも恨みの種は消えずどこからか芽を出します。実が熟せば、再び互いを憎み合う争いが起きてしまうのですよ。」
「だからなんだというのだ。その都度叩き潰してしまえばいいだけの話だろ。」
私は、娘が何を言いたいのかさっぱり分からなかった。
「一度、勝利したからと言って、その勝ちがいつまでも続く訳じゃありません。人間族も何かしら手を講じてくることでしょう。この千年の間、互いに平和で暮らしていたではありませんか。争いを起こし、互いに無駄な血を流す必要などありませんわ。」
しかし、ロイだって何も考えず、戦争を起こそうと思ってはいないだろう。
ロイにもロイの考えがあってこの魔族を盛り立てていこうとしているはずだ。
「ロイとお前が婚儀をあげれば、次期魔王の座につくのはロイになる。ロイがそうすると決めたのなら、私は何も口出しするつもりはないな。」
そう告げると、娘は落胆の顔を見せたかと思うと、怒りに震え出した。
「お父様のわからずや!」
こんな反抗的な態度をとるアマネを見るのは初めてだった。
「わからずやとはなんだ。そもそも我々魔人を生み出したのは神だぞ。無駄な争いの種を先に蒔いたの向こうだ!」
思わず私も声を荒げてしまった。
「ですから私は、そういう事を言っているのです。争いは憎しみしか生みません。勇気ある青年が動き、我々魔族と人間族が共存でき、恨みが怨みを生まない様、平和な日々を作り出してくれた。それをわざわざ壊すなど無意味なのです!」
「ならば奴の子孫である導神族が頑張ればいいだけの話。我々の知ったことではない!」
そうだ、それだけの話なのだ。
奴らが、しっかりと意志を継いでいるのなら、ロイの企み一つでどうこうなるものではない。
アマネは、何故こんなにも必死なのだ。
「もういいですわ!お父様にこれ以上何を言っても無駄ですね。ならば私は私の思うやり方でこの地を守ってみせますわ!」
そういい、アマネは部屋を出ていった。
(落ち着いて冷静になれば、いつものアマネに戻るだろう。)
と、私はその時はそう思っていた。
だが…。
「魔王さま。大変です。アマネ様がどこにもおりません。」
翌日、そんな報告が入った。
昨日のアマネの様子がおかしかったこともある。
私の中に、焦燥感が湧き上がってきた。
「いなくなる訳ないだろう!探せ!!兵も出して探させろ!!」
しかし、その後、いくら探してもアマネの痕跡は辿れず、行方知れずのまま日々だけが過ぎていった。
事態が動いたのは、アマネが姿を消してからの5年後。
私の元に一通の手紙が届いたのだ。
『お父様お母様。おひさしぶりです。
突然姿を消してしまった事をお許しください。私はいま導神族の者達と共に暮らしております。長の者と婚儀をあげ、無事に子どもにも恵まれました。きっとこの子が、この島の平和を守ってくれる存在となりますわ。いや、私がそう育てていきます。
本当は子供の顔を直接みせたいのですが、そちらに連れて行けば命を狙われる危険もありましょう。せめて子供の似顔絵だけでも。
お父様のお考えがどうか変わりますように。 アマネ。』
その手紙と共に赤ん坊の似顔絵が同封されていた。
その絵を見た途端、雷にうたれた様な衝撃を感じた。
なんと愛らしく可愛いのだろうと。
まるで赤ん坊の時のアマネを見ている様だった。
ロイが戦争を起こしてしまえば、アマネとこの赤ん坊の命は、確実に奪われてまうだろう。
(そう。私は皆が言う様に弱くなったのだ。)
娘の命、そして孫という存在が私を臆病にしたのだ。
娘が去るまえに言い残した言葉が今ではわかる。
〝争いは何も産まないと。”
(子供に教えられるとは、親としても、上に立つ者としてもあるまじきことだな。)
ならば、せめてもの贖罪として魔王である私の成すべきことは、この平和を守り抜く事だ。
決して、ロイに王位を譲ってはならない。
たとえ彼に恨まれようとも。
それは私が死ぬまで一生背負っていくものなのだ。




